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しおりを挟む席に着いた和樹は、ひと呼吸置いてから最後の説得に入る。
「真綾、やっぱり…俺は二人で暮らしたい」
「え、うん」
いただきますをしようとしていた手を再度下ろして、真綾は神妙な顔付きに変わる。
「同居なら借金返済も早いだろうけど、その目的で若い時期を捨てるのは…もったいないだろ。俺は真綾と親の目を気にせずイチャイチャしたいよ、常時じゃないぞ、夜だけとかな。親の手を借りずに自立したい…真綾と頑張って行きたいんだよ」
「うん…あの、でも、ちゃんとした奥さんになれないかも、世間知らずだし、和樹くんが恥かいちゃうかもしれない。だからお母さんに教えてもらいながらの方が…」
「近くに住もう、それでも無理か?」
「んー…」
何かと意見が合わず、考え方が合わず。
年齢も生き方も異なり。
でもその二人が恋に落ちたのだから、納得なり妥協なりで落とし所を作るしかない。
和樹が「なら借金一括で返せ」などと言えばすぐに話は決まるのだ。
しかし言い分を通すために弱みに付け込むのは卑怯だから、出来れば言いたくない。
ハンバーグは段々と冷めていく、真綾の顔に悲哀が広がる。
弱みでなければ脅しになる、そんな下劣な手段は使いたくないのだが…和樹は腹を括る。
これで拗れたらお終いかもしれない、でも意見を通したい。
和樹がフォークを握って諦めたように
「じゃあ…婚約止めるか」
と真顔で溢せば、真綾はすぐさま
「住む、二人で住む!」
と意見を翻した。
「…良いのか?」
「和樹くんは冗談でそんなこと言わないもん…でしょ?お金の返済も順調だし…ごめんなさい、節約のことばかり考えてた。あと、自分が楽することばっかり」
「自信が無いのは仕方ない。でもチャレンジ精神、真綾にはあるだろ?俺に度胸、見せてくれよ…ま、食べよう」
案を飲んでくれそうなので、和樹は食事を始める。
真綾もちょんと合掌して、ナイフとフォークを掴んだ。
半熟の目玉焼きを潰して流れる卵黄にうっとり、ハンバーグを切って一欠片齧る。
「いただきます………おいひぃ」
「良かった。いただきます…分担してさ、やって行こうよ…うん、美味い」
「美味しくない料理とか、和樹くんに幻滅されるのが嫌だったの…だから、段々と身に付けていこうと思ってて」
「それなら、実家暮らしの今やっとくべきだと思うがね」
「あ、」
目から鱗、といった具合に真綾の大きな目が全開になる。
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