跳ね馬の恩返し—元ヤン娘は商店街の華になる

茜琉ぴーたん

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和樹かずきくん、どう?」

真綾まあやがニコニコと、俺の顔を窺う。

 俺は今、気まぐれに真綾のバイクにまたがらせてもらっている。

 アパートの駐車場のひと区画を堂々と占拠する真綾の愛機。

 いつもは後ろに乗せてもらうが、買い物帰りにふと座り心地が気になり座らせてもらったのだ。


 普段は車しか乗らないから、二輪が頼りなく感じる。

 コケたらタダでは済まないし、そうまでして乗るほどの熱意は湧いて来ない。

 走る真綾はカッコいいと思うが、車体への関心はそこそこだ。


 しかし見た目はサマになっているのか、真綾は口元が緩みっぱなしだ。

 このままでは大型二輪免許取得を勧められ運転させられるかもしれない。

「…恐い。潰れそう」

俺はそう伝えて、真綾の愛車から降りる。

「潰れる?体が?」

「タマが。本能で恐くて無理だな」

俺は真綾しか見てないのを良いことに、自身のジーパンの股間をもにもにと押さえて見せた。

 これは全くの嘘ではない。

 そこまで巨大ではないから即潰れるなんてことはないだろうが、地面の振動がそこに集まると思うと緊張するのだ。

 そもそもが男は前傾姿勢に向いてないのではと思うし、自転車で痛い思いをしたことがあるのでバイクも同様だと想像している。

 いやむしろ、スピードが出る分バイクの方がより圧迫されそうで恐い。 

「……あ、確かに、段差とかで痛がる人はいるかも…あ、あはは…そか、うん…」

真綾は察し、照れ照れと俺の手の動きを凝視する。

「子種に影響しちゃ困るだろ…なぁ、真綾?」

 俺たちは子作りを解禁しており、懐妊を今か今かと待っている状況だ。


 後で調べたところ、そこを圧迫する時間が長いほど精子の質や勃ちが悪くなるという研究があるらしい。

 もっとも、それは極めて長時間連続走行するロードバイク乗りに関してのことだったが。

 「イテテ」と笑える程度の打撲なら特に問題は無し、しかし俺のジョークは真綾には過激すぎたようだ。

「た、タンデムも、良くないかな⁉︎あ、赤ちゃん、出来にくくなっちゃうかな、ごめんなさい、そういうの知らなくて、どうしよう、何回も乗せちゃった、」

蒼白の真綾はあたふたと目に涙を浮かべる。

 このままでは泌尿器科に連れて行かれる、俺は

「大丈夫だよ、長時間じゃないから」

と華奢な肩を抱いた。

「そう?平気?」

「…確認してみる?」

「え、あ……うん…」


 直接見たって子種の質が分かる訳でもないのに、俺は新妻を伴って昼間から寝室へと入る。

 そして

「活きの良い子種かどうか、試してみような」

などと言いくるめ…愛しい妻といつものように子作りしたのだった。



おわり
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