嫌われドラゴンに転生しました~最恐邪竜が世界を癒す!?~

深田くれと

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未確認生物と出会いました

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 手首に巻いた濃緑のブレスレットを見てため息を一つ吐いた。
 何度見直しても『極貧の守護者』と書かれている。
 これはつらい。

「そんなことがあったんですね。ギルドに所属してから数年経ちますけど、ダレースさんの正体なんて全然知りませんでした」
「あのギルマス、次に会ったらぶん殴ってやる……」
「……『不屈の盾』が『極貧の守護者』だなんて……ふふふ……」
「リィリ? まさかと思うけど……」
「ち、違いますよ。別にさすがカナタさんだなーとかひどいこと考えてませんよ?」
「……ひどい」
「あっ……」

 あのセレモニーの後、とても本当のことは言い出せなかった。
 目にクマを作ったフェーンに無慈悲な返品ができるはずがない。
 それもこれも、おっさんが先走った指示をしたせいだ。
 好き好んで変な通り名を選ぶはずがないのに。

「まったくひどい目にあった。正体はばれるわ、変な通り名を押し付けられるわ……悪役までやらされかけるし……」
「それだけ、カナタさんの強さを信頼してるってことですよ」
「無駄な信頼はいらないから」
「でも、少なくとも隠ぺいには手を貸してくれるんですよね?」
「まあね」
「もしかしたら言わないだけで、カナタさんのすぐそばにいる私の正体も知られてたりして」
「どうだろ? そんな話は全然してなかったけどなー。それに、もし知ってたら脅迫材料に使いそうじゃない?」
「ギルマスってそんなひどい人には見えないですよ」
「いーや、あれはあくどいやつ決定。何考えてるかわかんないし」
「ほんとに悪い人なら、自分の正体を最初に明かしたりしないと思うけどなー」

 ……確かに。
 脅迫するだけなら自分の弱みは見せない方がいい。
 それさえ隠しておけば一方的に俺を手のひらで転がせた。
 だが、あいつは一連托生という道を選択した。俺がばらせばあいつも終わりだろう。今の地位にはいられなくなるはず。
 うーん。
 まあでも、近付かないにこしたことはないね。

「ただいまー」

 クリニックの扉を押し開け中に入ると、中に見慣れない人間が二人いた。
 一人目は騎士。
 黒い短髪を逆立てた濃いひげの男。鎧の肩部分にドラゴンの絵が描かれている。
 二人目も騎士。
 ブラウンの長髪を後頭部でまとめたポニーテールの女。同じく肩にドラゴンの絵。
 ソファに寝かされた女の側で、男が心配そうに膝を折って見つめている。
 そして、その二人の側にはルミル。
 こちらは相変わらず眠そうな目だ。
 どことなく心配しているように……見えなくもない。

「カナタ院長、帰った」
「ルミル……その二人は?」

 俺が声をかけると同時にひげの騎士がすっくと立ち上がる。
 かなり大きい。俺より縦も横も一回り上のサイズだ。
 威圧感たっぷり。

「君がカナタか。ルミルから話は聞いている。どんな大ケガでも治せるらしいな」
「……まあ、そうですけど……あなたは?」
「私はドラゴンナイト団長のレナード、そして……そいつが副団長のミイだ」
「ドラゴンナイトの団長と副団長? なるほど、ルミルつながりってことね」
「時間がないから単刀直入に言う。ミイのケガの治療をしてほしい。金は言い値を払おう」

 俺はレナードの視線に誘導され、横たわる彼女を一瞥する
 大怪我をおったというわけではなさそうだが、調子はひどく悪そうだ。
 顔が青白いのは病人特有のものか。

「ふーん。まあ治すのがうちの仕事だし、いいよ。じゃあミイさんを奥のベッドに寝かせてくれる? あっ、鎧も外してね」
「わかった」

 レナードがミイを持ち上げる形で立ち上がらせる。
 彼女の反応はあまり芳しくない。

「カナタ……治る?」
「見てみないとわからんけど、あの人、ケガっぽくないよな?」
「うん……」

 心配なのかルミルとリィリも続く。
 そして、診療スペースに全員が集まったところで、レナードが重い口を開いた。

「俺達はとある仕事をしていたんだが、罠にはまりかけてな……その結果ミイがこの状態だ。説明するより見てもらった方が早い」

 動けないほどに衰弱している彼女をうつ伏せにし、鎧と衣服を手慣れたものとばかりにレナードとルミルが脱がす。
 上半身が露わになる。
 そこには――

「なんだこれ? ミイって人間じゃないのか?」
「バカを言うな。れっきとした人間だ」

 彼女の背中は透けかけていた。
 見たままを言うなら――背中全面の皮を全部剥がした上から、水の膜でフタをしたみたいな奇妙な状態。
 一部は肉まで抉れているのか骨が見えかけている。奇妙なことに出血は無いが。
 予想の斜め上の症状だ。異世界特有の病気だろうか。

「ケガか?」
「分からん。だが、明らかに広がっている。最初は腰だけだったんだ。ミイが二度目に倒れた時にはここまで広がっていた……おそらく時間がない……」

 レナードが歯が割れそうなほどに大きな歯ぎしりをした。
 拳も強く握りしめられている。

「薬師には見せた。だが、どの薬も効果が無かった……」
「それで、ここに来たのか」
「ルミルが謹慎中に働き始めた話は聞いていた。正直うさんくさいと思っていた。だが……今はお前に頼るしかできん。……頼む……ミイを……」
「ミイはレナードの奥さん」
「ルミル……それは関係ない。俺はドラゴンナイトを預かる者として――」
「まあ細かいことはいいっていいって。俺が治せばいいだけでしょ? ミイさん苦しそうだし、さっさと始めようか」
「できるのか?」
「まあ、やってみましょ」

 背中の水の膜に片手を触れる。
 感触はゲル。
 温度はほどほど。

 ――感知。
 
 って、あっれ?
 この感覚は人間じゃないな。

「隠してないよな? ミイさんは人間で間違いないんだよね?」
「当たり前だ。なぜだ?」
「いや……ならいいわ」

 ということは、この触れてる物そのものが……魔物か。
 ゲル状の魔物。
 感知すると分かるけど、こいつ――人間の表面からじわじわ喰ってやがる。
 うわー、グロい魔物きたな。
 ……さて、どうするか。
 体はもちろん魔力まで吸ってるっぽい。
 放っとくとミイが死ぬな。
 魔力を自分の物にしながら体を喰う……寄生アメーバってところか。
 でも、心臓ないんだよな。アメーバなら核か?
 心臓ブレイクが使えん。燃やすわけにもいかないし。
 うーん……。
 それらしいところが見つからん。

「どうだ? 治せそうか?」
「そうだな、――おわっ!?」

 アメーバを退治する方法を考えていた時だ、突如、触れていた俺の手に這い上がってくる感触に怖気を感じ、手を引っ張った。

「どうしたっ!?」「カナタさんっ!?」
「ああぁぁっっーー」
「ミイっ!?」

 すると今までミイの背中の肉を補う形で貼りついていたアメーバが一気に剥がれ、みるみる間に出血が始まる。
 アメーバに広範囲が侵食されていたのだ、想像を絶する傷みが彼女を襲ったのだろう。
 死の間際を感じさせる悲鳴がその場に響き渡った。

「こいつっ!? ってミイが先かっ!」

 まるで獲物を切り替えたように俺にくっついたアメーバ。
 自分の右手を比べ物にならないくらいの勢いで這い上がってくる。
 目に見えるほどにそのスピードは早い。俺の魔力で活性化したか!?
 だが、先にミイを治さなければまずい。
 そう決心し、嫌悪感を無理矢理押さえつけ、左手を血みどろに変わった背中に当てる。

 ――感知……よし、人間だ。

 続けて魔力を込める。
 ミイの体が光るのと同時に、瞬間的に逆再生を見るように背中の肉が一気に作られ、そして綺麗な白い肌に戻っていく。
 真っ赤にただれたような皮膚も一瞬で回復した。
 糸が切れたようにミイの体が弛緩する。

「ミイっ!?」
「大丈夫。気を失っただけだ。無事治ったよ」
「ほんとか?」
「うん。ただ体力は戻ってないからゆっくり休ませた方がいい。良かったらうちの二階使ってくれてもいいよ。空き部屋あるし」
「……恩に着る……ところで、助けてくれたことには感謝するのだが……お前自身は……大丈夫なのか?」
「そうなんだよね……これどうしよっか?」

 右半身は完全に覆われちゃいました。
 しかも底なしの魔力を吸ってどんどん勢力を拡大中です。
 って、ほんとどうすんのよ。
 見境の無いアメーバめ。
 よほど邪竜は美味しいのか。
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