スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと

文字の大きさ
51 / 105
4巻

4-1




 第一話 見たことがない


 ティンバー学園に入学したサナトが、圧倒的威力の魔法を見せつけてから、三日が経過した。
 サナトはあれ以来、数人の同級生に力の秘密をしつこく尋ねられたが、すべてけむに巻いた。
 そもそも「どうすれば初級魔法を強くできるか」という質問には、答えたくとも答えられないのだ。
 しかしサナトの事情を知らない者達は、「創意工夫して得た魔法の力」や、「周囲に明かせないスキルの力」のことだから、赤裸々せきららに語るはずがなくて当然、と理解した。
 尋ねる生徒だって、聞かれて答えられないことは多い。
 時に、昨日の友が今日の敵になる世界で、手の内をさらすのは、リスクを背負うことになるからだ。
 その結果、サナトは一目置かれてはいるものの、積極的に輪に入ろうとはしない人間として理解されていた。

「――稀代きだいの英雄王ノトエアは、こうして大雨による鉄砲水を利用し、数で勝る帝国軍を撃退した」

 王国の歴史を学ぶ時間帯。
 切り出された白亜はくあをチョーク代わりにして、教師のカルナリアが黒板に簡易な図を描いた。

「ノトエアが砂漠の標高を活かして陣を構えた場所がここだ」

 丸で囲んだ一か所をコツコツと叩く。

「先生、じゃあノトエアは、偶然の大雨で勝てたってことですか?」

 一人の少女が不思議そうに声を上げると、カルナリアが首を縦に振った。

「ノトエアには、大雨の降る未来がえていたのだろう、と言い伝えられている」
「あっ、それ聞いたことあります」

 横から口を挟んだ小柄な少年が、「『おそらくの未来視』ですよね?」と知識を披露した。
 カルナリアが軽い拍手を返し、微笑ほほえむ。

「よく知ってるな。その言葉が書かれた本はあまり知られていないのに」
「最近、ちょっと風変わりな伝記を読む機会があったんで」

 普段厳しいカルナリアの称賛を受け、まんざらでもない様子の少年は、うっすらと顔を赤らめた。
 周囲の誰かが「さすが秀才」とはやし立て、少年はさらに小さくなった。
 カルナリアが教壇きょうだんに両手をかけ、乗り出すように生徒を見回した。

「余談だがついでに話しておこう。ノトエアは未来視ができたと考えられている。周囲に伝える時には、『おそらく』という言葉を必ずつけたそうだが、九割ほどの確率で当たったらしい。一つの確定した未来が視えていたのではなく、複数の未来が入り混じって視えていた、という説が、学者の間では濃厚だ」
「未来が視えるから、無理に攻めずに、雨で流されない場所に陣取ったのですね」
「そうだ。ノトエアが帝国軍を目の前にして仕掛けた交渉は、敵をその場に留めるための時間稼ぎだったというわけだ」
「すごい人ですね」

 カルナリアが、生徒の感嘆の言葉に表情をほころばせた。
 誰もが目を輝かせて耳を傾ける。戦略の話よりも、偉人伝を聞く方が楽しいのだろう。

「若いころのノトエアは、自分に自信が持てない人間だったそうだ。そのあたりの逸話も数多いから、気になるなら自分で調べてみてもいい。運が良ければ、ノトエアの話をじかに聞ける機会が来るかもしれんしな」

 カルナリアは言葉を締めくくる。授業の終了時間が迫っていた。
 残念そうに肩を落とした大勢を前に、彼女は苦笑して、黙々とペンを走らせる男に視線を向けた。

「それにしても、サナトはずっとメモを取っているな」
「初めて聞く話ばかりなので忘れないようにと。この国に千年以上の歴史があるとは知りませんでした」
「そうか。まあ、どこかで何かの役に立つかもしれん。その心がけは素晴らしい。だが――」

 カルナリアが目に剣呑けんのんな光をたたえて、生徒達をめ付けた。

「一番熱心に書き留めようとしているのが新入生とはどういうことだ? 強さは剣技や魔法だけじゃないぞ。知恵や知識も必要になることがあるんだぞ」
「もちろん、分かってますって」

 一人の男子生徒が、優等生を演じてすばやく手を挙げた。口元がにやにやとゆるんでいる。
 カルナリアは内心でため息をついた。


 ***


「あの……」

 授業後、要点を清書していたサナトは、聞きなれない声に手を止めた。
 ざらざらした紙とペンをアイテムボックスに放り込み、ゆっくり声の主に視線を向けた。
 同じ円卓に座る黒髪の少女だ。編み込んだ黄色いひもがこめかみのあたりで揺れ、細い両腕で古い本を抱えている。うかがうような表情で一歩近づいてきた。

「良かったら、一緒に昼食どうかな?」
「別に構わないが……場所は?」
「一階の食堂でどう?」
「連れも一緒で構わないか?」
「もちろん。初日に一緒に入ってきた紫髪むらさきがみの子だよね? 食堂は区分けされてないから大丈夫だよ」

 いつの間にか、教室のざわめきが潮が引くように消えていた。
 少女は気にしない様子で、「じゃあ、行こっか」と、アイテムボックスに丁寧ていねいに本を収納した。

「あっ、私はリリアーヌ。よろしくね、サナトくん」


 ***


 サナトは隣の教室に、初めて足を踏み入れた。
 この三日間は、リリスがいつも廊下ろうかで待っていた。付き人の授業の心得の一つとして、主人よりも先に終えて待つ、というものがあるらしい。
 しかし、今日に限っては遅れたようだ。
 同じ間取りの教室の奥に視線を向けると、リリスの周囲に、一際ひときわ小柄な少女と細身の青年が立っていた。青年が何か声をかけ、リリスが居心地悪そうに、「やめてください」と口を動かしている。
 サナトが、思わず険のある声で言い放った。

「リリスに何か用か?」

 言葉を聞いて、少女と青年は、はっと振り返った。
 しかめっつらを浮かべるサナトを見て、あわてふためき、リリスの後ろに下がった。
 リリスが立ち上がって表情を緩める。なぜか頬を赤く染めている。

「ご主人様、お待たせしてしまってすみません」
「申し訳ありませんでした」

 洗練された動きで深々と頭を下げた少女と青年は、リリスのあとに声を揃えて言った。
 困惑したサナトを、リリスが苦笑交じりでフォローする。

「ご主人様、違うんです。二人は……えっと……私のことを気にかけてくれて……色々と教えてくれていたんです」
「そうか。いや、すまん。てっきりリリスが困っているものだと……」

 頬をかいたサナトは頭を下げ続ける二人に、「早合点はやがてんして申し訳ない」と謝罪する。

「リリスさんの言ってた通りです……」

 少女が顔を上げて、ぼそりとつぶやいた。
 サナトは頭上に疑問符を浮かべ見つめ返す。

「言ってた通り?」
「何でもっ、何でもないんです!」

 リリスがサナトの視線をさえぎるように小さな体を入れ、「本当に何でもないんです」と消え入りそうな声で繰り返す。
 サナトの表情が和らいだ。

「まあ、リリスが困ってないなら何でもいいさ。ところで、今から食堂に行くが、一緒にどうだ? そちらの二人と先約があるのか?」
「い、いえっ! まったくそういうことは」
「そうか……」

 サナトが微笑み、リリスの後ろの二人に水を向ける。

「リリスを連れていって構わないかな?」
「もちろんですっ!」

 少女がはじかれたようにソプラノの声を上げた。ウェーブがかった薄橙色うすだいだいの髪がふわりと揺れる。
「どんどん連れていってください!」と、勢いよく言葉が続き、言葉遣いがまずいと気づいたのか、「あっ」と視線を落とした。
 青年がそれを横目に困り顔を浮かべ、優雅に頭を下げる。

「リリスさんは、サナト様の付き人です。我々のことを気にしていただく必要はまったくございません。お時間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした」

 サナトは青年の柔らかい物腰に、内心で「すごいな」と感嘆する。
 言葉の端々はしばしに、磨き上げられた気品のようなものを感じさせるのだ。
 彼の主人は一体誰だろう。
 サナトは自分の教室のメンバーを順に思い浮かべたが、似た雰囲気の人間は思い当たらなかった。


 ***


 サナトとリリスは、リリアーヌの対面で椅子いすに座った。
 長大なテーブルの上には、綺麗にからになった皿がある。
 当初、リリアーヌを前にしてリリスは身を固くしていたが、壁を感じさせないフランクな口調に、ゆっくりと打ち解け始めていた。

「へえ、サナトくんってパルダン出身なんだ。私は王都生まれの王都育ち。リリスもパルダンなの?」
「私はご主人様に拾われた場所がパルダンです。出身地は……記憶にありません」

 黒髪をくるくると片方の手でいじるリリアーヌが目を丸くする。


「拾ってもらったってどういうこと?」
「私は物心ついた時から――」
「リリアーヌ、そのあたりはデリケートな問題だから、察してくれ。で、食事前に言った聞きたいことって何なんだ? 雑談だけってわけじゃないんだろ?」

 サナトは食堂の時計を横目で窺う。
 学園の授業は昼までで午後の授業はないが、すでにかなりの時間を雑談についやしていた。
 それに、今日はギルドに顔を出してほしいと言われている。

「あっ、そうだった」

 リリアーヌが思い出したように身を乗り出す。

「サナトくんってすごく真面目に授業聞いてるよね。取ったメモ見せてくれないかな」
「……俺のメモを?」
「うん。ダメかな?」

 上目遣いでサナトを見つめるリリアーヌの瞳には、強い好奇心が浮かんでいる。
 サナトはどうしようかと考えてから、アイテムボックスから紙束を取り出した。

「リリアーヌに俺のメモが必要になるとは思えんがな」
「ううん、助かるよ。でも……ごめんね。見たいのは内容じゃなくて――」
「文字か?」
「……えっ?」
「驚かなくてもいいだろ」

 サナトが苦笑しながら続ける。

「リリアーヌがずっと俺の手元を盗み見ていたのには気づいていた。最初は新入生だからかと思ってたんだが、三日間ずっとだ。これはおかしいと思っていたら、どうも俺がペンを走らせるときだけ見られてる。となると、書いた内容か……それとも珍しい俺の文字のどっちかだ」
「……ばれてるとは思わなかった。一度もサナトくんの視線は感じなかったのに」

 サナトは肩をすくめて笑う。

「盗み見は俺が一枚上手だったってことだな。それで、読めない字に興味があるのか?」
「読めないのも分かるの?」

 いぶかる瞳を向けるリリアーヌに、サナトが束から一枚紙をちぎって差し出した。
 そこには『元の世界の言葉』でこう書かれていた。

〝――悪魔に出会った。非常に狡猾こうかつで、陰で暗躍する彼らは、人間を超越する力を持っている。愛くるしい見た目に惑わされてはいけない。存在する目的が不明なのだから――〟

 リリアーヌが目を大きくして、まじまじと見つめた。

「……何て書いてあるの? どこの国の言葉?」
「その反応は間違いないな。ディーランド王国から遠い国の言葉だ。内容は……授業中に書く文章じゃない、とだけ言っとく。まあ、リリアーヌが不思議に思った通り、俺が変わった文字を書くってことは、間違いない」

 サナトはそれだけ言うと、紙束をアイテムボックスに放り込んだ。



 第二話 学園長


 リリアーヌは鐘の音とともに、学園を出た。
 噴水前には専用の馬車が待っていた。周囲には彼女を守るため十人の精鋭が控えている。
 馬も篭も、他とは比較にならないほど大きく、豪奢ごうしゃなそれは走るだけで威風を放ち、他の学生や国民の羨望せんぼうの的だ。
 学生という身分で過保護すぎる、と訴えてはいるが、これ以上の戦力削減は危機管理能力を低下させると却下された。
 入学当初は、罪深い自分がこんなに耳目じもくを集めるものに乗るのか、と気後きおくれしていたが、今はあまり考えないようにして、家名に恥ずかしくない態度を装っている。
 背筋を伸ばし、歩幅は大股にならないように肩幅を意識。かかとからつま先に体重を後ろから送るように踏み出しつつ、重心は前のめりにならないようにやや後ろを保つ。
 将来のために厳しくしつけられた動きが、湧き上がっていた高揚感を少し冷ました。
 素早く馬車に乗り込む。年老いた臨時の付き人に、平坦な声音で「城へお願い」と告げた。
 付き人の白いまゆが、「おや?」と不思議そうに寄ったが、口を引き結んだリリアーヌを見て、深々と頭が下がる。
 そして、護衛に二言ほどつぶやいて扉を閉めた。
 王都はティンバー学園からちょうど南に存在する。
 帝国が攻め込んできた際には、学園を防波堤とする思惑があったと言われている。
 十分な数の軍を待機させるための訓練場と、大っぴらになっていない地下備蓄庫。そして、王都まで通した巨大な地下通路。
 学園では、一部の上層部だけが知る情報だ。
 リリアーヌは護衛に囲まれながら、王城に足を踏み入れた。訪れるのは久しぶりだ。
 とある事件以降、城で働く召使いや役人、貴族、果ては清掃係や料理人に至るまでが、彼女に恐怖の視線を向けるようになったからだ。
 加えて、レベルが高い憲兵にすら警戒心を持たれていると思うと、自然と足は遠のいた。
 リリアーヌは警備員のチェックを顔だけで通り抜け、静謐せいひつな廊下を進む。
 すると、幼少時代から知る召使いの女性が、微笑みながら近づいてきた。ギュネーだ。

「リリアーヌ様、陛下にご用事ですか? 珍しく時間がいているようですよ」
「うん、手紙で聞いてる」

 痩身そうしんのギュネーの両手には重そうなバゲッジが二つ抱えられている。
 しかし、足取りはしっかりしている。
 足下から統一された黒い衣装の効果もあって、年齢を感じさせない若々しさがある。
 ギュネーは廊下に荷物を置くと、「お久しぶりです」と両手を組んで頭を下げた。
 リリアーヌはようやく信頼できる人間に出会い、ほっと胸をで下ろして言った。

「ギュネー、ほんと久しぶりね」
「本当に。陛下も私もいつも首を長くしてお待ちしておりますのに、最近はめっきりいらっしゃらなくなって寂しかったです」

 柔らかく微笑むギュネーに、リリアーヌも釣られる。

「ごめんね。ギュネーの仕事が終わったら遊びに行くから。久しぶりに話でも聞いてくれる?」
「もちろんです。では、荷物を運び終えたら部屋でお茶の準備でもしておきます。リリアーヌ様がいらっしゃってくれたおかげで、私の仕事もはかどりそうですから」
「どういうこと?」
「リリアーヌ様が陛下とお約束なさっているということは、陛下のお部屋が珍しく大変綺麗になっているだろうと……そういうことです」

 ギュネーは悪戯いたずらっぽく片方の目をつむった。
 リリアーヌは散らかりっぱなしの部屋を想像して、「なるほどね」と苦笑した。

「では、後程」
「ギュネー、荷物大丈夫? 手伝おうか?」

 歩き出したギュネーに、リリアーヌが近づいて手を伸ばす。
 ギュネーがゆっくり首を振った。

「これは私の責務です。お嬢様の力を借りなければならなくなった時には、潔く身を引かせていただきます」
「……相変わらず厳しいね」

 苦笑したリリアーヌに、ギュネーが微笑んだ。
 だが、表情とは異なり、瞳はたしなめるような色を浮かべている。
 リリアーヌの鼓動が小さく跳ねた。

「どのような仕事でも、自分ができることはきっちり把握しておかねばなりません」

 ギュネーはそれだけ言って、静かに歩き始めた。
 リリアーヌが背中をうらやましげに見つめて、ぽつりと言った。

「さらっと、耳に痛いお説教を混ぜてくるんだから。みんなギュネーみたいに強くないんだよ」

 リリアーヌは、くるりと背を向けて廊下の奥へ進み始めた。
 最奥にたどり着くと、二人の憲兵が立っていた。
 二人はリリアーヌを見て、「あっ」と声を漏らし、弾かれたように敬礼を行った。
 リリアーヌがノックし、返事を確認して扉を押し開けた。
 学園の教室ほどの広さの部屋だ。
 壁際には階段状の三段棚を備え付け、その上に色とりどりの植物を、小さな鉢から大きな鉢まで何種類も並べている。
 日光が十分に当たらない環境下にあっても、植物はみずみずしく花を咲かせ、濃い緑の匂いを充満させていた。
 王の自室というよりは、疑似的な森を惹起じゃっきさせる空間だ。
 リリアーヌは安らぎを感じながら深呼吸した。
 胸いっぱいに広がる深緑の香りと共に、部屋の中央で微笑む女性に頭を下げた。

「ハヅキ=レイナ陛下、久しくご無沙汰しております。この度は、拝顔の栄に――」
「やめてリリアーヌ。私とあなたの間でしょ? 堅苦しいのはやめてちょうだい」

 レイナはそう言って、リリアーヌに近づいた。
 両手でいつくしむように黒髪をで、首から肩を通って腰のあたりに触れた。リリアーヌが照れくさそうに身をよじったのを見て、レイナが優しい声で言った。

「成長は遅いけど、しっかり女性らしくなってきてる。周りの男性に言い寄られてたりしない?」
「そ、そんなことないです」
「そうなの? もったいない。私ならすぐ声をかけるけど。でも、もう少し経ったら自由な恋愛が難しくなるかもしれないから、想い人がいるなら、早めにお付き合いしておきなさい」

 悪戯っぽく笑うレイナの視線に、リリアーヌは真っ赤になってうつむいた。
 そんな彼女の頭をもう一度でたレイナは、目尻を下げて言った。

「それと、言い忘れたけど陛下は勘弁してちょうだい。元々そんなうつわじゃないんだから。学園長って呼ばれる方がまだましかな……単に長生きの種族ってだけだし」
「ノトエア様のきあと、百年以上の治世を続けてこられたことには誰もが感服しています」

 リリアーヌが素早く反論する。
 しかし、レイナの表情はくもったままだ。

「私は、夫が残した未来視に頼ってきただけよ。何もかも、ノトエアが考えてできなかったことを実行してきただけ。豊富な寿命と、恵まれた力をたてにね」

 レイナは、視線を部屋の片隅のとある植物に向けた。
 長く美しい金髪から、彼女の種族を表すとがった両耳がのぞいていた。



 第三話 待っていた人物


「ようやく決心がついた? 何度も言うけど、あの事故は不運が重なった結果よ。できれば、夫と私の血が色濃く出たあなたに跡を任せたい。その黒髪と、成長が遅い体、それと爆発的な魔法の攻撃力が何よりの証拠よ」
「それは……」

 リリアーヌは気まずそうに視線を落とした。レイナがため息交じりに苦笑する。
 彼女が迷っていることは一目瞭然であった。
 リリアーヌはハイエルフであるレイナの直系に当たる。
 ノトエアとレイナは運よく子宝に恵まれたが、その後の子孫の誰もが圧倒的な寿命を誇るハイエルフの特性は引き継げずに、徐々に血が薄れ、リリアーヌは四代目に当たる。
 レイナはノトエアの死後、遺言を盾に周囲の反対を抑え込んで玉座に座ったが、人間の国であるディーランド王国に異種族であるハイエルフが君臨することを、快く思っていない者もいた。
 そもそも人間とハイエルフの間に子が生まれたこと自体が奇跡だったのだ。

「じゃあ、今日は遊びに来てくれたの?」
「いえ、陛下のお時間を私のわがままに使うことは……」

 レイナはきょとんと首をかしげ、「別にいいのに」と肩を落とした。
 その表情がとても真剣であったため、リリアーヌが話を変えようと慌てて本題を切り出した。

「実は、私の身近に公用語じゃない文字を使う人がいるんです。それをお伝えしたくて」
「……どういうこと?」

 レイナの顔がぎょっと変わった。

「例の、ノトエア様のお手紙を見せていただけますか?」

 リリアーヌは室内の一か所に視線を送った。
 自然と室内が緊張感に満たされる。
 レイナが何も言わずに立ち上がって移動し、折りたたまれた紙を手にして戻ってきた。
 色の変わった今にも崩れ落ちそうな古い紙を、レイナが宝物を扱うように優しく広げた。そして、二枚のうち一枚をリリアーヌに手渡した。
 リリアーヌがさっと目を通す。

「間違いありません。この難しい字と、簡単な文字の組み合わせ。確かにノトエア様がお使いになった字と同じです」

 リリアーヌは、そう言って手紙の一部分を指差した。
 ――愛する、レイナへ。
 手紙の一行目。
 若かりしノトエアがレイナにてて書いたものだ。


感想 65

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
ファンタジー
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。