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「うー……痛ってえ。足攣った」
今朝の目覚めは最悪だった。右足に違和感を覚えたかと思った刹那、強烈な痛みが走り意識が覚醒したのだった。
ふくらはぎの辺りだ。足を折り曲げ手で足首を押さえ、コットの上で転がる。
少し痛みが落ち着いた所で起き上がろうとすると、全身がビキビキとひび割れるような感覚に襲われる。
どうにも至る所が筋肉痛のようだ。腕や足は勿論、腹筋や背中も強張っている。
「慣れない事したからなー……」
のそのそと這いながら呟く。結局昨日は日を跨ぐ頃まで一緒に踊っていた。時々休憩していたものの、休んでいると誘いに来る連中が手を引いていくのだ。
そして場所を広場だけでなく、敷地内の様々な場所に変えながら舞の祭りは続いていた。
木花に手を取られた時は再び魍魎達の鋭い視線を感じたものだ。天狗ちゃんに聞いたのだが、魍魎達の間で木花はかなりの人気者らしい。
その人気は一種のアイドルのようなもので、皆が木花を慕っているようだ。
思えば、偽九尾事件の時魍魎達を避難させた際、木花を守るように魍魎達が囲んでいた気がする。
そして何故かあの晩、俺が木花に気に入られたらしかった。下手クソな踊りが気に入ったのか、これまでの開拓や付き合いからなのかは分からないが、とにかく木花は他の者に見せない気遣いを俺にしたらしい。
他の魍魎達はそれが気に喰わなかったようで、あの異様な睨みをしてきたのだ。
なのでちょっと今日は魍魎達に会うのが怖い。
普段は一緒に遊んだりもする仲なのだが、漏れなく全員に睨まれていたのでどう思われているのか分からない。
さながら、仲の良い友達と喧嘩別れした次の日のような気分だ。
ロープのテンションを緩め、下ろしていたタープを上げてポールを差し込む。
朝の涼やかな風が通り、心地いい。
「おざーッス、リョースケ君」
「おはよ、やっぱ康平は早起きだな」
「暑くてなかなか寝付けなくて。結局外で寝てたんスよ」
康平のテントはしっかりと熱を溜め込んでいたようで、下のスカート部分を上げたり色々と試していたようだがやはり寝苦しかったようだ。
冬場はとても良いテントなのだが、夏に使うのは厳しいようだ。
「にしても汗だくッスねえ。早く風呂入り行きたいッス」
「同感。寝る前着替える時体拭いたけど、頭も身体もベタベタだよな」
「あんだけ踊ったり騒いだりしたッスからねえ。やっぱここ温泉引きましょうよ!」
「いいねえ、温泉。でも今は川だな」
バキバキの体を伸ばしつつ、朝陽に向かって深呼吸。
うん、やっぱここの空気は美味いな。
「さて、朝飯の準備でもすっか」
「うッス!」
まだ朝六時を回る前、匠と壬生さんは寝ている様子だし先に準備だけでもやっておこう。
「お、まだ氷残ってるッスよ!」
「そっか、アイスコーヒーでも作るか」
「是非是非! この前のコーヒー美味かったからなー」
「今回はまた違う豆だけどな。アイスの場合は氷で薄まるから、苦くて濃い方が合うんだ」
「へー。まあ、お任せするッス!」
「はいはい」
今日は人数が多いので数が作れる物がいい。一応、八枚スライスの食パンを二袋持ってきていた。
「またジ〇リ飯ッスか?」
「いいや、きょうはこれを使う」
と取り出したのは二つの角型フライパンが合わさった形状の調理器具だ。
「ホットサンドメーカーだ」
「ああ、ウチに電気式のやつあったッス! 母ちゃん全然使わねッスけど」
「じゃあ話は早いな。そこらから中に入れる具材になりそうなの掻き集めてくれ」
「あ、ちょっと面白そうッスね!」
昨日のたこ焼きのように、中身が分からないホットサンドを作ろうという腹積もりだ。一枚の食パンが半分に閉じられる形状のホットサンドメーカーなので、切って割っても中身は見えない仕様だ。
今朝用の中身の食材も当然あるが、昨日の残りも色々とある。なのでそれらを使って消費してしまいたい。
「……で、なんでかき氷シロップ持ってくるんだ?」
「え、違うッスか?」
うん、違うな。具材じゃねーだろ。
康平の天然ぷりに呆れつつ、結局探す役はほとんど俺がする事になった。
「壬生さーん、ごはんですよー」
「うう、早くない……? まだ八時なってないじゃない……」
匠は作っている最中に起き出してきて、色々と文句を垂れながらコーヒーの担当になった。
それから朝食を全て作り終えたのでなかなか起きてこない壬生さんを起こしに行くと、不機嫌そうな声を発しもぞもぞと転がっている。
普段夜の仕事をしているので朝が弱いらしい。手伝いに行く時もいつも十時以降の時間設定だったのは、それが理由か。
「飯冷めちゃうんで早く来てくださいね」
「分かったよ……あー、体痛い」
やはり声に機嫌の悪さが出ているが、起きてくれるようだ。体を起こし腕を回したり首を回したりしている。
「腹減ったッス! マスター早く早く!」
「皆元気だね……? もうちょっとゆっくりしようよ」
「マスター、キャンプの朝は早いのが基本だからよ。起きてからゆっくりするんだ」
「僕は寝てゆっくりする派なんだけど……」
むにゃむにゃとまだまだ眠そうな壬生さん。普段きっちりと凛としているので、ここまでふやけた姿を見るのは初めてだ。
壬生さんの弱点は朝、か。
今朝の目覚めは最悪だった。右足に違和感を覚えたかと思った刹那、強烈な痛みが走り意識が覚醒したのだった。
ふくらはぎの辺りだ。足を折り曲げ手で足首を押さえ、コットの上で転がる。
少し痛みが落ち着いた所で起き上がろうとすると、全身がビキビキとひび割れるような感覚に襲われる。
どうにも至る所が筋肉痛のようだ。腕や足は勿論、腹筋や背中も強張っている。
「慣れない事したからなー……」
のそのそと這いながら呟く。結局昨日は日を跨ぐ頃まで一緒に踊っていた。時々休憩していたものの、休んでいると誘いに来る連中が手を引いていくのだ。
そして場所を広場だけでなく、敷地内の様々な場所に変えながら舞の祭りは続いていた。
木花に手を取られた時は再び魍魎達の鋭い視線を感じたものだ。天狗ちゃんに聞いたのだが、魍魎達の間で木花はかなりの人気者らしい。
その人気は一種のアイドルのようなもので、皆が木花を慕っているようだ。
思えば、偽九尾事件の時魍魎達を避難させた際、木花を守るように魍魎達が囲んでいた気がする。
そして何故かあの晩、俺が木花に気に入られたらしかった。下手クソな踊りが気に入ったのか、これまでの開拓や付き合いからなのかは分からないが、とにかく木花は他の者に見せない気遣いを俺にしたらしい。
他の魍魎達はそれが気に喰わなかったようで、あの異様な睨みをしてきたのだ。
なのでちょっと今日は魍魎達に会うのが怖い。
普段は一緒に遊んだりもする仲なのだが、漏れなく全員に睨まれていたのでどう思われているのか分からない。
さながら、仲の良い友達と喧嘩別れした次の日のような気分だ。
ロープのテンションを緩め、下ろしていたタープを上げてポールを差し込む。
朝の涼やかな風が通り、心地いい。
「おざーッス、リョースケ君」
「おはよ、やっぱ康平は早起きだな」
「暑くてなかなか寝付けなくて。結局外で寝てたんスよ」
康平のテントはしっかりと熱を溜め込んでいたようで、下のスカート部分を上げたり色々と試していたようだがやはり寝苦しかったようだ。
冬場はとても良いテントなのだが、夏に使うのは厳しいようだ。
「にしても汗だくッスねえ。早く風呂入り行きたいッス」
「同感。寝る前着替える時体拭いたけど、頭も身体もベタベタだよな」
「あんだけ踊ったり騒いだりしたッスからねえ。やっぱここ温泉引きましょうよ!」
「いいねえ、温泉。でも今は川だな」
バキバキの体を伸ばしつつ、朝陽に向かって深呼吸。
うん、やっぱここの空気は美味いな。
「さて、朝飯の準備でもすっか」
「うッス!」
まだ朝六時を回る前、匠と壬生さんは寝ている様子だし先に準備だけでもやっておこう。
「お、まだ氷残ってるッスよ!」
「そっか、アイスコーヒーでも作るか」
「是非是非! この前のコーヒー美味かったからなー」
「今回はまた違う豆だけどな。アイスの場合は氷で薄まるから、苦くて濃い方が合うんだ」
「へー。まあ、お任せするッス!」
「はいはい」
今日は人数が多いので数が作れる物がいい。一応、八枚スライスの食パンを二袋持ってきていた。
「またジ〇リ飯ッスか?」
「いいや、きょうはこれを使う」
と取り出したのは二つの角型フライパンが合わさった形状の調理器具だ。
「ホットサンドメーカーだ」
「ああ、ウチに電気式のやつあったッス! 母ちゃん全然使わねッスけど」
「じゃあ話は早いな。そこらから中に入れる具材になりそうなの掻き集めてくれ」
「あ、ちょっと面白そうッスね!」
昨日のたこ焼きのように、中身が分からないホットサンドを作ろうという腹積もりだ。一枚の食パンが半分に閉じられる形状のホットサンドメーカーなので、切って割っても中身は見えない仕様だ。
今朝用の中身の食材も当然あるが、昨日の残りも色々とある。なのでそれらを使って消費してしまいたい。
「……で、なんでかき氷シロップ持ってくるんだ?」
「え、違うッスか?」
うん、違うな。具材じゃねーだろ。
康平の天然ぷりに呆れつつ、結局探す役はほとんど俺がする事になった。
「壬生さーん、ごはんですよー」
「うう、早くない……? まだ八時なってないじゃない……」
匠は作っている最中に起き出してきて、色々と文句を垂れながらコーヒーの担当になった。
それから朝食を全て作り終えたのでなかなか起きてこない壬生さんを起こしに行くと、不機嫌そうな声を発しもぞもぞと転がっている。
普段夜の仕事をしているので朝が弱いらしい。手伝いに行く時もいつも十時以降の時間設定だったのは、それが理由か。
「飯冷めちゃうんで早く来てくださいね」
「分かったよ……あー、体痛い」
やはり声に機嫌の悪さが出ているが、起きてくれるようだ。体を起こし腕を回したり首を回したりしている。
「腹減ったッス! マスター早く早く!」
「皆元気だね……? もうちょっとゆっくりしようよ」
「マスター、キャンプの朝は早いのが基本だからよ。起きてからゆっくりするんだ」
「僕は寝てゆっくりする派なんだけど……」
むにゃむにゃとまだまだ眠そうな壬生さん。普段きっちりと凛としているので、ここまでふやけた姿を見るのは初めてだ。
壬生さんの弱点は朝、か。
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