スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと

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連載

エピローグ

「健やかなるときも……病める時も……って我は、そんな人間のしきたりなんぞ知らんぞ」
「アペイロン、そう言うなって。世界の頂点なんだろ?」
「頂点の意味が間違っているぞ」

 荒れ果てた廃城の地下で、サナトとリリスはアペイロンと会っていた。
 世界の頂点である黒竜は、<召喚魔法>で関係が途切れても、律義に『赤鋼の獣』の撃退を行ってくれている。
 理由は簡単で、「お前が死ぬまでは一緒にいてやる」と約束したからだそうだ。
 アペイロンによれば、天人という種族は人間よりもかなり寿命が長いらしい。
 しかし、「それはそれとして約束したことは守る」と言う竜は、今も地下で寝そべりながら片手間に『赤鋼の獣』を尾で叩き潰している。
 ケルベロスやアーマードナイトとは『浄化』の瞬間に関係が途切れた。
 どこかで消滅したのか、生きながらえているかは分からない。

「形だけだから。堅苦しいの苦手なんだよ」
「私からもお願いします」

 サナトの隣でリリスが頭を下げた。
 アペイロンが呆れた様子で鼻をすんと鳴らす。

「分かった、分かった。なら一から教えよ。急ごしらえで良ければ、協力してやる……と思ったが、何か来たぞ」
「え?」

 アペイロンが上体を起こして天井を見上げた。
 まばゆい光の柱が、さっと降りてきた。
 現れたのは、武装に身を包む二人と――ルーティアだった。
 呆気に取られるサナトを置き去りに、麗らかな笑みを浮かべて言う。

「その結婚式、第一級天使ルーティアが承ります」
「……もう会えないんじゃなかったのか? なんで知ってるんだ?」
「暇つぶしに上書き世界を覗いたら、偶然にも二人が大事な結婚式をあげると知ったのです」

 胸を張るルーティアの横で、武装した女性がくすくす笑う。

「サナト様、嘘ですよ。お嬢様ったら、毎日必ずチェックしていますので」
「ファルヌっ! う、嘘、それが嘘だから! 違うの! サナト、そんな疑いの目で見ないでよ! ちょっと、インヘルザも何か言いなさい!」
「私はお嬢様がおとなしくしていてくだされば、それで結構です」
「インヘルザぁぁ! あっ……二人のお祝いをしたいっていうのはほんとなの! だって、ここはちょっとね……」

 ファルヌが苦笑い交じりで言葉を引き継ぐ。

「まあ、地下よりは地上の方が良いでしょう。少し手を入れて準備しましょう」
「……別にそこまでしてもらわなくてもいいが」
「そう言わないでください。お嬢様の心ばかりの感謝を受け取ってくださいませ」

 丁寧に腰を折ったファルヌは、「お嬢様も」と頭を下げさせる。

「私は、お願いしたいです! もちろんアペイロンさんも!」

 リリスが嬉しそうに笑みをこぼした。

「まあ、いいか」

 サナトが幸せそうに瞳を細め、柔らかい笑顔を作る。
 ルーティアがほっと安堵の息を吐き、拳を真上に突き出した。

「よーしっ! 天界の城ぐらい作ってみせる!」
「おやめください」

 ファルヌが軽く頭をはたき、インヘルザが疲れ切った顔で肩をすくめた。


 ***


 人数は少ないが、盛大な結婚式だった。
 国の英雄の式ともなれば、参加者も膨大となる。
 新たに国王に就任したリリアーヌ=ハヅキは「城下に知らせます」と言ったが、それをサナトは半ば強引に押しとどめた。
 特に、「アペイロンが寝返りをしただけで、数百人は犠牲に」などと、冗談を真に受け慌てたリリアーヌはレイナにからかわれていた。
 フェイト家からアズリーとアースロンド。
 セナードやルルカ、ヘーゲモニア。モニカやガリアスといった学園の親しい友人。
 そして偽装した天使と――見慣れない黒衣の男女。
 指輪を交換する二人の上に羽の生えた天使が現れるというハプニングもあり、結婚式は終始にぎやかだった。

「暴れないのか?」

 立食パーティの合間でぬけ出した黒衣の男女を、サナトが呼び止めた。
 金色の瞳がらんらんと輝いている。
 男の方が、にたりと口角を上げる。

「<神格眼>と<神格法>、並外れたステータスの強化スキル。暴れたところで『楔』が無い私に勝ち目はないでしょう? あなたはもう天使側でもある」
「暴れるつもりだったのか?」

 男がゆっくり首を横に振った。

「楽しみにしていた死後の魂を得られないと知って、何食わぬ顔で切り札を抱えていた天使に嫌みを言ってやろうと思っただけです」
「その天使なら、酒を飲んでリリスに絡んでるぞ」
「してやられましたよ。まさか、私との契約を断ち切る方法があるとは思ってもみなかった。新しい魔界の誕生を祝うための美酒にする予定だったのですが。……悔しそうに唇を噛んでいたのも、何もできないように見せかけていたのも、作戦だったのかもしれません。さすがは第一級天使だ」
「敵を甘く見るな、と教えたはずだろ?」

 男がくつくつと嗤って身を翻した。

「行きましょう、ウェリネ」
「はいはい……あなた、ほんと何しに来たのよ」

 女が呆れた声で隣に寄り、二人はゲートで消えた。


 ***


 一年が経過した。
 王都の外れに作った、結婚式場用の大きな建物は、別の目的に使用されるようになった。
 威勢の良い声が響く。

「子供、三人来店! 今日のおすすめランチ頼む!」

 野太い声を上げるのは、ガンリットだ。
 パルダンで食堂をやっていたものの、色々とあって立ち行かず、今はサナトがオーナーの店で働いている。資金源は山ほどの魔石だ。
 妻のイゾラ、リリスの元同僚ナルルも働いている。
 ここは普通の食堂ではない。
 客は年端もいかない貧しい子供たちだけだ。教育を満足に受けられない子供たちのために、二階で月に五回ほど無料の塾を開いている。
 評判は上々で、どこまで手を広げるかで悩んでいるところだった。

「三人前できあがりました!」

 鈴を転がすような声とともに、リリスがエプロン姿で現れる。彼女もここの給仕だ。
 冒険者稼業をやめた彼女は、ザイトランの店で働いていた同僚たちを誘って、しっかり働いている。
 料理長は、ティンバー学園の総料理長だったハイエルフの男だ。
 リリスの顔つなぎで、サナトが声をかけた。
「子供のために、手を貸してほしい」と頼むと「料理を教えてくださったノトエア様も、そう望んでいた」と快く手を貸してくれるようになった。レイナが辞めたからついてきたのではという噂もある。
 おかげで学園の食堂がひどくまずくなったらしい。

「サナトくーん、お酒ちょうだーい」

 美しいエルフが奥のテーブルに突っ伏して空の瓶を揺らしている。手を使わずに<神格法>で揺らせるのは彼女くらいのものだ。
 サナトは、片目を眇めて近づき、腰に手を当てて言った。

「レイナ元陛下、ここはこども食堂だと何度言ったら分かるのですか? 自分で持ち込んだ酒で酔っぱらうのはやめてください。うちに酒は置いていません」
「だって、リリアーヌにあとを譲ってからすることないんだもーん。いいじゃない。一緒に、一カ月くらい森林浴行こうよー」
「だから行きませんって。だいたい長すぎます。子供が小さいのにそんなに家を空けられるわけないでしょ」
「えぇー、あの時、約束したのに。前の世界の話もしてくれるって」
「約束した覚えはありませんね」

 宙に浮かぶ酒瓶を奪い取り、くるりと背を向けた。
 しかし、その裾が引っ張られて慌てて向き直る。
 不安げな顔のモニカがいた。その腕には、柔らかい毛布で包まれた玉のような赤ん坊がすやすやと眠っている。

「な、なあサナト、これ……いつまで預かればいいんだ?」
「もう少しだけ頼む。俺とリリスのシフトがもうすぐ終わるから」
「お前……、よりにもよって私にお前らの子供を頼むとはひどいぞ」
「なぜだ? セナードやルルカはにやにやしながらほっぺたをつついてたぞ。だいたい、その為に来てくれてると言ってたよな?」
「そ、それはそうだが……あいつらと私は事情が違うと言うかなんというか……」
「ん? ……腕が痺れてきたのか? じゃあ、アズリーさん、お願いできますか?」
「わ、私!? えぇっ、私も何と言うか、複雑です……」
「……何が?」

 モニカとアズリーは気まずそうに紫色の髪の男の子の顔を見つめる。
 そして、何を思ったのか二人揃ってにへらと笑みを浮かべた。
 だが、途端にモニカがあたふたと立ち上がる。

「サ、サナト、なんか、なんか手が冷たい。おしっこじゃないのか!? あっ、起きたぞ! どうすればいい!?」
「ちょ、落ち着け! どうすれば……って、リリス―、助けてくれ!」
「は、はい!」

 エプロンを畳みながら、苦笑いする少女が駆けてきた。束ねた薄紫色の髪が軽く跳ねた。
 大人びた顔は、ぐっと美しくなっていた。
 思わずにやけたサナトは、突然の太ももの痛みに顔をしかめた。慌てて振り向くと、誰もが窓の外に視線を向けている。
 白々しい共犯関係だ。

「……誰がやった?」
「「「さあ」」」
 
 そっぽを向くモニカから、リリスが慣れた手つきで赤ん坊を抱え上げた。
 そして、微妙な空気に気づいたのか、サナトを見上げる。

「何かあったの? サナト」

 アメジストの瞳を不思議そうに曲げたリリスは、自然と夫の名前を口にした。

「俺は何も悪くないはずなんだ……たぶん」

 そう言ったサナトは、三人の女性が向けた視線に、びくりと体を強張らせた。


(FIN)
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