スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと

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永遠に一緒に

 沈黙が場を支配していた。
 五人の悪魔がなんとも言えない顔で、ノクスを眺めていた。
 サナトが肺の空気を抜くように大きく息を吐いた。
 終わった。

「達成感も何もないな。虚しいだけだ」

 投げやりに口にした言葉を、実体化したルーティアが「でも」と受け止めた。

「マスターは勝った。それだけでいいじゃない」
「そうだな……負けるよりはずっといい。さあ、戻るか」
「うん……」

 サナトは疲れた顔で、歩き出した。
 五人の悪魔が無言で見送る。
 バールが安堵したような表情で会釈する。

「あなたはやはり私が見込んだ通りでした」
「どこまでがお前の策だったか知らないが、リリスが犠牲になったという結果を俺は忘れない」
「心得ております」
「ノクスは、お前ら悪魔よりも、よっぽど人間臭いやつだった。だからこそ、嫌いだったのか?」
「かもしれません」
「……上の兵を引かせろ。できるだろ?」
「すでに撤退させ始めております。下級悪魔はすべてこちらで引き取ります」
「そうか。ならいい」

 サナトは今にも倒れそうな様子で、ゲートを開いた。
 ルーティアが肩を貸し、二人が揃って消えた。


 ***


「さて、仕上げといきましょうか」

 バールが四人の悪魔たちに告げた。
 ノクスの死体の周りに集まり、しばし観察する。
 すると、血の気を失っていた顔がぴくりと動いた。金色の瞳が見開かれ、慌てて体を起こそうとする。
 だが、それをウェリネとヘリオーズが二人がかりで押さえた。

「お前らっ!」
「死ぬときに<魔法阻害>か<不滅不死>のいずれかが何とかなればと思っていましたが、運が良い」

 ばたばたと暴れるノクスの両足を、残った二人の悪魔が抑える。
 バールが満足そうな顔で言う。

「<魔法阻害>さえなければ、私たちの魔法も問題なく効くようになります。万全の状態でも三人いれば殺せるでしょう」
「でも、<不滅不死>があったら、何度でも生き返るでしょ?」

 ウェリネの疑問に、バールがくつくつ笑う。

「生き返っても構いませんよ。要は悪魔公として戦えない体であれば良いだけなのです」
「ああ……なるほどね……」
「分担はどうしましょうか?」
「お前が一番大きな場所を持っていろ。王だった方だ。俺は顔を見るのはつらい」

 ヘリオーズが不愉快そうな顔をする。

「では、頭部と胴体は私が」
「残りは、私たち四人で一本ずつってことね。いいわ。それで行きましょう」
「ま、待て! まさか、まさか俺の体を!?」

 ノクスがこれ以上ないほどに青ざめた。


 ***


「ルーティア……もう、いいか?」
「あっ」

 サナトの腕がするりと抜けた。ルーティアが手を伸ばしたものの、つかみ取ることなく倒れ込む。
 心がずたずただった。
 考えないようにしてきた最悪の結果が、病巣のように体内を蝕んでいた。
 一気にやつれたサナトは、力の無い瞳で問う。

「俺はどうしたらいい? どうすればリリスを助けられる?」
「マスター……」

 ルーティアがゆっくりと目をつぶって胸に手を当てた。
 たっぷり数秒。
 にかっと笑って告げた。

「私を、破壊して」
「破壊?」
「うん。もうだいぶ前から、私のダンジョンコアは天界に戻れるだけの経験値を溜めてる。でも、こっちが楽しくて、ずっと居ついてただけなの。今となってはそれで良かったんだけどね」
「待て……バルベリト迷宮の時のように壊せと言うのか?」
「うん」
「そんなことをすれば、ルーティアは……」
「私のことはもういいの。十分、わがままをさせてもらったし。マスターの力にもなれたから。だから……」

 ルーティアが瞼を下げた。
 ドレスのスカートを両手でぐっと握りしめ、小さな嗚咽を漏らす。

「私は……私は……もう十分だから……」

 頬を一筋の雫が伝った。震える唇を噛みしめ、ルーティアは言った。

「あとはリリスと幸せになって」
「ルーティア、俺は……」
「もう言いっこなし」

 ルーティアが膝を折ってサナトの顔を覗き込んだ。
 細い人差し指を口に当て、「しぃー」とほほ笑む。

「リリスを助けたいでしょ?」
「もちろんだ」
「それでいいの。私はそれだけで満足」
「すまない」
「だから、それ禁止! 今からやり方教えるけど、絶対に途中で迷ったりしないで。本当に一秒あるかわからないんだから」


 ***


「どう……するんだ?」
「リリスをアイテムボックスから出した瞬間に、私を斬るだけでいい。リリスから聞いてたことが本当なら、何とかなるから」
「……ルーティアを斬る?」
「分かってる。この姿のままだとやりにくいと思うから――」

 ルーティアの姿がボールサイズの白い球体に変わった。
 バルベリト迷宮で最初に壊した時を思い出す。

「いい? 何度も言うけど、絶対に迷わないで」
「分かった……」

 サナトが立ち上がる。
 にじみ出る顔の緊張を両手で叩いて治し、「やるぞ」と強く口にする。
 もし失敗したら、リリスもルーティアも失うという怖さをぐっと心の奥に沈めた。
 ボックスを開けた。
 そこには別れた時のままのリリスがいた。
 力いっぱい胸に抱き寄せ、わずかに温もりが残るうちに、目の前のコアに<白炎刀>を振り下ろした。

「それ……で、い……いの……」

 ルーティアの最期の言葉が響いた。
 脳内に天の声が鳴る。

 ――ダンジョンコアの破壊を確認しました。
 ダンジョンコアの破壊ボーナスが与えられます。<浄化>が適用されます。
 魔に属するスキルを発見。排除します。
 <浄化>、<火魔法>、<水魔法>、<HP微回復>、<捕縛術>、<護壁>、<回復魔法>、<召喚魔法>――排除完了。
 ユニークスキル、<魔力飽和>、<時空魔法>、<悪魔召喚>――排除完了。
 続いて種族の昇華を行います。
 サナトを天人に昇華。神格法を付与します。
 ……サナトの血族を確認。リリスの魔に属するスキルを排除。天人に昇華。神格法を付与します。完了しました――

「ごめん……人間……じゃなくなる……けど……ゆる……して……幸せに……」

 ルーティアの声が消えていく。
 まるで存在がなかったかのように、光の粒子が上空に舞い上がって消えた。
 サナトはぐっと涙をこらえた。
 腕の中のリリスに視線を落とす。
 リリス。
 リリス。
 リリス。
 お願いだ。
 目を開けてくれ。
 数秒経った。でもだめだ。
 一分経った。まだだめだ。
 そして――

「リリスっ!」

 瞼がすうっと開いた。綺麗な薄紫色だ。
 胸の傷が塞がっている。
 生き返った。
 サナトの涙腺が決壊した。もう止められなかった。涙を流しながら、愛しい少女に頬を当てる。
 うわ言のように名前を繰り返し、「良かった、良かった」とひたすら泣いた。

「ご……しゅじ……んさま?」

 ぼんやりと開いた瞳が、はっきり見開かれた。

「ご主人様!」

 体を張りつめさせたリリスを、サナトは強く抱きしめる。
 ゆっくりと髪を撫で、落ち着かせるように優しく頬ずりした。

「大丈夫だ。大丈夫。もう終わった。もう敵は一人もいない」
「……ご主人様」

 リリスは周囲に瞳をめぐらせ、力尽きたように体の力を抜いた。

「また……助けていただいたのですね」
「そんなことを気にしなくていい。俺がそうしたいからしたんだ。だから頼む……二度と、俺の側を離れるな」
「はい……申し訳ありません……」

 腕の中で、リリスが涙を流した。
 後悔だろうか。安堵だろうか。それとも喜びだろうか。サナトに涙の理由はわからなかった。
 でも、それでいい。
 愛しい少女が生きている以上の幸せはないのだから。


 ***


 泣きはらした二人は、一足早く王城に戻った。
 バールが言ったとおり、敵軍は早々に退散した。
 残っていた下級悪魔が一斉にいなくなったのだという。
 長い戦いだった。
 悪魔に振り回された人間が何人も死んだ。
 だが、すべて終わったのだ。

「リリスが生きてくれてよかった」

 城の一番高い場所で帰参兵を眺めるサナトは胸を撫で下ろす。
 隣で、黒いチョーカーを腕に巻きなおし、指輪をはめたリリスが「はい」とつぶやく。
 どこか緊張気味の横顔を不思議に思い、サナトは考えることなく尋ねた。

「何か気になることがあるのか? この羽か?」

 サナトが自分の背後を見る。
 白い右翼が一枚だけ生えていた。
 リリスにも同じものがある。サナトのものとは対称的に左翼の翼だ。
 つがいのような羽に、二人は顔を見合わせて笑う。

「別に、消そうと思えば消せるけどな」

 心の中で念じるだけで、二人の翼は光の粒子となって消えた。ルーティアや天使も同じことができるのだろう。

「種族が『天人』って言ってもな……いまいち実感が湧かないな。人と天使のハーフってことだろうが」
「私は、もう『魔人』じゃないんだって、びっくりしましたけど……」
「そう言われてみれば、俺もリリスも髪の色が少し薄くなったかもな」
「あの……ご主人様」
「ん?」
「ルーティアさんとは連絡はとれないんですか?」
「……ああ。あいつはあいつなりに色々考えてくれた。今でも感謝してる」
「私もです」

 リリスが小さく笑って、視線を落とした。
 何かを恐れている顔だ。

「そういえばさ……」

 サナトは話題を変えるつもりで切り出す。

「あの時……ルーティアの<ダンジョンコア>を破壊して<浄化>が発動したってのは分かるが、どうしてリリスまで『天人』になれたんだろうな」
「ふぇっ!?」
「ん? どうした? 顔真っ赤だぞ?」

 リリスが狼狽する。「あの……それは……」ともじもじしながら、妙に艶やかな笑顔を浮かべては消す。
 潤んだ瞳にはどこか媚びるような色がある。
 何となく気まずくなって、サナトは石壁に肘を載せた。

「まあ……血族を発見したからだってことで…………ん? ……血族?」

 サナトが壊れたロボットのように首を回した。
 リリスの顔に、申し訳ないような、ぎこちない笑みが浮かんでいる。
 彼女はそうっと片手をお腹に当てて、消え入りそうな声で言った。

「……そ、そういうこと……みたいです」
「ま……じ?」
「あの……プロポーズされた日にお伝えできればと思ってたんですけど……ご主人様がびっくりされるかな……と思って。一応……ルーティアさんにだけは相談してたんですけど……」
「そう……なんだ……」
「はい……」
「…………ありがとう」
「へ? ありがとう……ですか?」
「そうだ。こういうときはたぶん、ありがとう、だと思う」
「ど、どういたしまして? であってますか?」
「たぶん……って、そんな大事なことは早く言ってくれ!」
「あ、すみません! でもでも、ご主人様に重しを背負わせちゃうかなって」
「そんなわけないだろ!」

 サナトはリリスの手を取った。バランスを崩した彼女をぐっと胸に抱き寄せる。

「もう絶対に死ぬな。失うのは二度とごめんだぞ」
「……約束します」

 寒空の下。熱っぽい視線が自然と絡みあった。
 二人は会えなかった時間を取り戻すように唇を奪い合った。
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