私達は、若くて清い

あかね

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「…桃、背が伸びたわね…」

宴の後、寝床で母はそう言って私の頭を撫でる。

 母の部屋は今でもそのままにしてあって、私は最初こそ嫌がったのだが押し切られて母のベッドで一緒に横になったのだ。

「そう?」

「うん、源ちゃんと並んで立ったらすごく様になってたわ…二人とも立派に大きくなってくれて嬉しい」

「うん…そういえばね、クラスメイトと好みのタイプの話をしてる時に、源ちゃんてばお母さんが好みだって言ったんだよ」

「あらまァ、そうなのォ?」

「しっかりしててバリバリ働いてるって」

「あらァ…見る目あるわねェ……なんちゃって、本当にしっかりしてる人に失礼よ」

 たまにはそんな謙遜けんそんもする、適度に自分をおとすのも会話術らしい。

 娘の前でもそんなことをしなくてもいいのに、と思って言わないのもまた私の会話術である。


「…桃は?好きなタイプとか」

「んー……?んー……男の人って…あんまりいい感じしないかな」

「あら、同級生とか」

「子供っぽいじゃん、あんまり…なんか色気付いちゃって気持ち悪い」

「あー、高校生になったらハジけちゃう子もいるわよねェ…まァ桃と源ちゃんは堅実にいくでしょ、うん……ごめんね、何度も言うけど…彼氏は作っても良いけど、自分で責任の取れないようなことはしないでね、これはお母さんからのお願いよ」

 これまでは「しないでね」とただ指示や言付いいつけだったのに今夜のそれは「お願い」だった。

 私は間髪入れずに

「うん、」

と応えた。


「…お母さんは…彼氏とかは?」

「えェ……うーん…仲良くしてる人はいるけど…趣味友っていうか…会社の人なんだけどね、一緒にご飯を作って食べたりしてる人はいるわ」

「それって彼氏じゃん」

「違うわよォ、気の合う話し相手、弟みたいな…感じかしら。男女の友情ってやつよ、」

「ほんとに?相手の人はお母さんのこと好きなんじゃないの?」

 私においても確かに源ちゃんと親しくしていてもラブな空気になったりなんかしないから気持ちは分かる。

 でも母と一緒に居て何も生じないなんて、そんな事があるのかと追及すれば

「んー…どうなのかしら…そうだったら嬉しいかもね♡」

と母は乙女のように笑って枕元のライトをパチンと消し、そのまま目を閉じる。

 もうそれ以上は聞かず、私も明日に備えて眠ることにした。





 翌日、三分咲きの桜の元で私たちは無事卒業式を迎え、母は保護者席で祖母と並んで涙を流していた。

「おがぁざんン…ごめんねェ、めいわぐがげでェ…」

「いいわよォ、あんたがちゃんと躾けてるから桃ちゃんは立派に育ってる、」

「なにもがもォ…だよりっぎりでェ…」

「離れてんだから仕方ないでしょォ、また関東に赴任することがあれば一緒に暮らせるわァ」

 卒業生が退場してからそのような会話があったらしい。

 ぐずぐずの母の顔は新島家枠で参加した祖父のビデオカメラにばっちりと映っていてレコーダーに保存もされている。

 後々それを見せられた私は少し貰い泣きをして、祖父母にも改めて礼を言った。

 ちなみに公立高校の一般入試の合否発表は卒業式数日後にあったのだが、源ちゃんは予想通り私と同じ高校へ合格、制服の採寸だなんだと慌ただしく悦っちゃんと動いたそうだ。
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