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連載
桁外れのバカ
時間はかからなかった。
リリスとモニカが食堂に戻ってきた。
開店準備をしていたガンリットがきょとんと首を傾げている。
「なんだ、中止か?」
「いいえ、もう終わったわ」
「は?」
モニカが嬉しそうに胸を張った。さらに口を開こうとして、はたと気づいて隣に立つリリスに視線を送る。
「モニカさんからどうぞ」
薄紫色の髪の少女は、ポニーテールを揺らして朗らかに笑う。
「そ、そう? じゃあ私から話そうかな」
軽い咳払いとともに、モニカがうずうずしながら前に出る。
ガンリットと妻のイゾラ、そしてナルルが自然と中央のテーブルに集まった。
「えっと……サナトはね――」
モニカは熱のこもった表情で、事の次第を話し始めた。
***
「これで商会のトップと話をさせてもらえないだろうか」
広々とした屋敷の門に立つ四人の兵の前で、サナトは拳大の魔石を取りだして言った。
中央に立つ吊り上がった瞳の男が、魔石を眺めてから、「少し待ってろ」と屋敷の奥に消えた。
そうして数十分。
「案内しろ」と言われた別の二人の兵が、サナト達三名を敷地内に案内する。
重厚な扉をくぐり、貴重な調度品や絵画が惜しげもなく飾られた廊下を抜けてしばらく。
三人は学園の教室が十は入りそうな大部屋に通された。
壁際には片手で数えきれない男たちが姿勢正しく立番し、その中央に濃いあごひげを生やした若々しい男が足を組んで待っていた。
「まどろっこしいのは嫌いでね。まずは魔石を見せろ。話はそれからだ」
サナトが無言で拳大の魔石をテーブルに置いた。
男が無造作に魔石を眺め、裏と表を確認後、軽く放り投げてつかみ取る。「いいね」と笑った。
「俺は夜兎商会会長オリエンス。で、何が聞きたい? 『竜伐』を成功させた冒険者のサナト」
オリエンスは『竜伐』の部分を皮肉気に言う。
サナトが、さして驚く風もなく、望みを口にする。
「死んだザイトランの店にいる店員たちへのちょっかいと、小さな食堂への嫌がらせを止めてもらいたい」
「ちっ、少しは名前を知ってることに驚けよ」
舌打ちを鳴らしたオリエンスは、「これだから冗談が通用しないやつは」と蔑む。
しかし、サナトは肩をすくめるだけだ。
「商会の会長にまで『竜伐』を知られているとは光栄だ」
「今さらおせえんだよ。肝と態度のでかさは納得したぜ」
オリエンスのかかとが、乱暴にテーブルを打った。そのままちらりとサナトの背後に立つ少女二人に視線を向けた。
「そっちの左の紫髪の女、知った顔だ」
「そうか。俺がザイトランから買い取ったからな。よく覚えてるな」
「俺が欲しい女は、その女が仲良くしてたうちの一人だ。お前が乗り込んできたのは、そっちの女に頼み込まれたからだろ?」
「鋭いな。俺も連れの頼みはかなえてやりたいから、こうして交渉に来た」
オリエンスが鼻を鳴らして魔石を取り上げた。
サナトは惜しむ様子もなく、「どうぞ」と目で応える。
「本気らしいな。話をするだけで高価な魔石とは」
「商会長に交渉のテーブルについてもらうための一個だ。俺も勲章持ちになった以上、できれば穏便に話を進めたい」
「……いいだろう。そちらの条件は?」
サナトがアイテムボックスを開けた。
色とりどりの煌びやかな魔石が、所狭しと収まっている。
壁際の男やモニカ、そしてオリエンスが息を呑んだ。全て換金すれば、一体どれだけの価値があるだろうか。
「この魔石四つで、手を打ってほしい」
サナトはごとりと大ぶりの魔石を並べる。室内の明かりが、くすむほどの輝きだ。
言葉が続く。
「さらに街を出ていくという約束なら、この三倍の魔石を渡そう」
オリエンスが足を降ろして四つの魔石を食い入るように覗き込む。
目が血走り、呼吸が乱れている。
「ふう……」
オリエンスは深い息を吐いて、こめかみを揉んだ。荒っぽく背もたれに身を預けてから、身を乗り出した。
サナトが冷ややかに訊く。
「どうだ? 女一人諦めるにしては破格の条件だと思うが」
「確かにな……よーくわかった。てめえが桁外れの金持ちで――桁外れのバカだってことがな」
「どういう意味だ?」
サナトが首を傾げる。
「『竜伐』ってのはどうすごいんだ? 冒険者は万全の準備をして、寝ている竜を死角から攻撃する。まあ勝てることもあるだろうよ」
オリエンスが獰猛に瞳を曲げて嗤う。
「逆なら勝てるわけがない敵も、準備の差で勝てる。そういうことだ。――やれっ」
不敵な笑みを浮かべたオリエンスが、手のひらを横に振った。
途端に、壁際の男が武器を抜き、扉を蹴破る勢いで新たな兵がなだれ込んでくる。
「冒険者ってのはこんなバカばっかりなのか? アイテムボックスにいくらため込んでるのか知らねえが、それだけ見せられて、五や十の魔石であきらめるわけないだろうが」
「……賢明な判断とは思えんが」
「お前が武器をボックスに入れてないのは確認した。俺の視力を侮るな。この距離で魔法使いと女二人。……いいから、ため込んでるもの全部出しな。痛い目をみたくなかったらな」
「再考を勧めるが……」
「くどいぞ。モンスターに強いから人間にも強いと思ってるんだろうが、大きな勘違いだ。人間なんぞ、弓一本で始末できる。弱点があるだけモンスターより楽なんだよ」
「そうか。そこまで言うなら仕方ないな」
サナトがゆらりと立ち上がった。
そして、モニカが舌を出して横を向いた。「わざとボックスの中を見せたくせに」とぼそりとつぶやいた。
***
「で、どうなったんだ?」
ガンリットが眉を寄せて心配そうな顔をする。
気づいたモニカが「大丈夫、大丈夫」と笑いながら言う。
「まず、屋敷の上から大きな炎の槍が三本降ってきた」
「はあ?」
「サナトって無詠唱で魔法使えるんだけど、いきなり天井を破って槍が降ってきたときは腰を抜かしてたわ」
リリスがくすくすとほほ笑み、ナルルが唖然とする。
「その後、部屋の真ん中に、召喚されたケルベロスとアーマードナイトが現れて、男共が全員遊ばれてた。っていうか、ケルベロスは楽しそうに前足で屋敷の外に蹴り飛ばしてた」
「召喚っ!? 待て待て、サナトは<召喚魔法>も使えるのか!?」
「うん。で、アーマードナイトがバカでかい剣をぶうんって振ったら、屋敷の上半分が切り飛ばされて無くなって――」
「どういう状況なのか想像できん……」
「サナトが、雨みたいな<ファイヤーボール>を屋敷全部に降らせて終わりかな」
モニカが痛快そうに笑ってリリスに「ね?」と顔を向ける。
「無差別に攻撃してるようで、ちゃんと人のいないところから破壊してるって言ってたけど……どうやってるんだろ」
「ご主人様の視界はとても広いですから」
「あれってどれくらい視えてるか知ってる?」
「私も詳しくは……ただ、視ようと思えばかなり遠くまで視えるそうです」
「ふーん。よくわからないけど、あいつすごいね」
「ご主人様ですから」
楽しそうに言葉をかわす二人を、ガンリットが呆気にとられて見つめる。
戦いの経験がないイゾラとナルルの二人は、さらによくわからないようで、目をぱちぱちとまたたかせる。
「あっ、ご主人様が帰ってきました」
リリスがぐるりと振り返った。ちょうど扉が開いたところだった。
モニカが少しだけほっとした顔で言う。
「憲兵への説明終わったの? 遅かったね」
「ああ。思いがけず懐かしい二人に出会ってな。しばらく話し込んでいた。多少お咎めは覚悟していたんだが、二人は『これで仕事が減る』と喜んでくれていたから、大事にはならないと思う」
ガンリットがそれを聞いて目尻を下げた。
「わざわざ、すまなかったな。なんか派手にやったんだって?」
「損害と脅威の大きさを示してやる必要があったので建物のほとんどを破壊しました。さすがにこれで手を引くでしょう。ナルルさんも、もう大丈夫だと思います」
「本当にありがとうございます」
頭を下げたナルルを、サナトがにこやかに眺めた。
「問題も片付いたので、今度は俺の相談を聞いてもらってもいいですか?」
***
日が傾き始めていた。
食堂内に明かりが灯り、徐々に夜の趣に変わりつつある。
ガンリットやイゾラは数少ない客に丁寧に給仕をし、ナルルはつっかえが取れたかの様子で精力的に仕事をこなしている。
邪魔にならないように食堂の隅に集まるサナトたちは、飲み物を片手に談笑していた。
「ねえ、サナト、もしかしてだけどさ……」
上半身をテーブルに預けたモニカが、サナトを見上げて聞く。
「リリアーヌのこと……好きなの?」
「唐突だな」
「否定しないんだ」
「否定も何も、どっちでもない。いい友人だが、別に恋愛感情は持ってない」
「そ、そうなんだ……」
「なぜそんなことを?」
サナトの視線に、モニカが居心地悪そうに身をよじった。グラスに入った液体で唇を濡らすようにして、言う。
「だって、強いから。リリアーヌは次期国王だから、もしサナトと結婚したら将来安泰だろうなって思って。どこの国が攻めてきても何とかできちゃうでしょ?」
「リリアーヌを守るのはモニカなんだろ? そのための付き人制度だろ」
「そうだけど、こんなに近くに強い人がいたら、どうしても比べちゃうし」
「リリアーヌは俺との結婚なんて望んでいないだろうし、モニカを頼りにしてるはずだ。嫌がっていた次期国王を引き受けたのも、モニカが説得したからなんだろ?」
「まあね……」
モニカが潤んだ瞳をちらりとサナトに向け、納得いかない様子でグラスを傾ける。
と、ごくりと勢いよく喉を鳴らしてグラスを置いたリリスが口を開いた。
「モニカさんがご主人様と結婚なさったら良いのでは?」
「へっ!?」
「そうすれば、リリアーヌさんを二人で守れるのではないでしょうか」
「それは……でも……」
あたふたと頬を染めるモニカを見て、リリスが目尻を下げる。
「リリス、からかってやるな。モニカが困っている」
「すみません……でも、もし真剣に考えるなら……」
「モニカにも事情があって、婚約者候補がいるんだ」
「そうなんですか?」
「なんで知ってるの!?」
モニカががたんと椅子を鳴らす。
「ルルカから聞いた。あの教室にいる物腰の柔らかい青年がそうらしいな」
「……親が勝手に決めただけよ」
「初めて挨拶をした時しか知らないが、感じは良さそうだった。学園では珍しく、な」
「だから、親が勝手に決めただけだって」
「まあ、十近く年上の俺よりはいいんじゃないか」
「勝手なこと言わないで」
「何をむくれてるんだ?」
「別に……」
首を傾げるサナトの前で、モニカが苛立った様子で首を回した。
「ガンリットさーん、おかわりお願いしまーす!」
「おいおい、タダだからって何杯目だと思ってるんだ」
あきれ顔のサナトが「もう十分です」と片手を上げた時だった。
薄い扉が大きな音を立てて、ばたんと押し開かれた。
青白い顔の女性が、小さな女の子を胸に抱いて息を切らせていた。
厨房に向かって叫んだ。
「ガンリットさん! 息子さんがっ!」
室内でゆっくり流れていた時間が、その一言で勢いを増した。
そして――
サナトが厳しい顔つきで立ち上がった。
リリスとモニカが食堂に戻ってきた。
開店準備をしていたガンリットがきょとんと首を傾げている。
「なんだ、中止か?」
「いいえ、もう終わったわ」
「は?」
モニカが嬉しそうに胸を張った。さらに口を開こうとして、はたと気づいて隣に立つリリスに視線を送る。
「モニカさんからどうぞ」
薄紫色の髪の少女は、ポニーテールを揺らして朗らかに笑う。
「そ、そう? じゃあ私から話そうかな」
軽い咳払いとともに、モニカがうずうずしながら前に出る。
ガンリットと妻のイゾラ、そしてナルルが自然と中央のテーブルに集まった。
「えっと……サナトはね――」
モニカは熱のこもった表情で、事の次第を話し始めた。
***
「これで商会のトップと話をさせてもらえないだろうか」
広々とした屋敷の門に立つ四人の兵の前で、サナトは拳大の魔石を取りだして言った。
中央に立つ吊り上がった瞳の男が、魔石を眺めてから、「少し待ってろ」と屋敷の奥に消えた。
そうして数十分。
「案内しろ」と言われた別の二人の兵が、サナト達三名を敷地内に案内する。
重厚な扉をくぐり、貴重な調度品や絵画が惜しげもなく飾られた廊下を抜けてしばらく。
三人は学園の教室が十は入りそうな大部屋に通された。
壁際には片手で数えきれない男たちが姿勢正しく立番し、その中央に濃いあごひげを生やした若々しい男が足を組んで待っていた。
「まどろっこしいのは嫌いでね。まずは魔石を見せろ。話はそれからだ」
サナトが無言で拳大の魔石をテーブルに置いた。
男が無造作に魔石を眺め、裏と表を確認後、軽く放り投げてつかみ取る。「いいね」と笑った。
「俺は夜兎商会会長オリエンス。で、何が聞きたい? 『竜伐』を成功させた冒険者のサナト」
オリエンスは『竜伐』の部分を皮肉気に言う。
サナトが、さして驚く風もなく、望みを口にする。
「死んだザイトランの店にいる店員たちへのちょっかいと、小さな食堂への嫌がらせを止めてもらいたい」
「ちっ、少しは名前を知ってることに驚けよ」
舌打ちを鳴らしたオリエンスは、「これだから冗談が通用しないやつは」と蔑む。
しかし、サナトは肩をすくめるだけだ。
「商会の会長にまで『竜伐』を知られているとは光栄だ」
「今さらおせえんだよ。肝と態度のでかさは納得したぜ」
オリエンスのかかとが、乱暴にテーブルを打った。そのままちらりとサナトの背後に立つ少女二人に視線を向けた。
「そっちの左の紫髪の女、知った顔だ」
「そうか。俺がザイトランから買い取ったからな。よく覚えてるな」
「俺が欲しい女は、その女が仲良くしてたうちの一人だ。お前が乗り込んできたのは、そっちの女に頼み込まれたからだろ?」
「鋭いな。俺も連れの頼みはかなえてやりたいから、こうして交渉に来た」
オリエンスが鼻を鳴らして魔石を取り上げた。
サナトは惜しむ様子もなく、「どうぞ」と目で応える。
「本気らしいな。話をするだけで高価な魔石とは」
「商会長に交渉のテーブルについてもらうための一個だ。俺も勲章持ちになった以上、できれば穏便に話を進めたい」
「……いいだろう。そちらの条件は?」
サナトがアイテムボックスを開けた。
色とりどりの煌びやかな魔石が、所狭しと収まっている。
壁際の男やモニカ、そしてオリエンスが息を呑んだ。全て換金すれば、一体どれだけの価値があるだろうか。
「この魔石四つで、手を打ってほしい」
サナトはごとりと大ぶりの魔石を並べる。室内の明かりが、くすむほどの輝きだ。
言葉が続く。
「さらに街を出ていくという約束なら、この三倍の魔石を渡そう」
オリエンスが足を降ろして四つの魔石を食い入るように覗き込む。
目が血走り、呼吸が乱れている。
「ふう……」
オリエンスは深い息を吐いて、こめかみを揉んだ。荒っぽく背もたれに身を預けてから、身を乗り出した。
サナトが冷ややかに訊く。
「どうだ? 女一人諦めるにしては破格の条件だと思うが」
「確かにな……よーくわかった。てめえが桁外れの金持ちで――桁外れのバカだってことがな」
「どういう意味だ?」
サナトが首を傾げる。
「『竜伐』ってのはどうすごいんだ? 冒険者は万全の準備をして、寝ている竜を死角から攻撃する。まあ勝てることもあるだろうよ」
オリエンスが獰猛に瞳を曲げて嗤う。
「逆なら勝てるわけがない敵も、準備の差で勝てる。そういうことだ。――やれっ」
不敵な笑みを浮かべたオリエンスが、手のひらを横に振った。
途端に、壁際の男が武器を抜き、扉を蹴破る勢いで新たな兵がなだれ込んでくる。
「冒険者ってのはこんなバカばっかりなのか? アイテムボックスにいくらため込んでるのか知らねえが、それだけ見せられて、五や十の魔石であきらめるわけないだろうが」
「……賢明な判断とは思えんが」
「お前が武器をボックスに入れてないのは確認した。俺の視力を侮るな。この距離で魔法使いと女二人。……いいから、ため込んでるもの全部出しな。痛い目をみたくなかったらな」
「再考を勧めるが……」
「くどいぞ。モンスターに強いから人間にも強いと思ってるんだろうが、大きな勘違いだ。人間なんぞ、弓一本で始末できる。弱点があるだけモンスターより楽なんだよ」
「そうか。そこまで言うなら仕方ないな」
サナトがゆらりと立ち上がった。
そして、モニカが舌を出して横を向いた。「わざとボックスの中を見せたくせに」とぼそりとつぶやいた。
***
「で、どうなったんだ?」
ガンリットが眉を寄せて心配そうな顔をする。
気づいたモニカが「大丈夫、大丈夫」と笑いながら言う。
「まず、屋敷の上から大きな炎の槍が三本降ってきた」
「はあ?」
「サナトって無詠唱で魔法使えるんだけど、いきなり天井を破って槍が降ってきたときは腰を抜かしてたわ」
リリスがくすくすとほほ笑み、ナルルが唖然とする。
「その後、部屋の真ん中に、召喚されたケルベロスとアーマードナイトが現れて、男共が全員遊ばれてた。っていうか、ケルベロスは楽しそうに前足で屋敷の外に蹴り飛ばしてた」
「召喚っ!? 待て待て、サナトは<召喚魔法>も使えるのか!?」
「うん。で、アーマードナイトがバカでかい剣をぶうんって振ったら、屋敷の上半分が切り飛ばされて無くなって――」
「どういう状況なのか想像できん……」
「サナトが、雨みたいな<ファイヤーボール>を屋敷全部に降らせて終わりかな」
モニカが痛快そうに笑ってリリスに「ね?」と顔を向ける。
「無差別に攻撃してるようで、ちゃんと人のいないところから破壊してるって言ってたけど……どうやってるんだろ」
「ご主人様の視界はとても広いですから」
「あれってどれくらい視えてるか知ってる?」
「私も詳しくは……ただ、視ようと思えばかなり遠くまで視えるそうです」
「ふーん。よくわからないけど、あいつすごいね」
「ご主人様ですから」
楽しそうに言葉をかわす二人を、ガンリットが呆気にとられて見つめる。
戦いの経験がないイゾラとナルルの二人は、さらによくわからないようで、目をぱちぱちとまたたかせる。
「あっ、ご主人様が帰ってきました」
リリスがぐるりと振り返った。ちょうど扉が開いたところだった。
モニカが少しだけほっとした顔で言う。
「憲兵への説明終わったの? 遅かったね」
「ああ。思いがけず懐かしい二人に出会ってな。しばらく話し込んでいた。多少お咎めは覚悟していたんだが、二人は『これで仕事が減る』と喜んでくれていたから、大事にはならないと思う」
ガンリットがそれを聞いて目尻を下げた。
「わざわざ、すまなかったな。なんか派手にやったんだって?」
「損害と脅威の大きさを示してやる必要があったので建物のほとんどを破壊しました。さすがにこれで手を引くでしょう。ナルルさんも、もう大丈夫だと思います」
「本当にありがとうございます」
頭を下げたナルルを、サナトがにこやかに眺めた。
「問題も片付いたので、今度は俺の相談を聞いてもらってもいいですか?」
***
日が傾き始めていた。
食堂内に明かりが灯り、徐々に夜の趣に変わりつつある。
ガンリットやイゾラは数少ない客に丁寧に給仕をし、ナルルはつっかえが取れたかの様子で精力的に仕事をこなしている。
邪魔にならないように食堂の隅に集まるサナトたちは、飲み物を片手に談笑していた。
「ねえ、サナト、もしかしてだけどさ……」
上半身をテーブルに預けたモニカが、サナトを見上げて聞く。
「リリアーヌのこと……好きなの?」
「唐突だな」
「否定しないんだ」
「否定も何も、どっちでもない。いい友人だが、別に恋愛感情は持ってない」
「そ、そうなんだ……」
「なぜそんなことを?」
サナトの視線に、モニカが居心地悪そうに身をよじった。グラスに入った液体で唇を濡らすようにして、言う。
「だって、強いから。リリアーヌは次期国王だから、もしサナトと結婚したら将来安泰だろうなって思って。どこの国が攻めてきても何とかできちゃうでしょ?」
「リリアーヌを守るのはモニカなんだろ? そのための付き人制度だろ」
「そうだけど、こんなに近くに強い人がいたら、どうしても比べちゃうし」
「リリアーヌは俺との結婚なんて望んでいないだろうし、モニカを頼りにしてるはずだ。嫌がっていた次期国王を引き受けたのも、モニカが説得したからなんだろ?」
「まあね……」
モニカが潤んだ瞳をちらりとサナトに向け、納得いかない様子でグラスを傾ける。
と、ごくりと勢いよく喉を鳴らしてグラスを置いたリリスが口を開いた。
「モニカさんがご主人様と結婚なさったら良いのでは?」
「へっ!?」
「そうすれば、リリアーヌさんを二人で守れるのではないでしょうか」
「それは……でも……」
あたふたと頬を染めるモニカを見て、リリスが目尻を下げる。
「リリス、からかってやるな。モニカが困っている」
「すみません……でも、もし真剣に考えるなら……」
「モニカにも事情があって、婚約者候補がいるんだ」
「そうなんですか?」
「なんで知ってるの!?」
モニカががたんと椅子を鳴らす。
「ルルカから聞いた。あの教室にいる物腰の柔らかい青年がそうらしいな」
「……親が勝手に決めただけよ」
「初めて挨拶をした時しか知らないが、感じは良さそうだった。学園では珍しく、な」
「だから、親が勝手に決めただけだって」
「まあ、十近く年上の俺よりはいいんじゃないか」
「勝手なこと言わないで」
「何をむくれてるんだ?」
「別に……」
首を傾げるサナトの前で、モニカが苛立った様子で首を回した。
「ガンリットさーん、おかわりお願いしまーす!」
「おいおい、タダだからって何杯目だと思ってるんだ」
あきれ顔のサナトが「もう十分です」と片手を上げた時だった。
薄い扉が大きな音を立てて、ばたんと押し開かれた。
青白い顔の女性が、小さな女の子を胸に抱いて息を切らせていた。
厨房に向かって叫んだ。
「ガンリットさん! 息子さんがっ!」
室内でゆっくり流れていた時間が、その一言で勢いを増した。
そして――
サナトが厳しい顔つきで立ち上がった。
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勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
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学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
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