風切山キャンプ場は本日も開拓中 〜妖怪達と作るキャンプ場開業奮闘記〜

古道 庵

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「うお、魍魎達が全員集合だなこりゃ」
小鳩ぐらいの大きさの二等身の小人達がずらりと半円を描いて最前列に並んでいる。
そう言えばここに来た頃はもっと小さかった気がするのだが、こいつらデカくなってないか?

魍魎達の後ろにある倒木に、他の妖怪達や壬生さんと匠が腰掛けている。康平は気になるようで、立って並んでいる魍魎達の後ろへと並ぶ。
俺は座りたかったので手近な椅子が無いかと探していたら、天狗ちゃんが隣空いてますよと手で指し示したのでありがたく腰掛ける。

「間に合いました。丁度今から始まります」
顔を寄せて天狗ちゃんが小声で伝えてくれたので「良かった」と頷く。

シャン、と沢山の鈴が一斉になるような音が耳に届き、思わず顔を上げる。
広場の中央、妖怪達の憩いの場となっている古木の上。

夕陽の最後の一欠片が差す古木の頂上に、彼女は居た。
全身に植物の蔦を這わせたドレスのような衣装を身に纏い、桜の花弁を模した葉の面を着けた魍魎。

普段、魍魎達の性別など分からない。
何せ二頭身だしどいつもこいつも幼児のような腹の出た体型に短い手足、その上に面を着けた大きな頭が乗っている姿なのだ。
なのに何故”彼女”と表現したのか。

それは、彼女が二頭身では無く八頭身はある姿であり、女性的なシルエットの体型をしていたから。
古木の大きさと比較するに、身長はかなり低い。精々、俺の膝に届くか届かないかぐらいだろう。
だが俺の知る魍魎とは、もっと言えば俺が見た事のある木花とは大きく姿が違った。唯一彼女が木花だと分かるのは、顔をミステリアスに隠す面にその面影がある程度だ。

シャン、と再び鈴の音が鳴る。
手を振ったのだ。

よくよく見れば、両手の手首の辺りに小さな花飾りが付いたブレスレットがある。そしてそれは足にも巻き付いていた。

「鈴蘭です。木花が付けると本当に鈴の音が鳴るんです」
思考を読み取ったのか、天狗ちゃんが説明してくれる。まあ、聞いたところで仕組みが分からないが。

彼女を照らす最後の陽の光が消え、夕陽が完全に沈んだことが分かった。急速に辺りが暗くなり、夜の帳が降りる。

静寂。
温い夜風が髪を撫でていく。

皆が何も言わず、ただ見つめている。

シャン。
また腕をひと振り。

それを皮切りに、木花は大きく動き出す。手足の鈴を鳴らしながら、古木の縁をステージに駆け、跳ね、振り、舞う。
心地よい鈴の音をBGMに、孤独な舞を繰り広げる。

水彩のような淡い紫色の空を背景に踊るその姿は美しい。
魍魎とは思えない程柔らかに、そして鋭く舞う木花は、目を離せない魅力がある。

だけど。

「ただの踊り……だよな」

思わず口にしてしまうが、何というかただ適当に踊っているようにしか見えない。

「まだ始まったばかりですよ、まあ見ててください」
無遠慮な俺の言葉に少し眉を顰めながら、尚も天狗ちゃんは小声で俺に話しかける。

木花の舞は相変わらず続いている。
微かに、前方が揺らめいているかと思えば、前列の魍魎達が木花に合わせて体を揺らしているようだ。

かれこれ二十分程は見ているが、体を揺らす魍魎達以外に変化は無い。他の妖怪達はどこか楽し気にしているように見えるが、康平や匠はもう飽きている様子だ。
気持ちは分かる。
鈴の音と蔦が擦れる音、そして跳ねる足音だけしか聞こえないこの場に、少し退屈してしまう。

木花の踊りは凄いが、単調であるとも言える。人間向けのエンターテイメントでないのだから当たり前の話だが、妖怪達はこれを楽しみにしていたのだろうか。

酒でも取りに行こうと思い、匠が運んだクーラーボックスへと足を向ける。

「なあ涼介、どう思う?」
「どう思うってもな……」
ボックスの横に座る匠の問いに、苦笑で答えるしかなかった。匠と言えばビールを片手にタバコを燻らせている。

特に返事は曖昧にしたまま、屈んで蓋を開けようとした時ふと違和感を覚えた。
ここらの草って、こんなに伸びてたっけ? 何度か踏んでいたのでぺったんこだった筈。
しかし今はボックスの底が草に埋もれている。

「おい匠、これって……」
と言いかけた時、ステージたる古木を見ている匠が驚いたように呆けた表情になっており、俺の声が届いていないのが分かる。
釣られてその視線を追うと、舞を繰り広げる木花に変化が起きていた。

身体が淡い暖色の黄色に包まれており、舞台からも光の粒子が立ち上りふわりと浮き始めている。
共に揺れていた魍魎達の動きも激しくなっており、思い思いの下手な踊りを披露している。

他の妖怪達も手拍子を打ったり身体を揺らしたりと楽しむ中、甲高く透き通った歌声が広場を切り裂く。
声の主は山彦だ。
日本語のようであるが古い言葉なのか、何を言っているかは聞き取れない。ただ、響の歌声で一層木花の動きが華やいでいく。

古木から立ち上る光の粒子が広がり、俺の足元からも淡い燐光が蛍のように舞い始めるので思わず後退りする。
その時足に当たった光は俺に触れると静かに霧散し、細かな粒子となってやがて消えていく。

響の歌声と鈴の音、妖怪達の手拍子や掛け声、魍魎達の踊りによる足音や擦れる音、風の揺らす草木の音、そしてどこからか虫の鳴き声も合わさり、木花の孤独なステージだったものがいつしか様々な音が重なり混じり、光も相まって幻想的な光景へと変貌した。

木花の動きはより激しく、伸びやかなものへ。
響の歌声はより高く、美しいものへ。
合わせる妖怪達も歌い始めたり踊ったり、より楽し気に自由に。
呼応するように光は大きく、力強いものへ。
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