不思議なカレラ

酸化酸素

文字の大きさ
上 下
33 / 218
第五節 えっ?アタシ王都のコトは構えないわよ?

第33話 闖入者と謎と精霊石と魔弾 中編その壱

しおりを挟む
「切り裂け、レーヴァテイン勝利の剣!」

「ッ?!」

 その言葉と共に少女は狙撃された。バイザーから突如としてアラームが鳴り響いた為に少女は身をよじるように急遽、回転運動に拠る緊急回避を行った。

 その甲斐かいもあって少女の目と鼻の先をかすめるように何かが頭上から大地に向けて墜ちていく。
 それが突き刺さった大地は轟音を上げて抉られ削り取られていた。


 少女は自身を攻撃してきた者の方を向き、そして見た。
 半身を焼けただれさせ、怒りの炎をその身にまとい、憤怒ふんぬの形相でこちらを睨み付けている銀髪の男の姿を。


「1度ならず2度までも、このワタクシに傷を付けたばかりか、ワタクシの子供までをもその手に掛けるとはぁ゛ぁ゛。あ゛あ゛?覚悟は出来てるんだろうなあ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ニンゲン!」

「ッ?!生きて…た?」

 銀髪の男は語気を強め怒気どきを吐き散らし、身体を小刻みに震わせている。前から見た事のある銀髪の男とは明らかに違う何か異質なモノだ。

 銀髪の男はその身に炎を纏うと、纏ったその業火を撒き散らしながら急激に巨大化していく。銀色の髪は燃え上がるような真紅に染まり、エメラルドの瞳は金色に輝いていく。


 それを境に周辺の温度は急激に上昇していった。少女は肺がけるような感じがしていた。そして急速に息が苦しくなる。
 だがしかし少女は目をらすことも逃げ出す事もしなかった。
 そんな事が出来るハズもなかった。


「ここで消えろ、ニンゲンンンンンン!穿うがて切り裂け、全てを焼き尽くせ、レーヴァテイン勝利の剣!」

「今までのアイツじゃない?!一体どうなってるの?それに……」

 10mほどにまで巨大化した銀髪の男が、手を頭上に上げ一気に振り下ろしていく。

 振り下ろした手の軌道上には次々と、禍々まがまがしい色をしたほのおたたえた剣が、切っ先を少女に向けたまま虚空に顕現けんげんしていた。

 それらの焔の剣レーヴァテインは一斉に少女目掛けて飛来強襲した。


「ちょっ、ヤバっ!」
「あれって、まさかッ!概念ファンタスマ能力ゴリアスキル…なの?」

 少女は焦っていた。しかし焦っていながらも頭の中は冷静だった。
 アラームは先程から鳴り響いている。いや、むしろとしか表現出来ない。


 それが指し示している事柄それは即ち、これらの焔の剣レーヴァテインが容赦ない程の「脅威」である事に間違いが無いからだ。

 だが流石にうるさくて集中力を削がれる為に少女はアラームを切る事にした。機械的で無機質な音は気にならない時はどうでもいいが、極端なのはいけない。
 気にし過ぎると気が逸れるコトになる、だから切った上で集中。
 少女の頭の中の思考回路は急ピッチ急加速でフル回転し打開策を探し出していく。


「デバイスオープン、精霊石スカディ。我が剣よその身に力を宿せ!」
「行くわ…よッ!!」
「相手が焔の巨人なら、この手しか無いでしょ!凍刃征製ダイヤモンドダスト!」

 少女はルミネに貰った水の上位精霊石を自身の愛剣に宿していく。宿った力は愛剣の刃に纏わり付くと周囲に氷の刃を生み出していった。

 更に少女は自身のオドを精霊石の宿った剣に上乗せし、且つ剣は周囲のマナを吸い上げる事で更に威力は強化されていく。

 「凍刃の氷結晶」に触れた焔の剣は次々に水蒸気爆発を起こし周囲一面には水蒸気の深い霧が立ち込めていく。
 一瞬で視界は一気に悪くなっていった。

 だが一方で凍刃征製ダイヤモンドダストを展開している以上、立ち込めた霧は再び氷の刃へと戻っていく。
 付け加えると凍刃は元からあるのだ。拠って凍刃が霧散すればする程に付近一帯の水蒸気量は更に増え、それに拠って凍刃の精製量は増えていく。

 それらの凍刃は繰り返し繰り返し焔の巨人に向かっていくというループの中にある。
 精霊石、オド、マナ、それのいずれかが消失するまで続く無限ループだった。

 これが現象物質の違いによる大きな差だ。


 焔の巨人も負けじと次から次へと焔の剣レーヴァテインを放っていく。焔の剣レーヴァテインと比べると凍刃の氷結晶単体の持つその威力は小さい。
 だが消滅しても再精製され無数に増え続ける氷の刃と、更には凍刃征製ダイヤモンドダストの影響下で急低下した気温に因って、焔の剣レーヴァテインは徐々に押され始めていた。


 焔の巨人はその状況に対して抗うように、更に焔の剣レーヴァテインを増やして顕現させていく。しかし顕現させればさせる程に、凍刃の氷結晶はその数を増して向かっていった。

 焔の巨人にとって負のスパイラルと言える状態が繰り広げられていったのだ。


「バースト!凍刃征製ダイヤモンドダスト絶対零度アブソリュートゼロ!」

ぱきんッ

 少女の声が周囲に木霊し響き渡っていく。

 少女の放ったその言葉に因って周辺の全てから一瞬にして熱量が奪われまたたく間に凍り付いていった。大気も大地も少女の半径100m以内にある物全てが凍った。
 それは荒廃した赤茶けた大地に咲いた白銀のバラの様だった。



 精霊石を使った攻撃手段は幾つかある。

・自身のオドを呼び水にして一瞬の内に爆発的な力を引き出す方法。→属性魔術(威力最大)の発動。
・武器に付加し効果を付与する方法。→属性武具の作成。
・武器やデバイスに宿して力を得る方法。→属性魔術(威力小)の発動。

 然しながら武器に付与する場合にも宿す場合にも予め精霊石用のスロットが必要になる。更に武器に宿した時はその武器が持つ属性効果があれば属性が反しない限りプラスアルファとしてそれも付加される事になる。
 逆にデバイスに宿した場合にはデバイス自体に属性効果は無い為にプラスアルファの恩恵は得られない。

 どちらにせよ付加するより宿す事で精霊石の力を最大限引き出す事が出来るのだ。
 闘いの中に於いては宿して力を引き出す方法が一般的な使用方法とされるが、その場合は精霊石の持つ力を使い切った段階で効果は終了となる。


 逆に精霊石内にまだ力が残っている場合は「バースト」させる事が出来る。その場合は精霊石に残っている力を全て解放し、1回限りの強力な一撃を行使する事が出来るようになる。
 その威力や効果範囲は力の残り具合に左右される。

 拠って今回少女はスカディの精霊石の中に残っていた力を最後にバーストさせた。
 その結果、消耗戦闘から一気殲滅の「絶対零度アブソリュートゼロ」を繰り出す事が出来たのだ。


「ど、どうだ、これで」
「でも、このままじゃ、アタシも凍るわね。さ、寒い」

 少女の口から漏れる息が白い。少女の周辺は完全に凍り一面の銀世界だ。

 絶対零度アブソリュートゼロに因って周囲は完全に凍り付かせた。大気も大地も、焔の巨人や巨人が作り出した剣すらも凍っている。

 然しながらこのままでは
 今はまだ咄嗟に張ったシールドメイデンの効果で辛うじて耐えられているがこのまま-273.15℃絶対零度に暴露され続ければ凍死は免れない。

 、凍る前にしなければならない事があった。


「デバイスオープン、精霊石ドリュアス、精霊石アウラ。我が剣よその身に力を宿せ!」

 2つの精霊石はその内に秘める力を親和させ混ざり合いながら剣へと力を宿していく。そして精霊石の力が宿った愛剣を握り締めた少女は最初からバーストさせた。


「バースト!生死創生リグナムバイタ=世界神樹ユグドラシル!」

 少女に拠って放たれた言の葉は力を帯びていく。そして生み出されたモノは1粒の「種」だった。
 少女の放った「種」は凍った大地へと根を下ろした。
 種は大地に根付くや否や、葉を茂らせ枝を伸ばし樹高を上げ急速に成長していく。

 急速に成長した周辺にあるを盛大に巻き込んでいった。たった1粒の「種」だったそれは、それら全てのモノを貪欲に糧として栄誉として取り込んで更なる成長を遂げていく。

 結果、ものの数秒で天をく様な大樹となった。


世界終焉ワールズ・エンド

ぱっキィィィィィン

「はぁ、はぁ、はぁ…。どうよ?これでアタシの勝ち…よね」

 少女は結びの言葉を紡いだ。それによって少女が生み落した種から芽吹いた大樹は全て消滅した。

 大樹が飲み込んだ全てをそのことごとくを消滅させたのだ。故に焔の巨人も焔の剣レーヴァテインも大樹が根を張った大地すらも。
 更には、-273.15℃絶対零度を生み出したスカディの精霊石の残滓も含めて、その悉くを一切合切全て纏めて消滅させた。


 後には削り取られた大地と少女のみが残った。少女は全てを消し去った後で、索敵も早々にこの場を切り上げる事にした。
しおりを挟む

処理中です...