私達は、若くて清い

茜琉ぴーたん

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25(最終話)

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 あの旅行の翌週から夏期講習が始まって、あっという間に夏休みが終わって、秋になって冬が来て。
 土日は遊んだり勉強を教えあったりと私達は変わらず仲良く過ごしている。っちゃんはあれから私達の仲にすぐ気付いて、温かく見守りつつも「絶対に手を出すんじゃないよ」とはじめちゃんに本気のトーンで忠告したらしかった。

「…しないって言ってんのに…今日も言われたよ。信用無いんだな」
もうじきクリスマス、エアコンの効いた部屋でムラタの外観の模型を作りながら源ちゃんがぼやく。
「悦っちゃんもうちのお母さんと連絡取ってるからね、配慮してくれてるんだよ」
「よそのお嬢さんを傷モノになんてする訳無いじゃんか…キスはもう公認だよね?」
「うん…たぶん?」
 恒例のちゅっと小鳥がついばむような軽いキス、私の顔が離れれば彼は赤い顔で再び手を動かした。
 何でもないこのひとときが私はすごく心穏やかになるから好きで、
「…モモちゃん、好きだよ」
「うん…私も好き、」
なんて甘いやり取りを交わすくらいにはカップルらしくなってきたところである。

 さて近況としては、近所には光の速さでバレてしまったし学校生活も普段と変わらなかったけど、親しい友人筋から話が広まれば男子の源ちゃんを見る目が少しだけ変わったらしい。「なんか『お前、やるな』みたいに声掛けられるんだよ。先生からも。モモちゃんって学校のボスかなんかなの?」とは彼の談である。
 そして「アイツがいけるんなら俺でも」と思ったのか、私に関しては男子からの告白が急激に…隔週に1件ペースで増えた。もちろん「彼氏が居るのでごめんなさい」と断るのだが、数人から「アイツと別れたら教えて」と言われたのは胸糞が悪くて仕方ない。
 ボサッとしている源ちゃんと私とでは不釣り合いだと思うのか、しかし赤子の頃からの私達の絆を舐めないでもらいたい。まぁ私も彼の魅力を自覚したのは最近だから偉そうには言えないのだが。
 ともあれ我々は今日みたいにどちらかの部屋で趣味や勉強をしたり、映画を観たり、バルコニーで流星群を観測したり、オープンキャンパスに行ったり、母と会ったり…家族も交えて若者らしく清い交際に励んでいる。

「ねェ、それ…いつできるの?」
「もうできるよ。本当…もう、ほら、これ置くだけで完成、モモちゃんが置いてよ!」
 10月に私は16歳になったのだが、今源ちゃんが制作しているのはそのプレゼントだそうで…しかしもうひと月以上遅れていた。
 私は小さな人形を受け取って、彼の指示通りの位置へと着地させる。
「はい完成!ムラタ皇路オウジ本店、小笠原おがさわらフロア長付き!」
「あ、うん…すごい」
「いやぁ、遅れてごめんね。やっぱり現存の建築物を作るんなら正確にミニチュアにしなきゃ気が済まなくて」
 源ちゃんは私の誕生日にこれを贈ろうと考え付いたものの細部を忠実に再現することが難しく、『おかあさん、そちらのムラタの外観を四方からと、間取り図を写真に撮ってもらえませんか』と母宛にメールを送っていた。
 その甲斐あってか大きな建物も駐車場も屋根を外したフロアの様子もしっかりと再現できている。
「うん…なんか…うん、ありがとう…部屋に飾るね」
「このフロア長人形も見て、本当の写真を入れ込んでレジンで硬めたんだ、ほら、おかあさんの顔してるでしょ?」
「ん?んー…そう言えば…そう見えるかもォ」
 彼は私がコレを喜ぶと思って作ってくれたのだ。無碍むげにはできないのでナチュラルなリアクションでほどほどに相手をした。
「(私以外にこんなのあげたら、すぐにフラれちゃうんじゃないかな…)」
「あとね、これも」
 そう言って源ちゃんが取り出したのはティッシュで雑にくるまれた塊、手のひらに受け取って窺えば彼は
「開けてみて」
と目を細める。
「…なに…わァ!キレイ!」
 そこには鮮やかな花弁を数枚のプレートに閉じ込めたバレッタが入っていて、配色バランスといいプレートの重なり方といい、好みにきゅんと刺さってひと目でときめいてしまった。
「良かった」
「え、もしかしてこれも作ったの⁉︎」
「そうだよ、レジンでね。でも難しいね、模倣じゃなくて1から創造するのって」
「…すごォい…上手…かわいい…」
 部屋の照明にかざして透かして、その透明感と中に浮く花の細工をまじまじ見つめていると、
「こっちの方が嬉しかった?」
と源ちゃんは真顔で尋ねる。
「え、いや……そりゃあ…そっち模型はいつも目の前で隠さず作ってたから…驚きとか無くて…」
それ以前に模型がプレゼントって、とも思ったがさすがに言わずに我慢できた。
「これからも精進しょうじんするよ、模型もアクセサリーも」
「模型…は…自分のために作ったらいいんじゃないかな」
「え?」
「ん?」
ぱちくりとまばたきをする彼の仕草が天然でコミカルで、私は笑わないように唇を噛み込んで堪え乗り切る。
「…試作品はフリマに出したら売れてね、それで資金繰りして一番完成度の高いのをモモちゃん用にしたんだ」
「へェ…いい趣味ができたじゃない、アクセサリー作家じゃん」
「んー…面倒が無い範囲で頑張るよ」
「ねェ、着けて?」
私はバレッタを源ちゃんへ渡し、くるっと背中を向けた。
「どこに?」
「どこでもいいよ、」
「ん………うん、かわいい。色も合ってるよ」
「ほんと?やったァ、ありがとう♡」

 振り返ったら源ちゃんはもう私を見ていなくてガッカリしたけど、彼はなんだか口をもごもごしているので注視してみる。
「僕は…ううん、なんでもない」
「なァに?」
「……幸せ……初恋が実って…幸せだよ」
 そう言った源ちゃんの横顔がとても大人っぽく頼もしく見えたので、
「……ふふっ、私も!」
と背中に飛び付いたら彼は人形のように横に倒れてしまった。
「え、源ちゃん⁉︎」
「…刺激が強いよ…モモちゃん…ごめん、見ないで」
 彼の顔は耳もセーターの首の後ろまでも真っ赤に染まっていて、背中を丸めたその姿は歳より幼く見えて愛おしい。
「早く…大人になりたいね♡」
「くそぅ…憶えてろよ………嘘だよ、耳はやめて、」
 転がった源ちゃんにふぅふぅと息を吹き掛けたりくすぐったり、私達はまだしばらくは年齢相応のむつみ合いしか許されない。
「あはは♡ここは?どこが弱いのォ?」
「きゃは、あ、やめてへへ…し、仕返ししてもいいの?」
 それでもぐっと近くなったこの関係が嬉しくて楽しくて、親に隠れてはこんな遊びをしたり、時には真面目に将来の話をしたりしている。
「やだァ♡」
「くそ、まじで憶えてろよ!」


 私達はまだ揃って16歳、一線を越えるのはだいぶん先…楽しみと言えば楽しみだけれど、他にもやる事が多くてあまり待ち遠しいとか渇望かつぼうしたりとかそんなことはない。
 でもそれは私側の意見で…数年後、初めてのチャンスが訪れた時に彼は
「マジで辛かったんだ…何回モモちゃんが夢に出て来たか…お母さんが里帰りする前に…今じゃないとチャンスが無い。何があったって責任は取る……僕のものになって、」
と言ってうやうやしくホテルへ誘ってくれたのだけど…それはまだまだ先、自分たちなりに大人になれたかなという頃の話である。



おしまい
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