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私は三次元に生きているので

7(最終話)

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 そしてさらに数日後…私のアパートに段ボールの荷物が届いた。

 送り主は彼で、元払いだったし私物の返却かと思い受け取ってしまった。


「……うわ、推しじゃん」

 箱の中身は彼が推していたヴァーチャルアイドルのグッズで、見覚えのあるものがギュッと詰め込まれている。

「これを私にどうしろと?」

 はてと考えていると、箱のフタ部分にマジックでメッセージが書かれていることに気付く。

『うちにあると親に捨てられてしまう。ポムの家で可愛がってあげてほしい。一緒に応援できる日が待ち遠しいよ!』

「…全然分かってねぇ~‼︎」

 もうどうしようもないな、速攻でフタをして粘着テープで封をした。


「…さて」

 今後同じようなことがあれば受け取り拒否するとして、この荷物を捨てたり売ったりしたら罪に問われるのだろうか。

 他者を介入させるのも気が引けたし、彼の家…つまりは実家に送り返すことにした。

 箱の側面には分かるように

『趣味の押し付けは困ります。私はこの二次元アイドルを推してません。』

と書いて、コンビニで発送手続きをしてもらった。

 送料はもちろん着払い、受付をしてくれた店員さんはメッセージを見て目を丸くしていた。

 なお、送り伝票の品名欄にも『二次元嫁(雑貨)』と解釈が分かれそうなワードを記しておいた。


 オタク差別って言われちゃうかな、でも間違ったことは書いていないはず。

 もう言葉も通じなくなった元彼が哀れで、怒りはあまり感じない。

 一緒に楽しめる趣味があっても無くても、あの人とは長くなかった気もする。


「…引っ越しますかねぇ」

 通勤に困らない範囲で今と反対側の地区に越してみようかな。

 コンビニの出口に置いてあった住宅情報誌を一部取って、晴れた空を見上げた。



おわり
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