43 / 463
第一章
第四三話 本領
しおりを挟む
「「安全第一! ご安全に!」」
朝から元気に安全スローガンを叫ぶと居住区を出ていく。
「「何それ?」」
クリスを迎えに来たデリーとロブが呆気に取られていた。
出口で別れ、クリスは船首楼へ。穂積は司厨部との打ち合わせのため厨房へと向かう。
停船しており行き足が無いため、うねりの影響で多少気持ちの悪い揺れ方をしていた。
(早いとこ慣れなきゃな。変針点ほど酔ってないけど)
あの海域の揺れは穂積にはキツかった。その上、トビウオとクジラの襲来だ。トラウマになりそうだった。
「おはよう。ホヅミちゃん」
「グランマさん。おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「アラ? これからずっとでしょ?」
「どうでしょう。なんとかなるかも。まだ、わかりません」
確信があった。これだけ様々な魔堰があるのに高がポンプが無いはずがない。おそらく見つかってはいても解読が出来ないのだ。何故かはわからないが。
「それじゃあ、手順は打ち合わせ通りでお願いします。朝食前に準備は整えておきますので」
「おけー」
「任せときな」
「ガンガン汲むよ!」
司厨部と打ち合わせた手順。人員を確保できるなら、作業はより効率的にブラッシュアップすることが可能だ。この水汲みも然り。
司厨部は全部で四人。司厨長グランマを筆頭に、ボリス、ベイカー、チェスカ。これに穂積を加えた五人での作業となる。
「えーと。水桶五つ。内、ロープ付きのが三つ。聚雨方タライ二つ」
海水の移送経路は、海、甲板、食堂屋上、踊り場となる。
配置は甲板二人、屋上二人、踊り場一人。男性三人を各階層に一名置いて、海水の汲み上げを担当。女性と漢女は甲板と屋上に別れて、汲み上げた海水をタライから次の水桶に移す役割。
穂積は道具一式を船尾楼から出してきて、舷側、屋上、踊り場の手摺りに長さを調節しながらロープ付き水桶を結び付けていく。大型タライを舷側と屋上の結び目近くに置いて準備完了。
「これでよしっと。試しに一通りやってみるか」
いつものように海に水桶を放り込んでは汲み上げ、足元のタライに溜めていく。ある程度のところで、普通の水桶でタライから汲んだ海水を屋上から吊り下がった水桶に注ぎ込む。屋上に上がってロープを引き上げて、という具合に踊り場のプールまで移送はできたが、
「これ絶対、甲板の二人が忙しいな。特に甲板上の移送係。舷側から食堂までの距離がネックか」
グランマかチェスカ。おそらくチェスカが押し付けられる。彼女は『追い回し』で修行中の身。夢は陸のレストランで働くこと。下っ端がしんどいのはどこの世界も一緒だ。
「舷側の汲み上げは俺がやるか。あと、全員に手袋を着けてもらいたいけど」
そろそろ朝食。食堂に向かう甲板部と合流した。
「クリス君。お疲れ様。甲板部はどう?」
「ホヅミさん……! はい……。みんな優しいです……。ジョジョさんも優しい……」
「あったりまえだぁ。補水方から借りてんだぞぉ。それに治ったと言っても、クリスは病み上がりだしなぁ」
「よろしくお願いしますね。怪我しないように見てあげてください」
「飯の後から現場だぁ。クリス。さっき注意したこと覚えとけぇ。でもよぉ、なんで頭の手拭いと革手袋を外さねえんだぁ?」
「安全第一! 保護具の着用は……あたりまえ……です……」
スキンヘッドが穂積を振り返り「なるほどねぇ」と納得してクリスの頭をポンポン撫でる。
「ジョジョさん。手袋くれません?」
「おぅ。後でロブに持って来させるぅ。ホヅミのもんほど上等じゃねぇがなぁ」
「助かります。俺の軍手もだいぶ草臥れてきてたんで。司厨部と合わせて五組お願いします」
ビクトリア号の安全意識はトティアスでは抜群に高いらしい。少々の怪我がクリスの『レギオン』を活性化させる可能性を考慮して、ビクトリアが乗組員全員の意識改革を行った結果だ。船長が保護具を支給する船など他には無いとか。
(クリス一人のために変革も辞さずか……益々、……俺にとってもラッキーだったな)
朝食後、司厨部の片付けを手伝ったのちに、食堂屋上に五人が集まっていた。
「……と、このように甲板の二人が大変になると予想してます。海からの汲み上げ作業は危険ですし慣れている俺がやりますが、甲板上の移送は……」
「「「チェスカで」」」
「やっぱりね! 気張りますよ!」
「では、水タンクの余積分、二トン! 水桶にして一〇〇杯! 頑張って上げましょう! ご安全に!」
「「「「ご安全に~!」」」」
その後、やはりというか、思った通りになった。
「チェスカ! おせーおせー」
「すみません!」
「チェスカ! もっと早くならんかい?」
「只今!」
「チェスカ! アンタ朝飯食ったの?」
「いただきました!」
「「「チェスカ!」」」
「はい~! はいはい!」
そんなチェスカの活躍により、なんとかお茶休憩までに作業を終えた。
「「「「ありがとうございました!」」」」
「あ、ありがとう、ござい、ましたぁ」
「これは、なんとかしないと」
「ホヅミさん。マジで、なんとかして。私死んじゃう」
「……だよね」
休憩しようと厨房への道すがら。船尾楼から出て休憩に向かう甲板部と遭遇した。クリスがトコトコ歩いて踊り場へ向かう。
「ホヅミさーん……! 何個ぉ……?」
「四つに分けて~!」
「はーい……!」
パッと真紅の光。あっという間に真水精製を終えた。こちらに手を振ってデリーに付いていくクリスを見送り、
「……終わったみたいね」
「昼食の支度あるんで」
「おれも、夜の焼き物の仕込みが」
「「「チェスカ。やっといて」」」
「……はーい」
タンクへの補水をチェスカに任せた料理人たちは本来の職務へ戻って行った。
「ホヅミさーん。私って、こんなんばっかだよね」
「チェスカさん。聚雨方で使うホースの短めのってある?」
「あったと思うけど」
「それって真水を通しても大丈夫? 清潔?」
「だいじょぶ。キレイなやつ。なんかに使うの?」
「うん。よろしく」
「はーい。持ってきますよ」
それから暫くのち、穂積とチェスカはボーっと空を眺めて休んでいた。
「サボってたの、内緒ですよ?」
「サボりじゃないよ。補水を監視してるんだ」
「ひっひ。確かにその通り」
ホースを使い、サイフォン現象を利用して移送中。司厨部にはやり方を言わなかっただけである。
「ホヅミさん。よくこんなの知ってたね?」
「昨日は塩結晶に驚き過ぎて思いつかなかった。失敗したよ」
「あれはびっくり。売るの?」
「流石にあのサイズは売れるかなぁ? もう調味料じゃなくてオブジェだよ」
「ひひひっ! 確かに!」
「いつか陸上のレストランに就職する時に持って行ったら? オーナーとシェフの度肝を抜けるよ」
「それいい! そうしよ! クリスに頼んで取り置きしてもらおっと」
チェスカと少しズルをして、まったりした時間を過ごし補水を終えた。ちょうどいい頃合いに昼食を食べに戻る。
司厨部の先輩たちからよく頑張ったと労われ、チェスカは少しバツが悪そうに笑っていた。
**********
船尾楼下段、五番船倉。船尾隔壁にはトビウオによる損傷箇所が応急修理そのままに残されて、被害の傷痕を晒している。
「助かるわ。ホヅミさん。とてもじゃないけど、一人じゃ終わんないとこだった」
積み荷の在庫管理はマリーの職掌だが、クジラの津波による衝撃で商品はバラバラ。保管場所から転がり出したり、浸水で水没したりと、被害を受けた魔堰が多数あった。
品質管理のためにも棚卸しと再整理、目録の更新が必要だった。忙しいマリーの補佐が穂積に与えられた本日午後の仕事だ。
「トムさんたちが全滅ですからね。まずはビルジの排水が優先だったでしょうし」
「そうなの! 水損で商品価値が下がると困るって事務長からせっつかれちゃって、もう、たいへーん」
「パッサーさんの立場なら気になるでしょう。予想外の海獣被害で数航海分の儲けがパァになるかもしれないんですから」
マリーが手招きしている。内密の話だろうか。小麦色の谷間が目に毒で近付くことは憚られるが。
「建前上、こっそりやってることになってるんだ」
「ん? 何を?」
「それがね。クリスがすっごいの」
「まさか……」
「――伝説級の精製魔法。本領発揮よ」
甲板部が見つけた船殻のクラックを片っ端から直しているらしい。既にクラック調査の方が追いつかなくなっているとか。
「補水方と同じ状況ですね」
「あの子、本当はすごかったのね。何より魔力が尽きないのよ」
「魔力が尽きない?」
「そうそう。あの魔法がどんなものなのかは誰にも分かんないけど、普通なら乱発すれば魔力切れするもんよ」
「へー。『レギオン』はどんだけ大飯食らいなんだか」
「あの子が言うには『ぶんし?』って言うのの結合を弄るだけだから、大して魔力は要らないらしいわ」
「すごいこと、なんですけどね」
(そっち方面でも天才か)
「へへっ。あの子、甲板部員から大人気よ。先生と違って年配のオヤジたちが可愛がっちゃって。ウチの子にならないかって」
「ははっ。そうですか」
「でもねー。『ボクはホヅミさんの……』の一言で振られてるわ。ヨッ! 色男!」
「はははっ。そーですかー。いやぁ、参ったな」
「真面目な話、夜道には気を付けた方がいい……」
船に夜道があるのか。しかし、地球でも大昔の船では気に入らない士官を夜中に海にレッコ (Let go)するようなのもいたという。
「……なーんて! 冗談よ! さっ。仕事仕事~。はいコレ」
手渡されたのは意味の分からない表が書かれた紙だった。
読める。読めるが、コレに何の意味があるのか。
「マリーさん。何ですか? この表は?」
「それはね、古代文字の対照表だよ。この欄の右に書かれてるのが古代ラクナウ語」
「はあ」
「そっちにまとめて置いてあるのが、所定の保管場所から出ちゃった魔堰。こっちのが水没したやつ」
「ふむ」
「マリーちゃんは水没してたのを転写魔堰で状態確認。ホヅミさんはそれ以外のを保管場所に戻していってちょーだい」
「ほう」
「各々の魔堰には転写紙がタグ付けしてあるから、その名称を対照表使って確認しつつ進めてね。転写紙は古代文字で書かれてるから、慣れるまでは時間かかると思うけどガンバって!」
「わかりました。あの棚に書いてある順に戻せばいいんですよね?」
「そ! よろしくね~!」
表の意味が分かった。同じ文字列が二列に並んでるだけの表の意味が。
(うん。転写紙の記載事項も普通に読める。なんかこれ取説みたいだな)
タグとして使われている転写紙は、その魔堰の名称、用途、性能など、一般的な機械の取扱説明書と同様のものだった。
「マリーさん。終わりました」
「早くない!?」
クリスは伝説級精製魔法の本領を遺憾なく発揮した。
穂積は機関士としての本領をちょこっとだけ発揮した。
「いやぁ~、在庫整理は得意なんですよぉ」
朝から元気に安全スローガンを叫ぶと居住区を出ていく。
「「何それ?」」
クリスを迎えに来たデリーとロブが呆気に取られていた。
出口で別れ、クリスは船首楼へ。穂積は司厨部との打ち合わせのため厨房へと向かう。
停船しており行き足が無いため、うねりの影響で多少気持ちの悪い揺れ方をしていた。
(早いとこ慣れなきゃな。変針点ほど酔ってないけど)
あの海域の揺れは穂積にはキツかった。その上、トビウオとクジラの襲来だ。トラウマになりそうだった。
「おはよう。ホヅミちゃん」
「グランマさん。おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「アラ? これからずっとでしょ?」
「どうでしょう。なんとかなるかも。まだ、わかりません」
確信があった。これだけ様々な魔堰があるのに高がポンプが無いはずがない。おそらく見つかってはいても解読が出来ないのだ。何故かはわからないが。
「それじゃあ、手順は打ち合わせ通りでお願いします。朝食前に準備は整えておきますので」
「おけー」
「任せときな」
「ガンガン汲むよ!」
司厨部と打ち合わせた手順。人員を確保できるなら、作業はより効率的にブラッシュアップすることが可能だ。この水汲みも然り。
司厨部は全部で四人。司厨長グランマを筆頭に、ボリス、ベイカー、チェスカ。これに穂積を加えた五人での作業となる。
「えーと。水桶五つ。内、ロープ付きのが三つ。聚雨方タライ二つ」
海水の移送経路は、海、甲板、食堂屋上、踊り場となる。
配置は甲板二人、屋上二人、踊り場一人。男性三人を各階層に一名置いて、海水の汲み上げを担当。女性と漢女は甲板と屋上に別れて、汲み上げた海水をタライから次の水桶に移す役割。
穂積は道具一式を船尾楼から出してきて、舷側、屋上、踊り場の手摺りに長さを調節しながらロープ付き水桶を結び付けていく。大型タライを舷側と屋上の結び目近くに置いて準備完了。
「これでよしっと。試しに一通りやってみるか」
いつものように海に水桶を放り込んでは汲み上げ、足元のタライに溜めていく。ある程度のところで、普通の水桶でタライから汲んだ海水を屋上から吊り下がった水桶に注ぎ込む。屋上に上がってロープを引き上げて、という具合に踊り場のプールまで移送はできたが、
「これ絶対、甲板の二人が忙しいな。特に甲板上の移送係。舷側から食堂までの距離がネックか」
グランマかチェスカ。おそらくチェスカが押し付けられる。彼女は『追い回し』で修行中の身。夢は陸のレストランで働くこと。下っ端がしんどいのはどこの世界も一緒だ。
「舷側の汲み上げは俺がやるか。あと、全員に手袋を着けてもらいたいけど」
そろそろ朝食。食堂に向かう甲板部と合流した。
「クリス君。お疲れ様。甲板部はどう?」
「ホヅミさん……! はい……。みんな優しいです……。ジョジョさんも優しい……」
「あったりまえだぁ。補水方から借りてんだぞぉ。それに治ったと言っても、クリスは病み上がりだしなぁ」
「よろしくお願いしますね。怪我しないように見てあげてください」
「飯の後から現場だぁ。クリス。さっき注意したこと覚えとけぇ。でもよぉ、なんで頭の手拭いと革手袋を外さねえんだぁ?」
「安全第一! 保護具の着用は……あたりまえ……です……」
スキンヘッドが穂積を振り返り「なるほどねぇ」と納得してクリスの頭をポンポン撫でる。
「ジョジョさん。手袋くれません?」
「おぅ。後でロブに持って来させるぅ。ホヅミのもんほど上等じゃねぇがなぁ」
「助かります。俺の軍手もだいぶ草臥れてきてたんで。司厨部と合わせて五組お願いします」
ビクトリア号の安全意識はトティアスでは抜群に高いらしい。少々の怪我がクリスの『レギオン』を活性化させる可能性を考慮して、ビクトリアが乗組員全員の意識改革を行った結果だ。船長が保護具を支給する船など他には無いとか。
(クリス一人のために変革も辞さずか……益々、……俺にとってもラッキーだったな)
朝食後、司厨部の片付けを手伝ったのちに、食堂屋上に五人が集まっていた。
「……と、このように甲板の二人が大変になると予想してます。海からの汲み上げ作業は危険ですし慣れている俺がやりますが、甲板上の移送は……」
「「「チェスカで」」」
「やっぱりね! 気張りますよ!」
「では、水タンクの余積分、二トン! 水桶にして一〇〇杯! 頑張って上げましょう! ご安全に!」
「「「「ご安全に~!」」」」
その後、やはりというか、思った通りになった。
「チェスカ! おせーおせー」
「すみません!」
「チェスカ! もっと早くならんかい?」
「只今!」
「チェスカ! アンタ朝飯食ったの?」
「いただきました!」
「「「チェスカ!」」」
「はい~! はいはい!」
そんなチェスカの活躍により、なんとかお茶休憩までに作業を終えた。
「「「「ありがとうございました!」」」」
「あ、ありがとう、ござい、ましたぁ」
「これは、なんとかしないと」
「ホヅミさん。マジで、なんとかして。私死んじゃう」
「……だよね」
休憩しようと厨房への道すがら。船尾楼から出て休憩に向かう甲板部と遭遇した。クリスがトコトコ歩いて踊り場へ向かう。
「ホヅミさーん……! 何個ぉ……?」
「四つに分けて~!」
「はーい……!」
パッと真紅の光。あっという間に真水精製を終えた。こちらに手を振ってデリーに付いていくクリスを見送り、
「……終わったみたいね」
「昼食の支度あるんで」
「おれも、夜の焼き物の仕込みが」
「「「チェスカ。やっといて」」」
「……はーい」
タンクへの補水をチェスカに任せた料理人たちは本来の職務へ戻って行った。
「ホヅミさーん。私って、こんなんばっかだよね」
「チェスカさん。聚雨方で使うホースの短めのってある?」
「あったと思うけど」
「それって真水を通しても大丈夫? 清潔?」
「だいじょぶ。キレイなやつ。なんかに使うの?」
「うん。よろしく」
「はーい。持ってきますよ」
それから暫くのち、穂積とチェスカはボーっと空を眺めて休んでいた。
「サボってたの、内緒ですよ?」
「サボりじゃないよ。補水を監視してるんだ」
「ひっひ。確かにその通り」
ホースを使い、サイフォン現象を利用して移送中。司厨部にはやり方を言わなかっただけである。
「ホヅミさん。よくこんなの知ってたね?」
「昨日は塩結晶に驚き過ぎて思いつかなかった。失敗したよ」
「あれはびっくり。売るの?」
「流石にあのサイズは売れるかなぁ? もう調味料じゃなくてオブジェだよ」
「ひひひっ! 確かに!」
「いつか陸上のレストランに就職する時に持って行ったら? オーナーとシェフの度肝を抜けるよ」
「それいい! そうしよ! クリスに頼んで取り置きしてもらおっと」
チェスカと少しズルをして、まったりした時間を過ごし補水を終えた。ちょうどいい頃合いに昼食を食べに戻る。
司厨部の先輩たちからよく頑張ったと労われ、チェスカは少しバツが悪そうに笑っていた。
**********
船尾楼下段、五番船倉。船尾隔壁にはトビウオによる損傷箇所が応急修理そのままに残されて、被害の傷痕を晒している。
「助かるわ。ホヅミさん。とてもじゃないけど、一人じゃ終わんないとこだった」
積み荷の在庫管理はマリーの職掌だが、クジラの津波による衝撃で商品はバラバラ。保管場所から転がり出したり、浸水で水没したりと、被害を受けた魔堰が多数あった。
品質管理のためにも棚卸しと再整理、目録の更新が必要だった。忙しいマリーの補佐が穂積に与えられた本日午後の仕事だ。
「トムさんたちが全滅ですからね。まずはビルジの排水が優先だったでしょうし」
「そうなの! 水損で商品価値が下がると困るって事務長からせっつかれちゃって、もう、たいへーん」
「パッサーさんの立場なら気になるでしょう。予想外の海獣被害で数航海分の儲けがパァになるかもしれないんですから」
マリーが手招きしている。内密の話だろうか。小麦色の谷間が目に毒で近付くことは憚られるが。
「建前上、こっそりやってることになってるんだ」
「ん? 何を?」
「それがね。クリスがすっごいの」
「まさか……」
「――伝説級の精製魔法。本領発揮よ」
甲板部が見つけた船殻のクラックを片っ端から直しているらしい。既にクラック調査の方が追いつかなくなっているとか。
「補水方と同じ状況ですね」
「あの子、本当はすごかったのね。何より魔力が尽きないのよ」
「魔力が尽きない?」
「そうそう。あの魔法がどんなものなのかは誰にも分かんないけど、普通なら乱発すれば魔力切れするもんよ」
「へー。『レギオン』はどんだけ大飯食らいなんだか」
「あの子が言うには『ぶんし?』って言うのの結合を弄るだけだから、大して魔力は要らないらしいわ」
「すごいこと、なんですけどね」
(そっち方面でも天才か)
「へへっ。あの子、甲板部員から大人気よ。先生と違って年配のオヤジたちが可愛がっちゃって。ウチの子にならないかって」
「ははっ。そうですか」
「でもねー。『ボクはホヅミさんの……』の一言で振られてるわ。ヨッ! 色男!」
「はははっ。そーですかー。いやぁ、参ったな」
「真面目な話、夜道には気を付けた方がいい……」
船に夜道があるのか。しかし、地球でも大昔の船では気に入らない士官を夜中に海にレッコ (Let go)するようなのもいたという。
「……なーんて! 冗談よ! さっ。仕事仕事~。はいコレ」
手渡されたのは意味の分からない表が書かれた紙だった。
読める。読めるが、コレに何の意味があるのか。
「マリーさん。何ですか? この表は?」
「それはね、古代文字の対照表だよ。この欄の右に書かれてるのが古代ラクナウ語」
「はあ」
「そっちにまとめて置いてあるのが、所定の保管場所から出ちゃった魔堰。こっちのが水没したやつ」
「ふむ」
「マリーちゃんは水没してたのを転写魔堰で状態確認。ホヅミさんはそれ以外のを保管場所に戻していってちょーだい」
「ほう」
「各々の魔堰には転写紙がタグ付けしてあるから、その名称を対照表使って確認しつつ進めてね。転写紙は古代文字で書かれてるから、慣れるまでは時間かかると思うけどガンバって!」
「わかりました。あの棚に書いてある順に戻せばいいんですよね?」
「そ! よろしくね~!」
表の意味が分かった。同じ文字列が二列に並んでるだけの表の意味が。
(うん。転写紙の記載事項も普通に読める。なんかこれ取説みたいだな)
タグとして使われている転写紙は、その魔堰の名称、用途、性能など、一般的な機械の取扱説明書と同様のものだった。
「マリーさん。終わりました」
「早くない!?」
クリスは伝説級精製魔法の本領を遺憾なく発揮した。
穂積は機関士としての本領をちょこっとだけ発揮した。
「いやぁ~、在庫整理は得意なんですよぉ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる