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第三節 パルティア
第217話 At your discretion
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『頭をお上げになって。そして、此方へ』
アマテラスから放たれている可憐な声は少女を導いていく。少女は導かれるままに階段を登り、これまた自然に天蓋の前で膝を付いた。やはり前回の行動をリピートしているようにしか思えない。
『天蓋の中へどうぞ』
少女の元に可憐な声が届き、その声に従って天蓋をくぐって中へと入っていった。そして、そこには前と変わらない姿で、同じ装いの白いワンピースを纏っているアマテラスがいたのである。
「本日はどのような用向きで此方にいらしたの?」
「先ずは、無事に母様に会えたご報告と、今回、取り計らって頂いたお礼をお伝えしたくて」
「それはわざわざ、痛み入ります。そして、無事に会えて良かったですね」
アマテラスの詩は少女の心に響き、その清浄な旋律は心地良く心が洗われるようだった。もしかしたら、それは文章ではなく、ただ単音の音であっても効果があるかもしれないほど清らかなモノと言えるだろう。
「そしてあと、もう1つお話しがあります。母様に会えた後、「オリュンポス」で色々とあって、その後、ワケあってアタシは「パルティア」へ行きました」
「「パルティア」ですか。あそこは統治者が変わったと聞き及んでおりますけど」
アマテラスの表情は変わらない。その表情から微笑みを消す事無く、少女の話しを聞いていた。他国の出来事だからだろうか……。それとも、冷静沈着に微笑を湛える事を常としているのかは分からない。
少女はその後で「パルティア」で起きた一部始終をアマテラスに伝え、今後「パルティア」が採用する指針も併せて伝えたのだった。
「「パルティア」は元々、中立の立場を採用している国でした。そして、今後は新たに産まれ落ちた神族の「寄る辺」となる道をも選ばれたのですね」
アマテラスは突如として少女に対して向けていた微笑みを、その表情から消した。
少女は少しだけ迫力が増した表情に驚いたが、強い意志と共に少女を見詰めるアマテラスのその瞳に魅入っていた。
「この「高天原」は「パルティア」の行動を容認します」
アマテラスとの話しの後で少女は次の目的地に向かうべく、アマテラスの社を辞した。
「ん?誰だおめぇ?」
「おめぇ、神族じゃねぇな?ヒト種か?ヒト種が此処まで入って来れるとは、大したモンだ。どうだ?オレサマといっちょ、闘らねぇか?」
不躾な男は社から出て来たばっかで鉢合わせした少女に対して、言の葉を紡いでいた。
この男、黒髪のオールバックで全ての髪の毛を頭のてっぺんで巨大な団子にして纏めている。更には何本ものかんざしや櫛で、その団子を止めている妙な髪型もさる事ながら、クロノスを彷彿とさせる筋骨隆々の身体付きであり、何故か上裸だ。
そして背も高く、その黒い瞳には宿る意志の強さが輝きを放っているようだ。
極めつけに、その身体からは異常な「圧」が放たれており、オリュンポスの神族と互角に渡り合えた少女ですら、物怖じする程だった。
何故上裸なのかは分からないが、そんな出で立ちも乙女としては目のやり場に困るし、申し込まれた内容も困る事に変わりはないのだが、ゼウスのように下心丸出しで来られるよりは悪い気はしなかった。
どちらかと言うと、魔界にいたベルンに近い感じかもしれない。時間に余裕があって、興味と好奇心が優ればその私闘にOKを出したかもしれなかったが、警戒を解いているワケでは決してない。
だからこそ不躾な言い方にはそれ相応の対応をする事にしていた。
「高天原の神族の一柱ですか?今日はアマテラス様にご用事があって来ただけです。ところ構わず私闘をするような粗野な事は出来ませんので、お引き取り願えますか?」
「おぅおぅ、つれないねぇ。オレサマの名前はスサノオ・イザナギってんだ!もし、闘りたくなったら出向いてくれ。オレサマはいつでも構わねぇからな!まっ、そん時にどこにいるかはオレサマも分からねぇがな。がっはっはっ」
大きな哂い声を上げながらスサノオはアマテラスの社の中に入って行った。
少女は名乗ったスサノオに対して何も言わず、ただその背中を見送っていた。
「あれが、闘神……スサノオ。あれが素の状態なのかしら?それであれだけのプレッシャーを放っているなんて、末恐ろしい男ね」
ぱんぱんッ
「さてと、気を取り直してお遣いの続きをしなくっちゃ!」
少女は顔を叩いて呟くとサークルを発現させ、「高天原」を後にするのだった。
「ひゅんッ」と言う音を立て、少女はオリュンポスのゼウスの神殿の前に来た。
ゼウスに会うのは、あまり気が乗らなかったが、エ・ラーダとアフラの2人に言ってしまった手前、気乗りしない気持ちを奮い立たせて、中へと足を歩み入れて行く。
ゼウスのいるハズの、神殿の最奥へと歩みを進めていくと、そこには見慣れない顔があった。
「おや?見知らぬ顔だな?オリュンポスの神族の眷属か?」
「アタシがオリュンポスの眷属に見えるの?それよりもアナタこそ何者なの?アタシはここの主に会いに来たんだけど、今日はお留守なのかしら?」
「ふはははは、中々に剛胆な娘だ。吾を見ても物怖じせず、吾の言葉を退けるとはな。面白い!実に面白い」
男は哂い声を発し、少女を見据え言の葉を投げ付けてきた。その男から放たれる「言の葉」は荒れ狂う暴風のような「圧」を持っていて、少女を吹き飛ばさんとばかりに迫っていたのだ。
「そこで何をしている?客が来たと知らせが来たので戻って来てみれば、何故、そなた等がここにいる?」
「ぶっ、あはははははは」
「………」
今にも衝突しそうな2人を止めたのはゼウスだった。しかし少女はその声に反応し振り向いて、その姿を見ると大爆笑の渦の中に身を置いたのだ。
「ひ、久しいな。ず、随分と見ない内に奇抜な格好になったのだな?くっくくく」
「きょ、興が冷めたな、娘さん。先程の続きは、またの機会にしよう。くっくくくく」
「人の姿を見て笑うとは、随分と失礼な「客」達だな」
ゼウスは呆れ顔で言の葉を紡いでいた。まぁ、ゼウス本人にも自覚があるのだろう。そしてそれは、自分が手掛けた事を理解しているから少女は大爆笑しているのだが、もう1人の男がそれを知らないのは当然の事だ。
だが、相手が「オリュンポス」の主神であるコトを知っているからこそ、必死に抑えているのは容易に想像出来る。そうでなければ少女同様に大爆笑していたかもしれない。
ちなみに少女はゼウスが数日前にこの場所で見せた「圧」を感じるコトはなかった。
最初に神殿の中にいた男は、その名を「オーディン」と名乗った。そして、少女は自分の事を「ゼウスの姪」だと名乗った。
「姪」と言う表現にオーディンは「「娘」の間違いで無いのか?」とゼウスの方を向き言の葉を投げていたが、ゼウスはオドオドし辺りをキョロキョロと見回しているだけで解答は無かった。
「残念ながら、本当にゼウスの娘ではないわよ?」
「ゼウスは自身の娘だろうが親戚だろうが、女性であればその手に誑し込もうとするから、気を付けるが良いぞ?」
「そうね。もうないとは思うけどそこは充分に気をつけるわ。ご忠告ありがと、オーディンさま」
「ゔ、ゔんッ、いい加減に下らない話しで盛り上がるのは止めてもらえるか?」
ゼウスはどうやら揶揄われている事を善く思っていない様子だった。それと同時に、ここにはいないヘラの視線を気にしているのかもしれない。
更に付け加えるならば、自分の事を倒し髪型をこんな風に変えた少女から、オーディンに対して余計な事を言って欲しくなかったのかもしれない。
故に早く本題に入ろうとしている様子だった。
「オーディン」は北欧神話の主神にして、「アースガルズ」の統治者でもある。
その姿は長い顎髭を生やしており、その顔に宿る隻眼の瞳は碧眼だった。黒いローブを羽織り、つばの広い帽子を目深に被っている。
どこぞの怪しい魔術士にも見えるその姿だが、先程放っていた「圧」は紛れもない主神クラスのモノだったコトから、強ち嘘ではないのだろうし、魔術士と言っては失礼にあたるかもしれない。
「で、オーディンよ、此度は何事かな?」
「うむ、吾が「アースガルズ」の問題児が此方で世話になったかと思ってな」
オーディンは言の葉を紡いだが、ゼウスには凡そ見当が付いていない様子で首を傾げている。まだ当の本人や事情を知っているヘラから報告が上がっていないのかもしれない。いや、それ以上に関わりを持たないようにしているのだろうか?
まぁ、全ては憶測の範囲でしかない。
「だがまぁ、その様子ではそれはお主ではなく、そちらの娘さんの方が分かっていそうだ。だからその件は後でお話しを聞かせて貰うとして、先にそちらの娘さんの要件を聞く事にしようか?」
オーディンは言の葉を優しく紡ぎ、少女の方を見たのだった。なんで「オリュンポス」に来たのか少し忘れ掛けていた少女は、こうして本題に入る事が出来たのである。
アマテラスから放たれている可憐な声は少女を導いていく。少女は導かれるままに階段を登り、これまた自然に天蓋の前で膝を付いた。やはり前回の行動をリピートしているようにしか思えない。
『天蓋の中へどうぞ』
少女の元に可憐な声が届き、その声に従って天蓋をくぐって中へと入っていった。そして、そこには前と変わらない姿で、同じ装いの白いワンピースを纏っているアマテラスがいたのである。
「本日はどのような用向きで此方にいらしたの?」
「先ずは、無事に母様に会えたご報告と、今回、取り計らって頂いたお礼をお伝えしたくて」
「それはわざわざ、痛み入ります。そして、無事に会えて良かったですね」
アマテラスの詩は少女の心に響き、その清浄な旋律は心地良く心が洗われるようだった。もしかしたら、それは文章ではなく、ただ単音の音であっても効果があるかもしれないほど清らかなモノと言えるだろう。
「そしてあと、もう1つお話しがあります。母様に会えた後、「オリュンポス」で色々とあって、その後、ワケあってアタシは「パルティア」へ行きました」
「「パルティア」ですか。あそこは統治者が変わったと聞き及んでおりますけど」
アマテラスの表情は変わらない。その表情から微笑みを消す事無く、少女の話しを聞いていた。他国の出来事だからだろうか……。それとも、冷静沈着に微笑を湛える事を常としているのかは分からない。
少女はその後で「パルティア」で起きた一部始終をアマテラスに伝え、今後「パルティア」が採用する指針も併せて伝えたのだった。
「「パルティア」は元々、中立の立場を採用している国でした。そして、今後は新たに産まれ落ちた神族の「寄る辺」となる道をも選ばれたのですね」
アマテラスは突如として少女に対して向けていた微笑みを、その表情から消した。
少女は少しだけ迫力が増した表情に驚いたが、強い意志と共に少女を見詰めるアマテラスのその瞳に魅入っていた。
「この「高天原」は「パルティア」の行動を容認します」
アマテラスとの話しの後で少女は次の目的地に向かうべく、アマテラスの社を辞した。
「ん?誰だおめぇ?」
「おめぇ、神族じゃねぇな?ヒト種か?ヒト種が此処まで入って来れるとは、大したモンだ。どうだ?オレサマといっちょ、闘らねぇか?」
不躾な男は社から出て来たばっかで鉢合わせした少女に対して、言の葉を紡いでいた。
この男、黒髪のオールバックで全ての髪の毛を頭のてっぺんで巨大な団子にして纏めている。更には何本ものかんざしや櫛で、その団子を止めている妙な髪型もさる事ながら、クロノスを彷彿とさせる筋骨隆々の身体付きであり、何故か上裸だ。
そして背も高く、その黒い瞳には宿る意志の強さが輝きを放っているようだ。
極めつけに、その身体からは異常な「圧」が放たれており、オリュンポスの神族と互角に渡り合えた少女ですら、物怖じする程だった。
何故上裸なのかは分からないが、そんな出で立ちも乙女としては目のやり場に困るし、申し込まれた内容も困る事に変わりはないのだが、ゼウスのように下心丸出しで来られるよりは悪い気はしなかった。
どちらかと言うと、魔界にいたベルンに近い感じかもしれない。時間に余裕があって、興味と好奇心が優ればその私闘にOKを出したかもしれなかったが、警戒を解いているワケでは決してない。
だからこそ不躾な言い方にはそれ相応の対応をする事にしていた。
「高天原の神族の一柱ですか?今日はアマテラス様にご用事があって来ただけです。ところ構わず私闘をするような粗野な事は出来ませんので、お引き取り願えますか?」
「おぅおぅ、つれないねぇ。オレサマの名前はスサノオ・イザナギってんだ!もし、闘りたくなったら出向いてくれ。オレサマはいつでも構わねぇからな!まっ、そん時にどこにいるかはオレサマも分からねぇがな。がっはっはっ」
大きな哂い声を上げながらスサノオはアマテラスの社の中に入って行った。
少女は名乗ったスサノオに対して何も言わず、ただその背中を見送っていた。
「あれが、闘神……スサノオ。あれが素の状態なのかしら?それであれだけのプレッシャーを放っているなんて、末恐ろしい男ね」
ぱんぱんッ
「さてと、気を取り直してお遣いの続きをしなくっちゃ!」
少女は顔を叩いて呟くとサークルを発現させ、「高天原」を後にするのだった。
「ひゅんッ」と言う音を立て、少女はオリュンポスのゼウスの神殿の前に来た。
ゼウスに会うのは、あまり気が乗らなかったが、エ・ラーダとアフラの2人に言ってしまった手前、気乗りしない気持ちを奮い立たせて、中へと足を歩み入れて行く。
ゼウスのいるハズの、神殿の最奥へと歩みを進めていくと、そこには見慣れない顔があった。
「おや?見知らぬ顔だな?オリュンポスの神族の眷属か?」
「アタシがオリュンポスの眷属に見えるの?それよりもアナタこそ何者なの?アタシはここの主に会いに来たんだけど、今日はお留守なのかしら?」
「ふはははは、中々に剛胆な娘だ。吾を見ても物怖じせず、吾の言葉を退けるとはな。面白い!実に面白い」
男は哂い声を発し、少女を見据え言の葉を投げ付けてきた。その男から放たれる「言の葉」は荒れ狂う暴風のような「圧」を持っていて、少女を吹き飛ばさんとばかりに迫っていたのだ。
「そこで何をしている?客が来たと知らせが来たので戻って来てみれば、何故、そなた等がここにいる?」
「ぶっ、あはははははは」
「………」
今にも衝突しそうな2人を止めたのはゼウスだった。しかし少女はその声に反応し振り向いて、その姿を見ると大爆笑の渦の中に身を置いたのだ。
「ひ、久しいな。ず、随分と見ない内に奇抜な格好になったのだな?くっくくく」
「きょ、興が冷めたな、娘さん。先程の続きは、またの機会にしよう。くっくくくく」
「人の姿を見て笑うとは、随分と失礼な「客」達だな」
ゼウスは呆れ顔で言の葉を紡いでいた。まぁ、ゼウス本人にも自覚があるのだろう。そしてそれは、自分が手掛けた事を理解しているから少女は大爆笑しているのだが、もう1人の男がそれを知らないのは当然の事だ。
だが、相手が「オリュンポス」の主神であるコトを知っているからこそ、必死に抑えているのは容易に想像出来る。そうでなければ少女同様に大爆笑していたかもしれない。
ちなみに少女はゼウスが数日前にこの場所で見せた「圧」を感じるコトはなかった。
最初に神殿の中にいた男は、その名を「オーディン」と名乗った。そして、少女は自分の事を「ゼウスの姪」だと名乗った。
「姪」と言う表現にオーディンは「「娘」の間違いで無いのか?」とゼウスの方を向き言の葉を投げていたが、ゼウスはオドオドし辺りをキョロキョロと見回しているだけで解答は無かった。
「残念ながら、本当にゼウスの娘ではないわよ?」
「ゼウスは自身の娘だろうが親戚だろうが、女性であればその手に誑し込もうとするから、気を付けるが良いぞ?」
「そうね。もうないとは思うけどそこは充分に気をつけるわ。ご忠告ありがと、オーディンさま」
「ゔ、ゔんッ、いい加減に下らない話しで盛り上がるのは止めてもらえるか?」
ゼウスはどうやら揶揄われている事を善く思っていない様子だった。それと同時に、ここにはいないヘラの視線を気にしているのかもしれない。
更に付け加えるならば、自分の事を倒し髪型をこんな風に変えた少女から、オーディンに対して余計な事を言って欲しくなかったのかもしれない。
故に早く本題に入ろうとしている様子だった。
「オーディン」は北欧神話の主神にして、「アースガルズ」の統治者でもある。
その姿は長い顎髭を生やしており、その顔に宿る隻眼の瞳は碧眼だった。黒いローブを羽織り、つばの広い帽子を目深に被っている。
どこぞの怪しい魔術士にも見えるその姿だが、先程放っていた「圧」は紛れもない主神クラスのモノだったコトから、強ち嘘ではないのだろうし、魔術士と言っては失礼にあたるかもしれない。
「で、オーディンよ、此度は何事かな?」
「うむ、吾が「アースガルズ」の問題児が此方で世話になったかと思ってな」
オーディンは言の葉を紡いだが、ゼウスには凡そ見当が付いていない様子で首を傾げている。まだ当の本人や事情を知っているヘラから報告が上がっていないのかもしれない。いや、それ以上に関わりを持たないようにしているのだろうか?
まぁ、全ては憶測の範囲でしかない。
「だがまぁ、その様子ではそれはお主ではなく、そちらの娘さんの方が分かっていそうだ。だからその件は後でお話しを聞かせて貰うとして、先にそちらの娘さんの要件を聞く事にしようか?」
オーディンは言の葉を優しく紡ぎ、少女の方を見たのだった。なんで「オリュンポス」に来たのか少し忘れ掛けていた少女は、こうして本題に入る事が出来たのである。
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