跳ね馬の恩返し—元ヤン娘は商店街の華になる

茜琉ぴーたん

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「…貰ったのか」

和樹は何だか裏切られたような気がして、ハンドルを掴む左手がズルッと垂れた。

「うん…貸してもらってて、それで走って…慶司くんが卒業する時に、置き土産みたいに…同時に私もフラれちゃったんだけど」

「ふーん」

 角田は卒業と共に古い世界を捨てたかったのか、従順そうな真綾を手放すのは和樹には意外な気がした。

 漢気と横暴を履き違えた角田は、真綾を良いように使っていたのではないか。

 だから数年を経て執着している訳で、別れたと言いつつ便利に使われていたのではないか。

 例えば、都合の良いセックスフレンドとしてだとか。

 次々生まれる疑問を言わずにいたが、真綾が追加の情報をくれる。

「私が、別れたくないってゴネちゃって、そしたら…くれたの」

「…『これを俺だと思って大切にしろ』的なことか?」

和樹は河川敷のグラウンド駐車場入り口に車を入れる。

 街灯の無いここらは夕方からもう暗くて、暖かくなった今の時期は虫も飛んでいて人気ひとけが少ない。

 昼間はグラウンドゴルフをする人で活気があるが、遊歩道とサイクリングロードにはちらほら人が見えるだけで淡々と通り過ぎて行く。

 和樹はエンジンを切って、ふぅと息をついた。

 イライラして真綾を萎縮させたくないが、どうしても苛立ちが顔に出てしまう。

 薄暗くても真綾はそれを感じ取っており、弁明に努める。

「そういう意味だったかもしれないけど、私はそこで吹っ切れたというか、大切なバイクを手放すくらい私がウザかったのかなと思ったし、だから慶司くんに未練なんて無いの」

「いや、元カレから貰ったバイクをさぁ」

「だって、カッコいいし、便利なんだもん」

「実用面な、分かるけど…真綾、もしあいつに見つかってさ、復縁しようって言われたらどうすんの?」

和樹は呆れた調子で尋ねた。

「え、しないよ、する訳ないじゃん」

「んー、そうなんだろうけど、今の真綾には信用が無いんだよ」

「え…?」

「元カレから貰った物を大事にしてる、ってのが…大人気ないけどな、悪気が無いのも堂々と開き直ってるみたいでな、気分が悪いんだ」

 和樹の思いの丈を知った真綾は、ハッと口をつぐむ。

 真綾にとってはバイクは乗り慣れた移動手段で、もはや角田の影など感じることは無くなっていた。

 所持していることで恋人の機嫌を損ねるなんて、考えもしなかったのだ。
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