149 / 218
第四節 The Finisher Take
第148話 World Barretter Ⅰ
しおりを挟む
少女は唐突に鳴った着信音で、夢の世界から強制的に現実世界に戻されつつあった。そして、相変わらずの生憎ながら、どんな夢だったかは覚えていない。
「ふぁい、まだおねむでふ。あと5分寝かせてくらはい……おやふみなさい……Zzz」
「寝ボケてるんでないよッ!緊急事態だッ!とっとと起きな!」
がばっ
「緊急事態!?一体何事?」
「ちゃあんと目覚めたかい?」
「あ、うん。それで緊急事態って?」
「龍種の群れが神奈川国に向かって来ている。そっちからは確認出来ないかい?」
「っ!?龍種の群れ?とか言っちゃって、二足翼竜種じゃないんだから。けらけら。龍種の群れだなんてあんまり聞かないわよ?どうせ数匹くらいでしょ?」
「そんなんで緊急事態だなんて言うかーーーーーッ!ふしゅう」
「えっ?いつもの冗談じゃないの?ホント?マジなの?」
「あぁ、マジもマジ、大マジだよ、まったくッ!それで今、ワダツミはどこを飛んでる?」
「今は房総沖よ。その群れはどこから来てるの?」
「群れはアクスターリ市の沖合で発見された。数は200を超えている。向かっている方向は間違いなくアニべ市だ」
「う、嘘……。龍種の群れが200ぅ?!」
それは寝ボケていた少女への会心の一撃だった。ただでさえ強敵と言われ、1匹でもAランクハンターが苦戦する龍種が、200匹を超える数で首都アニべ市に向かっていると言われたら会心の一撃と言わずして何と言えるのだろう。
しかも、その群れはよりにもよって神奈川国の南から来ているという。せめて南以外であれば近隣諸国のハンターが数を少しでも減らしてくれたハズだが、神奈川国に対して南からその数で向かってくるとか、もはや鬼畜の所業と言わざるを得なかった。
「マム、このままワダツミを三国湾経由でアニベ市に向かわせるから、許可取りをお願い!許可が降りたらアタシがアクスターリ市に向かうわッ!」
「三国湾の件は了解した。スグに許可を取り付けるから、そのまま房総沖から三国湾に向かわせて構わない。アンタはワダツミの進路を変更したら、そのままアクスターリ市に行っておくれ」
「分かったわ、マム。ところで、これは緊急要請なの?」
「そうしたかないが、仕方ない。群れの規模がデカ過ぎる。アンタの活躍次第じゃ全戦力を投じないと、水龍アクアリンクルの時の二の舞になる」
「分かったわ。それならアタシ1人で殲滅すれば、素材ウハウハねッ!」
「あぁ、報告書を楽しみにしとくよッ!だから、絶対におっ死ぬんでないよ!」
「りょーかいッ!」
つーつーつー
「さてと、降りる前に色々としておかなきゃね」
少女はアクスターリ港上空から神奈川国入りする予定だったワダツミに対して、ルートの変更を指示していった。
ワダツミはすんなりとその指示を受け入れ、三国湾手前で旋回するようにルートを書き換えていく。
その後で、ワダツミの中で今現在起きている人員に、ルートの変更をした旨を伝えた上で、自分だけはそろそろ降りる事を伝えた。
そしてキリクのコトや、リュウカのコトなど諸々のコトを頼んでいった。少女としては人に全て任せるのが心苦しかったが、緊急要請と言われてしまえば、それらは二の次になるのが、ハンターとしての運命なので諦めるしかなかったのである。
ぺしっぺしっ
「クリス、起きて、クリス!」
「ん?アルレ殿?朝か?朝ご飯はパンがいいな?Zzz……」
ぷちッ
「このド天然めッ!」
げしげしッ
「はぁ、はぁ。これでも起きないなんて……。仕方ないわね。みんな、コレも宜しくお願いします」
「あ、あぁ、任された」
ぷるるるっ
「三国湾の通行許可は降りた。向かわせて構わないよッ」
「ありがと、マム!」
「じゃあ、そっちは頼んだよ!」
がちゃ
つーつーつー
「どこか行く?」
「大丈夫よ。ルートが少し変更になっただけだから……もう少しで着くから、それまでは寝てて平気よ。アタシは一足先にワダツミを降りるけど、リュウカはキリクと一緒に付いていって」
「うん。ふわぁ……Zzz……」
少女は優しい口調でリュウカに対して言の葉を紡いでいたが、クリスとリュウカの対応がモチのロンで違うのは当たり前のコトだ。
然しながら一方でその光景は、一部始終を見ていた医師や看護師並びにサポーター達に恐怖を与えていたのだった。
ワダツミはルート変更に伴い三国湾に入って行こうとしていた。
そして、それと同時に縮尺を変えた少女のバイザーには多数の光点が映り込んで来ていた。
三国湾とは世界の変革後に付けられた名前であり、地球の地図上にまだ「日本」と言う国があった時の名称は、「東京湾」と呼ばれていた港湾地帯である。
今では神奈川国・東京国・千葉国の3つの国に囲まれた「湾」である事から「三国湾」と呼ばれている。
しかし神奈川国と千葉国はそれぞれ他に港を有しているので、東京国は2つの国に対し「使用料」を支払う事で、ほぼ独占して「三国湾」を使っているのだった。
「この数、本当にヤバいわね。急がないと……。それじゃ、アタシは一足先にワダツミを降りるけど、キリクの事を本当に宜しくお願いします!」
「あ、あぁ、任された」
「あっ!?そうだったそうだった。アタシが降りた後で、誰かここを閉めてね」
がしゅんッ
ひゅごおぉぉぉぉぉぉぉぉ
少女がワダツミの扉を開けた事で気圧が変化し、機体は揺れて機内に突風が巻き起こっていった。多少風に慌てたサポーターが、言われた通りに扉を閉めた事で気圧変化は収まり、ワダツミの揺れは収まって航行は無事に続けられていくのだった。
だが、その揺れでもクリスだけは目覚めなかった。
少女は飛び降りた後でブーツに火を点し、アクスターリ沖の光点に向けて速度を上げて駆けていく。
「何なの?あの群れ。本当にあんな数で群れてるなんて、デバイスの故障じゃなかったみたいね……。あ、あれはまさかッ!?」
少女はアクスターリに向かう先にいる、1匹の龍の姿に言葉を失いながらも真っ先に向かっていったのである。
「ふむ、まだヒト種達は打って出て来ぬか。ならば、もう少し近付いてみるとしよう」
「先の「不敬」は返上したと思ってたけど、これは一体どう言うつもりなのかしら?ちゃんと教えて貰えるのよね?輝龍アールジュナーガ・ウィステリアル!」
「うむ、やっと来たか。待ちくたびれたぞ。では先ずは教えてやろう。これは先の「不敬」に対する報復では無い。ヒト種の娘よ」
「なんですって!?それじゃあ、これがアナタの言う「不敬」に対するモノで無いのならば、これは一体どういうつもり?侵略戦争を仕掛けるとでも言うの?「最上位」のアナタが、人間界の領域を……人が住まう大地を侵すなんて、アタシには考えられないんだけど?」
「なぁに、興が乗ったモノでな。それに、勘違いするなよ、ヒト種の娘よ。我々は「龍種」だ。拠ってヒト種の法には縛られず、ヒト種の観念に従う道理も無い」
「そんな……そんなの、屁理屈よッ!」
「然しだな、興が乗ったのは事実。故に我等の歩みを止めたいと願うのであれば、その力を証明してみせよ!余と、余が従える軍になッ!」
「一体、それはどんな理屈よッ?!」
少女の前には輝龍とその後ろに200匹を超える龍種達がいる。対話でなんとかしようと考えた少女だったが、今回はそれが叶わなかった様子で両者は対峙する事になったのである。
輝龍アールジュナーガ・ウィステリアルから放たれている威圧感は、風龍の時に感じたモノと同等であり、少女の四肢はそれに対して必死に抵抗している。だが、その威圧感に屈するワケにはいかなかった。
何故ならば、少女の後ろには「ハンターが守るべき者」がいるのだから。
然しながら唐突に輝龍の身体は光を帯び始めていった。輝龍の身体を包む光は収束し、その光はやがて黄金の瞳に集まり力を帯びていく。
「アタシの後ろにはアクスターリの街がある。ここで息吹を吐かれでもしたら、それこそ一大事になる!こっちよ!輝龍アールジュナーガ・ウィステリアル!アタシが狙いならこっちに来なさい!」
「ほう?自分の身より街を気にするか?ヒト種の娘よ。ならばその気概だけは免じよう……。余が軍に命じる。人間達の街に一切の被害を齎す事は罷りならん。余等の倒すべき者はそこのヒト種の娘だと知れッ!」
「アタシってば、どんだけ魔獣に好かれてんのよッ。だけどこんなにモテモテでも全ッ然嬉しくないんだけどッ!でもこれで、街を気にせず思いっきし出来るわねッ!」
輝龍の放った言葉により、龍種達の群れは行動を起こしていった。輝龍が従える群れのそれぞれが、雄叫びを上げ少女を目掛けて一心不乱に動き出したのである。
生態系に於いて「古龍種」は「龍種」の1種であるとされる。だがこれは間違いである。
正確には「古龍種」が成体で、「龍種」は幼体なのだ。
要は「龍種」自体が幼体の時から既に、強力な力を有している為に起こった勘違いと言えるだろう。
「古龍種」と呼ばれる個体は、その個体が持つその力の強さのみで下位から最上位までに分かれる。
しかし、「龍種」は成長の度合いで呼び方が変わる。これが、「龍種」が幼体であるとされる根拠となる。
拠って「龍種」は細かく分類すると4種類いる事になるのだ。それら全てがひと括りに「龍種」と呼ばれているに過ぎない。
産まれてから力を蓄えている段階を、正式には「新生龍種」と呼ぶ。
力を蓄え終わり、身体が大きくなって属性に目覚めるまでを、正式には「亜龍種」と呼ぶ。
拠ってここまでの龍種が放つ息吹は、単純なマナの塊を撃ち出しているに過ぎない。
然しながら、起動に準備が掛かり前兆も長い事から滅多には使ってこない。だがこれは即ち、威力、出力、魔力量が段違いな汎用魔力銃の完全上位互換版とも言い換えられるモノであり、その火力は計り知れないのが明白だ。
更に「亜龍種」の中で属性に目覚めた個体は「属性龍種」と呼ばれ、目覚めなかった個体が「無属性龍種」と呼ばれるようになる。
「属性龍種」にせよ、「無属性龍種」にせよ、そこから個体の力を更に磨き上げ、成長すると晴れて「古龍種」の仲間入りとなるのだ。
これらの事から偏に「龍種」と言っても、討伐難易度はBランクからSランクまで幅がある事になる。
神奈川国を目指していた群れの殆どは「新生龍種」であり、その中に数体の「亜龍種」が混じっている混成群だった。
少女は龍種の大群を前にして怯む事無く、魔道具に呼び水を流していく。少女の身体を急激に疲労感が襲うが、そんな事は知ったこっちゃない。
何故ならば少女は、今回の魔術連撃で群れそのものを解体する予定でいたからだ。
群れさえどうにか出来れば輝龍アールジュナーガ・ウィステリアルのみが残り、それだけならばなんとかなると安直に考えた結果だった。
「ふぁい、まだおねむでふ。あと5分寝かせてくらはい……おやふみなさい……Zzz」
「寝ボケてるんでないよッ!緊急事態だッ!とっとと起きな!」
がばっ
「緊急事態!?一体何事?」
「ちゃあんと目覚めたかい?」
「あ、うん。それで緊急事態って?」
「龍種の群れが神奈川国に向かって来ている。そっちからは確認出来ないかい?」
「っ!?龍種の群れ?とか言っちゃって、二足翼竜種じゃないんだから。けらけら。龍種の群れだなんてあんまり聞かないわよ?どうせ数匹くらいでしょ?」
「そんなんで緊急事態だなんて言うかーーーーーッ!ふしゅう」
「えっ?いつもの冗談じゃないの?ホント?マジなの?」
「あぁ、マジもマジ、大マジだよ、まったくッ!それで今、ワダツミはどこを飛んでる?」
「今は房総沖よ。その群れはどこから来てるの?」
「群れはアクスターリ市の沖合で発見された。数は200を超えている。向かっている方向は間違いなくアニべ市だ」
「う、嘘……。龍種の群れが200ぅ?!」
それは寝ボケていた少女への会心の一撃だった。ただでさえ強敵と言われ、1匹でもAランクハンターが苦戦する龍種が、200匹を超える数で首都アニべ市に向かっていると言われたら会心の一撃と言わずして何と言えるのだろう。
しかも、その群れはよりにもよって神奈川国の南から来ているという。せめて南以外であれば近隣諸国のハンターが数を少しでも減らしてくれたハズだが、神奈川国に対して南からその数で向かってくるとか、もはや鬼畜の所業と言わざるを得なかった。
「マム、このままワダツミを三国湾経由でアニベ市に向かわせるから、許可取りをお願い!許可が降りたらアタシがアクスターリ市に向かうわッ!」
「三国湾の件は了解した。スグに許可を取り付けるから、そのまま房総沖から三国湾に向かわせて構わない。アンタはワダツミの進路を変更したら、そのままアクスターリ市に行っておくれ」
「分かったわ、マム。ところで、これは緊急要請なの?」
「そうしたかないが、仕方ない。群れの規模がデカ過ぎる。アンタの活躍次第じゃ全戦力を投じないと、水龍アクアリンクルの時の二の舞になる」
「分かったわ。それならアタシ1人で殲滅すれば、素材ウハウハねッ!」
「あぁ、報告書を楽しみにしとくよッ!だから、絶対におっ死ぬんでないよ!」
「りょーかいッ!」
つーつーつー
「さてと、降りる前に色々としておかなきゃね」
少女はアクスターリ港上空から神奈川国入りする予定だったワダツミに対して、ルートの変更を指示していった。
ワダツミはすんなりとその指示を受け入れ、三国湾手前で旋回するようにルートを書き換えていく。
その後で、ワダツミの中で今現在起きている人員に、ルートの変更をした旨を伝えた上で、自分だけはそろそろ降りる事を伝えた。
そしてキリクのコトや、リュウカのコトなど諸々のコトを頼んでいった。少女としては人に全て任せるのが心苦しかったが、緊急要請と言われてしまえば、それらは二の次になるのが、ハンターとしての運命なので諦めるしかなかったのである。
ぺしっぺしっ
「クリス、起きて、クリス!」
「ん?アルレ殿?朝か?朝ご飯はパンがいいな?Zzz……」
ぷちッ
「このド天然めッ!」
げしげしッ
「はぁ、はぁ。これでも起きないなんて……。仕方ないわね。みんな、コレも宜しくお願いします」
「あ、あぁ、任された」
ぷるるるっ
「三国湾の通行許可は降りた。向かわせて構わないよッ」
「ありがと、マム!」
「じゃあ、そっちは頼んだよ!」
がちゃ
つーつーつー
「どこか行く?」
「大丈夫よ。ルートが少し変更になっただけだから……もう少しで着くから、それまでは寝てて平気よ。アタシは一足先にワダツミを降りるけど、リュウカはキリクと一緒に付いていって」
「うん。ふわぁ……Zzz……」
少女は優しい口調でリュウカに対して言の葉を紡いでいたが、クリスとリュウカの対応がモチのロンで違うのは当たり前のコトだ。
然しながら一方でその光景は、一部始終を見ていた医師や看護師並びにサポーター達に恐怖を与えていたのだった。
ワダツミはルート変更に伴い三国湾に入って行こうとしていた。
そして、それと同時に縮尺を変えた少女のバイザーには多数の光点が映り込んで来ていた。
三国湾とは世界の変革後に付けられた名前であり、地球の地図上にまだ「日本」と言う国があった時の名称は、「東京湾」と呼ばれていた港湾地帯である。
今では神奈川国・東京国・千葉国の3つの国に囲まれた「湾」である事から「三国湾」と呼ばれている。
しかし神奈川国と千葉国はそれぞれ他に港を有しているので、東京国は2つの国に対し「使用料」を支払う事で、ほぼ独占して「三国湾」を使っているのだった。
「この数、本当にヤバいわね。急がないと……。それじゃ、アタシは一足先にワダツミを降りるけど、キリクの事を本当に宜しくお願いします!」
「あ、あぁ、任された」
「あっ!?そうだったそうだった。アタシが降りた後で、誰かここを閉めてね」
がしゅんッ
ひゅごおぉぉぉぉぉぉぉぉ
少女がワダツミの扉を開けた事で気圧が変化し、機体は揺れて機内に突風が巻き起こっていった。多少風に慌てたサポーターが、言われた通りに扉を閉めた事で気圧変化は収まり、ワダツミの揺れは収まって航行は無事に続けられていくのだった。
だが、その揺れでもクリスだけは目覚めなかった。
少女は飛び降りた後でブーツに火を点し、アクスターリ沖の光点に向けて速度を上げて駆けていく。
「何なの?あの群れ。本当にあんな数で群れてるなんて、デバイスの故障じゃなかったみたいね……。あ、あれはまさかッ!?」
少女はアクスターリに向かう先にいる、1匹の龍の姿に言葉を失いながらも真っ先に向かっていったのである。
「ふむ、まだヒト種達は打って出て来ぬか。ならば、もう少し近付いてみるとしよう」
「先の「不敬」は返上したと思ってたけど、これは一体どう言うつもりなのかしら?ちゃんと教えて貰えるのよね?輝龍アールジュナーガ・ウィステリアル!」
「うむ、やっと来たか。待ちくたびれたぞ。では先ずは教えてやろう。これは先の「不敬」に対する報復では無い。ヒト種の娘よ」
「なんですって!?それじゃあ、これがアナタの言う「不敬」に対するモノで無いのならば、これは一体どういうつもり?侵略戦争を仕掛けるとでも言うの?「最上位」のアナタが、人間界の領域を……人が住まう大地を侵すなんて、アタシには考えられないんだけど?」
「なぁに、興が乗ったモノでな。それに、勘違いするなよ、ヒト種の娘よ。我々は「龍種」だ。拠ってヒト種の法には縛られず、ヒト種の観念に従う道理も無い」
「そんな……そんなの、屁理屈よッ!」
「然しだな、興が乗ったのは事実。故に我等の歩みを止めたいと願うのであれば、その力を証明してみせよ!余と、余が従える軍になッ!」
「一体、それはどんな理屈よッ?!」
少女の前には輝龍とその後ろに200匹を超える龍種達がいる。対話でなんとかしようと考えた少女だったが、今回はそれが叶わなかった様子で両者は対峙する事になったのである。
輝龍アールジュナーガ・ウィステリアルから放たれている威圧感は、風龍の時に感じたモノと同等であり、少女の四肢はそれに対して必死に抵抗している。だが、その威圧感に屈するワケにはいかなかった。
何故ならば、少女の後ろには「ハンターが守るべき者」がいるのだから。
然しながら唐突に輝龍の身体は光を帯び始めていった。輝龍の身体を包む光は収束し、その光はやがて黄金の瞳に集まり力を帯びていく。
「アタシの後ろにはアクスターリの街がある。ここで息吹を吐かれでもしたら、それこそ一大事になる!こっちよ!輝龍アールジュナーガ・ウィステリアル!アタシが狙いならこっちに来なさい!」
「ほう?自分の身より街を気にするか?ヒト種の娘よ。ならばその気概だけは免じよう……。余が軍に命じる。人間達の街に一切の被害を齎す事は罷りならん。余等の倒すべき者はそこのヒト種の娘だと知れッ!」
「アタシってば、どんだけ魔獣に好かれてんのよッ。だけどこんなにモテモテでも全ッ然嬉しくないんだけどッ!でもこれで、街を気にせず思いっきし出来るわねッ!」
輝龍の放った言葉により、龍種達の群れは行動を起こしていった。輝龍が従える群れのそれぞれが、雄叫びを上げ少女を目掛けて一心不乱に動き出したのである。
生態系に於いて「古龍種」は「龍種」の1種であるとされる。だがこれは間違いである。
正確には「古龍種」が成体で、「龍種」は幼体なのだ。
要は「龍種」自体が幼体の時から既に、強力な力を有している為に起こった勘違いと言えるだろう。
「古龍種」と呼ばれる個体は、その個体が持つその力の強さのみで下位から最上位までに分かれる。
しかし、「龍種」は成長の度合いで呼び方が変わる。これが、「龍種」が幼体であるとされる根拠となる。
拠って「龍種」は細かく分類すると4種類いる事になるのだ。それら全てがひと括りに「龍種」と呼ばれているに過ぎない。
産まれてから力を蓄えている段階を、正式には「新生龍種」と呼ぶ。
力を蓄え終わり、身体が大きくなって属性に目覚めるまでを、正式には「亜龍種」と呼ぶ。
拠ってここまでの龍種が放つ息吹は、単純なマナの塊を撃ち出しているに過ぎない。
然しながら、起動に準備が掛かり前兆も長い事から滅多には使ってこない。だがこれは即ち、威力、出力、魔力量が段違いな汎用魔力銃の完全上位互換版とも言い換えられるモノであり、その火力は計り知れないのが明白だ。
更に「亜龍種」の中で属性に目覚めた個体は「属性龍種」と呼ばれ、目覚めなかった個体が「無属性龍種」と呼ばれるようになる。
「属性龍種」にせよ、「無属性龍種」にせよ、そこから個体の力を更に磨き上げ、成長すると晴れて「古龍種」の仲間入りとなるのだ。
これらの事から偏に「龍種」と言っても、討伐難易度はBランクからSランクまで幅がある事になる。
神奈川国を目指していた群れの殆どは「新生龍種」であり、その中に数体の「亜龍種」が混じっている混成群だった。
少女は龍種の大群を前にして怯む事無く、魔道具に呼び水を流していく。少女の身体を急激に疲労感が襲うが、そんな事は知ったこっちゃない。
何故ならば少女は、今回の魔術連撃で群れそのものを解体する予定でいたからだ。
群れさえどうにか出来れば輝龍アールジュナーガ・ウィステリアルのみが残り、それだけならばなんとかなると安直に考えた結果だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる