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しおりを挟む「僕は…小笠原のお母さんみたいな人、好きだな」
好みのタイプは誰?みたいな他愛のない放課後の雑談の中で突如現れたのは母の名。
娘である私は当然
「はァ?」
と聞き返して声の主を睨む。
「バリバリ働いててカッコいい。昔から知ってるけど、気さくで気が利いて、いいお母さんって感じ」
「そりゃそうだけど」
母は19で出産しているので私…小笠原桃が15歳の現在でも34歳、充分に若い母親なのであった。
「あー、1回見たことあるわ、美人だしオッパイでけーよな、桃のかーちゃん」
「ぎゃはは、お前エロいこと言うなよ」
「やめなよあんたたち、桃に失礼じゃない」
「俺、高校入ったらオッパイでかい彼女作るわー!」
「俺も!」
多感で性に興味のあるお年頃、しかし自分の母をそんな見方をされては気持ち悪くて仕方ない。
「……ふー……やめてよ…」
私は話を切り上げて鞄を肩に掛ける。
「じゃァね、」
「小笠原、僕も帰る」
「…うん」
しれっとついて来たコイツは同級生の新島源。家が隣でいわゆる幼馴染み、保育園以前からの気心知れた仲だ。
「源ちゃん、うちのお母さんのこと好きなの?」
「違うよ、アイツらが好みのタイプって聞くから答えただけ。しゃきしゃきしてて理想の女性じゃない?」
「…そういう時は無難な芸能人とか言えばいいじゃない。母親をエッチな目で見られたくないんだけど」
「んー……周りの意図が読みきれてなかった…ごめん」
彼は天然というかマイペースで、昔から飄々としていてどうも掴めない所がある。腫れぼったい一重の目にふわふわの癖っ毛、私はもう慣れてしまったが一般的には彼は「ダサい」・「モサい」部類に属するらしい。
さっきの質問だって半分イジりみたいな意図もあったんじゃないかと勘繰ってしまう…まぁ本人が気にしてないのなら問題にはしないのだが。
かく言う私は母親似のパッチリ二重で、自分で言うのもなんだが可愛い部類、男子から告白されることはこれまでに数回経験している。
でも同年代の男子は私から見ればどうも子供っぽくて…下品な感じがしてあまり好きではない。
源ちゃんはほとんど家族みたいな存在だから気にならない。昔は私が見下ろしていたけどいつの間にか背を追い越されてしまったし、なんだかんだ波長が合って一緒に居るのが楽しいのだ。
「…源ちゃんも、高校生になったら彼女作りたい?」
私たちはあと少しで高校生、源ちゃんもさっきの男子のように大人の階段を登りたいなんて思うのかしら…なんてふと考え聞いてみた。
「んー……そうすぐにはできないでしょ。入学してすぐ中間考査、文化祭、期末考査だよね、んで夏休みは夏期講習、とてもじゃないけど女子と親しくなる暇が無いなぁ」
「現実的だね」
「現実を生きてるもん…モモちゃんは?彼氏作りたい?」
彼は学校以外では私のことを「モモちゃん」と呼ぶ。
「いや、私も…大人になってからでいい」
「夢無いね」
「現実を生きてるんだもん」
この春に卒業したら、私も源ちゃんも近くの公立高校へと入学する。偏差値が高い進学校だけど家から近い方が楽なのでそこに決めた。
奇しくも源ちゃんも同じ理由で志望していた。私は日頃の行いのおかげか推薦で早々と決まっており、源ちゃんは一般入試で受験して結果待ちなのだが、「自己採点では満点だった」と発表日を前に余裕で構えている。
「お母さん、元気にしてる?まだ兵庫?」
「うん…この前さらに転勤してね、市内だけど引っ越しもしたんだって、ちょうど昨日………ほら」
「あー…」
私が見せたのはスマートフォンに入った母からの自撮り写真、引越しが終わったからと送ってくれたものだった。
母は3年ほど前から兵庫県の皇路市という所に転勤していて、住宅手当も切れるし交通費も掛かるしと異動先に近いアパートに移ったのだという。少し広めの1LDK、私が泊まりに行っても余裕があるようにと決めたそうだ。
「…やっぱ好み?」
「うん…健康そうでいい」
「ふーん…源ちゃんって熟女好きなのね」
「違うよ、モモちゃんのお母さんは熟女じゃない。辞書的には40代後半からって定義してるものもある」
「そういうこと聞いてないから」
呆れて唇を尖らせる私に、源ちゃんは
「熟女っていうのは…ほら、ああいうのを言うんだよ」
と道路を箒で掃く女性を指して笑う。
「あ、桃ちゃんおかえり!源も」
「帰りましたァ」
「僕はおまけか」
「桃ちゃん、今日の日替わりのモツ煮、持って行きなよ」
溌剌とした彼女は源ちゃんの母親で自宅横で営む定食屋『えっちゃん』の女将・新島悦子、祖父母に次いで第3の母親のような存在である。
「いいの?ありがとう」
「柔らかくできてるからね、自信作」
「ふふ…悦っちゃんのご飯、私好き♡」
「奈々ちゃんには負けるけどね」
奈々ちゃんとは私の母・小笠原奈々のことだ。悦っちゃんとはひと回りも歳が離れているが彼女たちもまた幼馴染みで、昔から家族ぐるみで懇意にしてもらっていた。
「そうかな」
「そうよ、ん、入って、詰めてあげるから」
「お邪魔しまーす」
自宅と同じくらい落ち着く場所、私は準備中の店内へ案内され小上がりの座敷に腰掛ける。
店内はもう出汁の香りが充満していて、その家庭的な空気についうっとりと目を閉じた。
うちは幼い頃から家族でここに通っていて、母が転勤で家を空けてからは同居する祖父母を労って毎日のようにお惣菜を分けてもらっている。
「はい、気を付けてね」
「ありがとう、悦っちゃん…昨日の器、すぐ持ってくるね」
「ううん、午前中におばあちゃんから返してもらってるから大丈夫よ」
「分かった、またね、源ちゃんも、また月曜ね!」
座敷でそのまま宿題を開いた源ちゃんは私の方をチラリと見て、
「またね」
と返してシャープペンシルを握った手をフリフリと振った。
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