スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと

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激震走る

 冒険者ギルドの応接室で、ダレースは身を縮こまらせた。
せいぜい六人程度しか入らない狭い部屋に、ギルド側が三名。客が最重要人物一名と護衛七名とリリアーヌ。明らかに定員オーバーだ。
元々この部屋では人に聞かせられない話が多いが、今回は特にひどい。対面に座る人物の険しい表情が相まって、室内の空気がどんより重い。

「ダレース、もう一度言っていただけますか?」
「もちろん申し上げます。『原初の黒竜は、冒険者サナトの召喚モンスターとなりました』」
「嘘では……ないのですね?」
「このような嘘をついてどうなりましょう」

 ダレースは厳めしい表情で、ディーランド王国国王ハヅキ=レイナを見つめ返した。
即決即断の国王と、評判の高いレイナの視線が珍しく彷徨っている。目を丸くし、テーブルに置かれた報告書に視線を落とし数分。彼女は息を止めていたのではと思うほどに、深いため息をついた。
 ダレースは彼女の心中が痛いほどに理解できた。カルナリアは称賛していたが、国のトップともなれば、諸手を挙げて喜んでばかりいられない。
 端的に言えば、これは国の命運がかかった岐路だ。
 昨日、サナトの<時空魔法>でギルドに戻ってきたダレースは、早々にペンを走らせ、最速で報告書を送った。忙しいレイナだ。城に呼び出されるのは早くとも三日はかかるだろう。その間に、情報を整理して――などと考えていた矢先だった。
 国王専用の馬車が翌日の早朝にギルドにやってきた。
「報告書の詳細を聞きにきました」
 レイナは一言告げた。依頼を探していた冒険者やギルド職員は見事に浮足だった。名実ともに最強と噂される絶対の国王が、まさか少数の護衛と次代の国王候補を連れて乗り込んでくるなど考えてもいない。
ダレースも溜まっていた書類を職員に返し終えたところで、顔すら洗っていなかったのだ。

「詳細は不明ですが、原初の黒竜は悩みがあったと……それをサナト殿が解決したために、召喚モンスターとして下ったと……聞いております」

 重苦しい雰囲気に耐えかねて、ダレースは言った。
 レイナの瞳がすうっと鋭くなる。

「サナトはフェイト家と繋がりがありましたね。ダレース、どの程度の繋がりか分かりますか?」
「聞き及んでいるのは、アズリー嬢がご自分のガーディアンに引き込もうとして断られたということと、有事の際に他家に先んじて力を貸すという約束で学園に推薦と――」
「弱いですね」

 レイナは怜悧な表情を浮かべて切り捨てるように言った。隣に座るリリアーヌが横顔を覗いて不安そうに眉を寄せる。

「ダレース、どう思いますか?」
「……はっきりと申し上げれば、何の枷にもならないかと」

 沈黙がさらに重くなった。
もちろん、レイナが言いたいことは理解している。
 ――王国最強の戦力を持ったサナトを、いかにディーランド王国に引きとどめるかが最重要課題。
 帝国の第三師団を軽々と壊滅させるような召喚モンスターを持つ個人などあってはならないが、事実であるからどうしようもない。
 仮にサナトが反旗を翻し、帝国につくような事態になれば、王国の未来は潰える。
 ダレースが考える限り、取り得る手は三つしかない。
 一つ目は、あらゆる手段で懐柔し、王国に囲んで逃がさないことだ。この過程で忠誠心が芽生えればさらに良い。
 二つ目は、人質を取って脅迫する手法だ。サナトが強く想い入れている人間を幽閉し、失いたくなければ言うことを聞けと脅すのだ。ただ、これは王国がサナト個人よりも強大であることが前提になる。もし開き直られた場合は黒竜を向けられ王国は終わるだろう。
 そして最後が――

「不確定要素が多すぎるので、軽はずみな行動は選択すべきではありません」

 ダレースと暗部のリーダーであるワズロフの硬質な視線を受け止めたレイナは、先読みしたかのように釘を刺した。
 三人の頭に浮かんだ単語――暗殺。
 いくら強かろうが、人間には気が緩む瞬間がある。危険因子を排除するには最も簡単で、最もリスキーな方法だ。
 特に、原初の黒竜の一撃を受けても立ち上がるサナトを始末することは難易度が高い。一度失敗すれば、王国に敵対することは間違いないだろう。
 仮に殺せたとしても、その後黒竜が解き放たれ、怒りを買う事態になれば、国は滅亡する。
 レイナが困った顔で、隣を窺う。

「リリアーヌ、彼は王国の為に働いてくれると思いますか? 何か望みがあるか聞いていませんか?」
「も、申し訳ありません、陛下……私は、そこまでは。ただ……普段の様子を見ると、お金には困っていないのだと思います。あとは……奴隷のリリスをすごく大切にしています……とても楽しそうなので……」
「奴隷の子を? そう……」

 上目遣いでレイナを見たリリアーヌは、これで良かっただろうかと不安そうに言葉を待つ。

「結婚はしていないわね?」
「結婚ですか? た、たぶん……していないと思います……」

 レイナが目をつむって考え込む。そして、天井を見上げて言った。

「アズリー嬢と結婚するか……もしくは……」

 視線が、ふとリリアーヌに向いた。
 きょとんとしたのも束の間、レイナが何を言いたいのかを知った彼女は頬を朱に染めて「わ、私は……」と慌てて視線を下げた。
 レイナが微笑む。もう彼女の中で答えを決めたのだろう。「そうなってくれたらいいなと思っただけよ」と軽い口調で言って続けた。
 憑き物が落ちたような表情だ。

「彼には、勲章を与えましょう」
「勲章ですか?」

ダレースがばっと顔を上げた。
国の中で特に功績を上げた者に与える勲章は、基準が曖昧であって例が少ないが、その分価値は高い。

「本当は貴族として国に貢献してもらいたいですが、家名を持たない人間を一気に引き立てると余計な反発も多いでしょう。となると、前例もある『竜伐勲章』が適当です。弱弱しい枷には違いありませんが、無いよりは数段良いでしょう」

 レイナが「それと……」と口元に片手を当てた。

「家名を名乗ることを一緒に許可してしまいましょう。いずれ彼の下に人が集まって何か功績を上げれば、堂々と貴族に引き上げることも可能です。フェイト家の話では、彼は確か家名を持っていたとのことなので、それを第一候補に。他を希望した場合の第二候補はこちらで用意しましょう」
「しかし陛下、彼は竜を討伐したわけではありませんが」

 ダレースの当然の疑問に、レイナはしたり顔で頷いた。

「いなくなったという点で討伐も同然です。原初の黒竜の逸話は、上層部でもなかなか知らない話です。『禁忌を従えた』と広めるよりは、冒険者の憧れである『竜』を討伐したという事実の方が分かりやすい。考えたくないですが、もし原初の黒竜を召喚する事態になっても、討伐して従えたと、その時に説明すれば良いでしょう。それに……他国とのバランスを考えれば、禁忌を自在に操れると吹聴するのは危険です。幸い、真実を知る者は限られていますから――」
「もちろん、箝口令を」
「入念にお願いします」

 レイナはようやくといった様子で、ソファに背中を預けた。
 背後の護衛の緊張感が和らぎ、釣られてギルドのメンバー達も小さな笑みを浮かべる。

「リリアーヌ、今の話を彼に直接伝えてください」
「私がですか!?」
「もちろんです。私のあとを継ぐと決めてくれたのですから、色々と経験を積む意味でもがんばってください」
「は……はい」
「日取りと希望する家名、それと……光矛祭で会う予定を変更して、事前にどこかで話せるように場を設けてください……あと、日取りはできるだけ急ぐように。理由はわかりますね?」
「誰かがサナトくんに声をかけて引き抜く前に……ですね」

 リリアーヌが恐る恐る答えると、レイナが破顔した。

「正解です。どこから情報が漏れるか分かりませんから、スピード勝負です。私は、その間に名家に事情を伝えておきましょう。では、話は以上です」

 レイナがきびきびとした動きで立ち上がった。ギルドのメンバーが簡易の敬礼を行って見送り、護衛やリリアーヌが退出する。
 扉が閉まると、ダレースが身を投げるようにソファに倒れ込んだ。ワズロフと終始無言だったエティルが苦笑いで眺める。

「最近、こんなのばっかりだな……」
「お疲れ様です……と言いたいところですが、俺から一つ報告があります」
「ワズロフ……また厄介な話か?」
「ギルマスに報告するんですから、決まってるでしょ?」
「……なんだ?」
「『赤鋼の獣』の新しいタイプがパルダン周辺で見つかりました」
「新しいタイプ?」

 ダレースが上体を起こして眉をひそめた。

「人を喰うようです」

 固い表情のワズロフが淡々と告げた。
 それは今までで最も深刻な報告だった。
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