私達は、若くて清い

あかね

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『そんなことしないわよ、電話もメールもするし』

「うん、でしょ、…それにさ、そのうち私に子供ができたら仲良くしてあげられそうだし」

『ちょっ、桃⁉︎彼氏居るの⁉︎』

「ひみつ」

もう居ないんだけどね、私は母を差し出す代わりに架空の彼氏を手元に置いて寂しくなんてないとばかりに虚勢を張る。
 
 そしてお決まりの母の言葉

『ダメよ、簡単にエッチなんかしちゃったら』

が繰り出されれば、

「分かってるよ、はしませんー」

と悔し紛れに授かり婚をけなしたのだがそこを食い気味に母が怒った。

『桃‼︎』

「‼︎」

『あんたを授かったこと、産んだこと、私は失敗だなんて思ったこと無いわよ‼︎…後悔なんてしてないわ……節操無い自分を恥じたことはあっても…あ、あんたのことを邪魔だなんて思ったことは一度だって無いわよ‼︎」

 あぁ怒らせてしまった、気を引きたい気持ちがこんなにも母の感情を揺さぶってしまうなんて…

「…分かってるよ…大丈夫だよ、成人するまではそんなことしないから…」

と私はなんとか口を回して母に見えないのをいいことに視線を泳がせまくる。

『そ、う…ごめんなさい、大きい声出して……口酸っぱく言ってきたけど…私が何言ったって説得力は無いわよね…』

 謝らなきゃ、私は母の人生を失敗だと言いたい訳ではないし、そして母は自分のことよりも「私の存在」を否定されたことを怒っているのだ。

 卑下ひげしなくていい、ここまで大きくしてくれたのだから誇ったっていい、

「違うよ、失言だった、ごめん。まぁ失敗があるとすればお母さんは相手選びを失敗したよね」

私はおかしな訂正しかできずぐるぐると自己嫌悪の渦にはまる。

『……ぐうの音も出ないわ』

「でもお父さんとじゃないと、私は生まれなかった訳だからねー……あっちも適当に大切にするよ」

『てきとう、』

「辞書的な意味でだよ……明日学校だからもう寝るね、またね、」

 どうしたんだろう心が荒ぶる、私は更なる失言を避けるために早めに通話を切り上げた。

『う、ん…あの…夏休みにでも、こっち遊びに来てね、彼にも会ってもらいたいの…』

「気が向いたらねェ」

『またね…—…—…』


「……お母さん…誰かのお母さんに…なっちゃうんだ…」

 モヤモヤが消えない、誰かに話したい、祖母は知っているだろうか、言えばどんな反応をするだろうか。

 「娘を置いてはしたない」と怒りそう、言えない、言えない…はじめちゃんはまだ起きているかな、私は彼の家側の窓のカーテンを夜だというのに開けてみた。

 新島にいじま家のいつものバルコニーにはいつものブルーシートと何故か枕が置かれていて、出入口の扉からパジャマのズボンを纏った四つん這いのお尻だけが覗いて闇夜にぼんやり浮かんでいた。
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