スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと

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連載

侵攻 7

 ――召喚悪魔、グレモリーが消滅しました。

 サナトは、たった今聞こえた天の声を脳内で反芻させていた。
 最も聞きたくない結末だった。
 帝国への侵入と調査。最後にグレモリーから報告があったのは随分前だ。
「この先は感づかれないよう、しばらく報告を絶ちます」
 詳しくは聞かなかった。余程危険な場所になっているのだろうと思って、「アミーも送ろうか」と尋ねただけだ。
 だが、グレモリーは一人の方がやりやすいと答えたのだ。

「無理やりにでも送るべきだったか……」

 サナトは穏やかでない心中を押さえつつ、首を振った。
 グレモリーは第三級悪魔だ。世界でも屈指の戦力に違いない。その悪魔が、逃げる余裕もなく、報告もできなかったとすれば、敵も相当のもののはず。
 同じレベルのアミーを送ったところで、結果に変わりはなかっただろう。
 それに――
 いくら考えても、これからやることに変わりはないのだ。
 自分の持ち物を奪った敵は、すべて潰す。それだけだ。

「来たな」

 ゲートから現れたバールとアミーを一瞥する。
 ここがノトエアの未来日記に書かれた、不確定な未来の岐路になるだろう。王国を攻める敵の中には、途方もない強さの敵がいるらしい。正体は不明だが、悪魔であった場合にはノトエアでも詳細が分からない。
 不安要素としてずっと警戒していた。
 グレモリーがあっさり消滅した場所に、その敵がいるのだろう。
 ここさえ乗り切れば――
 サナトはぐっと拳を握りしめた。


 ***


 グレモリーが消滅した座標は、光がほとんど入らない建物の中だった。

「……陰鬱な場所だな」

 サナトは高い天井と、石壁に囲まれた空間を見回す。
 至る所に大穴が空き、地面がでこぼこと波打っている。
 周囲には数えきれないほどの牢。捕らえられている数多くの人間。
 無数の暗い瞳が三人に向いた。

「劣悪な環境ですが、していることを考慮すれば、納得もいきますね」
「バール、何の場所か分かるのか?」
「おそらく……下級悪魔の生産場所でしょう」
「生産場所?」

 バールの隣でアミーが頷く。

「人間同士で魔法を撃ちあい、殺し合わせて、悪魔を呼ぶのですわ。互いに輝石を持たせて蘇生させ、効率的に魂の剥離を促すのでしょう」
「しかし、不自然な疲労と蘇生に寄ってくる悪魔などたかが知れています。支配階級の悪魔の中にも、稀にそういう状況に惹かれるものはいますが……まあ、大抵はあのような、虫けらです」

 赤髪の悪魔の指先が壁際を示した。
 隅の影がにじむように広がり、一匹の黒い狼が姿を見せた。
 バールが鼻を鳴らして、目を細める。

「至る所に悪魔の臭いがしますので、長年集めてきたのでしょう。アミーが戦ったという狼と同じですか?」
「同じですわ。少し強さにバラつきはありますが、誤差の範囲かと」

 サナトが眉をひそめて、徐々に増える狼を睨む。

「生産場所とはそういう意味か。人工的に悪魔を呼び出す仕組みを作っているやつがいると」
「人間と契約した悪魔の入れ知恵でしょうね。下級悪魔といえど、人間に比べれば強いですから、兵として計算できますしね」
「そうか……あの、媒体となった人間はどうなる?」
「はっきり言えば『楔』としての価値だけです。終わりの無い味方同士の殺し合いを経験して、普通でいられるはずがありませんから。良くて廃人、稀に快楽殺人者といったところでしょう。囚われの人間たちは死ぬまで媒体のままです」

 サナトが大きくため息をついて視線を下ろす。
 周囲では狼の唸り声が大きくなった。どこかで囚人が牢の格子に激しく体をぶつけている。人間とは思えないほどの奇怪な怒声と、すすり泣くような悲鳴が木霊した。
 ふと、ヘーゲモニアを助けた時に戦った魔人を思い出した。
 彼も同じだった。
 人間の自然な感情を失い、憑りついた悪魔にいいように操られていた。
 サナトが顔を上げた。

「……アミー、デポン山のフェイト家は大丈夫なのか?」
「ほとんどの下級悪魔は始末しましたわ。あとは人間で対処可能かと。それに、グレモリーを殺した悪魔に仕置きをせずにどうしましょう」
「アミーでは歯が立ちませんよ」

 バールが意地悪く笑うと、アミーが嫌そうに金色の瞳を曲げる。

「勝ち負けは関係ありませんわ。見逃すことはできないと、言っているのです」
「悪魔は勝たなければ終わりです。死んだら終わりですから」
「そう思うなら、手伝ってくださればいいのでは」
「手伝うつもりなら、最初から私が始末します」

 小さな諍いを繰り返す二人の前で、サナトが両手を打ち鳴らした。

「フェイト家が壊滅しないと分かればそれでいい。それよりも――敵の親玉が来たぞ」


 ***


 奥の通路から姿を見せた男は、頬のこけた人間だった。細い腕と皺の入った首。病的な痩躯は今にも倒れそうだ。
 背後には深緑色の髪の男。手前の男とは対称的に、幅の広い肩に厚い胸板。頭一つ高い身長に金色の双眸。見るからに精力的な悪魔だ。

「ちょろちょろ嗅ぎまわっていたネズミの親玉が登場か」

 かすれる声が、不思議とよく通る。
 サナトが進み出た。

「俺の悪魔を殺しのはお前か。この建物の元凶もお前だな」
「元凶だと? 一体何の元凶なのだ?」
「人を閉じ込め、悪魔を強制的に呼び出す仕組みを作ったのかと聞いている」
「何か悪いことなのか?」
「……なに?」
「役に立たん人間を帝国で使うのに、最適な方法だぞ。ゴミ一人で、王国の兵を二十人殺せる悪魔が呼び出せるのだ。毎日戦わせれば、それだけ数が増えて戦力が増加する。何が悪いことなのだ?」
「……そうか。言ってもわからなさそうだな」
「私と同じく、悪魔に魅入られたお前に説教をされる筋合いはない」
「否定はしないが、それなら覚悟しろよ」

 サナトが瞳を細め、バールとアミーがにんまりと嗤い左右に進み出る。

「運良く複数の悪魔と契約したからといって図にのるなよ。私の悪魔は最強なのだ」
「最強の悪魔って言葉が流行っているのか? 以前に同じセリフを吐いたやつは死んだぞ」
「……勘に障るやつだ。なら、存分に分からせてやる。ケイモーン、いけ」

 痩身の男が顎をしゃくる。
 後ろに立つケイモーンが不敵な笑みを顔に張り付け前に出た。

「ハイゼン、人間はともかく悪魔が二匹いる。建物が少し壊れるが、構わないか?」
「構わん。建物なんぞ、あとから直す」
「ゴミが逃げ出すかもしれんぞ?」
「犯罪者や浮浪者なんぞ、いくらでも代わりがいる。もう、大半の悪魔は王国に放ったんだ。好きにしろ」
「了解した。では、存分に遊んでやろう。悪魔を殺せば、でかい態度の人間も許しを請うようになるだろう。おい、そこの雑魚悪魔――」

 ケイモーンが、尖った瞳を赤髪の悪魔に向けた。

「ん? 私?」

 バールが目をぱちくりさせて、自分の顔を指さした。

「お前だよ。危機感の無い悪魔。へらへら笑いやがって、どこの系統だ?」
「……ほんとうに私に言っている?」
「あ? だから、そう言ってるだろうが。バカなのか。この『推奨』の暴君と呼ばれるケイモーンを知らないとは呆れるぜ。いいか――」

 緑髪の男が、親指を立てて己の胸をとんとんと叩いた。

「どうせ、孤独を決め込んだ陰険な『禁止』系統の悪魔だろうが……逆らっちゃだめなやつってのはどこにでもいるんだ」
「……はあ」
「お前は本当に運が無い。この世界で、まさか自分より強い悪魔に出会うなんてな」
「本当に……私もそう思います」
「雑魚を二匹従えた程度で……いや、ネズミも入れて三匹か。周囲を固めて王様気取りの人間にも反吐がでるぜ。ぶっ殺してやる」
「あなた……一周回って、好感すら抱いてきましたよ」
「はあ?」
「ある意味で素晴らしい」

 バールがそう言って、アミーに視線を送った。
 可愛らしい少女は、ぽかんと口を開けて見つめ返した。

「こんな悪魔がいるなんて……これにグレモリーが?」
「気の毒としか言いようがありません。世間が狭く勘違いも甚だしいですが、力は図抜けています。仕方ありません。陰険な『禁止』系統の悪魔として、誤りは正さなければいけません」
「結構、根にもってますね」

 アミーが砕けた口調で言い、呆れた顔で肩をすくめた。
 サナトがうんざりした顔でつぶやく。

「ノトエアが恐れた敵だ。舐めすぎるなよ」
「相手に言ってやって欲しいですね。しかし、ケイモーンとやらは、すごい才能をお持ちだ」
「才能?」
「私をやる気にさせたという点で、過去に出会ったことのない悪魔です」

 バールが楽しそうに笑う。
 と、ケイモーンの怒声が室内に響き渡った。

「ごちゃごちゃ言ってないで、かかってこい雑魚! 俺が格上に歯向かうことの恐ろしさを叩きこんでやる」
「まったく……とことん期待を裏切らない方だ。これだから暑苦しい『推奨』とは合わないのですよ」
「いくぜっ!」
「……せめて気配くらい消しなさい」

 バールは窘めるように言って、両拳を頭の上で組み跳び上がったケイモーンに疲れた顔を向けた。
 サナトが後ずさり、アミーが距離を取る。
 遅れて、振り下ろされた拳が大地にめり込む。振動と破砕音が高らかに響き渡った。
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