第七王女の買い物係~仮面とダンジョンと二世界転生~

深田くれと

文字の大きさ
2 / 29

第二話 ダンジョン保有者たち

しおりを挟む
 卒業のために通っているけど、学校はあまり楽しくない。
 難しい試験になんとか合格し、実家から入学金を収めた手前、行かないわけにはいかない。
 でも、もう少し格差が無いものだと思っていた。
 登校初日の自己紹介の時間ですぐに分かった。

 女子が注目している男子は、
 ――親が有名なダンジョンを持っている。
 ――親がダンジョンをたくさん持っている。
 ――卒業前なのに、もうダンジョン管理者になっている。
 ――多くのダンジョン管理者と、つながりのある商家。
 の四つで、次点は「お金持ち」と「良い領地の出身者」だ。

 武器の作成を生業とする研究系や普通の農家などは、似たり寄ったりで、大差ない扱いだ。
 僕が「実家の所有ダンジョンが<クロマメノキ>だ」と説明した時の顔といったら、思い出すのも怖い。「なにそれ?」「マメ?」とか。

「やっぱ、今年は<ラピスラズリ>の坊ちゃん一択だよなぁ」

 皮肉に笑う隣人は、濃緑の短髪にピアスをしたカッツという男子だ。
 彼は「商家の長男」に当たるので、かなり注目されている。それでもナンバーワンの同級生にはプライドが刺激されるらしい。
「俺も在学中にでかい宝石系ダンジョンを手に入れてやりたいわ」と、荒っぽく椅子を揺らしている。

「それにしても、女子があいかわらず露骨すぎること。ハルマ、そう思わねえ? 俺ら空気じゃん」

 カッツの視線は、今しがた登校してきた茶髪のイケメン、ラールセンという男子に向いている。
 話に出た、実家が序列ぶっちぎり一位の「親が有名なダンジョンをいくつも持っている」系男子だ。宝石系はレアな上、数が少ないので高額で取引される。
 一つあるだけで、一生安泰だ。最奥でしか取れない宝石の塊はすごい価値があるらしい。
 ラールセンの長剣の鞘はラピスラズリを染料とした鮮やかな青で染まっていて、それがとても目をひく。
 家の力を見せつける意味もあるらしい。
 と、つり目で明るい茶髪の女子が、僕の前を通り過ぎ、カッツのそばに寄った。

「……ターニャか、なにかいるのか?」

 商家の息子、カッツが最初に使うのはこの一言だ。
 何でも用意してやるぞ、というプライドの表れだという。
 対して、ターニャはカテゴリー「お金持ち」という次点のグループに入る。

「赤い石が欲しいの。彼……好きらしいから」
「<アルマンディン>で良ければすぐ用意できる。透明度の高い赤い石だ。けど、学生のプレゼントにしちゃ高いぞ。実家の仕送りじゃどうにもならない程度にな」
「……クラスメイトのよしみで安くして」
「安くしたうえで、言ってるんだよ」

 カッツは譲らない。
「適正な価格を守る」のが商家の建前だとよく知っているからだ。もしそこを譲るなら、何か彼にとってのメリットを示さないといけないだろう。

「……じゃあいい」

 けれど、ターニャは言葉通りに受け取ってしまったらしい。
 今もラールセンを囲む女子の数は多い。その中で、何とかプレゼントを使って抜きん出ようとしたのだろう。
 そっけない態度で離れていく。
 執着心はあまりないのかな?

「ハルマってさ、商売やったことある?」
「あるわけないよ」
「そうなのか? 今、俺が考えたことが、わかったような顔してたのに?」
「何のことかわかんない」
「そっ、まあいいさ。お前んちは<クロマメノキ>だったよな。ダンジョンは大きい方か? 俺は金にこだわらないから、そこは勘違いすんな」
「……覚えとくけど、親のダンジョンだし、小さいから」

 カッツはにかっと白い歯を見せて笑う。
 一発ダンジョンを当てて、などと言ってるけど、彼の狙いはコネクションづくりなんだろうな、と思う。
 授業態度は不真面目だし、上位『探闘者』になろうという意気込みも見えない。産まれたときにマナと同調させたはずの武器の扱いも適当だ。
 でも、人の輪には積極的に入っていく。
 教室で最底辺の僕と話すのは彼ともう一人くらいだ。ラールセンを狙うターニャなんかは見向きもしなかった。


 ***


 食堂の利用も当然お金がかかる。
 授業料に含むと思っていたのに、別経営らしい。
 父さんのお弁当の話を聞いたときに、当然そうだと気付くべきだったのだ。
 昼のチャイムと同時に、ラールセンと取り巻きは早々に屋上に向かったようだ。
 一番眺めの良い場所で、手作りのお弁当。縁のない話だ。
 離れにある食堂を利用する生徒も、一人二人と消えていく。カッツも数人を連れてにぎやかに席を立った。
昼からの授業は一時間。気分は誰もが帰宅モードだろう。
 席が窓際なのはありがたい。がらんとした教室でパンを取りだした。
 学校に来るまでに買ったものだ。朝のパンとは種類が違って、ベーグルだ。適度な固さはおなかを満たしてくれる。
 角切りのベーコンを入れた種類が売られるようになって、ちょっと嬉しい。

「朝パン、昼パン……夜スープ。この状態で、誰かがハルマに好意を持ってくれると思うのか?」
「みんな先約があるんだ……」

 鼻で笑うような声が、ポケットの中から聞こえる。鍵のプニオンが、人がいなくなったのを幸いにしゃべりだした。

「寂しいって顔に書いてあるのに、よく意地がはれるよ」
「君には顔が見えないはずだろ」
「寂しいのは否定しないのか?」
「……いいんだ。僕には一応仕事があるし、ラールセンみたいに何人もいらない。たった一人でいいんだ」
「たった一人もいないじゃん」
「うるさ――」

 少し口調が強くなった瞬間だった。
 教室の扉ががらりと開いて、慌てて口をつぐんだ。
さっそうと入ってきて目が合ったのは長い橙色の髪を揺らす一人の女子生徒。アネモネという。「親がダンジョンをたくさん持つ」家の出で、ラールセンに匹敵する人気を持つ。男子の話題に上らない日はない。
もし結婚出来たら将来安泰、女性としても魅力的とかで。
 彼女は両腕いっぱいに飲み物を抱えていた。

「あれ? みんなは? ハルっち一人?」
「うん……ラールセンなら屋上だと思うよ」
「今日は、そっちじゃなくて、ユイっちのグループと昼食なの」

 彼女は「待っといてって言ったのに」と、ほおを膨らませて手近な机に飲み物をどさりと置いた。
 そのままこっちに近づいてくる。

「さっき、一人でしゃべってなかった?」
「……いや、しゃべってないけど」
「はい、嘘。ハルっちってよく独り言言ってるでしょ?」
「聞き間違いだと思う」
「訓練で失敗するたびに、しゃべってるよね?」

 僕の口が図星をつかれて止まる。
 プニオンのからかいに、いつも言い返しているのは本当だ。
まさか、アネモネに聞かれていたとは。
 すぐに軌道修正だ。

「今のはどこが悪かったな、って口に出して反省してるんだ」
「そうなの? 変わってるね。でも、独り言は多くない方がいいよ? 気味悪がる子もいるし」
「うん……ありがとう。って、アネモネはそれを言いに?」

 彼女が指をあごに当てて「それもあるけど」と考え込む。
 そして、一つ持っていた牛乳入りのビンをさし出した。

「パンだけだとのどが詰まるっしょ。余分に買ってあるから、一本あげる。ダンジョンの深めのとこで取れるやつ。売店のおっちゃん、うちの家と親しいからさ、感謝してよー」
「ごめん、僕はその……今はお金が……」
「だから、あげるって言ったじゃん」

 アネモネはけらけらと笑いながら、ビンを置いた。

「クラスメイトからお金なんてとらないよ」
「ありがとう……じゃあ、もらっとく」
「もう少し食べなきゃ、大きくなれないよ」

 お姉さんぶってそう言って、くるりと身を翻す。ほどいた長髪がふわりと揺れた。
 アネモネは発育がよくて身長が高い。たぶん僕を少し超えているだろう。

「じゃあね、ハルっち。たまには、みんなの輪に入ってきなよ」

 軽くてさっぱりした口調は誰に対しても同じだ。決して無理強いはしない。
 アネモネがこうやって気遣ってくれてなければ、最底辺の僕はラールセンのグループからいじめられていたかもしれない。
 その想像はきっと的外れじゃない。
 彼女はひらひらと手を振ってから、飲み物を抱えて教室を出た。
 扉の閉まる音と共に、
「うまい返しは一つもできなかったな」
 と、プニオンのからかいが聞こえたので、ポケットを一度たたいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...