不思議なカレラ

酸化酸素

文字の大きさ
上 下
7 / 218
第二節 えっ?アタシのコトを追っ掛けて…来るワケないわよね?

第7話 策と紹介と反乱と横槍 後編

しおりを挟む
「言ったであろう?ここはわたしの城だと。お前達の攻撃などわたしに届く事は一切無い!!」

 ディグラスの前にある見えない壁。それは王城が展開している絶対防アンチ・アタッ御の壁ク・ウォール
 王城が主を守る為に行っている完全防御特化型の魔術障壁である。


「えぇ♪それでは困りますねぇ。えぇえぇ♬大変に困ります困ってしまいます」

 どこからともなく中性的な声が響いていく。更にその声の主の位置を城が特定出来ていなかった。

ぱりいぃぃぃぃぃん

 マモンとベルゼブブの攻撃をいとも簡単にしのいだ絶対防アンチ・アタッ御の壁ク・ウォールは突然弾けた。
 何が起きたのか分からないまま無残にも粉々になっていった。

 その光景にディグラスの顔には驚愕が浮かんでいた。


「さて♪お2人さん今のうちですよ。さてさて♬ただの見学のハズでしたが、これにて無事に魔王は討伐出来そうですね。さてさてさて♫これでお役御免ですかねぇ」

「い、一体何が起きたというのだ?」
「何故ああも簡単に絶対防アンチ・アタッ御の壁ク・ウォールが破られた?!一体、何をされたのだ?」

「それでは改めて魔王様。今度はちゃんとワタクシ達の攻撃で死んで下さいませ」
「行きなさい!眷属召喚ベルゼビュート!」 / 「くらえぇぇ!強刺突閃マモニューティア!!」

「今は何故と考えている時間はないようだな」
「ならば先に裏切り者を倒さねばなるまい!」
「簡単に殺せると思うなッ!出よ、ハールーンノヴァ!」

 意味の分からない攻撃による絶対防アンチ・アタッ御の壁ク・ウォールの破壊は魔王ディグラスを混乱させていた。
 更には声だけの相手の存在感は驚愕を超えて畏怖を抱かずにはいられなかった。

「これしきの状況、劣勢にもならぬッ!」

きぃんききぃん
しゅばばばばば

 魔王ディグラスは自分の愛剣を召喚した。それは所々で禍々しく又割れした複数の刃で構成された漆黒の片手剣で名前をハールーンノヴァと言う。
 ディグラスは愛剣を手に取り構えると再び特攻してきたマモンの剣技を悠々と跳ね返す。

 魔王ディグラスはマモンの剣を弾いたが今度はベルゼブブの無数の眷属達がディグラスに襲い掛かっていく。
 流石に一振りの剣では無数に襲い掛かってくる眷属達全ての対処は難しかった。因って眷属達は魔王ディグラスの元に辿り着き触れた瞬間に小規模な爆発を起こしていった。

「ぐっ」
「流石に剣1本では分が悪いな。だが威力は小さい」
「これならば大したダメージにはならぬな」
「だが慢心はせぬッ!」

 確かに魔王ディグラスにとって爆発のダメージ自体は大したことが無かった。然しながら立て続けに喰らえばいずれ削りダメージの蓄積で危険な状態になる事は理解していた。

 近距離はマモンの剣技が迫る。距離を取ればベルゼブブの眷属が襲い掛かって来る。
 1対1ならば決して負ける事など考えられない相手達だがショートレンジ近距離からミドルレンジ中距離を1度に相手をするのは流石に骨が折れると言っても過言ではない。


 然しながら魔王ディグラスとて伊達だて粋狂すいきょうで魔王をしている訳では決して無い。
 更に言えば人間界でハンターをしていた際の経験が役に立っていたとも言える。

 拠ってディグラスは一振りの剣だけで相手にするのを潔く止めた。何も1つの武器縛りなんてモノはないしそもそも相手が殺しに掛かっているのに悠長に相手をする必要性すら皆目見当もつかない。
 拠って右手に愛剣ハールーンノヴァ。左手には魔杖ワンドを構え二刀流で2人からの攻撃を捌いていく。


 しかしながらその応酬はお互いに決まり手のないまま続く。
 因って徒らに時ばかりが過ぎていった。


 魔族デモニア故に膨大なオドを湛えているという事実は小競り合い程度の魔術や魔力攻撃には決まり手がない事を指している。
 その事から決着の行方は大魔術の行使が出来ない現状に於いては剣で致命傷を与えるか時間を掛けて体力値VITを削り切るしかない。

 だが一方でマモンの剣の腕は魔王ディグラスより高いとは言えない。そんな二流とも言える腕の為にベルゼブブの援護は必要不可欠だった。
 拠ってそれがあればこそ同等に闘えるのである。


 魔王ディグラスを襲っている2人に焦りが出始めてきていた。
 2人掛かりで闘っているにも拘わらずいつまで経っても有効打も致命傷も与えられず時ばかりが過ぎていく。
 最初の頃はスキを突くことで当たっていた攻撃が次第に当たらなくなっていく。拠ってダメージの蓄積も完全に期待出来なくなっていた。
 完全に2人のジリ貧だった。

 そんな状況は焦りを徐々に募らせる結果となっていく。そして更に事態は急展開を迎えていった。


「ご無事ですかッ、魔王陛下ぁ!」

「ッ!?」 / 「なにッ?!」

 突如として玉座の間に扉が現れそこから雄叫びと共にアスモデウスを始め3人が現れてきた。

 それは2人からしたらそれは寝耳に水であり予期せぬ闖入者ちんにゅうしゃだった。

 闖入者の登場は徐々に募らせていた焦りを激しい動揺に変えて奔らせていく。

 アスモデウスは魔王ディグラスと闘っている2人を見付けると細剣を両手にそれぞれ持ち雄叫びを上げながら勢い良く向かっていった。


 アスモデウスは先ずはマモンに斬りかかっていた。そしてその剣撃は身体に動揺を奔らせていたマモンをしっかりと捉えていた。
 だがそれはマモンを斬り捨てる事なく空中でその動きを停止させられていた。

 その光景に驚いたのは他ならぬマモンである。一方でアスモデウスの表情には明らかな苦悶が浮かんでいた。


「おや♩いい勝負でしたのに、横槍は感心しませんねぇ。おやおや♪横槍じゃなくて剣でしたね。あははは。おやおやおや♫いいとこなので邪魔をしないでもらえますかねぇ」

「ぬっ。ぐぬぬッ。い、一体な、何を…した?」

「おや♩見えませんか?おやおや♫見えないんですかね?おやおやおやまぁまぁ♪仕方がありませんねぇ」

 姿が見えないモノからの声が響き渡るとアスモデウスの剣や身体に巻き付いている光の帯が現れていった。

 光の帯の先には1人の男がいた。
 髪は銀色で短く背は低め。目はエメラルド色の虹彩を持つ三白眼。その佇まいは魔族とは言えないどこか変な感じがしている。
 だが一方でヒト種にも見えなかった。

 巻き付いていた光の帯は静かにしなるとアスモデウスを宙に持ち上げてマモンの側から引き剥がしそのままアスモデウスを玉座の間の壁へと叩きつけていく。


「ぐはぁッ」

「あははははは。それッ♫それそれぇッ♬」

「ぐはッ」

「おや♫意外としぶといですねぇ。おやおや♪まだまだイケますかねぇ?」

「お父様ッ!」

「まぁ♩娘さんが呼んでますよ?まぁまぁ♪手を振ってあげないんですか?悲しんでますよ?」

「くそっタレ」

 銀髪の男は高々と嘲笑いながらアスモデウスを振り回し縦横無尽に傍若無人に壁に床にとアスモデウスを叩き付けていく。

 その光景を見ていたルミネから出た声は悲痛な叫びになっていた。


 その時、風が動いた。
 動いた風はアスモデウスを捕らえている光の帯を両断し返す刃で銀髪の男に斬り掛かっていく。しかし銀髪の男を狙った斬撃は空だけを薙いでいた。



「またアンタなの?こんな所でもアンタには会いたくなかったわ」

「おやまぁ♪同感ですね。おやおやまぁまぁ♬ワタクシもアナタには会いたくありませんでしたよッ。ふぅ」

「へぇ、気が合うなんてシャクに触ってシャク過ぎるから、とっとと出てってもらえるかしら?」

「まぁ♩本当に気が合いますね?まぁまぁ♬ワタクシも全く同じ事を考えておりましたよ!おやおやまぁまぁ♩」

 銀髪の男は少女に向かって幾重にも光の帯を放っていく。それは逃げ場がない程までに目の細かい網の様だった。


「貫け!流星闇弾シューティングスターッ!!」
「不意打ちとは言え、よくもやってくれたな。この借りは倍、さらにその倍返しでも済まんさんぞ。貴様の命で、あがなってもらおう!」

「おぉ♫威勢が素晴らしいです!おぉおぉ♬娘さんの前で格好をつけたいのですね?今日は保護者の大運動会ですね!!おやまぁ♫」

「ほざけッ!!穿て!流星闇弾シューティングスターッ!」
「ルミネよ、銀髪の男はおれる。お前はあの娘と共に魔王陛下の元に早く行けッ!」

 少女に向かっていた光の帯をアスモデウスは叩き落としそのまま銀髪の男へと向かっていく。その間にも弾幕の様に魔術を放っていく。
 更には魔術を放った後で次から次へとアスモデウスは周囲に魔力弾を展開したまま固定していく。
 特攻を仕掛けていくアスモデウスのその姿は勇ましいが安い挑発に乗り額にいくつも青筋を浮かべ口を「への字」にしながらだったのがルミネはとても残念だった。


 ルミネはアスモデウスの言う通りに少女の元へと短距離の転移を行う。更にはそのまま少女を連れて今度はディグラスの側まで再度短距離転移を行った。


「とくと味わい喰らえ、流星闇弾シューティングスター!」

 アスモデウスの周囲に展開されていた魔力弾は魔術用の弾丸のストックだ。
 拠って銀髪の男の周囲に誰もいなくなった事からアスモデウスはストックを全て解放し一斉射した。
しおりを挟む

処理中です...