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第二節 オリュンポス
第211話 Stimuli in the brain
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実際の所、国を追われたアフラに「蛇悪竜種」を背負う必要性は無いようにも思える。だがそれでは、アフラの概念に反する事になる。
神族は「神足る所以」があるからこそ、概念を持つ神族として存在出来ている。
故に神族が「神足る所以」を放棄すればそれはもう、神族として存在出来なくなるのは自明の理なのだ。
アフラ・マズダの概念は、「善い」に尽きる。だからこそ、どうしようもない程の「善神」であり、対を成す「悪神」との対決まで存在を消される事は許されない。
更に付け加えれば、アフラは「法」の番人としての側面も持っているが、「善い事」と「法の番人」では戦闘力は殆ど無いと言えるだろう。
それ故に闘える者を探していた。
要するに「善神」であるアフラは「善神」としてと務めがあって、それに反する事は存在証明を失う事になる。故に「蛇悪竜種」を放置する事は「善神」の行いではない。
そしてそれが自身の国を奪った輩の為であろうが、その務めを果たさねばならなかった。
然しながら「「悪神」との決着」という最大の務めを果たす前にアフラ自身がやられる訳にも行かず、矛盾と葛藤の堂々巡りの真っ只中にいると言う事になる。
話しを聞いた少女は悩んでいた。この生真面目過ぎる「神族」を「無碍には出来ない」と。
何故なら、その「不器用さ」を自分と重ね合わせていたからだ。
「貴方の生き方って、面倒なのね?」
「「斯くあるべし」として望まれた以上、そうならねばならない」
「……して、汝は拙者の願いを聞き届けてもらえるのだろうか?」
アフラは表情を変えず、口調の一切も変えずに淡々と言の葉を紡いでいく。その口から紡がれる言の葉にも表情は無いが、ポーカーフェイスを貫く事とそれも含めて、望まれた「斯くあるべし」なのかもしれない。
拠って少女はアフラの心中を、その表情や口調から察する事は出来なかった。
だが、その決して嫌いではない考え方に絆され、「分かったわ」と返していた。
その時、アフラの表情が少しだけ明るくなった気がしたが、それは気のせいかもしれない。
「で、その「蛇悪竜種」はいつ頃目覚めるのかしら?」
「遅くとも三日以内」
「ここからだと、パルティアまではどれくらい時間が掛かるのかしら?」
「拙者が汝を連れ帰れば一瞬である」
「そう、それならば、パルティアへ向かうのは明日でもいいかしら?今日は一度、心配だからアテナの元に戻りたいの」
「ならば、これを持って行くがよい」
少女はアフラに提案し、その提案にアフラは1つの小瓶を渡した。少女はその小瓶を受け取ると、何やら不思議なモノを見るような目で見詰めていた。
「先程の者が汝の言う「アテナ」に対して、何かをしたのであれば、今も「幻術」の影響下にいる可能性が高い。この小瓶の中に幻術を中和する薬が入っている。幻術により目覚めないのであれば、効き目があるだろう。振り掛けるといい」
「ありがと。試してみる!それじゃ明日の朝、ここで落ち合いましょッ!」
「…………」
少女が空を駆けていく姿をアフラは黙って見送っていた。その心中は何を考え、何を思っていたかは分からない。
だが、空は雲1つなく蒼く澄んでおり、それはアフラの心象風景を大きなキャンバスに描いたようだった……のかもしれない。
少女はアテナの神殿に戻ると、息を切らしながら急いで部屋に駆け込んでいった。そこには安らかな寝息を立てているアテナの姿がある。
少女はアテナの容態が変わっていない事に安堵していたが、アフラから受け取った小瓶を開けると躊躇う事なく、盛大にアテナに振り掛けたのだった。
キラキラと輝きを放つ「薬」がアテナの顔に、髪に、その肢体に、惜しみなく浴びせられていく。
「アテナ、起きてッ!」
「お願い、目を覚まして……お願い…だから」
少女は寝ているアテナの肩を掴み揺さぶり、声を張り上げて叫んでいた。少女の悲痛な叫びは部屋に木霊していき、余韻を残す事なく直ぐに静寂を取り戻していく。
「ウチは、一体?ここは、どこだ?」
「アテナッ!!目覚めたのね!良かった……本当に良かった……うっうっ。本当に良かったよぉぉぉ。うわあぁぁぁぁぁぁん」
少女は未だよく状況が分かっていないアテナに抱き付くと、泪を溢し声を掠れさせながら泣きじゃくっていた。
アテナは自分の胸に顔を埋めて、自分の胸元に水溜まりを作ってくれている少女の体温を感じながら、その頭を優しく撫でていた。
「心配をかけたようだな、すまない。そして、ありがとう」
神族は「神足る所以」があるからこそ、概念を持つ神族として存在出来ている。
故に神族が「神足る所以」を放棄すればそれはもう、神族として存在出来なくなるのは自明の理なのだ。
アフラ・マズダの概念は、「善い」に尽きる。だからこそ、どうしようもない程の「善神」であり、対を成す「悪神」との対決まで存在を消される事は許されない。
更に付け加えれば、アフラは「法」の番人としての側面も持っているが、「善い事」と「法の番人」では戦闘力は殆ど無いと言えるだろう。
それ故に闘える者を探していた。
要するに「善神」であるアフラは「善神」としてと務めがあって、それに反する事は存在証明を失う事になる。故に「蛇悪竜種」を放置する事は「善神」の行いではない。
そしてそれが自身の国を奪った輩の為であろうが、その務めを果たさねばならなかった。
然しながら「「悪神」との決着」という最大の務めを果たす前にアフラ自身がやられる訳にも行かず、矛盾と葛藤の堂々巡りの真っ只中にいると言う事になる。
話しを聞いた少女は悩んでいた。この生真面目過ぎる「神族」を「無碍には出来ない」と。
何故なら、その「不器用さ」を自分と重ね合わせていたからだ。
「貴方の生き方って、面倒なのね?」
「「斯くあるべし」として望まれた以上、そうならねばならない」
「……して、汝は拙者の願いを聞き届けてもらえるのだろうか?」
アフラは表情を変えず、口調の一切も変えずに淡々と言の葉を紡いでいく。その口から紡がれる言の葉にも表情は無いが、ポーカーフェイスを貫く事とそれも含めて、望まれた「斯くあるべし」なのかもしれない。
拠って少女はアフラの心中を、その表情や口調から察する事は出来なかった。
だが、その決して嫌いではない考え方に絆され、「分かったわ」と返していた。
その時、アフラの表情が少しだけ明るくなった気がしたが、それは気のせいかもしれない。
「で、その「蛇悪竜種」はいつ頃目覚めるのかしら?」
「遅くとも三日以内」
「ここからだと、パルティアまではどれくらい時間が掛かるのかしら?」
「拙者が汝を連れ帰れば一瞬である」
「そう、それならば、パルティアへ向かうのは明日でもいいかしら?今日は一度、心配だからアテナの元に戻りたいの」
「ならば、これを持って行くがよい」
少女はアフラに提案し、その提案にアフラは1つの小瓶を渡した。少女はその小瓶を受け取ると、何やら不思議なモノを見るような目で見詰めていた。
「先程の者が汝の言う「アテナ」に対して、何かをしたのであれば、今も「幻術」の影響下にいる可能性が高い。この小瓶の中に幻術を中和する薬が入っている。幻術により目覚めないのであれば、効き目があるだろう。振り掛けるといい」
「ありがと。試してみる!それじゃ明日の朝、ここで落ち合いましょッ!」
「…………」
少女が空を駆けていく姿をアフラは黙って見送っていた。その心中は何を考え、何を思っていたかは分からない。
だが、空は雲1つなく蒼く澄んでおり、それはアフラの心象風景を大きなキャンバスに描いたようだった……のかもしれない。
少女はアテナの神殿に戻ると、息を切らしながら急いで部屋に駆け込んでいった。そこには安らかな寝息を立てているアテナの姿がある。
少女はアテナの容態が変わっていない事に安堵していたが、アフラから受け取った小瓶を開けると躊躇う事なく、盛大にアテナに振り掛けたのだった。
キラキラと輝きを放つ「薬」がアテナの顔に、髪に、その肢体に、惜しみなく浴びせられていく。
「アテナ、起きてッ!」
「お願い、目を覚まして……お願い…だから」
少女は寝ているアテナの肩を掴み揺さぶり、声を張り上げて叫んでいた。少女の悲痛な叫びは部屋に木霊していき、余韻を残す事なく直ぐに静寂を取り戻していく。
「ウチは、一体?ここは、どこだ?」
「アテナッ!!目覚めたのね!良かった……本当に良かった……うっうっ。本当に良かったよぉぉぉ。うわあぁぁぁぁぁぁん」
少女は未だよく状況が分かっていないアテナに抱き付くと、泪を溢し声を掠れさせながら泣きじゃくっていた。
アテナは自分の胸に顔を埋めて、自分の胸元に水溜まりを作ってくれている少女の体温を感じながら、その頭を優しく撫でていた。
「心配をかけたようだな、すまない。そして、ありがとう」
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