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連載
スキルコピー
教室ほどの広さの部屋だ。壁際には三段棚。たくさんの鉢に植わった植物たちに水をやりながら、レイナが目尻を下げる。
「あれで良かったのですか?」
「ええ、完璧です」
振り返ったレイナは明るい笑顔を見せた。
視線の先には、ソファにかけるサナトとリリス。そして、小さく頷きながらいそいそとお茶を入れるリリアーヌ。
「何を言っても、言葉のあげ足をとる者はいますから。それなら、最初から無言でひざまずいておけば良いのです。堂々とした態度に殊勝な振る舞い。それだけで十分に将来への種は蒔けたでしょう」
レイナはダリアに似た赤い花を一輪摘み取った。重厚なテーブルに置かれた花瓶に挿し、腰を下ろした。
「会うのはもう少し先の予定だったのですが、原初の黒竜の件もあって少々強引にお呼びしました」
「お話を聞いていただけるということで光栄です。またとない機会でもありますし、陛下の為とあらばいつでも馳せ参じます」
「あら?」
サナトの神妙な返事に、レイナが面食らった。違和感の正体にすぐさま気づいた彼女は、たった今紅茶を置いた人物にじとっとした視線を送った。
「リリアーヌの差し金ね」
「そん……そんなことは……」
泳ぐ視線が物語っている。「はあ」とため息をついたレイナは、サナトに目で問う。彼はすぐに暴露した。
「この国を出ていかないように――とリリアーヌに散々念押しされましたので、余計な心配をかけまいと演技を混ぜました」
「正直で良いことです。施政にあまり感心が無いと聞いていましたので、モニカのようにもう少し率直な物言いをする人かと思っていましたが、政治もできそうですね」
「お褒めにあずかり光栄です」
「リリアーヌにもぜひ心構えを伝授してくださらないかしら」
「生憎、まつりごとには首を突っ込まない性分ですので、ご容赦ください」
冗談で返したサナトを、レイナが面白そうに見つめる。
「本当にしっかりしているわ。サナトには色々驚かされます。私も何か一つくらいは意趣返しをしたいけれど……」
口元に手を当ててうつむくレイナに、サナトがにこりと笑う。
リリアーヌが小さく首を傾げた。
サナトの顔に浮かぶのはいつもと違う異質な笑みだ。微妙に焦点が合っていない両の瞳は一体どこを見ているのか。
まったく気づかない様子のレイナは、投げやりな表情で天井を見上げた。
「考えてみたけど、ダメね。私は寿命が長いだけで、他は普通の人と変わらないから、驚かせられるものなんて無いわ」
「そんなことはありません。百年間、王に君臨なさっていることが何よりの驚きです」
「あら、お上手」
レイナが嬉しそうに笑って身を乗り出した。サナトは微笑んだままだ。
「さて、リリアーヌから聞いているかと思いますが、すべてはこの国に根付いてもらうために用意しました」
「はい……」
「私が与えられるものといえば、せいぜい勲章と家名くらい。国に縛るためには不十分だとは思いますが、フェイト家同様、何かあった時には手を貸してください。できることなら、リリアーヌの治世にも変わらぬ助力をお願いしたいと思います」
「善処しましょう」
サナトが真摯な顔で顎を引いた。
玉虫色の返事だが、レイナは満足そうに頷いた。そして、軽く腰を上げて、手を差し伸ばした。
リリアーヌがぎょっとする。国王が冒険者に対等の立場で協力を仰ぐなどあり得ない。まして、先に手を出すなど前例がない。
しかし、レイナにためらう様子はなかった。
「今後とも我が国に変わらぬ忠誠をお願いします」
レイナがサナトと視線を合わせた。
ギルドでの評判、フェイト家の勧誘、学園への入学。そして、表向きは竜伐と称した原初の黒竜の召喚モンスター化。
凄まじい速度で駆けあがってきたサナトを、国王が対等以上の存在と認めた瞬間だった。国を超える個。リリアーヌは我知らず身震いする。
伸ばされた王の手をサナトが両手で受け止めた。と同時に、うつむき加減の表情の下で口元がわずかに動いた。言葉は聞こえない。
その瞬間――
「なに!?」
サナトが勢いよく頭を上げた。驚愕した表情に、見開いた目。予想外の何かが起きたのだと知れた。
対して――レイナは得意げな笑みを浮かべていた。「ふふふ」という忍び笑いと、してやったりという顔。王というより、悪女と言った方が良いかもしれない。
彼女はサナトに拳を突き出し親指を立てた。リリアーヌの知らないポーズだ。
「ナイス反応! グッドよ!」
目を白黒させるサナトの前で、レイナがゆっくり拳を解いて膝に載せた。火が消えたロウソクのように縮こまっていく彼女の顔が、真っ赤に染まっていく。
「使いどころ……あ、合っていましたか? 久しぶりすぎて恥ずかしいですね」
消え入りそうな言葉に、誰も反応しなかった。
レイナが、こほんとわざとらしい咳払いをした。先ほどの失態は無かったことにするつもりらしい。
「サナト……私の<神格法>は、あなたのスキルで<複写>できないのです」
レイナが表情を引き締めてそう言った。
サナトが言葉を失った。
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