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「涼介、そこのビスの箱取って」
「おう」
「リョースケ君、ボード何枚か運んで来てもらえまス?」
「了解」
「涼介君、測り間違えてるよ」
「す、すみません」
「涼介、ゴミ掃いといて」
「わか……って、それ位自分でやれええええ!」
本日も気温三十度越えの炎天下の中、改装中の家屋の中で忙しく動き回る俺。
他の三人はそれぞれの作業に集中しているというのに、俺だけ使い走りのように扱われ汗だくになりながら母屋と長屋を往復している。
今日は日曜日で、皆で壬生さんのリフォームを手伝いに来ていた。
さすがに手が増えると早く、更に康平という主戦力を得て倍速で作業が進んでいた。
と、そこで点けていたラジオから時報が流れ、正午になった事を告げる。
「あ……お昼にしよっか。そうめんで良いかな?」
「いいッスね!」
「遠慮なくいただきます」
「うん、じゃあ長屋で休憩してて。涼介君、悪いけど椅子と扇風機出してもらえる?」
「あ、了解です」
壬生さんは俺の返事を聞くと頷き、汗と石膏ボードの粉に塗れたシャツを脱ぎつつ店の方へと消える。
「俺らも着替えるか、汗だくだ」
「ッスねー。まだ風が抜けてるからいいけど今日暑いッスわ」
と外に出ながらシャツを脱いで絞っている。
康平はさすが、細身ながらも引き締まった筋肉が付いた体つきで、普段から鍛えていると言っているだけの事はある。
匠はガリガリのヒョロヒョロではあるが、以前と比べると一回り大きくなった気はする。この数カ月の開拓作業の副産物だろう。
俺も不摂生だった昔とは見違える程体は締まった。以前は腹が出始めていたので悩んでいたのだが、すっかりヘコんでくれたので安堵している。
それぞれがシャツを干したり扇風機で涼んだりしていると、母屋の方から大きなお盆を持った壬生さんが現れた。
「おお! 氷で冷やしてあるんスね!」
「店にはいくらでも氷があるからね。さ、食べよう」
配膳を皆で手伝って席に着き、手を合わせてから各々箸を伸ばす。
「うーん。そうめん食べると夏だなーって思うわ」
「手軽だし冷たくして食べれるからいいよね」
「ウチも夏場はかなりの頻度でそうめんッスね。暑中見舞いでいっぱい来るんスよ」
「なるほど、康平んトコは付き合い多そうだもんな」
冷たくスルスルと入るそうめんに舌鼓を打ち、六人前はあった麺をペロリと平らげてしまった。
「ご馳走様ー、うう、もう食えねえ」
「匠は麺類になると何故か滅茶苦茶食うよな。他はそうでもないのに」
「好きなんだからいいだろ別に」
「へえー、匠君麺が好きなんスね」
「あとステーキだな。ほら、康平と始めてキャンプした時もさ」
「あー……あったあった。なんか意外っスね。もっとこうインテリな食べ物が好きだと思ってたッス」
「インテリな食べ物って何だよ」
他愛のない会話で笑い合い、穏やかな時間が過ぎていく。
「今日は皆来てくれてありがとうね。本当助かるよ」
話の合間を見て壬生さんが口を開く。
「いやあ、俺なんて涼介と変わんないんで。言うなら一番役に立ってる康平に」
「いやいやタクミ君こそ戦力ッスよ! 初めてなのに手際とか段取りがいいッスもん! リョースケ君と違って」
「なあ、お互い褒めながら俺をディスるのやめないか?」
結構グサグサ刺さるので本当にやめてほしい。
「とりあえず電気配線とかは終わってたけど、店のレイアウトの構想はあるんスか?」
何となしに康平が尋ねる。
「うん、一応あるよ。そこの壁を貼らないでって言った場所は後で抜く予定なんだ。反対側は店のテーブル席と通路に繋がってる」
「ほうほう。あ、でも間柱はいいけど柱は切らない方が良いッスよ。邪魔にはなりますけど、二階の床が落ちるかもしれないんで」
「そのつもりで考えてたけどやっぱりそうか。うん、綺麗に塗装してこのまま残すよ」
康平のこういう的確なアドバイスが出る所を見ると、改めて感心してしまう。馬鹿っぽいコイツの様子と大きく変わるのだ。
「テーブル席を三つ増やしてみる予定。カウンターはあのままだけどね。キッチンからの出入り口とレジを併設するんだ」
「そんでも反対側が結構空くよな。どうするつもりなんだ?」
すっかり慣れたからか、匠は壬生さんへも普通にタメ口で話すようになった。個人的にはどうかと思うが、懐の広い壬生さんは気にしている様子は無い。
「こっちは匠君のアドバイス通り、ちょっとしたショップを作ろうと思っていてね。主に置くなら酒類になるかな」
「キャンプ道具なんかも並べられたらいいけどなあ……でも、仕入れルート作るのが難しいか」
「僕にはその伝手が無いからね。涼介君や匠君はアウトドアショップの商品ルートなんかは分かる?」
「うーん、仕入れ問屋の話は聞かないからメーカー直接が多いとは思いますけど、その道筋の確立は……」
と、匠を見るとやはり考えこんでいるような表情を浮かべており、口を開く。
「……分からないな。寧ろ、オリジナルで制作しているキャンプギアを売る方がイメージは湧きやすいな。最近個人で立ち上げてる人が多いし」
「やっぱり僕には想像がつかない世界だね……うん、僕もキャンプにハマってみたら分かるかな」
壬生さんはお茶を一口飲み、首に提げたタオルで汗を拭う。
「まあ、最初は冷蔵ケースなんかを買って酒類や手作りの惣菜でも売ろうかなと思ってる。ニッコリマートさんと競合しないように気を付けなきゃね」
「別に気にしないと思うけどな」
「そうは言っても僕もお世話になってるからね。お互い気持ち良く商売したいじゃない。ニッコリマートさんで置かないような商品にしようと思うんだ。それに、酒については”魚屋(うおや)さん”に相談しなきゃな」
と、思わぬ名前が出て思わず椅子から体を滑らせてしまう。
「どした涼介?」
「い、いや……」
「ふふふー、リョースケ君に朗報ッスよ。”美晴(みはる)ちゃん”今も実家で働いてるッス」
頭を振るが、康平は不敵な笑みを浮かべて図星の名前を言ってくる。クソ、こいつ分かってたか。
「娘さんだよね、前はよく配達に来てくれてたけど最近は男の人がよく来てるな」
「……涼介のその反応、気になるな。何か知ってるのか康平」
「むふふー、魚屋酒店の美晴ちゃんはリョースケ君の同級生ッス。元カノッスよね」
「ちげーよ! 付き合ったりとかは……」
「へえ? 俺はその話知らねえな」
言っている筈が無い。別に話すような事じゃないからだ。
「その反応を見るに、片想いはしていたって所かな。それにしても初心だねえ、涼介君もう二十八でしょ?」
「うっ……いや、まあ初恋だったんで。でも俺も別に今まで彼女居なかったとかそういう訳じゃなくて」
「弁護するつもりないけど、大学時代は居たよな」
匠が出してくれた助け舟に少し安堵する。俺の近況を知る人物が居て助かった。
「でもよ、初恋未だに引き摺ってるのはちょと引くわ。ここに帰ってきたのも下心があったり?」
康平と同じように匠もニヤついてやがる。
「んな訳。事情は皆分かってんだろ。下心があるならそれこそ康平使って会う段取りぐらい付けるわ」
「それもそうか」
匠の返事を最後に、それ以上の追及が起きなかったので一息吐く。
綺麗サッパリ忘れた、は言えないのが正直な所だった。何せここで過ごした十年間、その青春の時間を共有した相手なのだから。
結局告白する事は叶わなかったが、あの当時の俺は風切村に戻るつもりなど無かったわけで。
それで良かったのだと蓋を閉じたのだ。
……まさかこんな形で帰郷する事になるなんてな。
人生どんな風に転ぶか分かったもんじゃない。
「因みに俺があえて今まで言わなかった理由があって、美晴ちゃん結婚してるッス」
「……え、あ。やっぱり結婚ぐらいしてる、よな」
「まあ田舎ッスからね、若い内に結婚しまスよ。あ、別に俺は美晴ちゃんと交流あるわけじゃ無いッスよ。村の商工会議所で顔合わせるぐらいで」
「旧い幼馴染でもそんな付き合いか。寂しいもんだよなあ」
「お互い歩く人生が違うッスからねえ。大人になるってそういうもんだと思いまスよ」
康平と匠の会話に、少しだけ意識が遠くなる感覚がある。
そりゃそうだよな、結婚の一つや二つしてるよな。いい歳だし。
そこでポン、と肩に手を置かれる感覚があり見上げると、壬生さんが困ったような表情を浮かべている。
どうやら気遣われてしまったようだ。
「……さて、そろそろ再開しようか。今日の内に出来るところまでやったら、皆でお酒飲もう!」
「いいッスね! 俺張り切っちゃうッスよ~!」
「汗かきまくってるからビールが美味いだろうな」
内心壬生さんに礼を言いつつ、皆立ち上がり母屋へと向かう。
「おう」
「リョースケ君、ボード何枚か運んで来てもらえまス?」
「了解」
「涼介君、測り間違えてるよ」
「す、すみません」
「涼介、ゴミ掃いといて」
「わか……って、それ位自分でやれええええ!」
本日も気温三十度越えの炎天下の中、改装中の家屋の中で忙しく動き回る俺。
他の三人はそれぞれの作業に集中しているというのに、俺だけ使い走りのように扱われ汗だくになりながら母屋と長屋を往復している。
今日は日曜日で、皆で壬生さんのリフォームを手伝いに来ていた。
さすがに手が増えると早く、更に康平という主戦力を得て倍速で作業が進んでいた。
と、そこで点けていたラジオから時報が流れ、正午になった事を告げる。
「あ……お昼にしよっか。そうめんで良いかな?」
「いいッスね!」
「遠慮なくいただきます」
「うん、じゃあ長屋で休憩してて。涼介君、悪いけど椅子と扇風機出してもらえる?」
「あ、了解です」
壬生さんは俺の返事を聞くと頷き、汗と石膏ボードの粉に塗れたシャツを脱ぎつつ店の方へと消える。
「俺らも着替えるか、汗だくだ」
「ッスねー。まだ風が抜けてるからいいけど今日暑いッスわ」
と外に出ながらシャツを脱いで絞っている。
康平はさすが、細身ながらも引き締まった筋肉が付いた体つきで、普段から鍛えていると言っているだけの事はある。
匠はガリガリのヒョロヒョロではあるが、以前と比べると一回り大きくなった気はする。この数カ月の開拓作業の副産物だろう。
俺も不摂生だった昔とは見違える程体は締まった。以前は腹が出始めていたので悩んでいたのだが、すっかりヘコんでくれたので安堵している。
それぞれがシャツを干したり扇風機で涼んだりしていると、母屋の方から大きなお盆を持った壬生さんが現れた。
「おお! 氷で冷やしてあるんスね!」
「店にはいくらでも氷があるからね。さ、食べよう」
配膳を皆で手伝って席に着き、手を合わせてから各々箸を伸ばす。
「うーん。そうめん食べると夏だなーって思うわ」
「手軽だし冷たくして食べれるからいいよね」
「ウチも夏場はかなりの頻度でそうめんッスね。暑中見舞いでいっぱい来るんスよ」
「なるほど、康平んトコは付き合い多そうだもんな」
冷たくスルスルと入るそうめんに舌鼓を打ち、六人前はあった麺をペロリと平らげてしまった。
「ご馳走様ー、うう、もう食えねえ」
「匠は麺類になると何故か滅茶苦茶食うよな。他はそうでもないのに」
「好きなんだからいいだろ別に」
「へえー、匠君麺が好きなんスね」
「あとステーキだな。ほら、康平と始めてキャンプした時もさ」
「あー……あったあった。なんか意外っスね。もっとこうインテリな食べ物が好きだと思ってたッス」
「インテリな食べ物って何だよ」
他愛のない会話で笑い合い、穏やかな時間が過ぎていく。
「今日は皆来てくれてありがとうね。本当助かるよ」
話の合間を見て壬生さんが口を開く。
「いやあ、俺なんて涼介と変わんないんで。言うなら一番役に立ってる康平に」
「いやいやタクミ君こそ戦力ッスよ! 初めてなのに手際とか段取りがいいッスもん! リョースケ君と違って」
「なあ、お互い褒めながら俺をディスるのやめないか?」
結構グサグサ刺さるので本当にやめてほしい。
「とりあえず電気配線とかは終わってたけど、店のレイアウトの構想はあるんスか?」
何となしに康平が尋ねる。
「うん、一応あるよ。そこの壁を貼らないでって言った場所は後で抜く予定なんだ。反対側は店のテーブル席と通路に繋がってる」
「ほうほう。あ、でも間柱はいいけど柱は切らない方が良いッスよ。邪魔にはなりますけど、二階の床が落ちるかもしれないんで」
「そのつもりで考えてたけどやっぱりそうか。うん、綺麗に塗装してこのまま残すよ」
康平のこういう的確なアドバイスが出る所を見ると、改めて感心してしまう。馬鹿っぽいコイツの様子と大きく変わるのだ。
「テーブル席を三つ増やしてみる予定。カウンターはあのままだけどね。キッチンからの出入り口とレジを併設するんだ」
「そんでも反対側が結構空くよな。どうするつもりなんだ?」
すっかり慣れたからか、匠は壬生さんへも普通にタメ口で話すようになった。個人的にはどうかと思うが、懐の広い壬生さんは気にしている様子は無い。
「こっちは匠君のアドバイス通り、ちょっとしたショップを作ろうと思っていてね。主に置くなら酒類になるかな」
「キャンプ道具なんかも並べられたらいいけどなあ……でも、仕入れルート作るのが難しいか」
「僕にはその伝手が無いからね。涼介君や匠君はアウトドアショップの商品ルートなんかは分かる?」
「うーん、仕入れ問屋の話は聞かないからメーカー直接が多いとは思いますけど、その道筋の確立は……」
と、匠を見るとやはり考えこんでいるような表情を浮かべており、口を開く。
「……分からないな。寧ろ、オリジナルで制作しているキャンプギアを売る方がイメージは湧きやすいな。最近個人で立ち上げてる人が多いし」
「やっぱり僕には想像がつかない世界だね……うん、僕もキャンプにハマってみたら分かるかな」
壬生さんはお茶を一口飲み、首に提げたタオルで汗を拭う。
「まあ、最初は冷蔵ケースなんかを買って酒類や手作りの惣菜でも売ろうかなと思ってる。ニッコリマートさんと競合しないように気を付けなきゃね」
「別に気にしないと思うけどな」
「そうは言っても僕もお世話になってるからね。お互い気持ち良く商売したいじゃない。ニッコリマートさんで置かないような商品にしようと思うんだ。それに、酒については”魚屋(うおや)さん”に相談しなきゃな」
と、思わぬ名前が出て思わず椅子から体を滑らせてしまう。
「どした涼介?」
「い、いや……」
「ふふふー、リョースケ君に朗報ッスよ。”美晴(みはる)ちゃん”今も実家で働いてるッス」
頭を振るが、康平は不敵な笑みを浮かべて図星の名前を言ってくる。クソ、こいつ分かってたか。
「娘さんだよね、前はよく配達に来てくれてたけど最近は男の人がよく来てるな」
「……涼介のその反応、気になるな。何か知ってるのか康平」
「むふふー、魚屋酒店の美晴ちゃんはリョースケ君の同級生ッス。元カノッスよね」
「ちげーよ! 付き合ったりとかは……」
「へえ? 俺はその話知らねえな」
言っている筈が無い。別に話すような事じゃないからだ。
「その反応を見るに、片想いはしていたって所かな。それにしても初心だねえ、涼介君もう二十八でしょ?」
「うっ……いや、まあ初恋だったんで。でも俺も別に今まで彼女居なかったとかそういう訳じゃなくて」
「弁護するつもりないけど、大学時代は居たよな」
匠が出してくれた助け舟に少し安堵する。俺の近況を知る人物が居て助かった。
「でもよ、初恋未だに引き摺ってるのはちょと引くわ。ここに帰ってきたのも下心があったり?」
康平と同じように匠もニヤついてやがる。
「んな訳。事情は皆分かってんだろ。下心があるならそれこそ康平使って会う段取りぐらい付けるわ」
「それもそうか」
匠の返事を最後に、それ以上の追及が起きなかったので一息吐く。
綺麗サッパリ忘れた、は言えないのが正直な所だった。何せここで過ごした十年間、その青春の時間を共有した相手なのだから。
結局告白する事は叶わなかったが、あの当時の俺は風切村に戻るつもりなど無かったわけで。
それで良かったのだと蓋を閉じたのだ。
……まさかこんな形で帰郷する事になるなんてな。
人生どんな風に転ぶか分かったもんじゃない。
「因みに俺があえて今まで言わなかった理由があって、美晴ちゃん結婚してるッス」
「……え、あ。やっぱり結婚ぐらいしてる、よな」
「まあ田舎ッスからね、若い内に結婚しまスよ。あ、別に俺は美晴ちゃんと交流あるわけじゃ無いッスよ。村の商工会議所で顔合わせるぐらいで」
「旧い幼馴染でもそんな付き合いか。寂しいもんだよなあ」
「お互い歩く人生が違うッスからねえ。大人になるってそういうもんだと思いまスよ」
康平と匠の会話に、少しだけ意識が遠くなる感覚がある。
そりゃそうだよな、結婚の一つや二つしてるよな。いい歳だし。
そこでポン、と肩に手を置かれる感覚があり見上げると、壬生さんが困ったような表情を浮かべている。
どうやら気遣われてしまったようだ。
「……さて、そろそろ再開しようか。今日の内に出来るところまでやったら、皆でお酒飲もう!」
「いいッスね! 俺張り切っちゃうッスよ~!」
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