平穏を望むお約束世界に転生した公爵令嬢の話

黒歴史制作者

文字の大きさ
1 / 1

殆どノリ

しおりを挟む

 ここは、ある国ではゲームとして使われた世界である。

 この世界では時折、転生者が現れる。転生者には特典として神からランダムで異能を貰える。

 そんな転生者がここにも一人、エンディアという名前で生を受ける。

(何なの、この異能は……)

 元気に泣いているがその内心では焦りを浮かべていた。

「可愛い女の子ですねぇ、お館様」
「あ、ああ。エンディア、公爵家に生まれた以上恥をさら……っ!?」

 生まれたばかりの子供に対して言う言葉ではないと感じたエンディアを抱えた従者は、お館様と呼んだ青年の頭を殴る。

(公爵家……?  そして、エンディアという名前……どこかで聞いた様な気がする)

 そのやり取りを認識しているが、それ以上に気になることがあり反応する余裕はないエンディアである。泣き喚いているが内心の様子には変化がない。

「いつまで茶番をしているの?  早く連れて行きなさい、世話は任せたわ」
「怒っているのかハッキリして下さいよぉ、奥様。分かりましたぁ、邪魔者は退散しますぅ」
「従者の癖に私の扱いが悪くないか?」
「妥当ですぅ、では失礼します」

 お辞儀をしてエンディアと呼ばれた赤子を抱きながらその場を立ち去る。

 立ち去ったことを確認してからしばらくは部屋に静寂が訪れる。その空間が破られた切欠は青年の溜息だった。青年は青色の瞳を妻である女性に向ける。

「まったくあの従者は……、いつもながら何を考えている」
「それでも近くに置いているということは気に入っているのでしょう?」
「年齢不詳、名前不明。そんな奴を置いておけるのは星の導き手を先祖とする俺の家系のみだけだ」

 その言葉を聞いた女性は口元に手を当てて笑う。青年の耳は赤く染まっており、照れている証拠だと知っているからだ。考えていることがバレていることに気づいた青年は咳払いをして思考を切り替える。

「ごほん、そんなことよりエンディアについてだ」

 その話題に女性の笑いは途切れ、真面目な光が瞳に宿る。

「婚約者とか決めるべきであるが、決めたくない」
「我儘もいいところね。従者でも呼びましょうか、笑顔で止めてくるわよ」

 真面目な雰囲気を壊すような青年の発言に女性は溜息を堪え切れない。先程、従者と共にエンディアを部屋に行かせたのは正解だったと内心は安堵する。



(思い出した、たしかお約束を踏襲しようとしてできていないゲームのキャラだ)

 それは廊下を歩いている従者に抱えられているときのことだった。


 エンディア・スフィアリード。スフィアリード公爵家の天才であり星の導き手の生まれ変わりと言われる。

(基本事項であり、キャラの概要に書いてあったこれしか知らないのだけど)

 泣き止んでうとうととしているエンディアを見た従者は笑みを浮かべる。従者にはエンディアが何を考えているのか、というのは分からない。だからエンディアが転生した存在であるということは分からないのだ。

(あのゲーム、乙女ゲームのお約束だったんだけど。これは不味い、落ちがさっぱり読めない。お約束が複数あるのは確かなジャンルでこんなことしないで欲しかった)

 乙女ゲームのお約束、それは例えばヒロインが下級の身分、王子がメインの攻略対象、幼馴染が攻略対象であるなどだ。

 だが、悪役である公爵家の従者が謎展開を作る要因とは誰が想像していただろう。

(初めてキャラの概要を見たときに驚いた事なんだけど、従者の名前が無いというのに概要欄に載っていたから)

 乙女ゲームがどのようなキャラ概要を持っていたか思い出している間に意識が遠くなる。そして眠りについていた。従者は寝息をたてているエンディアを見て、目を見開く。

「お館様、部屋が遠すぎるのですが。かれこれ五分くらい歩かされているというのに、まだ着かないとは思いませんでしたぁ」

 そう言う従者はお館様と呼ぶ当主に対して呆れの溜息を吐くが、従者は気づいていない。先程から同じ場所を歩いていることに、それに気づいたのは十分経ったあとだった。




「そういえば、部屋についてはどう伝えたの?  あの従者は基本的に正規ルートを辿らないわよ」
「この俺がエンディアのことで間違える訳がないだろう」

 呆れを多分に含んだ目を青年に向ける。その目を振り切る様に自慢気な笑みを浮かべる男性はそう言う。だが、その返しを聞いた女性は溜息を吐く。

「どうかしら。あの従者は扱いに手間がかかるわ」
「慣れればそこまでじゃないさ。そうだ、エンディアをあいつに任せるか」

 流れる様に言われた言葉に女性は固まる。しばらくして復活するもまだ驚愕が抜けないのか動きがぎこちない。

「……正気かしら」
「途中から渡すから手間取るんだ、始めから渡していれば常識となるだろ」
「それもそうね」

 エンディアと従者の二人がいないところで勝手に決まっているがもし居たとしても止めることはできないだろう。

 常識としてしまえば驚きも少ないはずであるという作戦は、本来なら成功していただろう。だが、エンディアは転生者である。別世界とは言えある程度は常識が共通していることも知っている。

 この場合、従者の暴走を止める者が現れたかどうかは定かではない。だが、平穏から離れる原因は別のところで作られていた。


 エンディア・スフィアリード。スフィアリード公爵家の天才であり星の導き手の生まれ変わりと言われる。

(基本事項であり、キャラの概要に書いてあったこれしか知らないのだけど)

 泣き止んでうとうととしているエンディアを見た従者は笑みを浮かべる。従者にはエンディアが何を考えているのか、というのは分からない。だからエンディアが転生した存在であるということは分からないのだ。

(あのゲーム、乙女ゲームのお約束だったんだけど。これは不味い、落ちがさっぱり読めない。お約束が複数あるのは確かなジャンルでこんなことしないで欲しかった)

 乙女ゲームのお約束、それは例えばヒロインが下級の身分、王子がメインの攻略対象、幼馴染が攻略対象であるなどだ。

 だが、悪役である公爵家の従者が謎展開を作る要因とは誰が想像していただろう。

(初めてキャラの概要を見たときに驚いた事なんだけど、従者の名前が無いというのに概要欄に載っていたから)

 乙女ゲームがどのようなキャラ概要を持っていたか思い出している間に意識が遠くなる。そして眠りについていた。従者は寝息をたてているエンディアを見て、目を見開く。

「お館様、部屋が遠すぎるのですが。かれこれ五分くらい歩かされているというのに、まだ着かないとは思いませんでしたぁ」

 そう言う従者はお館様と呼ぶ当主に対して呆れの溜息を吐くが、従者は気づいていない。先程から同じ場所を歩いていることに、それに気づいたのは十分経ったあとだった。




「そういえば、部屋についてはどう伝えたの?  あの従者は基本的に正規ルートを辿らないわよ」
「この俺がエンディアのことで間違える訳がないだろう」

 呆れを多分に含んだ目を青年に向ける。その目を振り切る様に自慢気な笑みを浮かべる男性はそう言う。だが、その返しを聞いた女性は溜息を吐く。

「どうかしら。あの従者は扱いに手間がかかるわ」
「慣れればそこまでじゃないさ。そうだ、エンディアをあいつに任せるか」

 流れる様に言われた言葉に女性は固まる。しばらくして復活するもまだ驚愕が抜けないのか動きがぎこちない。

「……正気かしら」
「途中から渡すから手間取るんだ、始めから渡していれば常識となるだろ」
「それもそうね」

 エンディアと従者の二人がいないところで勝手に決まっているがもし居たとしても止めることはできないだろう。

 常識としてしまえば驚きも少ないはずであるという作戦は、本来なら成功していただろう。だが、エンディアは転生者である。別世界とは言えある程度は常識が共通していることも知っている。

 この場合、従者の暴走を止める者が現れたかどうかは定かではない。だが、平穏から離れる原因は別のところで作られていた。


『題名回収の遅さに私は驚くわね』
(異能を使った第一声がこれとは一体どういうこと?)

 初めてエンディアが異能を使ったのは、生まれたばかりでやることが無かったときのことだった。

『おっと、流石に初めからこの展開は不味いわね。異能である私は第四の壁を破りし者とかなんとか言われているわ』
(何者というのは異能ということでいいんだけど、原作にこんなの存在していたかな……)

 誰もいない部屋で困惑しているエンディアである。従者が居ない理由はエンディアの食事を作りにいってるからだ。

『存在しないわね。既に少し触れられていたけれど、異能というのは世界を越えた者……言い換えれば転生者にしか手に入らないものよ』
(私は平穏に……ありきたりに過ごしたいんだけど)

 エンディアはキャラの概要と、元となったゲームのコンセプト上、エンディア・スフィアリードというキャラクターの最後は破滅だったのではないかと予想していた。

 だから、会話が一応成立していて長い付き合いになりそうなこの異能に対して自分の望むものを告げる。

『平穏とありきたりは等号で結ばれるとは思ってはいないけれど……。それがこれからエンディア・スフィアリードとして生きるあなたの願うことかしら』
(こんな公爵なんて位の高い身分に私が成れるとは思えないから、スフィアリードという名前は要らない)

 従者が部屋に入ってくるが、意識が内側に向いているエンディアは気づかない。従者からすれば眠っている様子にしか見えないが、近づいてくることもなく入口付近で立ち止まる。

『あなたの望むものはこちらで把握したわ。まだあなたの人生は始まったばかり……ですが、最初からどこへ向かうか分かっているというのは私からすれば楽ね』
(…………どうやって呼べばいいの?)

 異能の言葉はエンディアの頭に直接語りかけてくるという様子だった。だが聞いているエンディアは時折、聞こえていないのに脳内に文字が浮かび上がる様子がある。

『私のことかしらね……ふむ、星の導き手様とでも呼びなさい。声をかけてくれれば反応してあげるわ』
(なんで様付け?)

 その言葉を境にエンディアの脳内に語りかけてきていた言葉は途切れる。そして、エンディアの真横から突如として間延びした声がかかる。

「お嬢様、お食事の時間ですぅ。お待たせ致しましたぁ」

 入口付近で立っていたはずの従者は、異能である星の導き手様と呼ばれる者との会話が終わったことを見計らった様子で、エンディアの側に向かった。

(い、いつの間に……。この異能の使い道が結局分からなかったし……)

 食事をさせてもらうことしかできないエンディアは、暇なときに星の導き手様に脳内で話しかけようと決意するのだった。生まれたばかりなため何もすることがなくて暇だったいう理由もある。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

追放先で気づいた。この世界の精霊使いは全員、聞き方を間違えている~最安もふもふ白狐と始めた、問いかけの冒険~

Lihito
ファンタジー
精霊と暮らす世界で、ノエルはギルドを追い出された。処理ミスは誰より少ない。でも「やりづらい」の一言で、理由には足りた。 手元に残ったのは、最安で契約した手のひらサイズの白い子狐だけ。言葉はたどたどしいし、力もない。誰が見ても「使えない」と笑う精霊だ。 たどり着いた町では疫病が広がっていた。高額な精霊が三度探して見つからない薬草。ノエルは最弱の白狐と半日で見つけ出す。 力で勝ったんじゃない。聞く範囲を絞り、段階を分け、小さな鼻に合った問いを重ねただけ。 ——なぜこの世界では、誰も精霊への「聞き方」を知らないのか。 その違和感が、ノエルの旅を動かしていく。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...