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第54話 一歩進んだ関係
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翌日から、白花の館の誰もがクリストフを「殿下」とは呼ばなくなった。
クリストフの侍女であるエレナ、ローゼン公爵の侍従アルベルトや、その姉でエレナの教育係でもあるイルザも、クリストフのことを「クリス様」と呼んだ。
使用人達や近衛兵達にもそれが徹底されていた。
もちろんローゼン公爵も「クリス様」と呼んでくれた。
クリストフは決まりが悪くなり、また、王族ではないなどと言っておきながら命令などした自分を恥じて、館で人に会う度に謝罪した。
「ごめんね。殿下って呼んでもいいよ」
皆にそう伝えたが、皆が「クリス様」と呼び続けた。
エレナは押し花で作った栞をクリストフにくれた。エレナと親友の子爵令嬢は、友達の証として手作りの栞を交換したらしい。クリストフの瞳の色をイメージしたという赤い花が使われた栞で、クリストフは嬉しかった。
「でも、ご利用はお部屋の中だけに留めて下さい。あらぬ誤解を招きますから。もちろん閣下にご了承頂いておりますが」
エレナの言葉にクリストフは頷いた。
アルベルトは『友よ』という曲を作ったと言ってクリストフためにバイオリンで演奏してみせてくれた。
イルザは友人には本を贈ると言って「通貨の歴史」という本をくれた。財務部門に勤務するには必読の書ということだった。読んでみて眠くなったクリストフだが、巻末にある歴代の通貨の図の一覧はとても気に入った。
そしてローゼン公爵はと言えば——
「お一つだけですよ」
厳しい声がクリストフの手を止めた。
あれから、サムエル医師と相談の結果、連日大量のローゼン公爵の手料理を食べ続けたことがクリストフの昏睡状態を招いたのではないかと分析された。何故なら、毎晩手ずから入れてくれていたココアを飲んでも何の影響も出ていなかったからだ。
ココアに加護が付与されていなかったことも考えられるが、まずは慎重にローゼン公爵が作ったビスケットを一つだけ食べてみようという話となった。そして、ビスケット一つだけなら体が温まる程度で問題ないことが分かった。
調子に乗ったクリストフがビスケットを二つ食べたところ、ふくらはぎが痒くなったので、ビスケットは一つまでと決まった。二つ目からはシモーナ商会で購入したビスケットにすることとした。
一度に一つだけビスケットを焼く、ということ難しいため、消費できない分は館の他の人間達で分配されることとなった。
クリストフはこれには少し不満だった。
ローゼン公爵はクリストフの婚約者だから、ローゼン公爵がクリストフのために作ってくれたものは、当然クリストフだけのものだと思っていたからだ。
だが、ローゼン公爵があまりに真剣な顔でサムエル医師の説明を聞いているので、仕方なく従った。
そして今日、ローゼン公爵が運んできたビスケットの山に手を伸ばしたところ、先程のように叱責されてしまったというわけだ。
「分かってるよ」
口をへの字に曲げてローゼン公爵を見ると、彼はクリストフの体に湿疹などが出ていないか視線を走らせた
「大丈夫だってば」
ここまで心配されると、逆に面倒に感じてしまう。
あんな癇癪を起こしたくせに理不尽だとは理解しつつもクリストフはそう思った。
なにしろローゼン公爵はあれから毎晩、クリストフが眠りにつくまでベッドの側で見ているのだ。おまけに朝もローゼン公爵が起こしにくる。そして、クリストフが少しでもベッドでだらだらとしていようものなら、お小言を言われるのである。
だが、そこには嬉しい面もあった。
ローゼン公爵は寝る前にクリストフの頭を少しだけ撫でてくれるようになったのだ。
彼はおずおずと手を伸ばし、そっとクリストフの頭を撫でて、それから決まり悪そうに手を離すのだった。これにはクリストフは内心笑った。あの嫌味を言っているローゼン公爵の姿からあまりにかけ離れた姿だったからだ。
館の日常がさらにほんの少し変わった。クリストフはそのことが嬉しかったが、その反面自分を戒めた。
また子どもじみた行動で周りの人々を困らせたからだ。
自分が目覚めずにいた三日間、皆がどんな思いでいたか。どれだけ看病してくれたのか、その感謝よりも個人的な寂しさをぶつけることしか頭に浮かばなかったことを酷く反省した。
そして、反省を行動に移そうと、皆に感謝とお詫びの品を贈ろうと考えた。
ただ、クリストフの全財産は革袋に入った小銭だけだ。
魔道具で少しだけ稼ぐことができたはずだったが、考えてみればそのお金はどうなったのか分からなかった。
おそらくローゼン公爵が管理してくれているのだろうが、お金を下さいなどとは例え自分のお金であっても言い出しづらかった。
仕方なくクリストフはいつものように魔道具を作った。
エレナには、以前製作した灯り用の光る腕輪(第七話参照)を改造し、色とりどりの光が出るようにしたものを渡した。光量は宝石が煌めく程度に抑えた。
エレナは綺麗だと興奮して王宮の侍女やメイド達に見せて回ったらしい。回り回ってローゼン公爵家に出入りしているシモーナ商会から新商品にするので球状のものを作って欲しいという依頼がきた。
アルベルトには金属製の板を渡した。これに音符を書いた五線紙を載せると音が鳴るのだ。
その音色は散々苦労したが当座は鈴のような音色にしかできず、それを採用した。だが、面白がったアルベルトが昼夜を問わずにその板を試したために、ローゼン公爵がアルベルトを叱りつける事態になった。
そしてその後、誰の知り合いか全く分からない演奏家だという男がいきなり面会を求めてきたと思ったら、そこにクリストフの二番目の異母兄である第二王子のエアハルトも現れて、その板がいくつか欲しいと頼まれた。
これもシモーナ商会に生産を頼むこととなり、商会の営業担当であるウーゴに連絡することなった。
イルザにはペンの形の魔道具を作った。つけたインクの色を三種類ほどに変えられるペンだった。
黒いインクをつけてもボタンを押せば赤い色で記入できるため、驚いたイルザが友人だという王宮の文官にこれを教えて、王宮の事務部門各所から大量に発注されてクリストフはてんてこ舞いになった。
いつもの通りシモーナ商会に諸々の手続きを任せたところ、ウーゴが徹夜することになったらしく疲れたような顔で書類を持ってきた。
使用人達には困っていることはないかを聞き、恐縮して話すことができないものには既存の魔道具から好きなものを、相談があったものにはそれに応じたものを作って渡した。
もちろんクリストフはローゼン公爵にも何か作ろうと考えてた。だが、困ったことに一向に思いつかない。
そうしてクリストフは気が付いた。
ローゼン公爵がどんなものが好きで、何をするのが好きなのか、クリストフは全く知らなかったのだ。本人に聞こうとしても何やら気恥ずかしく、また他の誰かに聞くことも憚られ、何も行動できないでいた。
それもそのはずだ。何しろクリストフはあの癇癪を起こした時、ローゼン公爵のことを「俺の奥さん」などと言ってしまったのだ。
まだ結婚してもいないし、自分がそんなことを考えていたとは思わなかったのに、何故か口をついて出てしまったその言葉を今では大きく後悔している。
あのときの自分を思い返すたび、ベッドに飛び込んで頭から上掛けを被り、大きな声で叫びたくなる気持ちに駆られてしまう。朝食のパンに齧り付いているときだろうと、用を足している最中だろうと、真剣に本を読んでいるときだろうと、ところ構わずあの場面が不意に頭の中に姿を現して、クリストフの心を大いに揺さぶるのだ。
そうして、ローゼン公爵の姿を見てしまえば、肝心なことを聞く前にどこか彼方から「俺の奥さん」という自分の声が聞こえてきて頭を抱える思いになるのであった。
そんなある日のこと。
ローゼン公爵へのお詫びの品に頭を悩ませながら王宮の図書館にエレナと共に向かっていたクリストフは、何気なく目にした回廊の絵を見て大変なことを思い出した。
幸いの女神が建国時の戦いにて初代国王を導くその絵を見た時、クリストフは思わず「あっ」と声を上げた。
その絵の幸いの女神が、まさに母と一緒に夢に出てきたあの女性の姿だったからだ。
「クリス様、どうされました?」
「俺、大変な約束を忘れてた!」
夢の中に出てきた女性に、ビスケットを神殿に持って行くと約束した。そのことをすっかり忘れていたのだ。
しかし、その約束を守るためには、ローゼン公爵に神殿に持っていくためのビスケットを作ってもらわなくてはいけない。
しかも、神殿に捧げ物などしたことがないので、何をどのようにすればいいのかが分からない。
クリストフはローゼン公爵にすぐにでも話したいと思い、エレナに相談した。ところが、ローゼン公爵は城内にある王国統括部門で宰相補佐の仕事中だという。
「どこに行けばローゼン公爵に会えるの?」
「そんなにお急ぎなのですか?」
「うん……」
「でも、今はお仕事中ですので……」
「ローゼン公爵に会えないの……?」
クリストフは眉を下げた。そのしょんぼりとした顔に、エレナが慌てて答える。
「あっ、で、でも、クリス様でしたら大丈夫かもしれません! クリス様は王族で……あっ」
「いいよ。もう気にしてないよ。あれは俺が悪かったし」
「あの、クリス様は王族ですので、なんというか……色々な部署に出入りする権限をお持ちです」
「そうなの?」
「はい。王宮内で特に行動が制限される場所はございません。もちろん、事前に陛下方にお知らせが必要な場所もありますが」
「じゃあ、会いに行ってもいいかな?」
「普通は事前のお知らせが必要ですが、お急ぎなんですよね?」
「うん」
「それでは、行ってみましょう。難しいようであれば、閣下が何か仰るかと思います」
そして二人は王宮内の書庫へ向かう道を変え、王国統括部門を目指すことになった。
クリストフは、急な来訪に迷惑をかけてしまうかと申し訳なく思いつつも、少し胸がわくわくした。
ローゼン公爵の働いている姿を見ることができる。しかめっ面で書類と睨み合いをしているローゼン公爵が頭に浮かんだ。
ローゼン公爵は一体どんな仕事をしているのか。そして、仕事場ではどのような態度をとっているのか。おそらく、いつもよりさらに偉そうな態度に違いない。
高揚してきた気分で目指した先に、王国統括部門の重そうな扉が見えてきた。
クリストフの侍女であるエレナ、ローゼン公爵の侍従アルベルトや、その姉でエレナの教育係でもあるイルザも、クリストフのことを「クリス様」と呼んだ。
使用人達や近衛兵達にもそれが徹底されていた。
もちろんローゼン公爵も「クリス様」と呼んでくれた。
クリストフは決まりが悪くなり、また、王族ではないなどと言っておきながら命令などした自分を恥じて、館で人に会う度に謝罪した。
「ごめんね。殿下って呼んでもいいよ」
皆にそう伝えたが、皆が「クリス様」と呼び続けた。
エレナは押し花で作った栞をクリストフにくれた。エレナと親友の子爵令嬢は、友達の証として手作りの栞を交換したらしい。クリストフの瞳の色をイメージしたという赤い花が使われた栞で、クリストフは嬉しかった。
「でも、ご利用はお部屋の中だけに留めて下さい。あらぬ誤解を招きますから。もちろん閣下にご了承頂いておりますが」
エレナの言葉にクリストフは頷いた。
アルベルトは『友よ』という曲を作ったと言ってクリストフためにバイオリンで演奏してみせてくれた。
イルザは友人には本を贈ると言って「通貨の歴史」という本をくれた。財務部門に勤務するには必読の書ということだった。読んでみて眠くなったクリストフだが、巻末にある歴代の通貨の図の一覧はとても気に入った。
そしてローゼン公爵はと言えば——
「お一つだけですよ」
厳しい声がクリストフの手を止めた。
あれから、サムエル医師と相談の結果、連日大量のローゼン公爵の手料理を食べ続けたことがクリストフの昏睡状態を招いたのではないかと分析された。何故なら、毎晩手ずから入れてくれていたココアを飲んでも何の影響も出ていなかったからだ。
ココアに加護が付与されていなかったことも考えられるが、まずは慎重にローゼン公爵が作ったビスケットを一つだけ食べてみようという話となった。そして、ビスケット一つだけなら体が温まる程度で問題ないことが分かった。
調子に乗ったクリストフがビスケットを二つ食べたところ、ふくらはぎが痒くなったので、ビスケットは一つまでと決まった。二つ目からはシモーナ商会で購入したビスケットにすることとした。
一度に一つだけビスケットを焼く、ということ難しいため、消費できない分は館の他の人間達で分配されることとなった。
クリストフはこれには少し不満だった。
ローゼン公爵はクリストフの婚約者だから、ローゼン公爵がクリストフのために作ってくれたものは、当然クリストフだけのものだと思っていたからだ。
だが、ローゼン公爵があまりに真剣な顔でサムエル医師の説明を聞いているので、仕方なく従った。
そして今日、ローゼン公爵が運んできたビスケットの山に手を伸ばしたところ、先程のように叱責されてしまったというわけだ。
「分かってるよ」
口をへの字に曲げてローゼン公爵を見ると、彼はクリストフの体に湿疹などが出ていないか視線を走らせた
「大丈夫だってば」
ここまで心配されると、逆に面倒に感じてしまう。
あんな癇癪を起こしたくせに理不尽だとは理解しつつもクリストフはそう思った。
なにしろローゼン公爵はあれから毎晩、クリストフが眠りにつくまでベッドの側で見ているのだ。おまけに朝もローゼン公爵が起こしにくる。そして、クリストフが少しでもベッドでだらだらとしていようものなら、お小言を言われるのである。
だが、そこには嬉しい面もあった。
ローゼン公爵は寝る前にクリストフの頭を少しだけ撫でてくれるようになったのだ。
彼はおずおずと手を伸ばし、そっとクリストフの頭を撫でて、それから決まり悪そうに手を離すのだった。これにはクリストフは内心笑った。あの嫌味を言っているローゼン公爵の姿からあまりにかけ離れた姿だったからだ。
館の日常がさらにほんの少し変わった。クリストフはそのことが嬉しかったが、その反面自分を戒めた。
また子どもじみた行動で周りの人々を困らせたからだ。
自分が目覚めずにいた三日間、皆がどんな思いでいたか。どれだけ看病してくれたのか、その感謝よりも個人的な寂しさをぶつけることしか頭に浮かばなかったことを酷く反省した。
そして、反省を行動に移そうと、皆に感謝とお詫びの品を贈ろうと考えた。
ただ、クリストフの全財産は革袋に入った小銭だけだ。
魔道具で少しだけ稼ぐことができたはずだったが、考えてみればそのお金はどうなったのか分からなかった。
おそらくローゼン公爵が管理してくれているのだろうが、お金を下さいなどとは例え自分のお金であっても言い出しづらかった。
仕方なくクリストフはいつものように魔道具を作った。
エレナには、以前製作した灯り用の光る腕輪(第七話参照)を改造し、色とりどりの光が出るようにしたものを渡した。光量は宝石が煌めく程度に抑えた。
エレナは綺麗だと興奮して王宮の侍女やメイド達に見せて回ったらしい。回り回ってローゼン公爵家に出入りしているシモーナ商会から新商品にするので球状のものを作って欲しいという依頼がきた。
アルベルトには金属製の板を渡した。これに音符を書いた五線紙を載せると音が鳴るのだ。
その音色は散々苦労したが当座は鈴のような音色にしかできず、それを採用した。だが、面白がったアルベルトが昼夜を問わずにその板を試したために、ローゼン公爵がアルベルトを叱りつける事態になった。
そしてその後、誰の知り合いか全く分からない演奏家だという男がいきなり面会を求めてきたと思ったら、そこにクリストフの二番目の異母兄である第二王子のエアハルトも現れて、その板がいくつか欲しいと頼まれた。
これもシモーナ商会に生産を頼むこととなり、商会の営業担当であるウーゴに連絡することなった。
イルザにはペンの形の魔道具を作った。つけたインクの色を三種類ほどに変えられるペンだった。
黒いインクをつけてもボタンを押せば赤い色で記入できるため、驚いたイルザが友人だという王宮の文官にこれを教えて、王宮の事務部門各所から大量に発注されてクリストフはてんてこ舞いになった。
いつもの通りシモーナ商会に諸々の手続きを任せたところ、ウーゴが徹夜することになったらしく疲れたような顔で書類を持ってきた。
使用人達には困っていることはないかを聞き、恐縮して話すことができないものには既存の魔道具から好きなものを、相談があったものにはそれに応じたものを作って渡した。
もちろんクリストフはローゼン公爵にも何か作ろうと考えてた。だが、困ったことに一向に思いつかない。
そうしてクリストフは気が付いた。
ローゼン公爵がどんなものが好きで、何をするのが好きなのか、クリストフは全く知らなかったのだ。本人に聞こうとしても何やら気恥ずかしく、また他の誰かに聞くことも憚られ、何も行動できないでいた。
それもそのはずだ。何しろクリストフはあの癇癪を起こした時、ローゼン公爵のことを「俺の奥さん」などと言ってしまったのだ。
まだ結婚してもいないし、自分がそんなことを考えていたとは思わなかったのに、何故か口をついて出てしまったその言葉を今では大きく後悔している。
あのときの自分を思い返すたび、ベッドに飛び込んで頭から上掛けを被り、大きな声で叫びたくなる気持ちに駆られてしまう。朝食のパンに齧り付いているときだろうと、用を足している最中だろうと、真剣に本を読んでいるときだろうと、ところ構わずあの場面が不意に頭の中に姿を現して、クリストフの心を大いに揺さぶるのだ。
そうして、ローゼン公爵の姿を見てしまえば、肝心なことを聞く前にどこか彼方から「俺の奥さん」という自分の声が聞こえてきて頭を抱える思いになるのであった。
そんなある日のこと。
ローゼン公爵へのお詫びの品に頭を悩ませながら王宮の図書館にエレナと共に向かっていたクリストフは、何気なく目にした回廊の絵を見て大変なことを思い出した。
幸いの女神が建国時の戦いにて初代国王を導くその絵を見た時、クリストフは思わず「あっ」と声を上げた。
その絵の幸いの女神が、まさに母と一緒に夢に出てきたあの女性の姿だったからだ。
「クリス様、どうされました?」
「俺、大変な約束を忘れてた!」
夢の中に出てきた女性に、ビスケットを神殿に持って行くと約束した。そのことをすっかり忘れていたのだ。
しかし、その約束を守るためには、ローゼン公爵に神殿に持っていくためのビスケットを作ってもらわなくてはいけない。
しかも、神殿に捧げ物などしたことがないので、何をどのようにすればいいのかが分からない。
クリストフはローゼン公爵にすぐにでも話したいと思い、エレナに相談した。ところが、ローゼン公爵は城内にある王国統括部門で宰相補佐の仕事中だという。
「どこに行けばローゼン公爵に会えるの?」
「そんなにお急ぎなのですか?」
「うん……」
「でも、今はお仕事中ですので……」
「ローゼン公爵に会えないの……?」
クリストフは眉を下げた。そのしょんぼりとした顔に、エレナが慌てて答える。
「あっ、で、でも、クリス様でしたら大丈夫かもしれません! クリス様は王族で……あっ」
「いいよ。もう気にしてないよ。あれは俺が悪かったし」
「あの、クリス様は王族ですので、なんというか……色々な部署に出入りする権限をお持ちです」
「そうなの?」
「はい。王宮内で特に行動が制限される場所はございません。もちろん、事前に陛下方にお知らせが必要な場所もありますが」
「じゃあ、会いに行ってもいいかな?」
「普通は事前のお知らせが必要ですが、お急ぎなんですよね?」
「うん」
「それでは、行ってみましょう。難しいようであれば、閣下が何か仰るかと思います」
そして二人は王宮内の書庫へ向かう道を変え、王国統括部門を目指すことになった。
クリストフは、急な来訪に迷惑をかけてしまうかと申し訳なく思いつつも、少し胸がわくわくした。
ローゼン公爵の働いている姿を見ることができる。しかめっ面で書類と睨み合いをしているローゼン公爵が頭に浮かんだ。
ローゼン公爵は一体どんな仕事をしているのか。そして、仕事場ではどのような態度をとっているのか。おそらく、いつもよりさらに偉そうな態度に違いない。
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