5秒後の廃棄者はゴミスキルで異世界を旅する

深田くれと

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024座る人

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「ついちー」

 彼女流の「ついたー」って言葉と共に、俺は湖畔でゆっくり下ろされた。
 前は放り投げられたので、仲間への優しさがあるね。
 しかもとてつもなく速い。

 湖畔は色とりどりの花が咲いていて、小動物がぴょこんと草むらから顔を出している。
 湖には魚影も見える。
 アルメリーが銀髪を靡かせながら風を浴びる。

「とっても気持ちいい。ここなら薬草もたくさんありそう。ほんとは私が治癒魔法使えたら、すぐ治せたんだけど」
「大丈夫ですよ」
「ナギはここで待ってて。私、薬草採ってくるから」
「あっ、アルメリー!」

 すぐにでも飛び出していきそうな彼女の背中に声をかける。

「前に、『倒す専門で薬草なんて見分けつかない』って言ってませんでした?」
「うっ……」
「一緒に行きましょう」
「でも、ナギ、足痛いでしょ?」
「軽く歩くくらいなら大丈夫です。アルメリーができないことは、俺がしますから――」

 さっき言われた言葉をそのまま返す。
 アルメリーが恥ずかしそうに「うん」と頷いた。


 ◆◆◆

 俺たちは湖畔から少し森に入った場所で立ち止まった。

「じゃあ、薬草を探します」
「座って探すの?」
「こっちの方がやりやすいので。あっ、数分経ったと思ったら起こしてください」
「……前にやってたトレーニングと同じ?」
「はい。これやると時間の感覚がイマイチわからなくなってしまって……」
「危険じゃない?」
「大丈夫です。加減できるように色々と練習しましたから」

 心配そうな顔をするアルメリーに、大丈夫、ともう一度告げる。
 そして、俺は目を閉じて瞑想空間に意識を集中する。

 アルメリーを助ける為に、《強感力》は随分鍛えた。
 セレリールの祝福もあり、その力は《共感力》へ派生し、《狂感力》にも広がった。

 ただ、《強感力》は意識を集中しないと範囲を広げられないし、《共感力》や《狂感力》は使うだけで目の奥と頭が強烈に痛む。

「ナギっ、ナギっ!」
「あっ、もう経ちました?」

 アルメリーの揺さぶりと大きな声で我に返る。
 集中すると無防備なので仲間がいないと使えないおまけ付きだ。

「大丈夫? 汗かいてるよ」
「この技、周りが見えなくなるみたいで。ってそんなことより、あっちに質の良さそうな薬草が数本あります」

 アルメリーに引っ張って起こしてもらう。
 二人で少し奥に進む。

「これです」

 目星をつけた場所で、その薬草はすぐに見つけた。
 ナユラさんに渡したものと同じ、金色のオーラを放つ薬草が数本。
 もう少しストックしておきたいので、再びその場所に座り込んで《強感力》の範囲を広げる。

「ナギっ!」
「あっ……ごめん、次はあっちです」

 立ち上がろうとして、膝に力が入らず前のめりになった。
 横からさっと腕が伸びてきて、支えられる。
 剣呑な表情のアルメリー。

「どうかしましたか?」
「ナギの治療のためなのに、ナギがそれでふらふらしてたら意味ない」
「それは……確かに……」
「もうこれで終わりだからね」
「ごめん」
「謝るのもダメ! 仲間なんだから、頼ってよ。苦手だけど……薬草だって探すし」

 アルメリーが頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いた。

 ――反省します。

 俺たちは結局、十数本の薬草を手に入れて湖畔に戻った。

「薬草ってどう使うんですか?」
「こうするの」

 アルメリーは一本の薬草を手に取り、ぎゅうぅっと片手で絞った。
 拳を握り込むんだだけだ。
 しかし、手首に流れてきた緑色の液体を指ですくって俺の足に塗った瞬間――

 とんでもない速度で傷が消えた。

「すごっ!」「すっごーい!!」
 「「え?」」

 同じテンションの声が重なった。
 慌ててアルメリーと顔を見合わせる。
 そして、吹き出すような笑みを零した。

「なんでアルメリーまで驚いてるんですか? 薬草知ってますよね?」
「だって、こんなに早く治ったの初めて見たもん。いつもは血が止まるくらいなのに……一瞬でケガが消えちゃった……すごい」

 しげしげと足先を眺めるアルメリーは本当に驚いている。
 やっぱり金色のオーラは特別製なんだろう。
 しんどいけど探す価値があるな。
 これからのケガの為に、見つけたらたくさんストックしておこう。

「ナギの座る人ポーズのおかげだね」
「座る人ポーズ……あの、ポーズじゃなくて、一応ちゃんとしたスキルを使ってるんですけど……」
「知ってるけど、いつも寝てるみたいに動かないから可愛くって。何しても起きないし」
「……起きない? まさかと思いますけど、変なことしてないですよね?」

 アルメリーがびくっと体を強ばらせた。
 この人狼娘は嘘が下手だ。
 嫌な予感が走り抜ける。
 ジト目を向けると、アルメリーがさっと視線をそらした。

「し、してないよ」
「ほんとに?」
「ほんとだもん! 別に変なことは……してないし」

 ぽしょぽしょ言うアルメリーをじぃっと見つめると、彼女は居心地悪そうに身をよじった。
 けれど、これ以上の追求は無理そうだ。
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