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第一章 二重因子編
残された命
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あれから、三日が経ったらしい。
私が気づいた時、身体中には無数の包帯と心電図で測る為の電極が貼り付けられたベッドの上で点滴を打たれていた。
見知らぬ病室に似た部屋の中、辺りを見渡すと深手を負って横たわる怪我人が目に入る。
私とは比べ物にならない傷と、出血で滲んだ包帯の中で痛みに呻きをあげている。
意識を取り戻しても何も思い出せずにいた為、何時間もの時間が流れた。
思考を止めていても不意に思い出してしまう悪夢のような光景。
涙よりも何も出来なかった自分にイラ立ちを覚えてしまう。あの時、代わりに身を投げ出していれば救えていたかもしれない。
それに私は何故、生き残ってしまったのかという罪悪感に胸が押しつぶされそうだ。
この現状も夢のような光景で、もしかしたら死後の世界で息をしているのかもしれないと幻想を抱く。
点滴を刺した針を抜いてみたが、痛みが存在していた。これは現実の痛み。
現実から目を背けることは出来ず、松葉杖を手に病室を抜け出そうとする。
「そうだ...。兄様にお願いして奴らを.......」
その時の私には、それぐらいしか果たせる復讐の方法は浮かばなかったのだと思う。
軍に入隊すれば、死に急ぐ事も可能なのではないか?などと思ってしまう事も馬鹿らしく思える程に思考は麻痺していた。
気づいた時には安置所の前に立っていて、目の前に広がる死体の数に関心もなくただ眺めている。
兵士の死体だらけである事から、ここは軍の施設という事が察する事ができた。
部屋を出てすぐに軍の物と思われる車両と、施設に置き去りにされた壊れかけのXUNISを廃棄所のような場所に積み上げている現場を間の当たりにする。
あの状況から誰かが救出してくれたのだろう。現実を受け入れらなかったが、救出リストに載せられていた自分の名前以外にも救出された生徒がいないかを確認しようとする。
結果は言わなくてもわかっていた。誰も生き残っている筈がないと。
「生きてるのは私だけ......」
目の前で五体を引き裂かれた光景を思い出してしまい、一瞬の内に感情が込み上げてしまう。
壁に手を着いて喉の奥から、押さえきれずに吐き出してしまうソレを見つめながら幾度となく涙を流して続け様に溜まった感情が溢れ出てくる。
胃の中身は空になったのだろう。吐き出すものが無くなり、その場で壁に背中をつけながら、自分の無になった姿を映り込んだ窓で確認する。
しばらくの間、意識が有耶無耶で立ち上がることすらままならない。
誰かが通路を歩いてくる音が聞こえた。目の前に広がる排出物を見て、相手に顔を向ける事が出来ずに俯いてしまう。
「ごめんなさい...今、掃除を.......」
気の抜けた足どりで立ち上がると、フラフラとしていた私の身体を暖かく相手が包み込むように抱きしめてくれた。
「生きててくれてありがとう......」
その声は私をどれだけ楽にさせてくれただろうか。安心感に浸りきった心にゆとりが出来た瞬間に涙が溢れてくる。
「兄...様......」
視界に入り込んだ兄様の姿に声が震えた情けない声で、相手を呼ぶと顔を見つめながら、グシャグシャになった表情をしてしまう。
相手の服を強く握りながら、涙で汚れきった顔を押し付けるが、いつも通りに兄様の暖かい手が頭を優しく撫でてくれた。
「兄様......ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい.......」
目の前で、抱いてくれた兄様に心を許してしまう。
皆の命を犠牲に自分は生き残ってしまったという罪悪案とは裏腹に、生きていて良かったという思いで今にも潰れそうな心で精一杯泣いていた。
惨めでもあっただろうが、全てを兄様は察していたかのように強く抱きしめているだけで、泣きじゃくる私が落ち着くまで頭を撫でてくれていた。
ふと気がつくと自分の家のベッドの上で、普段通りの景色に悪夢が噓だったと思わせてくれるような清々しい朝だった。
いつの間にか兄に抱かれながら、眠ってしまっていたらしい。
包帯も外れていて、傷一つない姿で何事もなかったように起き上がると、制服に着替て兄様の部屋に向かおうとする。
デバイスから情報を引き出そうと現状の記事をありったけ、展開してみせるが結果は見るまでもなく悲惨であった。
街は生物兵器の影響で半壊し、防衛に当たった軍も三割程の人員が命をなくしていて、民間人の誘導先は無く、全員が常に危機に面している。
状況打破する為には、救世主のような存在が必要不可欠だった。
予想通りに兄様は、部屋で新型XUNISの二機を調整していた。
「兄様、おはようございます。先日は申し訳ありませんでした」
「カグヤか? おはよう。ぐっすり眠れたか?」
兄の言葉に頷いてみせると、調整していたと見られるデータに目を移す。
「これは正式な戦闘データのインストールですか? 稼動実験を行って日が浅いのに大丈夫なのでしょうか?」
それぞれの特性を含めた魔法術式の入力をする前の段階で止まっていたが、性質を合わせようにも兄様と私の専用データを内臓しなければならない。
固定登録を行うというところだが、まだ正式に操者デバイサーを決めていない事で問題になっていた部分を急激に仕上げている事に驚き、XUNIS各種の状態を見つめる。
「大丈夫なのでしょうか? 調整が上手くいっても奴らを掃討するには、それなりの火力だけでは心持たないかもしれません」
いつもならば疑いの目を持たずして、兄様の作品に期待を寄せていたが、今回の事情もあることから半信半疑の目を向けてしまう。
「緋天と蒼天も置物ではないのさ。奴らに対抗する為、コイツらの力がいる」
兄様が打ち込む端末に目を向けながら、私の考えていた通り、緋天と蒼天のそれぞれの持ち主、すなわち操者の登録はそれぞれの相性に合わせた形になった。
実験の結果を考慮して緋天は私が、蒼天は兄様が使用者として登録されるようだ。
「すいません...。私が不甲斐ないから蒼天の満足なデータも取れず、兄様のお役に立てないばかりに.......」
「いいのさ。カグヤのおかげで修正点も見つかった。何よりお前が無事であるなら」
兄の意向に応えたいと前線は自分が張れるように、調整を兼ねて使用魔法を全て緋天のスペックに合わせてもらう。
炎熱系加速型をコンセプトとした肉体強化を主にしてほしいと、無理を言って見直しを入れながら再度インストールをしていく。
実験用のスーツに着替えると、調整の終わった緋天を持ち上げて魔力の循環を行っていく。
データの容量が多かったのか、身体がいつも以上に重い。
これも緋天を扱うのに必要な枷だと割り切りながら、実験室へ最終調整を行う為に入っていく。
「緋天これからもよろしくね?」
『Yes my master.』
緋天からの返答を確認しながら、以前よりも握った時の馴染みが良くなっている。
兄様が今までのデータを元に私が戦いやすいスタイルに変更してくれたのだろう。
「起動実験を行う。落ち着いていけ、緋天に振り回されないようにお前が、魔力の暴発を防がなくては意味がないからな?」
魔力を送り過ぎると熱暴走オーバーヒートに繋がり兼ねないのも分かっていたが、感情の高鳴りを抑える程の強い心で目の前の敵に立ち向かう自信はない。
出来る事といえば、全力で緋天を信じぬくことだけ。
「兄様、始めてください」
居合いの構えを取りながら、静かに刃先に魔力を込めようと意気込むが、目の前に現れた例の生物兵器にクラスメイトが引き裂かれた光景が甦る。
膝をついて口元を押さえながら、身動きが取れずに実験は中止という形になってしまう。
ホログラムの相手にすら立ち向かう事が出来ず、情けない姿を見せてしまった事を悔やみながらも近づいてきた兄様に目を向けながら、泣いてしまいそうになる。
「兄様すいません。何の役にも立てず私は......」
兄様に連れられて、調整用のベッドに寝せられると、ひんやりとしたタオルを目元に置かれて落ち着きを取り戻させようとしてくれた相手の優しさに甘えてしまうばかりになってしまう。
「いいのさ。あんなことがあった矢先に無理強いをさせた俺にも非がある」
兄様の手が私の頬に触れる。暖かくてこの手にいつまでも触れられていたいと、触れてくれた手を自分の手で覆う。
兄様は心配そうな笑顔を浮かべながら、ゆっくりと手を離して実験室へ向かっていく。
「次は俺の番だ。よく見ていろ? カグヤが不出来ではない事を今から証明する」
兄様の素質。つまりは魔法力面での蒼天と一致する点を伸ばしたスタイルは、相手を貫くのではなく内部から破壊するというコンセプト。
相手の体内に魔力で出来た酵素という概念を送り込んで、構造を捻じ曲げて爆破した際にその反動として、内側から外側に飛び出ようという反発を起こす。
人間相手なら数秒と掛からずに異界送りにさせられる魔法。
緋天に比べて防御がかなり手薄になる分、敵に囲まれた時の対処が問題となってくるのが不安である。
実験を執り行う際にEmergencyエマージェンシーという文字が画面に映し出されているのを確認する。
サンプルの生物兵器といえども衝撃などはリアルに設定されている。
それを数体同時であり、捕食されないとはいえ物理ダメージは計り知れない威力で受けてしまうことになるのだ。
「兄様! どうか止めになってください! 私の為にムキになる必要はないのですよ!?」
ガラス越しに兄様の姿を見つめながら訴えかける。
いくら兄様といえ、私が実験でミスをした蒼天の情報はない分、これで死ぬ確率もあると本人も気づいている筈だ。
それなのになんで......。
「よく見ていろ。俺からお前に捧げる誕生日プレゼントは痛みも苦しみも祝福ということだ。楽して得られる幸福は紛い物、そして逃げるな。
お前が現実と向き合えば道は開かれる。お前にはそれだけの力がある。そして、ちゃんと俺の背中を見て追い続けて来い!」
生物兵器が一斉に襲い掛かるも体勢を低くして、一体ずつに確実に真っ直ぐ見据えた視線で弾丸を撃ち込む。
見事といわんばかりに次々に目標を粉々にしてみせる。
こちらを見つめて、ゆっくりと微笑んでみせる兄様の姿に感動してそのまま実験室の中に入り込んで面と向かいながら、胸の前で両手をグッと握り込む。
「すごい......すごいです兄様!!!」
先ほどまで気を落としていたが、兄様の実験を見て感動のあまり声を上げてしまう。
「さすが私の兄様です! 私に扱えなかった蒼天で、こうも易々とやってみせるのですから!! 兄様、私にも稽古をつけてください! もっと兄様に近づきたいのです!!!」
負けてはいられないと、緋天を手に取り、兄様との有意義な訓練に打って出る。
兄様の勇姿にやる気を取り戻すことで、緋天でテストを行えなかったことも蒼天を扱えなかった自分の弱さも含め、まだまだこの先に続く兄様との先の未来を互いに助け合う為にと、私たちは今日も日々の鍛錬に励くむ。
月面襲撃から1ヶ月の月日が過ぎた。
月面都市も約半数が別の安置に旅立った矢先に、私は今日この日に卒業式を迎える。
些かな人数で少ないが、居なくなってしまったしまった人も含め、執り行う式典で私は学年代表として教壇の前に立つ。
「あの事件から1ヶ月経った今、こうして卒業を一緒に迎えられる皆さんを誇りに思います。悲しくて、挫けそうにもなりましたが私たちは、亡くなった方々に顔向けできる人生をこれから歩まなくてはなりません。
泣きたくなったら泣いてください。でも必ず、その後には笑顔になってください。それが私の望む最後の言葉です。皆さんもどうか元気で。卒業生代表、カグヤ」
一礼をした後に拍手が沸き起こる。式の終わりに全員が駆け寄ってきて、気持ちを伝えるように感謝の言葉が並べられた。
「姫、卒業してもずっと友達だからね?」
「勿論ですよ。相談事や会いたくなったら、連絡をください。」
笑顔で応えながら、門を出ていく生徒たちに手を振る。
月面都市の脅威は消えず、侵略を阻む為に日夜生物兵器の研究を進めているが、移民者が後を絶たないこの街には私たち兄弟がいる。
遠くない未来に命を落とすかもしれないし、いつまでも守っているだけでは現状は変わらない。
何かを変えなければならない為にも地上での拡大を防ぐ事が重要だろう。
私たちの進路は地球。
手に入れた力を行使できるなら、自分の力でみんなの未来を守っていきたい。
兄様は共に行く道は、険しいと言っていたが振り返らない。
私は一人じゃないから.......。
「兄様と二人なら、どこまででもいけますよね?」
「勿論だ」
私たちの決意は決まっている。揺るがない心と不屈の絆。何も怖いものなどない。
誓いを胸に地球を目指し、私たちは対策組織特殊XUNIS部隊アドヴェントとして降下して行くのであった。
私が気づいた時、身体中には無数の包帯と心電図で測る為の電極が貼り付けられたベッドの上で点滴を打たれていた。
見知らぬ病室に似た部屋の中、辺りを見渡すと深手を負って横たわる怪我人が目に入る。
私とは比べ物にならない傷と、出血で滲んだ包帯の中で痛みに呻きをあげている。
意識を取り戻しても何も思い出せずにいた為、何時間もの時間が流れた。
思考を止めていても不意に思い出してしまう悪夢のような光景。
涙よりも何も出来なかった自分にイラ立ちを覚えてしまう。あの時、代わりに身を投げ出していれば救えていたかもしれない。
それに私は何故、生き残ってしまったのかという罪悪感に胸が押しつぶされそうだ。
この現状も夢のような光景で、もしかしたら死後の世界で息をしているのかもしれないと幻想を抱く。
点滴を刺した針を抜いてみたが、痛みが存在していた。これは現実の痛み。
現実から目を背けることは出来ず、松葉杖を手に病室を抜け出そうとする。
「そうだ...。兄様にお願いして奴らを.......」
その時の私には、それぐらいしか果たせる復讐の方法は浮かばなかったのだと思う。
軍に入隊すれば、死に急ぐ事も可能なのではないか?などと思ってしまう事も馬鹿らしく思える程に思考は麻痺していた。
気づいた時には安置所の前に立っていて、目の前に広がる死体の数に関心もなくただ眺めている。
兵士の死体だらけである事から、ここは軍の施設という事が察する事ができた。
部屋を出てすぐに軍の物と思われる車両と、施設に置き去りにされた壊れかけのXUNISを廃棄所のような場所に積み上げている現場を間の当たりにする。
あの状況から誰かが救出してくれたのだろう。現実を受け入れらなかったが、救出リストに載せられていた自分の名前以外にも救出された生徒がいないかを確認しようとする。
結果は言わなくてもわかっていた。誰も生き残っている筈がないと。
「生きてるのは私だけ......」
目の前で五体を引き裂かれた光景を思い出してしまい、一瞬の内に感情が込み上げてしまう。
壁に手を着いて喉の奥から、押さえきれずに吐き出してしまうソレを見つめながら幾度となく涙を流して続け様に溜まった感情が溢れ出てくる。
胃の中身は空になったのだろう。吐き出すものが無くなり、その場で壁に背中をつけながら、自分の無になった姿を映り込んだ窓で確認する。
しばらくの間、意識が有耶無耶で立ち上がることすらままならない。
誰かが通路を歩いてくる音が聞こえた。目の前に広がる排出物を見て、相手に顔を向ける事が出来ずに俯いてしまう。
「ごめんなさい...今、掃除を.......」
気の抜けた足どりで立ち上がると、フラフラとしていた私の身体を暖かく相手が包み込むように抱きしめてくれた。
「生きててくれてありがとう......」
その声は私をどれだけ楽にさせてくれただろうか。安心感に浸りきった心にゆとりが出来た瞬間に涙が溢れてくる。
「兄...様......」
視界に入り込んだ兄様の姿に声が震えた情けない声で、相手を呼ぶと顔を見つめながら、グシャグシャになった表情をしてしまう。
相手の服を強く握りながら、涙で汚れきった顔を押し付けるが、いつも通りに兄様の暖かい手が頭を優しく撫でてくれた。
「兄様......ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい.......」
目の前で、抱いてくれた兄様に心を許してしまう。
皆の命を犠牲に自分は生き残ってしまったという罪悪案とは裏腹に、生きていて良かったという思いで今にも潰れそうな心で精一杯泣いていた。
惨めでもあっただろうが、全てを兄様は察していたかのように強く抱きしめているだけで、泣きじゃくる私が落ち着くまで頭を撫でてくれていた。
ふと気がつくと自分の家のベッドの上で、普段通りの景色に悪夢が噓だったと思わせてくれるような清々しい朝だった。
いつの間にか兄に抱かれながら、眠ってしまっていたらしい。
包帯も外れていて、傷一つない姿で何事もなかったように起き上がると、制服に着替て兄様の部屋に向かおうとする。
デバイスから情報を引き出そうと現状の記事をありったけ、展開してみせるが結果は見るまでもなく悲惨であった。
街は生物兵器の影響で半壊し、防衛に当たった軍も三割程の人員が命をなくしていて、民間人の誘導先は無く、全員が常に危機に面している。
状況打破する為には、救世主のような存在が必要不可欠だった。
予想通りに兄様は、部屋で新型XUNISの二機を調整していた。
「兄様、おはようございます。先日は申し訳ありませんでした」
「カグヤか? おはよう。ぐっすり眠れたか?」
兄の言葉に頷いてみせると、調整していたと見られるデータに目を移す。
「これは正式な戦闘データのインストールですか? 稼動実験を行って日が浅いのに大丈夫なのでしょうか?」
それぞれの特性を含めた魔法術式の入力をする前の段階で止まっていたが、性質を合わせようにも兄様と私の専用データを内臓しなければならない。
固定登録を行うというところだが、まだ正式に操者デバイサーを決めていない事で問題になっていた部分を急激に仕上げている事に驚き、XUNIS各種の状態を見つめる。
「大丈夫なのでしょうか? 調整が上手くいっても奴らを掃討するには、それなりの火力だけでは心持たないかもしれません」
いつもならば疑いの目を持たずして、兄様の作品に期待を寄せていたが、今回の事情もあることから半信半疑の目を向けてしまう。
「緋天と蒼天も置物ではないのさ。奴らに対抗する為、コイツらの力がいる」
兄様が打ち込む端末に目を向けながら、私の考えていた通り、緋天と蒼天のそれぞれの持ち主、すなわち操者の登録はそれぞれの相性に合わせた形になった。
実験の結果を考慮して緋天は私が、蒼天は兄様が使用者として登録されるようだ。
「すいません...。私が不甲斐ないから蒼天の満足なデータも取れず、兄様のお役に立てないばかりに.......」
「いいのさ。カグヤのおかげで修正点も見つかった。何よりお前が無事であるなら」
兄の意向に応えたいと前線は自分が張れるように、調整を兼ねて使用魔法を全て緋天のスペックに合わせてもらう。
炎熱系加速型をコンセプトとした肉体強化を主にしてほしいと、無理を言って見直しを入れながら再度インストールをしていく。
実験用のスーツに着替えると、調整の終わった緋天を持ち上げて魔力の循環を行っていく。
データの容量が多かったのか、身体がいつも以上に重い。
これも緋天を扱うのに必要な枷だと割り切りながら、実験室へ最終調整を行う為に入っていく。
「緋天これからもよろしくね?」
『Yes my master.』
緋天からの返答を確認しながら、以前よりも握った時の馴染みが良くなっている。
兄様が今までのデータを元に私が戦いやすいスタイルに変更してくれたのだろう。
「起動実験を行う。落ち着いていけ、緋天に振り回されないようにお前が、魔力の暴発を防がなくては意味がないからな?」
魔力を送り過ぎると熱暴走オーバーヒートに繋がり兼ねないのも分かっていたが、感情の高鳴りを抑える程の強い心で目の前の敵に立ち向かう自信はない。
出来る事といえば、全力で緋天を信じぬくことだけ。
「兄様、始めてください」
居合いの構えを取りながら、静かに刃先に魔力を込めようと意気込むが、目の前に現れた例の生物兵器にクラスメイトが引き裂かれた光景が甦る。
膝をついて口元を押さえながら、身動きが取れずに実験は中止という形になってしまう。
ホログラムの相手にすら立ち向かう事が出来ず、情けない姿を見せてしまった事を悔やみながらも近づいてきた兄様に目を向けながら、泣いてしまいそうになる。
「兄様すいません。何の役にも立てず私は......」
兄様に連れられて、調整用のベッドに寝せられると、ひんやりとしたタオルを目元に置かれて落ち着きを取り戻させようとしてくれた相手の優しさに甘えてしまうばかりになってしまう。
「いいのさ。あんなことがあった矢先に無理強いをさせた俺にも非がある」
兄様の手が私の頬に触れる。暖かくてこの手にいつまでも触れられていたいと、触れてくれた手を自分の手で覆う。
兄様は心配そうな笑顔を浮かべながら、ゆっくりと手を離して実験室へ向かっていく。
「次は俺の番だ。よく見ていろ? カグヤが不出来ではない事を今から証明する」
兄様の素質。つまりは魔法力面での蒼天と一致する点を伸ばしたスタイルは、相手を貫くのではなく内部から破壊するというコンセプト。
相手の体内に魔力で出来た酵素という概念を送り込んで、構造を捻じ曲げて爆破した際にその反動として、内側から外側に飛び出ようという反発を起こす。
人間相手なら数秒と掛からずに異界送りにさせられる魔法。
緋天に比べて防御がかなり手薄になる分、敵に囲まれた時の対処が問題となってくるのが不安である。
実験を執り行う際にEmergencyエマージェンシーという文字が画面に映し出されているのを確認する。
サンプルの生物兵器といえども衝撃などはリアルに設定されている。
それを数体同時であり、捕食されないとはいえ物理ダメージは計り知れない威力で受けてしまうことになるのだ。
「兄様! どうか止めになってください! 私の為にムキになる必要はないのですよ!?」
ガラス越しに兄様の姿を見つめながら訴えかける。
いくら兄様といえ、私が実験でミスをした蒼天の情報はない分、これで死ぬ確率もあると本人も気づいている筈だ。
それなのになんで......。
「よく見ていろ。俺からお前に捧げる誕生日プレゼントは痛みも苦しみも祝福ということだ。楽して得られる幸福は紛い物、そして逃げるな。
お前が現実と向き合えば道は開かれる。お前にはそれだけの力がある。そして、ちゃんと俺の背中を見て追い続けて来い!」
生物兵器が一斉に襲い掛かるも体勢を低くして、一体ずつに確実に真っ直ぐ見据えた視線で弾丸を撃ち込む。
見事といわんばかりに次々に目標を粉々にしてみせる。
こちらを見つめて、ゆっくりと微笑んでみせる兄様の姿に感動してそのまま実験室の中に入り込んで面と向かいながら、胸の前で両手をグッと握り込む。
「すごい......すごいです兄様!!!」
先ほどまで気を落としていたが、兄様の実験を見て感動のあまり声を上げてしまう。
「さすが私の兄様です! 私に扱えなかった蒼天で、こうも易々とやってみせるのですから!! 兄様、私にも稽古をつけてください! もっと兄様に近づきたいのです!!!」
負けてはいられないと、緋天を手に取り、兄様との有意義な訓練に打って出る。
兄様の勇姿にやる気を取り戻すことで、緋天でテストを行えなかったことも蒼天を扱えなかった自分の弱さも含め、まだまだこの先に続く兄様との先の未来を互いに助け合う為にと、私たちは今日も日々の鍛錬に励くむ。
月面襲撃から1ヶ月の月日が過ぎた。
月面都市も約半数が別の安置に旅立った矢先に、私は今日この日に卒業式を迎える。
些かな人数で少ないが、居なくなってしまったしまった人も含め、執り行う式典で私は学年代表として教壇の前に立つ。
「あの事件から1ヶ月経った今、こうして卒業を一緒に迎えられる皆さんを誇りに思います。悲しくて、挫けそうにもなりましたが私たちは、亡くなった方々に顔向けできる人生をこれから歩まなくてはなりません。
泣きたくなったら泣いてください。でも必ず、その後には笑顔になってください。それが私の望む最後の言葉です。皆さんもどうか元気で。卒業生代表、カグヤ」
一礼をした後に拍手が沸き起こる。式の終わりに全員が駆け寄ってきて、気持ちを伝えるように感謝の言葉が並べられた。
「姫、卒業してもずっと友達だからね?」
「勿論ですよ。相談事や会いたくなったら、連絡をください。」
笑顔で応えながら、門を出ていく生徒たちに手を振る。
月面都市の脅威は消えず、侵略を阻む為に日夜生物兵器の研究を進めているが、移民者が後を絶たないこの街には私たち兄弟がいる。
遠くない未来に命を落とすかもしれないし、いつまでも守っているだけでは現状は変わらない。
何かを変えなければならない為にも地上での拡大を防ぐ事が重要だろう。
私たちの進路は地球。
手に入れた力を行使できるなら、自分の力でみんなの未来を守っていきたい。
兄様は共に行く道は、険しいと言っていたが振り返らない。
私は一人じゃないから.......。
「兄様と二人なら、どこまででもいけますよね?」
「勿論だ」
私たちの決意は決まっている。揺るがない心と不屈の絆。何も怖いものなどない。
誓いを胸に地球を目指し、私たちは対策組織特殊XUNIS部隊アドヴェントとして降下して行くのであった。
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