嫌われドラゴンに転生しました~最恐邪竜が世界を癒す!?~

深田くれと

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憐れな敵よ。哀れな俺よ。

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 噛まれてます。
 右手首から先が見事にトカゲの大きな口の中に消えております。
 なぜ頭を撫でていたはずの手がこんなことになるんでしょうね?
 邪竜イハリスに噛みついたのは蜘蛛に続いて君が二匹目です。
 リィリによると毒持ちのトカゲだそうで。
 噛みついたまま、じわじわ毒を流し込むんでしょうか。

「あっ……」

 舐めたな。生暖かいものが手の甲を這っていった。
 舌の感触は、なかなかいいじゃん。
 案外つるって感じでいいわ。
 しかし――
 じゃれつくにしてはなかなか積極的な挨拶。
 上位種に対する初対面の挨拶なら顔をすり寄せるとかじゃないんでしょうかね?
 いきなり噛みつくってひどいやつめ。
 もちろん、それなりの対応を取りますよ。
 そもそも君の尻尾の先が必要だし。

「カナタ……それ、だ、大丈夫? 痛く……ないの?」

 ニナがまじまじと見つめている。
 なんだかんだ言いつつも俺の心配はしてくれるらしい。
 この意地っ張りめ。
 けど、心配は無用だ。
 俺の手の強度はドラゴンの時と大差ない。
 鱗こそないものの、こんなトカゲの歯ごときでは体に傷などつけられるはずがない。
 たとえ傷ついても超再生ですぐ治る。
 だから心配する必要はないのだ。
 ――リィリ、いつまでばたついてるんだ?
 俺がトカゲに噛まれたぐらいでどうこうなるわけないだろ?
 知ってるよな?

「そんなに心配するな……はっ!? …………いたた、あいたたた!」

 顔を一瞬のうちにゆがめた。
 やばい、やばいやばい!
 ――よく考えたら、こいつに噛まれて平然としてる俺は異常だ。
 人間をかみ殺せるトカゲなのに。
 何をのんきに舌の感触に感想述べてるんだか。つるっとしてるじゃねーよ。
 バカか。
 ニナの目の前で思いっきりやってしまった。
 心配するな、って微笑みかけちゃったかもしれん。
 あっ……リィリが笑いをかみ殺してる!? ひどいっ!
 俺の体は普通じゃない。ドラゴンなんだから当たり前だ。
 けど、ニナは知らない。
 リィリがずっとバタバタしてたのはこういうことか!
 気付くのおそっっ!

「いたたた、痛い、痛い……こ、これはかなり痛いぞー。トカゲめー、すごい力だ……ぬ、抜けないじゃないかー」

 こうなったら痛がるフリしかない。反応激遅のイハリスで押し通す。
 邪竜の演技力を見せる時だ。
 まだ挽回できる。ニナはたぶん気が動転してるはず。
 俺が痛がれば信じてくれるはず。
 盛大に痛がるぞ、イハリス!

「くっ……ニナっ、近付くなよ。このトカゲは危険なんだ。俺が痛がっていても絶対に助けようとは思うな。今、やっつけるから……見とけ、痛みに耐えて放つ魔法をっ!」
「うん……カ、カナタ、がんばれ」

 森に入ってニナの精神的な余裕が無くなったのか素直になっている。
 ……子供らしくていいな。
 そうだよ。純粋に心配とか応援するときはそんないい表情が出るんだよ。
 大人ぶってる時よりずっといいぞ。
 罪悪感ですごく胸が痛むけど、機転の利いた対応だった。
 ピンチをチャンスに変えるとはまさにこのこと。
 手を引っこ抜くだけでもいいけど、こうなったらちょっとかっこいいところ見せちゃおっかな……。

 ――よしっ! ここで魔法の出番だ。
 接触してるなら使えるもんね。

 ――ゼロ距離感知、対象はトカゲ! 威力は極小で。

 俺の想いを聞き入れるように、トカゲの頭部が内部から燃え上がった。
 内から突き破る炎の前には鱗など何の役にも立たない。
 悲鳴にならない悲鳴を上げ、赤らかに燃え上がる頭部を二度ほどぶるんと振ったところでトカゲの動きが停止した。
 しかし炎はまだ止まらない。
 全身を舐めるように広がると、さらに気勢をあげて、瞬く間にトカゲのすべてを燃やし尽くしたのだ。

「す、すごい……」

 ふふふふ。どうだ。ナイス魔法だろ。威力もばっちり押さえられていてこれ以上ない演出だった。
 ニナが真っ黒こげになったトカゲと俺を交互に見つめる。
 さっきまでとは打って変わって熱い視線を感じる。
 少し不安だったけど、魔法使って大正解だわ。大人のすごさを示せた。

「カナタ……じゅ、呪文は? 呪文はいらない……の?」
「えっ? じゅ…………? じゅもんっ!?」

 呪文っておいしいの?
 イハリスはそんなものいらないんですけど……。
 そういえば人間は必要だったね、呪文。
 呪文なしに魔法を使える人間は英雄だもんね。
 あー、ニナが興味深々の目をしています。
 いい加減なやつって言われた俺の答えを待っています。
 すごくいい感じなんですけど……もう魔法終わっちゃった。
 リィリは……うん。助けてくれそうにないな。ってかもうお手上げって顔してるし。ちょっと呆れてるかな?
 
 ……。
 …………。
 …………もう勢いだ。
 
「聖なる炎弾よっ!」

 俺はニナに見せつけるように銅剣を抜いて空に向けて掲げると、森に響き渡るような大声で呪文を唱えた。
 初歩のファイヤーボールの呪文ですが何か文句でも?
 もちろんゼロ距離プレイヤーの俺には何の効果もありませんよ?
 言ってみただけです。
 でも、これが大事なんです。

「カナタ? どうして今ごろ呪文を? 何も起きなかった……よね?」
「今のは……奥義ディレイスペルだ」
「でぃれい、すぺる? なんなのそれ?」
 
 ニナが更に目を輝かせて寄ってきた。
 もう年相応の子供に戻ってますね。
 冒険者に憧れでもあるんでしょうか。おもちゃを見つけたような純粋な瞳です。
 なお、俺の背中は後ろめたさで汗がだくだくと流れております。

「ディレイスペル――つまり遅延魔法だ」
「遅延魔法?」
「そうだ。トカゲに噛まれたからやむを得ず使ったんだが――魔法の効果を先取りし、遅れて呪文を唱える……これが遅延魔法だ」
「す、す、すごい……呪文を唱える前に使う方法があるんだ……じゃあトカゲはファイヤーボールで燃えたの?」
「……そうだ。呪文より先に魔法の効果を発動させたんだ」
「それ、私も使えるかな?」
「い、いや……これはかなりの修練がいる。俺くらい練習すれば……いや、たぶん俺にしか使えない技術だ」
「そうなんだ……」

 ニナがしょんぼりとうつむいた。
 自分もたぶん遅延魔法を使いたいのだろう。
 ……。
 …………。
 ――って使えるかっ! 使えるわけないだろっ!
 遅延魔法ってなんなの!? ディレイスペルって横文字にしてもダメだから!
 呪文より先に発動する魔法なんかこの世界はないでしょ。
 それなら呪文の意味ないから。なんで魔法発動したあとにわざわざ無駄な呪文唱えるのよ。
 逆はあるかもしれない。
 呪文を先に唱えておいて発動を遅らせるってあるでしょ。
 でも俺の遅延魔法はない……使い手は世界を見回しても俺一人だけだろう。
 超絶に無駄な呪文を唱える遅延魔法。
 誰も真似しない……はぁ、もう嫌。
 誰かつっこんでくれないかなー。
 トカゲに噛まれて奥義使う冒険者ってどうよ、とか。
 今思えば「呪文言ったけど聞こえなかったんじゃね?」で良かったのに。
 一番あせってるの俺だったね。
 おかげで盛大に自爆しちゃったわ。
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