私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

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「どれ?」
「あれかな……あれ、意外と背が低い」
「モモちゃんのお母さんの方が高そうだね」
「とりあえず本当に買いたい物あるからさ、接客してもらお」
 連休初日とは言えわざわざ家電量販店に繰り出す人も少ないのか店内は割と落ち着いていて、手持ち無沙汰なスタッフは巡回しつつ商品のメンテナンス等を行なっている。

「よし、行こう………すみません、」
「はい、いらっしゃいませ…」
 振り返った店員はやはり写真で見た「松井さん」に違いなかった。身長は私と同じくらいで目鼻立ちがくっきりとしていて、清潔感のある男性だった。
 私の顔を見て思うところがあったのか一瞬目がまん丸になって唇がぴくと動いて、でもすぐに微笑み
「どうされましたか?」
と尋ねてくれる。
「ドライヤー見てるんですけど、速く乾くタイプが欲しくって…教えてもらえますか?」
「そうですねー…音とか気にされないんであればこのラインですかね、出力が強いとどうしても音が大きくなっちゃうので…」
「そっか…これとこれの違いは?」
「こちらはイオンが従来のものより…」

 よほど優秀なのか胸の名札には『コーナー長』と書いてあり、商品説明も使い勝手もスラスラと答えてくれた。
「(コーナー長ということはお母さんフロア長よりは役職が下か…でも同い年くらいかな…)…これにします………次はひげ剃りを」
 ドライヤーの隣の棚へ動いて男性用のシェーバーを物色、私が源ちゃんへ
「どんなのにする?」
といきなり問えば
「は?えっと…楽なやつ、」
とそろそろひげが気になり始めていた彼は第一希望条件をするっと漏らす。
「安くて手入れが簡単なものを」
「それでしたらこちらとか…ここが全て外せますし、専用液とかは不要で…水道でバシャバシャ洗えますね。お値段もこちら、」
「ではそれで」
 説明をうんうんと聴いていた源ちゃんは棚下から在庫を見つけて脇に抱えた。

 その後も数点の生活家電を見繕ってもらい、全て出揃ったところで
「これ、全部でおいくらになりますか?」
と松井さんへ問うと、また一瞬止まってすぐにニンマリ笑って、私達はカウンターへと通された。
 1品ずつ表示価格と値引き後の価格を横線の入ったメモ帳みたいな物に書き込んで、松井さんは
「これがこう、こっちがこう、今の合計がここですね、ここから…これくらい、税込ですとこちら、いかがでしょうか」
と自信ありげに目尻を下げる。
 格段に安くなって有り難いが少し鼻に付いたので、私が合計金額の下3桁を指でトントンと叩いて
「……これ、端数切れますか?」
と聞き返したら
「はい……分かりました、切りましょう…こちらで、」
とサラリといなされた。
「(そりゃあ本職だもの、値切りには慣れてるよね…あ、後でお母さんにチクられて怒られるかな、『みっともないことするんじゃないの!』って…)…ではそれで」
 鞄から財布を出して顔を上げれば、松井さんは何か言いたげに目線を動かしてはそわそわとしている。
「……」
 これは母との事を尋ねられるだろうか、しかし
「何か?」
と澄まして聞けば
「いえ…お支払い方法は?」
とすぐ営業スマイルの松井さんへと戻ってしまった。
「現金で」
「かしこまりました…当店のポイントカードはお持ちですか?」
「ハイ、」
「お預かりします」

 普段からムラタを利用しているのでポイントカードも当然作っている。きっと画面に現れる顧客情報を見て松井さんは母と私の仲を確信していることだろう。
 会計が始まると源ちゃんは小さな声で
「モモちゃん、めっちゃ見られてた」
と頬を膨らませた。
「そうなの?やっぱ恋人に似てるから見ちゃうんじゃない?」
「…あんまりいい気しないね」
「源ちゃんは私の彼氏でもないじゃない、嫉妬しないでよ」
「でも保護者だし」
 そんな事をぐだぐだ話していると会計を済ませた松井さんが戻って来て、
「ではこちら、カードとお釣り、レシートと保証書です。お納めください」
と余裕げに笑う。
「はい、ありがとうございます」
 紙袋にパズルの様にキッチリ詰められた商品を見ればそれだけで気分が良く、万札を数枚出しての大きな買い物が初めてだったこともあり私は分かりやすくワクワクした。
 松井さんがふふと笑う声がしたような気がしたが遮るように源ちゃんが
「モモちゃん、持つよ」
と袋を持って席を立つ。
「源ちゃんありがと、では、ありがとうございました」
「いえいえ、恐れ入ります、ありがとうございました!」
「……」

 どうしようかな、悪い人じゃなさそうだし仕事は真面目にしてそうだし、「母をお願いしますね」なんて大人ぶったことを言ってみたくもある。
 背後に気配を感じつつ歩くこと数メートル、私は
「……松井、さん、」
とそこにまだ居るであろう母の恋人を呼んだ。
「はい、」
 声があったので振り返り
「また、会いましょうね」
と言えば、思いの外自分でもダサいと感じる程に子供っぽい笑い方になって恥ずかしくなる。
「…はい、また!」
 最後は会釈えしゃくしてエスカレーターのステップに乗り、するすると1階へ降りたら緊張の糸が解けて安堵あんどのため息をいた。

「よーし…駅に戻ろうか」
「モモちゃん疲れたでしょ、バスかタクシーにしよう」
「そだね……源ちゃんも重そう」
「…」
「…」

 その後私達は荷物が重たいのでムラタ店内へコソコソと引き返す。
 そして宅配便で自宅まで送ってもらう手続きをして、手ぶらで駅へと戻り荷物を回収して今夜泊まるビジネスホテルへチェックインした。
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