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8…もりもり食いな
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しおりを挟む『あー、この前客でモロ好みの女がいてさぁ、ポイント倍付けしてやるっつったのに連絡先もくれねぇでよ、…………レジのバイトのババア、あいつブラ線透けてんだよ、ババアのくせに色気付いてやだね、旦那ももう相手にしねぇんだろうな……、店長の娘見たか?この前来たろ、ブスだよなぁ、嫁に似たんだろうなぁ、……、……、』
無線というのは近隣で無線機を持つ者が共通のチャンネルに合わせて発信することで音を拾い合う仕組みだ。
長々とセクハラ話が垂れ流されるので用を成さないイヤホンを耳から抜く者も現れる。
そして発信が続いていると割り込みもできず仕事が滞る。
「お客さんの注文商品を取って欲しい」とか「誰それにご指名のお客様です」といった必要な伝達ができなくなり…たった1~2分程度の無線の断絶により売り場は混乱した。
直接伝えようと持ち場を離れてレジが滞る。
お待たせしてしまいお客さんが怒る。
不必要な情報を頭に入れてしまったために説明が頓珍漢になってしまい成約時間が延びたりと当店は混迷を極める。
しばらくすると店長が宇陀川に到達したのだろう無線の発信が止まり、皆の耳に平穏が戻って来た。
「(なんだったんだ…?)」
そしてその日から宇陀川は店に来なくなり…本部管轄の店舗での鍛え直しのためと転勤になったとどこからか噂が流れた。
後から聞いたところによると、どうやら宇陀川の一件は宮前さんの作戦だったらしい。
日頃から夫婦で嫌がらせを受けていていよいよ辛抱堪らなくなったそうで、これといった証拠が無く泣き寝入りも多かったためにああして嫌でも皆の耳に入る状況を作り証人を作ったそうだ。
大半の被害者だった女性のほとんどが宇陀川と闘いたくないから我慢していたし、ムラタには内部通報制度もあるのだが逆恨みも恐いしとだんまりだったのが余計に宇陀川を増長させていたらしい。
かく言う私も被害者のひとりだった訳だが、私に関しては性的な嫌がらせは無かったし扱きもそれなりに仕事に役立てたしで少しやり過ぎかなとは思った。
ともあれ一件は当店において『宇陀川事変』などと命名されて語り継がれていくのであった。
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