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しおりを挟む市街地から車で10分ほど走り、川を越え、徐々に標高が高くなってくる。
脇のコンビニが最後で、そこからは店と呼ばれるものは校内の購買部しかないそうだ。
夕方、降りて来る車はあるが登る車は少ない。
この上には民家と高校とダムがあるだけで、通り抜けは出来るがショートカットに使えるような利便性も無い。
「何度か来てるけど、意識して見たこと無いな…民家、は…ちらほら…あるな…」
集落はあるがほんの数軒で、中には人が住んでいるかどうかも怪しいものがある。
上のダムを造る際に、大規模な立ち退きがあって人口が減ったそうだ。
和樹は頂上まで一旦上がり、そこから一番近い民家を訪ねてみることにした。
「すみません、」
「はい…?」
「私、鷹丸元町商店街の萩原精肉店の萩原と申します。8年、9年前くらいにですね、この辺りをバイクで暴走してた集団がいたと思うんですけど、憶えてらっしゃいますか?いえ、というのも、そのメンバーが酷く反省してまして、どのくらいの被害やご迷惑が掛かっていたかを知りたいそうでして、機会があれば謝罪したいなどと申しておりまして…」
和樹はざっくりとあらましを伝えた。
「はぁ、そうですね…」
「はい、はい…」
住民の話によると、ここらは暴走族や走り屋のスポットとして常態化しているので、これといって取り上げるほどのトピックがないらしい。
それでも安眠妨害しただろうと尋ねるも、「寒い時期は居ないし、年寄りは早い時間に寝てしまうので気付かない」とのことだった。
住民も慣れているので「そろそろか」と思えば警察を呼んでおり、たまに事故も起こるのでパトロールもしてもらっていたという。
「上がって来た道の反対、高校の向こう側、ダム湖の方、あっちは家も無いし、そっちがメインになってたねぇ」
「なるほど」
峠を越えた向こう側の坂、ダム湖の広場があるそちらが溜まり場になっていたらしい。
街側から警察が来ても逃げやすく、潜む場所も多いとのことだ。
そしてここ数年はこの集落では若い妊婦も赤子も存在していないそうで…和樹はとりあえず、ホッとした。
「絶えず走る奴らはいるからねぇ、今さら謝られてもって感じよ。腹は立つけど暖かい時期しか走りに来ないヘタレだし」
「なるほど」
車ならいざ知らず、バイクだと冬の寒さは堪えるだろう。
商店街も冬の被害は少なかったし、ここら一帯ではそういう文化なのだろう。
しかし真綾の心配は取り越し苦労、と言うほどでもない。
和樹は一応ピシッと立ち、
「うちの妻が、ここの学生だった頃にバイクで暴走行為をしていたそうなんです。本人は今頃気に病んでいて、とにかく謝りたいと。謝罪して楽になるっていうのは虫の良い話だと私も思うんですが…本人に代わって、謝らせて下さい。申し訳ございませんでした!」
と頭を下げる。
住民は驚きつつも「たくさん居る中のひとりでしょ、なんて事ないけど…でも気持ちが楽になると良いね」と有り難いことを言ってくれた。
皮肉かもしれない、言わないだけで呆れているか酷く腸が煮えているかもしれない。
けれど和樹はその対応をもってひとつの決着とし、ゆるゆると走り街へと戻った。
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