私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

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「モモちゃん…暑いね…」
「観光シーズンだもん…京都・大阪で減るといいなァ…」
「それほとんど座れないじゃん…」
「安くあげるにはこうするしか…ふゥ…」
 修学旅行以来の新幹線に私はドキドキして、それははじめちゃんも同じ様に見えた。

「ところでさ、お母さんの彼氏の勤め先は分かってるの?」
 目論見通り京都・大阪で降車する客が多かったものの乗車客ももちろん多くて、しかし比較的ゆったりとした車内で源ちゃんが尋ねる。
「うん、お母さんにどんな人かって聞いたら名前教えてくれたし…あとほら、写真も」
 私は母の彼氏・松井まついさんとやらの写真をスマートフォンに表示して源ちゃんへ見せてあげた。
「へぇ、優しそうな…珍しいタイプ」
「なんで?」
「だって、モモちゃんのお母さんってワイルド系の男の人が好きなんだと思ってたから」
「あー、」
 確かに母が昔連れて来た男性は皆ワイルドなオレ様系な人ばかりだった記憶がある。写真の松井さんはそういった種の人とは違って…それは制服にネクタイだからなのかもしれないが、誠実そうで真面目そうな黒髪ベビーフェイスの好青年である。
「んで?この情報からどうやって?」
「今は違う店って言ってたから、お母さんの店舗に電話して、『松井さんはどちらの店舗にいらっしゃいますか』って確認したの。お得意様って感じで、そしたら北店っていう所だってすんなり教えてくれたよ」
「なるほど」
「でもそこ、新幹線の駅から結構あるらしいの。だから荷物をロッカーに預けて在来線に乗り換えて、最寄り駅からタクシーかな」
「なるほど」
綿密な計画に源ちゃんは相槌あいづちを繰り返し、脳に刷り込むように斜め上を見上げて記憶しているようだった。
 今回のプランに関しては前日まで練りに練って…実際には観光も兼ねているのでそちらのピックアップに熱中してしまい、源ちゃんにはとりあえずの集合と到着時間しか伝えていない。
「私に任せてね」
「…うん」
 ミステリーツアーみたいなのも面白いかな、なんて思ったけれど彼はいつも通り落ち着いていて、でも目が合うと車窓の景色へと首ごと振ってしまった。
「源ちゃん、気分悪い?」
「違う、………モモちゃん、今日お化粧してる?」
朝から気付いていても言えなかった違和感の正体、明らかにメイクアップした私の顔に源ちゃんは怪訝けげんそうな眼差しを向ける。
「うん、お子ちゃまが来たってナメられたくないから…ちょっとやり過ぎ?」
「んー…高校生らしくない。お母さんが見たら絶対怒ると思う」
「やば、加減が分かんなかったから…可愛くない?」
 元々の大きな目にアイカラーとアイラインを差したら途端に大人っぽくなって、可愛げを持たせようとマスカラを足したら余計にケバケバしくなってしまった。お母さんをイメージして眉頭を足して、前髪は垂らして幼さを残したつもり…だったのだが源ちゃんはお気に召さないらしい。
「可愛くないことはない。お母さんそっくりで…もう少し大人になったらそういうのもいいと思う。でも…モモちゃんっぽくなくて…慣れないな」
「…落とそうかな…」
 しょんぼりとうつむけば源ちゃんは「はぁ」とため息をいて、
「目の上の…それ、少し薄くしたら?」
とポケットティッシュを差し出した。
「うん…源ちゃん、やって?」
「擦る強さが分かんないよ」
「何回かシュシュって拭いてみて、」
「んー…痛かったら言ってよ…」
 僅かに振動する新幹線の中で私達は向かい合い、私は目を閉じて顔を源ちゃんに預ける。
「……」
「……」
 彼は痛くしないしきっといい具合に直してくれる…それは私達が築いてきた信頼関係のなせる術だった。


 それから20分ほど新幹線は走り皇路オウジ駅へ到着。
 予定通りロッカーを経由して身軽になった私たちは在来線で北店の最寄り駅まで向かう。
「短い電車…可愛い」
「模型にしたいね」
 ここと隣県の町とを繋ぐ鉄道はいわゆる「ローカル線」というやつで、乗客が少ないので車両数も少なく素朴なたたずまいだった。
「…いい所だね、駅の周りは賑やかだったけど…この辺りは落ち着いてて」
「うん、駅と駅の間隔も広くて…異文化。つくづく僕らは狭い世界にしか生きてないんだね」
「高校生だもん、仕方ないじゃん」
「…モモちゃん、大学は…近畿にしたら?お母さんと会いやすいよ」
ガタンガタンとよく揺れる車内で源ちゃんは目を伏せてそう言う。
「んー…学びたい学部があればね、でも家から通える範囲が一番いいかな」
「そっか」
「私が遠くに行っちゃったら淋しい?」
「うん。淋しいよ」
「即答だね」
「だって本当だから」
 土曜日の昼だというのに乗客もまばら、ぽつりぽつりとそんな事を話しながら目的の駅へと電車は到着した。
 ワンマン電車と言うのは車両の一番前まで進んで車掌さんに切符を渡すのだそうで、私達も周りの人を窺いながら降車列へと並んでホームへと降りる。


「バスみたいだったね」
「うん…何事も経験だね……あ、ムラタの看板!」
「どこ?」
「ほら、あれ」
 源ちゃんが指差す方を見るとムラタの看板が高くそびえていて、何となく私達は「歩けそう」と意思疎通をしてタクシー乗り場をスルーした。
「地図見ようか」
 スマートフォンのナビでは1.5キロメートルと表示されている。
 それを見てもなお私達は
「行こっか、」
「うん、」
と店へと歩き始める。
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