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第三話
第六十九節 亀裂を入れるのは
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ヤクは馬を借り、森の中を駆けていた。
葛藤や不安、苛立ちが心の中で渦を巻いている。これではいけない。幸いにも近くには川がある。ここまで休まずに走らせた馬も休ませなければ。自分も岸に腰を下ろし、一度大きく息を吐く。
あの時、自分はなんてことを言ったのだろう。頭に血が上っていたとはいえ、言ってはならないことを口走ってしまった。
あの子が、自分の力について知ろうとした。それは師匠という立場としては、喜ばしいことのはずなのに。彼が語った力の正体が、よりにもよって女神の巫女の力だとは思いもしなかった。
信じられなかった、いや、信じたくなかった。女神の巫女となった人間の末路を、自分は知っている。だからこそ、その力を彼に使って欲しくはなかった。
何故それが素直に言えなかったのか。とはいえ最早何を言っても、後の祭りにしかならない。我ながら情けない。こんなにも自分は、弱い人間だったか。
「私は……」
ざわりと、風が変わる。
休ませていた馬が、ブルルと鼻息を荒らす。何かを感じ取ったのだろうか。落ち着かせてから辺りを警戒する。
……確かに、何かがいる。ある一点から視線を感じ、牽制のための一撃を放つ。その一撃は弾かれ、近くの木に直撃した。攻撃が弾かれた場所の空間が歪み、ある人物が姿を現す。見覚えのある人物だ。
「こんにちは。ミズガルーズ国家防衛軍、魔導部隊部隊長……ヤク・ノーチェ」
「ヴァダース・ダクター……」
「数日振りですね。と言っても、貴方はあの時気を失っていましたか」
「……今度はなにが目的だ」
一歩後ろに下がり、いつでも動けるように構える。初めて対峙した時から、この男からは異様な雰囲気を感じていた。近付いてはならないと、第六感が告げている。目の前の男はそんなことはいざ知らずと言った様子で、余裕のある態度で近付いてくる。
「目的、ですか。貴方ならこの状況を考えれば、すぐにお分かりになると思いますが?」
この状況。周りに、自分と目の前の人物以外の気配はない。ましてやここは村から外れた川のほとり。この付近に集落の類もない。
バルドル族であるエイリークには、最初から興味がない様子だった。それは彼からグリムとケルスだけを奪ったことからも、明らかである。まずこの可能性は消える。次に考えられるのは、レイの拉致。しかし女神の巫女の疑惑を持つレイを奪いたいのならば、彼が一人でいる時を狙うはず。すると必然的に、この選択肢も消える。
付近の村の襲撃についても、ないと断言できる。この付近一帯の村はなんの変哲も無い、普通の村ばかりだ。これがマナの豊富な土地であるならばいざ知らず、どちらかと言えば貧困なマナの量だ。無闇矢鱈に魔物をけしかけて支配するにも、得るものが少なすぎる。この男のことだ、無駄な労力は使わないだろう。
そうすると、可能性としては一つ。
……恐らく、私個人なのだろう。
敵対している立場の人間であり、尚且つ役職にも就いている。捕虜にするのが目的か。それともレイを奪うための、交渉の材料にでもするつもりか。だが易々と捕まるわけにもいかない。イヤーカフを外し、杖の状態に戻す。
「おや……見かけによらず、血の気が多いのですね。交渉できるかと思ったんですが」
「敵である貴様と交渉できる要素など、一つもないと思うのが普通では?」
「これを見ても、そう思いますか?」
ヴァダースが指を鳴らす。彼の奥から、ある一体の魔物が姿を現した。その口に、あるものを咥えて。目に捉えた瞬間、全身の血が凍りつくかと思ってしまった。
「キルシュ!!」
魔物が咥えていたものは、見覚えのあるキルシュの服だ。魔物に引き摺られているキルシュは、両膝を擦りむいて出血していた。意識を失っているようで、がっくりと項垂れている。
彼の頬をする、と撫でるヴァダース。
「健気ですね、この子。どうやら村から単身で出てきた貴方を、追いかけようとしたみたいですよ?」
「貴様……!その子は関係がないだろう!」
「生憎私は合理的主義者でしてね。利用できるものは、何であろうと使いますよ」
「この……!」
「それこそ、貴方とこの子はなんの関係もないのでは?どうなったところで、貴方になんの支障もないでしょう?」
「ふざ、けるな……!」
杖を握る手が、怒りで震える。
実験台にされ、逃げてきたキルシュ。そんな彼に、ようやく安息の地が授けられたというのに。それを、こんな。また恐怖に晒されることなど、あってはならない。彼が意識を取り戻す前に、あの魔物から必ず彼を助け出す。
「"牙よ御身を氷結せん"ッ!」
空間上にマナを凝縮させ氷の牙を生成し、地面に向けて放つ。幸い川のほとりであるこの場所は、大小さまざまな大きさの石がある。それらを術で飛来させ、相手の視界を奪おうとした。
石が飛び交い、土煙が舞う。
瞬間、駆け出す。
土煙の奥から魔物の悲鳴が聞こえた。何処かに直撃したのだろう。キルシュに当たらないように注意は払ったが、はたして。
今は考える時間は惜しい。ひとまずは彼の奪還が先だ。
手を伸ばす。
もう少し、というところで鋭い殺気を真横から感じた。咄嗟に防御の術を展開する。直後に受けた攻撃は思った以上に、重い。
防ぎきれないことはないが、数メートル吹き飛ばされた。
土煙が収まり、視界が晴れる。奪還を試みたキルシュは、ヴァダースの腕の中。魔物の手前、自分が今しがたいた場所には、一人の男が構えていた。異形の両腕を持った、黒い制服を身に纏う男。
「新手か……!」
「……俺の攻撃、受け切る。お前初めて」
「そうですか。それは残念ですねリエレン」
「幹部、残念違う。俺、感動している。強い奴、まだこの世界、いた」
カーサが二人に魔物もまだ健在。そのうえキルシュの略奪は、結局失敗。思った以上に分が悪い。
その時、キルシュの瞼がふるりと震える。ゆっくりと目を覚まし、状況が把握できないのか辺りをキョロキョロと見回す。
「おや、お目覚めのようですね」
「え……?」
「キルシュ!!」
「あ……お兄ちゃん!」
自分を見つけ手を伸ばすキルシュだが、ヴァダースに阻まれて身動きができないでいた。
近付こうにも魔物が一体、リエレンと呼ばれた接近戦タイプのカーサが一人。さらにヴァダースの妨害まで加わる。ただし隙がない訳ではない。魔物はこちらに向かって、一直線に突撃してくるばかり。怪我を負っている状態では、長くは続かないだろう。先に魔物を倒せば、まだいくらでもキルシュを救出できる機会はある。
じりじり、とお互いに間合いを測る。
一つ、深呼吸をして。
風が強く、吹いた。
まず咆哮をあげた魔物が突進してくる。
それを躱し、短く詠唱する。背後の魔物を標的にして、術を放つ。
「"氷のつぶて"!!」
降り注ぐ氷の塊。雹にも似たそれらは、魔物めがけて一斉に落ちていく。
背中で魔物の悲鳴を受け、そのままヴァダースを目指す。
それを易々と通してくれるカーサではない。
いつの間にか、リエレンが上空に飛んでいたらしい。気配に気づき視線を上に向ければ、彼の足の防具が赤く変色していた。
「"炎熱が刻む刻印"」
隕石のように熱を纏いながら、リエレンがキックをする体勢で落下してきた。
二歩ほど後ろに引き下がる。
そこにリエレンの追撃が襲ってくる。
掌底を繰り出そうとした彼の右腕を避けつつ、逆にその腕を掴む。
詠唱はもう唱えてある。
「"抱擁せよ氷の華"!」
"抱擁せよ氷の華"。凍結の術の一つ。絶対零度にほぼ近い超低温のマナを対象の物質に纏わせることで、その活動を停止させる術だ。
術を受けたリエレンの右腕が凍る。これで凍傷は負ったはず。
一瞬怯んだ彼の隙を、見逃さなかった。
前蹴りをリエレンの腹部に食らわす。
力を入れ、容赦なく蹴る。
崩れ落ちるリエレン。しばらくは動けまい。
掴んだ腕から手を離し、ヴァダースの方に向き直る。しかし、彼の腕の中にいたはずのキルシュがそこにいない。
一体どこに、と考えるよりも先に背後で何かが落ちる音がする。ちらりと一瞥した視線の先、魔物の眼前にキルシュがいた。
魔物は、興奮状態に陥っている。先程の一撃では仕留めきれていなかったのか。
魔物が突進を始める。
何よりも先に、咄嗟に身体が動く。間に合え。
魔物が突進するよりも先に、キルシュを守るように腕に抱く。
直後に、背中に激痛が走った。あまりの衝撃に、一瞬息が止まる。受け身は取れなかったが、キルシュを守るその一心で自分を下に地面を滑る。川の周りだったこともあり、石の上を滑ることになった。
何本か骨が折れただろうか。痛みで意識が朦朧とするが、腕の中のキルシュの無事を確認する。
「おにい、ちゃ……!」
「キルシュ……無事だ、な……?」
「やだ、お兄ちゃん、血が出てる……!怪我してる!死んじゃやだ……!!」
とりあえず、膝の擦りむき以外に怪我はしていないようだ。そのことに安心すると、一気に意識が遠のいていく。気を失っては駄目だと理解はしていたが、身体がそれを拒否していた。
ぼやける視界の奥で、見慣れた人物たちが駆けてくるような姿を、捉えながら。
ゆっくりと意識を、完全に手放した。
葛藤や不安、苛立ちが心の中で渦を巻いている。これではいけない。幸いにも近くには川がある。ここまで休まずに走らせた馬も休ませなければ。自分も岸に腰を下ろし、一度大きく息を吐く。
あの時、自分はなんてことを言ったのだろう。頭に血が上っていたとはいえ、言ってはならないことを口走ってしまった。
あの子が、自分の力について知ろうとした。それは師匠という立場としては、喜ばしいことのはずなのに。彼が語った力の正体が、よりにもよって女神の巫女の力だとは思いもしなかった。
信じられなかった、いや、信じたくなかった。女神の巫女となった人間の末路を、自分は知っている。だからこそ、その力を彼に使って欲しくはなかった。
何故それが素直に言えなかったのか。とはいえ最早何を言っても、後の祭りにしかならない。我ながら情けない。こんなにも自分は、弱い人間だったか。
「私は……」
ざわりと、風が変わる。
休ませていた馬が、ブルルと鼻息を荒らす。何かを感じ取ったのだろうか。落ち着かせてから辺りを警戒する。
……確かに、何かがいる。ある一点から視線を感じ、牽制のための一撃を放つ。その一撃は弾かれ、近くの木に直撃した。攻撃が弾かれた場所の空間が歪み、ある人物が姿を現す。見覚えのある人物だ。
「こんにちは。ミズガルーズ国家防衛軍、魔導部隊部隊長……ヤク・ノーチェ」
「ヴァダース・ダクター……」
「数日振りですね。と言っても、貴方はあの時気を失っていましたか」
「……今度はなにが目的だ」
一歩後ろに下がり、いつでも動けるように構える。初めて対峙した時から、この男からは異様な雰囲気を感じていた。近付いてはならないと、第六感が告げている。目の前の男はそんなことはいざ知らずと言った様子で、余裕のある態度で近付いてくる。
「目的、ですか。貴方ならこの状況を考えれば、すぐにお分かりになると思いますが?」
この状況。周りに、自分と目の前の人物以外の気配はない。ましてやここは村から外れた川のほとり。この付近に集落の類もない。
バルドル族であるエイリークには、最初から興味がない様子だった。それは彼からグリムとケルスだけを奪ったことからも、明らかである。まずこの可能性は消える。次に考えられるのは、レイの拉致。しかし女神の巫女の疑惑を持つレイを奪いたいのならば、彼が一人でいる時を狙うはず。すると必然的に、この選択肢も消える。
付近の村の襲撃についても、ないと断言できる。この付近一帯の村はなんの変哲も無い、普通の村ばかりだ。これがマナの豊富な土地であるならばいざ知らず、どちらかと言えば貧困なマナの量だ。無闇矢鱈に魔物をけしかけて支配するにも、得るものが少なすぎる。この男のことだ、無駄な労力は使わないだろう。
そうすると、可能性としては一つ。
……恐らく、私個人なのだろう。
敵対している立場の人間であり、尚且つ役職にも就いている。捕虜にするのが目的か。それともレイを奪うための、交渉の材料にでもするつもりか。だが易々と捕まるわけにもいかない。イヤーカフを外し、杖の状態に戻す。
「おや……見かけによらず、血の気が多いのですね。交渉できるかと思ったんですが」
「敵である貴様と交渉できる要素など、一つもないと思うのが普通では?」
「これを見ても、そう思いますか?」
ヴァダースが指を鳴らす。彼の奥から、ある一体の魔物が姿を現した。その口に、あるものを咥えて。目に捉えた瞬間、全身の血が凍りつくかと思ってしまった。
「キルシュ!!」
魔物が咥えていたものは、見覚えのあるキルシュの服だ。魔物に引き摺られているキルシュは、両膝を擦りむいて出血していた。意識を失っているようで、がっくりと項垂れている。
彼の頬をする、と撫でるヴァダース。
「健気ですね、この子。どうやら村から単身で出てきた貴方を、追いかけようとしたみたいですよ?」
「貴様……!その子は関係がないだろう!」
「生憎私は合理的主義者でしてね。利用できるものは、何であろうと使いますよ」
「この……!」
「それこそ、貴方とこの子はなんの関係もないのでは?どうなったところで、貴方になんの支障もないでしょう?」
「ふざ、けるな……!」
杖を握る手が、怒りで震える。
実験台にされ、逃げてきたキルシュ。そんな彼に、ようやく安息の地が授けられたというのに。それを、こんな。また恐怖に晒されることなど、あってはならない。彼が意識を取り戻す前に、あの魔物から必ず彼を助け出す。
「"牙よ御身を氷結せん"ッ!」
空間上にマナを凝縮させ氷の牙を生成し、地面に向けて放つ。幸い川のほとりであるこの場所は、大小さまざまな大きさの石がある。それらを術で飛来させ、相手の視界を奪おうとした。
石が飛び交い、土煙が舞う。
瞬間、駆け出す。
土煙の奥から魔物の悲鳴が聞こえた。何処かに直撃したのだろう。キルシュに当たらないように注意は払ったが、はたして。
今は考える時間は惜しい。ひとまずは彼の奪還が先だ。
手を伸ばす。
もう少し、というところで鋭い殺気を真横から感じた。咄嗟に防御の術を展開する。直後に受けた攻撃は思った以上に、重い。
防ぎきれないことはないが、数メートル吹き飛ばされた。
土煙が収まり、視界が晴れる。奪還を試みたキルシュは、ヴァダースの腕の中。魔物の手前、自分が今しがたいた場所には、一人の男が構えていた。異形の両腕を持った、黒い制服を身に纏う男。
「新手か……!」
「……俺の攻撃、受け切る。お前初めて」
「そうですか。それは残念ですねリエレン」
「幹部、残念違う。俺、感動している。強い奴、まだこの世界、いた」
カーサが二人に魔物もまだ健在。そのうえキルシュの略奪は、結局失敗。思った以上に分が悪い。
その時、キルシュの瞼がふるりと震える。ゆっくりと目を覚まし、状況が把握できないのか辺りをキョロキョロと見回す。
「おや、お目覚めのようですね」
「え……?」
「キルシュ!!」
「あ……お兄ちゃん!」
自分を見つけ手を伸ばすキルシュだが、ヴァダースに阻まれて身動きができないでいた。
近付こうにも魔物が一体、リエレンと呼ばれた接近戦タイプのカーサが一人。さらにヴァダースの妨害まで加わる。ただし隙がない訳ではない。魔物はこちらに向かって、一直線に突撃してくるばかり。怪我を負っている状態では、長くは続かないだろう。先に魔物を倒せば、まだいくらでもキルシュを救出できる機会はある。
じりじり、とお互いに間合いを測る。
一つ、深呼吸をして。
風が強く、吹いた。
まず咆哮をあげた魔物が突進してくる。
それを躱し、短く詠唱する。背後の魔物を標的にして、術を放つ。
「"氷のつぶて"!!」
降り注ぐ氷の塊。雹にも似たそれらは、魔物めがけて一斉に落ちていく。
背中で魔物の悲鳴を受け、そのままヴァダースを目指す。
それを易々と通してくれるカーサではない。
いつの間にか、リエレンが上空に飛んでいたらしい。気配に気づき視線を上に向ければ、彼の足の防具が赤く変色していた。
「"炎熱が刻む刻印"」
隕石のように熱を纏いながら、リエレンがキックをする体勢で落下してきた。
二歩ほど後ろに引き下がる。
そこにリエレンの追撃が襲ってくる。
掌底を繰り出そうとした彼の右腕を避けつつ、逆にその腕を掴む。
詠唱はもう唱えてある。
「"抱擁せよ氷の華"!」
"抱擁せよ氷の華"。凍結の術の一つ。絶対零度にほぼ近い超低温のマナを対象の物質に纏わせることで、その活動を停止させる術だ。
術を受けたリエレンの右腕が凍る。これで凍傷は負ったはず。
一瞬怯んだ彼の隙を、見逃さなかった。
前蹴りをリエレンの腹部に食らわす。
力を入れ、容赦なく蹴る。
崩れ落ちるリエレン。しばらくは動けまい。
掴んだ腕から手を離し、ヴァダースの方に向き直る。しかし、彼の腕の中にいたはずのキルシュがそこにいない。
一体どこに、と考えるよりも先に背後で何かが落ちる音がする。ちらりと一瞥した視線の先、魔物の眼前にキルシュがいた。
魔物は、興奮状態に陥っている。先程の一撃では仕留めきれていなかったのか。
魔物が突進を始める。
何よりも先に、咄嗟に身体が動く。間に合え。
魔物が突進するよりも先に、キルシュを守るように腕に抱く。
直後に、背中に激痛が走った。あまりの衝撃に、一瞬息が止まる。受け身は取れなかったが、キルシュを守るその一心で自分を下に地面を滑る。川の周りだったこともあり、石の上を滑ることになった。
何本か骨が折れただろうか。痛みで意識が朦朧とするが、腕の中のキルシュの無事を確認する。
「おにい、ちゃ……!」
「キルシュ……無事だ、な……?」
「やだ、お兄ちゃん、血が出てる……!怪我してる!死んじゃやだ……!!」
とりあえず、膝の擦りむき以外に怪我はしていないようだ。そのことに安心すると、一気に意識が遠のいていく。気を失っては駄目だと理解はしていたが、身体がそれを拒否していた。
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ゆっくりと意識を、完全に手放した。
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