海の彼方のトティアス 〜船員さん、異世界へゆく。海に沈んだ世界で絆を育み生き抜く、普通の男の物語~

万年ぼんく

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第一章

第六三話 ジョジョ無双

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『ズガァン――ドカンッ――ボカンッ――!』

 曳船の船体が震えている。己れのはらわたを食い破り、引き千切っては投げ、ゴリゴリと突貫するジョジョに、船に宿る自意識が恐怖を覚えているわけではない。単に船体を振動させるほどの衝撃が内部で炸裂しているだけだ。


**********


 結局、重量級戦車ジョジョは上階に上がれなかった。

 もやい綱の破断事故により牽引が失敗に終わった後も、自らの怪力を駆使して脱出を試みた。ロープに吊られてみたり、推進室隔壁に手足を突き刺しながらよじ登ったり、推進魔堰の上に登って飛び上がったり……。

 試行錯誤を重ねるほどに、船殻は破壊され登り難くなっていく。最終的に曳船の推進魔堰はスクラップになり、推進室船尾側は破壊し尽くされ、逆に損害賠償請求をされても文句は言えないくらいの酷い有様になってしまった。

 曳船乗組員の遺体は出入口近くの壁際に安置されている。死者に鞭打つわけにはいかないというジョジョの計らいだった。

「…………海賊がやったことにしまーす! ジョジョさんは、普通に船内の通路を戻ってきてくださーい!」
「しゃあねぇなぁ……。隔壁が腐りかかってるぅ。どんだけドックに入れてねぇんだぁ」

**********

 そんなわけで、さすがのジョジョもイライラしていた。推進室扉を破り、事切れた自称船長じゅげんを床板ごと踏み抜き、船底区画に叩き込む。敷き詰められたバラスト石の上で挽き肉になった海賊を一瞥して歩みを進めた。

 曲がりくねった通路を進むと、所々で封鎖された鉄扉や、資材を山積みにしたバリケードが廊下を塞ぐ。すべて正面からぶち破っていく。

「ひぃやぁあああ――――っ!」

 いくつかの扉を破った先で海賊の残党が槍を突き出してきた。穂先を紙一重で躱し、一足で懐に入り込むと、両手で胴体を掴み持ち上げる。

「ぐひぃっ!」
「…………」

 鼻先に顔を近づけ、じっと目を見る。海賊は必死で槍を振り回し、柄でジョジョの脇腹を滅多打ちにするが、びくともしない。ゆっくりと両手に力を入れて圧迫していく。鯖折りですらない。ただ、手に持って、ゆっくりと潰していくだけ。

「ぐぅ、がが、がっ…………――――っ!」

『ボグッチャッ!』

 海賊は顔面から様々な内容物を噴き出して潰れた。

 ジョジョは進む。複雑な通路に嫌気が差したのか、船首方向に真っ直ぐ、壁を破壊しながら突き進む。見覚えのある廊下に出た。上階へ繋がる階段があるはずだ。

 廊下の先には四人の海賊が待ち構えていた。各々が蛮刀、棍棒、双刀、短弓で武装している。すべての武器が色を帯びて淡く光っていた。強化魔法の適性者が混じっているのだろう。

「死にさらせぇ――っ!」
「アジュメイルの犬がぁ――!」
「しぃやぁああ――っ!」

 近接武器持ちが一斉に襲い掛かってくる。光る刀身は風を纏い、棍棒は炎を吹き上げる。

「死ね……!」

 三人が間合いに入るのに合わせ、一瞬早く短弓の援護射撃。廊下は狭い。矢を回避すれば、いずれかの武器の餌食だ。貧弱な貫通力を補うため、毒矢を使用するのが短弓の常道。掠っただけで致命傷になり得る。

「――――」

 ジョジョは避けようとしない。ただ、歩み止め、片足を軽く上げた。

 海賊がニヤリと笑う。ビクトリア・アジュメイルが来たなら、どうにもならない。発見された瞬間に消炭にされる。だが、ジョン・ジョバンニングの魔法は限定的なものであることを知っていた。集団戦闘に特化したこの四人で掛かれば倒せると踏んだのだ。

 風の刃が、炎の打撃が、毒の一刺しがジョジョを捉えた。

『ドッバガァン――――!!』

 震脚一閃――。

 足元から全周に向かって放たれた衝撃波が、床板の破片が、すべてを一蹴いっしゅうした。ただの足踏みから生まれたカウンターが、三人の屈強な海賊を弾き飛ばす。

「なんだとぉ~っ! 貴様、人間か!?」

 短弓の冷徹な気配は消え失せ、慌ててつがえた毒矢を射掛ける。

「ふんっ!」

 前方にジャンプして矢を回避。スキンヘッドが天井をバキバキ抉りながら前進し、――降り立つ先には倒れた三人の海賊。

『ズシンッ――ブチュン!』

 重量物の下敷きになった真ん中の棍棒は潰れた。左右に横たわる蛮刀と双刀の頭部を片手で掴み上げる。

「「ぎぃ――――――――ッ!!」」

 頭蓋骨を軋ませる全周アイアンクローの激痛に、武器を取り落とし両手で極太の指を持って暴れる二人。

「バケモンがぁ――――!!」

 短弓が毒矢をつがえ構える。即座に放つ。

「ふんっ!」

 蛮刀を振って毒矢を弾く。

「ひっ!」

 また、毒矢が迫る。双刀を横凪ぎにして弾く。

「ひぃやぁあああ――――っ!」

 両手に武器にんげんを構えて迫るジョジョに、短弓は恐慌し狙いも定めずに毒矢を連射する。

「ふんっふんっふんっふんっふんっふんっふんっふんっ!」

 華麗な武器捌きを披露しつつ、すべての矢を叩き落としながらズンズン進んでいく。明後日の方向に飛んだ矢ですら、ご丁寧に武器に当てて止める。やがて短弓の矢が尽きた。

「……………………」

 短弓は放心状態で廊下に立ち尽くす。目の前には腰を屈めて視線を合わせるジョジョの強面。

「ふん――っ!」

 武器にはたかれて仰向けに廊下に転がる短弓。見上げれば、ジョジョが武器を振りかぶっていた。

『ドガッ! ボカッ! グチャ! ボキィ! ゴリュ! プチィ! ガゴッ! グリィ! バァン――!』

 ゆっくりと左右の武器を順番に振るい連打を叩きつける。掃除の行き届いていないホコリだらけの汚い廊下に、三つの武器の沁みが重なる。鬱憤を晴らしながら、海賊のための、海賊を使った始末が付いた。

 その時、階段をそろりと降りて階下を窺う視線が、

「甲板長っ!? こちらにいらっしゃいましたか」
「ん? おぅ。トムじゃねぇかぁ」

 戦闘音に警戒していたトムだが、ジョジョがいる場所に敵が残っているはずがない。足早に近づく。

「甲板長。申し訳ありません。失態を……」
「まぁ、仕方ねぇ。曳船を丸ごと乗っ取ってまで、裏をかいてきた相手だぁ」
「…………船長はどちらに?」
「…………あー。なんだぁ。……寝てるぅ」
「は?」
「奴らは『デッチ島』の出身者で組織された海賊団だぁ」
「な!? そ、それでは…………?」
「リア嬢ちゃんには急所だったぁ。一時はどうなるかと思ったが…………、ホヅミが来たら、安心したのか寝ちまったぁ」
「ホ、ホヅミ君が? 彼は本船に残っていたはずですが?」
「お前さんらの帰りが遅いから、メリッサと一緒に来ちまったらしい」
「メリッサも!? そ、そうですか。まぁ、ここより上の区画はすべて制圧済みです。発見した海賊は皆殺し終わってますし、問題ないでしょう」

 上階からは『モグラ』たちと航海部の面々が次々に降りてきて、ジョジョの元へ駆けてきた。全員が返り血を浴びているが負傷者はいないようだ。

「ウチのはどこだぁ?」
「甲板部も全員来てます。今はオモテからトモまで、虱潰しらみつぶしにして残党を探し回ってます。もの足りないそうです」
「そうかぁ。馬鹿だなぁ……」
「小員も殺り足りません。…………アイツらは先生を――ゼークを!」
「心配すんなぁ。夜には来るぅ」
「夜襲ですか。本船には投光魔堰の備えがありません」
「そうだなぁ。だが、メリッサがいる。あいつは夜目も効くからなぁ。動けさえすりゃ、セーラが接近を許すわけがねぇ」
「了解しました。早急に魔力カートリッジを回収します」
「あー。そりゃあ、もう済んだ。ホヅミたちが確保してるはずだ」
「そうですか……。しかし、どうやって先行したんです?」
「ワシらは本船を盾に推進室で足止めされとったんだが、あいつらは天井の隔壁をぶち抜いて降りてきたぁ。船尾から外板に穴を開けて入ってきたらしい。……マリーも一緒だったぞぉ?」

 トムは啞然として口をパクパクさせている。

「曳船の船主から補償を求められるのでは……? マリーナまで……という事は……小員にも支払いの義務が……貯蓄を切り崩して何とか……。しかし、結婚の資金が……最近は毎晩……もし、子供でも出来ていたら…………。た、隊長。お金貸してください……」

 小声でジョジョに借金のお願い。結婚と育児には金が掛かる。

「推進魔堰もぶっ壊したし、隔壁もぐちゃぐちゃだぁ。魔力カートリッジもいただくとなるとぉ………………破産だなぁ。そして、ワシはもう隊長じゃねぇ……」
「そ、そんな……。マリーナ! なんてことを!」
「ホヅミは全部海賊におっ被せるつもりらしい。大丈夫だろぉ…………たぶん」
「そ、そうですか…………? しかし、そう簡単に納得しないと思いますよ?」
「主犯はホヅミだぁ。ホヅミは一文無しだが、リア嬢ちゃんの婿だぁ。あの、リア嬢ちゃんが大人しく支払いに応じるとは思えん。むしろ、むしり取りに行くに決まっとるぅ」

 推進室の被害はほとんどがジョジョの所業なのだが、そこにはまったく触れない。

「期待しておきます。マリーナと話をしなくては……。始まる前から家計の危機だ! マリーナは今どこに?」
「船尾の大穴で待機しているはずだぁ。だが、トムぅ。その前に仕事があるぅ!」

 曳船乗組員の遺体を推進室から甲板上に出すように指示すると、トムは顔色を変えて、航海部と『モグラ』を引き連れ推進室へ向かって行った。

「あいつも難儀な野郎だぁ。……苦労すんだろぉ」

 『モグラ』の潜水隊長トーマス。ジョジョの親衛隊長時代に部下だった男。後にジョジョに引き抜かれ、一船員としてビクトリア号に乗り組んだ。正体を知るのは船長と職長たちのみである。

「あいつ……、マリーには話したのかぁ? 天井を抜いた一撃は結構な威力だったが……」

 苦労性な元部下を少々心配しながら、船橋に向かって階段を登る。曳船はビクトリア号より少し廊下が広いので、そこだけはいい船だと思いながら、海賊の死体を踏みしめて進んだ。

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