(株)異世界召喚配達便

古道 庵

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仕事前の一服

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「五号車、スタンバイ」
「二十六号車、もう少しで着く」
「四十二号車、定位置に着いた」
無線からそれぞれの報告が入り、その騒がしさに思わず顔を顰める。

いつもオペレーターの女性の声しか流れないのに、滑舌の悪い陰気な男の声が次々に入って来るのは気分の良いものでは無かった。
それにしてもどれ程トラックがあるのだろうか。四十二号車って言ってたよな。


張り替えられすっかり綺麗になった愛車のフロントガラスを眺めつつ、缶に入ったエナジードリンクを喉に流し込む。

俺は十分前に指定位置のコンビニに着いており、怪しまれないためにもエナジードリンクやガムなどを買い込んでいた。
もう指で数えきれない程に仕事をしているので慣れはしたものの、さすがに殺人の前後に飯を食う気になれない。

精々、気を張れるようカフェインを摂取する程度だ。

異世界帰りした時は、数年前と比べてエナジードリンクのラインナップがやたらと充実している事に驚き、舌がすっかり薄味に慣れていたのもあって久しぶりに飲んだら病みつきになってしまった。

仕事の金が入った事もあり箱買いしてジュース感覚でがぶがぶ飲んでいたのだが、最近エナジードリンクによる悪影響が騒がれ、心配して控えるようにしていた。
それでも仕事の時だけは気付けの為に、一本だけ飲む事にしている。



「目標、ジムから出てきました。それでは打ち合わせの通りにお願いします」
小林さんの凛とした声が聞こえてきて、やはり聞くなら女性の声だなと内心頷き、了解と返す。

今回の作戦では様々な方向から波状的に追い詰める算段のようで、正直馬鹿馬鹿しく思えている。
しかし当の会社側は本気なようで上層部肝入りの作戦らしい。

「てか、そもそも何でトラックで轢かなきゃいけねえんだ?」

思わず浮かんだ疑問が口を突いて出てくる。別にトラックにこだわる必要なんて無い気がするのだが。

理由としては幾つかあると説明はされた。
まず、回収作業の際直接手を汚さないので罪悪感が薄まると。当人としては事故として脳内で処理できるので精神的な負荷が少ないと。……まあ、ここいらは疑問がある。
正直最初の頃は毎晩吐いてたし、轢いた連中の姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。

今でこそ鈍化してそれ程キツくなくなったが、自殺しかけた事だって何度もある。

次に、回収と配達の効率化だ。
殺害と魂の収集……これをまとめて”回収”と呼んでいるのだが、魂を回収する装置がコンテナ内に設置されている。
かなりの大きさがあるし、人手で持ち上げる事が敵わない程に重いこの装置を搭載する事で、回収から配達まで一挙に行えてしまうからという理由だ。

多分、これが最も理に適った答えな気がしている。



……でも、逃げ回る相手にトラックの物量作戦ってどうなのよ?

そこまで意固地になってトラックを使う理由があるのか?

まあ、俺もトラックに轢かれて送られたわけだが……


と、そこでアラームの電子音が鳴り響き意識が引き戻される。
仕事の時間だ。

ギアを入れてサイドブレーキを戻し、発進させる。

傍から見れば都内のナンバーが付いている、名前など知るわけがない配送業者のトラックに見えるだろう。

しかしその実、とんでもない数の人間を轢き殺している「血を吸うトラック」である事を誰も気付きはしない。
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