不思議なカレラ

酸化酸素

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第三節 えっ?アタシ、ケンカ売られちゃったけど?

第17話 ハロルドと御前試合と決着と褒賞 前編

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「ふぅ、かんいっぱぁつッ!」

「だ、大丈夫ですか、師匠?」

「大丈夫よ!ちゃんと無事よ。いやぁ、いずれ出来るようになるとは思ってたけど、こんな短期間で破竜の型を撃てるようになるとわね!やるじゃない、ハロルド!」

 ハロルドは純粋に驚いていた。自分が今まで成功しなかった破竜の型を放つ事が出来たのもさる事ながら、それ以前に少女が使った破竜の型を打ち消した防御光の円環に対して驚いていた。


 そして少女もまた、ハロルド同様に純粋に驚いていた。

 ハロルドが今まで成功しなかったのは「余裕がなかったからだ」と考えていた。
 それと同じように自分に対してのも少女は気に掛けていた。

 だから少女が教えた「型」を扱える様になった事で自信が付いたと感じていた。今まで一方的にやられていた自分から、格上の少女とと思わせる為に少女は
 要はプラシーボ効果と言うヤツだ。まぁ、それはウソかもしれないが。

 だがその結果、ハロルドに付いた自信は成長した。

 上手くいっていたと言える。しかし、その程度で扱える様になるほど破竜の型は

 だから今度は打ち合いの最中にハロルドから余裕が出るのを待った。

 だが、ハロルドは焦りからか全く余裕が出なかったのである。それは何事にも必死に取り組むハロルドのが悪さをしていたと言えるかもしれない。

 拠って、今回の実戦はとしか言いようがなかった。だがそのの結果、ハロルドが御前試合で戦えなくなっては意味がない。

 拠って少女は自身の放った破竜の型がハロルドに当たらない様にする為にワザと力を抜いて放っていた。


 もし仮に当たったとしても、「御前試合に臨むハロルドにダメージが残らないように」と考えた上での行動だった。然しながら、ハロルドは今まで成功しなかった破竜の型を

 それ故に少女は純粋に驚いたのだ。


「ワザと手を抜いてくれてたんですね!ありがとうございます師匠!おかげで「破竜の型」をなんとか放つことが出来ました!」
「ところで、自分の放った型から師匠を守ったあれってなんですか?魔術ですか?」

「あぁそっか、こっちの世界だとデバイスは無いから知らないんだっけ?」


 デバイス。それについての詳しい背景はここでは述べない。
 だから「人間界に於いて科学技術と魔術が融合した結果生まれた、「魔導工学」によって生み出された魔導機械の1種である」とだけ説明をしておく。


 手にめる「ガントレット」と、頭に着ける「バイザー」の2つを指し示して「デバイス」と呼ばれている。ガントレットの大きな役割は2つ。「オン」と「オープン」である。

 「オン」はガントレットへの指示命令を指し、デバイスにインストールされているガントレット用ソフトウェアを起動させる言葉である。

 今回はシールドのソフトウェアを起動させた事によりハロルドの放った型から守る事が出来たというワケだった。

 ちなみに「オープン」はガントレット内に収納されているアイテムを取り出す時に用いられる指示命令である。
 余談ながらこの機能は対銀髪の男戦で用いられていた。


 少女はざっとハロルドに説明していく。だがその説明にハロルドは感嘆の声を上げていたが、恐らく理解は出来ていない様子だった。


「そうだ、ずっと聞きそびれてたけどハロルドはなんで強くなりたいの?」

「実は…」

 少女は少女なりの答えをもっていた。拠ってをするつもりだった。
 しかし少女は、ハロルドから紡がれたカミングアウトに耳を疑うしかなかった。


 ハロルドは魔族デモニアでありながら身体の内に秘めるオドが非常に少ないのだそうだ。無論、マナを練るのも得意でもない。むしろ、下手を通り越してほぼほぼ無理だったらしい。
 故に、魔術が使えないという結論だった。


「魔術が使えない魔族デモニアは、魔族デモニアですらない」

 そんな風潮ふうちょうが根強く残っているこの世界で、ハロルドは親から見捨てられた。
 拠って幼くしてルネサージュ家に半ば奴隷のような形で奉公に出されていた。


 然しながらこの国が採用している徴兵制によって、奉公人だったハロルドはその基準を満たした事から、軍属となる事が出来た。

 だが一方で徴兵の期間が終われば再び奴隷扱いの様な奉公人に戻ってしまう為に、軍功を上げ徴兵期間満了後も軍に残れる様に必死だったのだ。


 ハロルドが語ったカミングアウトに少女の心は揺れた。胸に熱い何かが込上げてくるのが分かった。
 だがしかしハロルドは

 拠ってに不満を持った少女は少しだけ揶揄からかう事にしたのである。


「アナタが強くなりたい理由はそれだけ?」

「えっ!?し、師匠、そそそそれは一体、ななな何を言っているのす?」

にやり

「ふっふーん。ビンゴぉ。じゃあ聞かせてもらうわね?」
「なんで、「ルミネの為に強くなりたい」って言わなかったの?アナタ、ルミネに気があるでしょ?いや違うわね。惚れてるでしょ?」

ぼふぅッ

 その少女の誘導尋問にハロルドは激しく動揺していた。
 ハロルドの目はあからさまに泳いでいる。

 拠って少女の表情は、ニヤニヤするのを止めないどころか止める気もない様子で悪っるい顔をしていた。

 一方でハロルドは心に秘めている仄かな恋心を見透かされ、頭がショートしていた。
 顔を紅くしなからになりつつ、ドモりながら言葉を返すのが精一杯だった。

「ななな、なんでその事を?どどど、どうしてそんな風に思ったのですか師匠?!」
「るるるルミネ様は、おおおおお館様のご息女で、たたたたかが奉公人の小生じぶんとは月とすっすっすっ、くらいに…」

ぼふぅッ

「ねぇ、ハロルド?まずは落ち着こう?言葉がおかしいわ。になってるわよ?」
「それとも、ハロルドはルミネのすっぽんぽんに興味があるのかな?にひひ」

ぼふんッ

「し、師匠!!そんなコト!!失敬です不敬ですッ!はしたないです!!卑猥ですッ!!」

「はっは~ん、ハロルドもちゃんとした男のコなのね」

「師匠ッ!!」

「で、ルミネのコトがそんなに好きなハロルド君。強くなりたい理由はやっぱりそれなんでしょ?」

 ハロルドは揶揄われた結果、もうどうしようも無いくらいにだった。

 それは人間界であれば通報されそうな位に挙動不審だ。そして何よりも、素直なハロルドは「攻撃の筋」同様に


「アタシとルミネが塔の上で友達になった時、2つの視線を感じてたの。アタシ達の事を見てる人がいるなぁって。1人はアスモデウスさんだった。でも、あと1人は分からなかったわ」
「まぁ、そもそもこの城にいる人達の顔も名前もサッパリ分からないんだけどね。あはは」

「でも、この城を散策してる時に気付いたアナタの視線。よくよく考えた時に、あの塔の上で感じたものと一緒だなって思ったのよ。だから、塔の上のアタシ達を見ていたのはアナタ!!その通りでしょ?」

こくんッ

「この家に奉公に来たばかりの時の事です。小生じぶんは右も左も分からず仕事も覚える事がたくさんあってテンパった挙句、トンチンカンな事をして怒られてばかりいました」
「それでも必死に仕事をしていたんですが…ある時、色々な事が溜まりに溜まってあの塔の上で1人で泣いてたんです」

「なんか、ハロルドらしいわね」

「あはは。今思うとかなり恥ずかしいですけど、1人で泣きながら空に向かって喋っていたんです」
「どれだけの時間、泣きながら喋ってたかは分からないけど気付いたら、ルミネ様が隣りに座ってて小生じぶんの独り言を聞きながら相槌あいづちを打ってくれていました」
「その事にようやく気付いて、恥ずかしくなって喋るのを止めたら、「お空に向かってお話しするなら、わたくしが聞いてあげます」って、言ってくれたんです」

「へぇ、あのルミネがねぇ。なんか想像出来ないなぁ。でも、なんか可愛いわね」

「それからあの塔の上にいると、ルミネ様がちょくちょく現れて話し相手になってくれました。そんなに長い期間は続かなかったですけどね。お嬢様と奉公人ですから。結局見付かって2人でお館様に怒られました」

「そっか、幼い頃から募りに募った恋心だったのねぇ。うんうん、分かるわぁ」

「それからは何年もルミネ様と話しをした事はないんですけど、あの時の事がいつまで経っても忘れられなくて」
「不安と絶望しかない中で光を示してくれたのはルミネ様だった。だから恩返しの為にも、ルミネ様の横に立てる様な男になりたい!強くなりたい!って考えたんです!」

ぽんぽん

「師匠?」

「ハロルドいい顔になってるじゃないッ!そんな凛々しくしてたらルミネもきっとハロルドを見てくれるわよッ!」

ぼふぅッ

「まっ、でもそれじゃあルミネに認めてもらう前に、アスモデウスさんに認めて貰わないとね!その為には明日の頑張って勝たないとだねッ!」
「あっ!?しまっ!」

 少女はハロルドに対して応援のつもりで言の葉を紡いだ。しかし口から漏れた言葉も紡いだ言葉も回収するコトなんて出来やしない。

 だがそれはもう「時既に遅し」であったとしか言い様が無い。
 何故なら少女は、ジェルヴァとの闘いの詳細をハロルドには伝えていなかったのだ。
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