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第五節 えっ?アタシ王都のコトは構えないわよ?
第36話 闖入者と謎と精霊石と魔弾 後編その弐
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銀髪の男の身の内で破裂した場所は6箇所。20数発の連射でそれだけ当たっていた。
銀髪の男が手にしている尖槍は流石に破裂こそしなかったが、「因果律」の影響下にあれば耐久性くらいは落ちているハズだと少女は直感していた。
「オドが無いから油断せずに、接近戦で仕留めようとした事が裏目に出ましたねぇ…。まさか因果律を変更させられようとは。まったく、厄介な弾を持ってますねぇ」
「やっぱり休息してた方が良かったんじゃないの?」
銀髪の男の顔には苦悶の表情が浮かんでいる。額には汗が浮かんでおりいつもの変な口調から変わっているあたり、ダメージを負ったのは明白だった。
余裕がなくなると口調が変化するシステムなのだろうか。
「仕方がありませんねぇ、こうなったら全身全霊を込めて一撃で仕留めて差し上げましょう!ちまちまといたぶろうと思ってましたがやめです、やめですッ!」
「行きますよ?苦しみぬいて死んでって下さいね?」
「貫き穿て偽征神槍!」
銀髪の男は少女と距離を取ると、その手に持っている尖槍を上空に向かって放り投げた。
「どこに向かって投げ……てッ、えっ!」
「偽征新槍!?って言ったの!?」
少女は銀髪の男が放ったその名称に純粋に驚いていた。何故ならばその名は北欧の主神が持つ槍と同じ名だからである。
然しながらその槍が本物であるとするならば標的に「必ず当たる」事を指し示している。
その槍が本物であるならば例え空に放り投げられようとも…当たる。
海に投げ込まれようとも…命中する。
大地に突き刺すように投げられようとも…必中する。
一度狙われたらその標的に「必ず当たる」槍なのだ。
その槍は先程少女が使った「破裂の魔弾」と同じく、「因果律」に関与する類の槍だからだ。その「因果律」への干渉度合いは「破裂の魔弾」の比ではない程の精度を誇る。
その為に避けようが躱そうが、それこそ逃げようが転移しようが、狙われれば「必ず当たる」事を前提に向かって来るので「当てられる」以外の選択肢はないのだ。
少女は咄嗟に行動した。それこそ考えるより先ず行動だった。
偽征神槍が因果律を修正し終えて目の前に現れる前に動かなければ完全に後手に回る。いや、もう既に投げられた段階で後手に回っていると言えなくもない。
「ちっ、やられたわ。まったくとんでもない概念能力を持ってたモンだわ」
「どんな事したって必中の因果律を持つ槍に回避は全く以って意味がないじゃないっ。それこそ「矛盾」の再現をここでする余裕もないし……」
故に少女は取っておきの秘策とも言える手に縋り、賭けとも言える方法を実行する事にした。
成功するかどうかは神のみぞ知るが、目の前にいる銀髪の男も神族だと思われる事から神にすら知られては困るのだが…。
「とっておきの力だったけど、出し惜しみはもうダメね」
「デバイスオープン、ベルゼブブの魔石。我が剣よその力をその身に宿せ」
初めて使う魔石の感覚に…。
その反動に…。
その細い腕は…。
その華奢なその脚は…。
その小さな身体は…。
その明晰な頭脳を有する頭は…。
その可愛らしいその大きな目は…。
そして意識は…。
全てが作り替えられるかの様な錯覚に囚われていった。
更には少女の身体にベルゼブブの魂が剣を伝わり宿っていく。
少女はほぼほぼ失っていたオドをベルゼブブから奪う形で回復させ、そして気付けば魔族化していた。
その一連の流れに絶句し肝を冷やす事になったのは、銀髪の男では無く少女の方だ。
「えっ?!」
「アタシの中にベルゼブブの意識が…ある!?」
魔族化した少女の視界はベルゼブブの視界と同等となっていた。更にはその視界から死角と呼ばれるモノが全て消えていた。
そして少女の脳裏に言葉が響いていく。
「よもや、私を屠った仇敵を助けるべく、この力を使わねばならんとわな…。だがまぁそれも構わぬ。強き者に従うのが魔族の宿命だからな」
「ヒト種の娘よ。我が力、見事使いこなしてみせよ!さすれば、仇敵とはいえ、魂の盟約に従い、汝の力となろう!」
ベルゼブブの意識は一方的に少女に伝えると消えていった。
少女は心の中で「分かったわ」とベルゼブブに応えると銀髪の男を見据えていく。
「変身…ですか?まったく、アナタは意味が分かりませんねぇ。ヒト種でありながら、魔族の力まで使えるとは。そう言えば、アノ時は……」
「まぁでも、アナタの生命はここまでです。偽征神槍に貫かれなさい。ワタクシと同じ様に腹に大穴を開けて上げましょう!」
銀髪の男は身体の至る所から血を垂れ流し苦悶の表情を浮かべながらも強気に言の葉を紡いでいく。それが指し示している事は、それほどまでに偽征神槍の力を信じているらしいという事だ。
「アタシはアンタとお揃いになるのは好みじゃないわ。せめてアンタがアタシ好みの男だったら良かったんだけどね?口だけの男は嫌いよ、「ロキ」!」
少女は「ロキ」に向かって言の葉を投げていく。その言の葉を受けた銀髪の男の表情からは余裕が既に無くなっていた。
更には苦悶が色濃くなりオマケに驚愕が入り混じっていた。
「ワ、ワタクシの…名前を…オマエ如きが口に…するなッ!行け、偽征神槍!そして、逝け、ニンゲンッ!」
様々な感情をその表情に纏わせた「ロキ」から放たれた言葉に呼応した偽征神槍は、少女の前に姿を現していた。
「速いッ?!でも、やれる!出来るッ!!」
「我が内に在りし暴食の力よ。その力の一翼を持ちて、全ての事象を喰らい尽くせ!暴食召喚・悪食暴風!」
少女は1点に集中させた力を偽征神槍目掛けて奔らせていく。
その指先から現れた一条の螺旋は、偽征神槍を飲み込もうとして襲い掛かっていった。
「これで、どうだぁぁぁぁッ!」
「アタシはアンタなんかに負けてられないのよッ!!」
銀髪の男が手にしている尖槍は流石に破裂こそしなかったが、「因果律」の影響下にあれば耐久性くらいは落ちているハズだと少女は直感していた。
「オドが無いから油断せずに、接近戦で仕留めようとした事が裏目に出ましたねぇ…。まさか因果律を変更させられようとは。まったく、厄介な弾を持ってますねぇ」
「やっぱり休息してた方が良かったんじゃないの?」
銀髪の男の顔には苦悶の表情が浮かんでいる。額には汗が浮かんでおりいつもの変な口調から変わっているあたり、ダメージを負ったのは明白だった。
余裕がなくなると口調が変化するシステムなのだろうか。
「仕方がありませんねぇ、こうなったら全身全霊を込めて一撃で仕留めて差し上げましょう!ちまちまといたぶろうと思ってましたがやめです、やめですッ!」
「行きますよ?苦しみぬいて死んでって下さいね?」
「貫き穿て偽征神槍!」
銀髪の男は少女と距離を取ると、その手に持っている尖槍を上空に向かって放り投げた。
「どこに向かって投げ……てッ、えっ!」
「偽征新槍!?って言ったの!?」
少女は銀髪の男が放ったその名称に純粋に驚いていた。何故ならばその名は北欧の主神が持つ槍と同じ名だからである。
然しながらその槍が本物であるとするならば標的に「必ず当たる」事を指し示している。
その槍が本物であるならば例え空に放り投げられようとも…当たる。
海に投げ込まれようとも…命中する。
大地に突き刺すように投げられようとも…必中する。
一度狙われたらその標的に「必ず当たる」槍なのだ。
その槍は先程少女が使った「破裂の魔弾」と同じく、「因果律」に関与する類の槍だからだ。その「因果律」への干渉度合いは「破裂の魔弾」の比ではない程の精度を誇る。
その為に避けようが躱そうが、それこそ逃げようが転移しようが、狙われれば「必ず当たる」事を前提に向かって来るので「当てられる」以外の選択肢はないのだ。
少女は咄嗟に行動した。それこそ考えるより先ず行動だった。
偽征神槍が因果律を修正し終えて目の前に現れる前に動かなければ完全に後手に回る。いや、もう既に投げられた段階で後手に回っていると言えなくもない。
「ちっ、やられたわ。まったくとんでもない概念能力を持ってたモンだわ」
「どんな事したって必中の因果律を持つ槍に回避は全く以って意味がないじゃないっ。それこそ「矛盾」の再現をここでする余裕もないし……」
故に少女は取っておきの秘策とも言える手に縋り、賭けとも言える方法を実行する事にした。
成功するかどうかは神のみぞ知るが、目の前にいる銀髪の男も神族だと思われる事から神にすら知られては困るのだが…。
「とっておきの力だったけど、出し惜しみはもうダメね」
「デバイスオープン、ベルゼブブの魔石。我が剣よその力をその身に宿せ」
初めて使う魔石の感覚に…。
その反動に…。
その細い腕は…。
その華奢なその脚は…。
その小さな身体は…。
その明晰な頭脳を有する頭は…。
その可愛らしいその大きな目は…。
そして意識は…。
全てが作り替えられるかの様な錯覚に囚われていった。
更には少女の身体にベルゼブブの魂が剣を伝わり宿っていく。
少女はほぼほぼ失っていたオドをベルゼブブから奪う形で回復させ、そして気付けば魔族化していた。
その一連の流れに絶句し肝を冷やす事になったのは、銀髪の男では無く少女の方だ。
「えっ?!」
「アタシの中にベルゼブブの意識が…ある!?」
魔族化した少女の視界はベルゼブブの視界と同等となっていた。更にはその視界から死角と呼ばれるモノが全て消えていた。
そして少女の脳裏に言葉が響いていく。
「よもや、私を屠った仇敵を助けるべく、この力を使わねばならんとわな…。だがまぁそれも構わぬ。強き者に従うのが魔族の宿命だからな」
「ヒト種の娘よ。我が力、見事使いこなしてみせよ!さすれば、仇敵とはいえ、魂の盟約に従い、汝の力となろう!」
ベルゼブブの意識は一方的に少女に伝えると消えていった。
少女は心の中で「分かったわ」とベルゼブブに応えると銀髪の男を見据えていく。
「変身…ですか?まったく、アナタは意味が分かりませんねぇ。ヒト種でありながら、魔族の力まで使えるとは。そう言えば、アノ時は……」
「まぁでも、アナタの生命はここまでです。偽征神槍に貫かれなさい。ワタクシと同じ様に腹に大穴を開けて上げましょう!」
銀髪の男は身体の至る所から血を垂れ流し苦悶の表情を浮かべながらも強気に言の葉を紡いでいく。それが指し示している事は、それほどまでに偽征神槍の力を信じているらしいという事だ。
「アタシはアンタとお揃いになるのは好みじゃないわ。せめてアンタがアタシ好みの男だったら良かったんだけどね?口だけの男は嫌いよ、「ロキ」!」
少女は「ロキ」に向かって言の葉を投げていく。その言の葉を受けた銀髪の男の表情からは余裕が既に無くなっていた。
更には苦悶が色濃くなりオマケに驚愕が入り混じっていた。
「ワ、ワタクシの…名前を…オマエ如きが口に…するなッ!行け、偽征神槍!そして、逝け、ニンゲンッ!」
様々な感情をその表情に纏わせた「ロキ」から放たれた言葉に呼応した偽征神槍は、少女の前に姿を現していた。
「速いッ?!でも、やれる!出来るッ!!」
「我が内に在りし暴食の力よ。その力の一翼を持ちて、全ての事象を喰らい尽くせ!暴食召喚・悪食暴風!」
少女は1点に集中させた力を偽征神槍目掛けて奔らせていく。
その指先から現れた一条の螺旋は、偽征神槍を飲み込もうとして襲い掛かっていった。
「これで、どうだぁぁぁぁッ!」
「アタシはアンタなんかに負けてられないのよッ!!」
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