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111(最終話)
しおりを挟む「和樹くん、私、頑張って恩返しするからね。悪いことした相手にも良いことして挽回したい。自己満足でも、良いの。やっと、人として地域の一員として生きることの意義とか分かって来たの」
「若いのに、志が高いなぁ」
「…キレイゴト、言ってみた。本当はまだ、人と話すのドキドキする」
「好きにやってみろよ、大抵の面倒は慣れたからさ」
精肉店の前で、和樹は真綾に笑い掛けた。
「うん!」
元気な声が、アーケード街に響く。
その声に和樹の父が反応する。
「お!真綾ちゃん、おかえり!紗綾ちゃん、いらっしゃい!」
「ただいま!お義父さん!」
「商店街の華が帰って来たぞ、今日はご馳走だ!まずはコロッケ、揚げたて食べな!」
「わーい、やった!良かったね、ご馳走だって、和樹くん!」
キャッキャと触れ合う父と嫁、和樹も親孝行が出来たと目尻が下がる。
「そうだな」
まったく明るくて眩しい華だ、そして幼さを残しつつも強い女性になった。
もしかしてこれから尻に敷かれたりするのか、でもそれも悪くないかもしれない。
和樹はそんなことを考えて、妻そっくりな娘を覗き込む。
「お前はグレるなよ」
「和樹くん、紗綾に変なこと吹き込まないで」
「あ、聞こえてた?」
「聞こえた。もう…この子は真っ当に育ててみせるよ、自信は無いけどね」
真綾は眉こそ強気に、しかし不安そうに下唇を噛む。
それは和樹が初めて真綾に会った日の、あの時の表情に似ていた。
大勢の人波の中で溺れていた、あの小娘。
今や立派に働き、妻となり子の母となった。
和樹はいつまでも上に立った気になっているが、そう遠くないうちに逆転するかもしれない。
もしやもうしているかも、なんだかんだ逆らえないパワーが真綾にはある…そんな気が和樹はしている。
「一緒に頑張ろう、真綾」
アーケードの隙間から、柔らかい光が差し込む。
照らされた真綾はまるで有り難い像のよう、神々しくて逞しい。
コロッケを貰い頬張る姿さえ、美しい。
「はふ…ん、これからも、恩返しさせてね」
「落ち着いたら、ツーリングも行こうか」
「そだね、お腹もスッキリしたしね」
「安全運転でな」
和樹は何度も、真綾の過去を掘り返しては苛める。
それを真綾は何度も、
「も、もちろんだよ、やだなぁ」
と受け止める。
跳ね馬は過去を恥じ、新しい自分になった。
けれど忘れず、糧にして生きて行く。
「俺のキッチンカーにも、また乗ってくれな」
「うん、お手伝いしたい」
「真綾目当ての客もいるから…頼むぜ、看板娘」
「うん!」
真綾は溌剌と、しかし照れたように笑う。
和樹はその可愛らしさに改めて心が揺らぎ、大切にすると静かに誓うのだった。
おわり
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