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ロック好きな彼女

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 「ホラ、事務所の近くにカフェがあるでしょ。あの前で俺は千穂と百合子の会話を此処で録音したことを思い出していたんだ。その時何気に見た店内にあの女性がいた。俺の携帯の外部取得データーに入れた、ボンドー原っぱの恋人だと思えた」
瑞穂はまだ語り続けていた。それは仕事にも関連すると瑞穂が理解しているからだ。


「ってことは木暮君のお兄さんの奥さんか?」
俺の質問に瑞穂は頷いた。


「『あの女性を見て、俺は木暮の兄貴の奥さんだと思うんだけど……』って言ったら『ん!? あっ、きっとそうだよ』って木暮は言った。『何で此処にいるんだろう? 確か母ちゃんは引っ越ししたとか言ってたけどな』って言ってた」


「引っ越し?」


「『そうなんだ。新しい恋人が出来たんだって』って木暮は言った」


「えっ!? 恋人? まさか原田学さんか?」
俺はボンドー原っぱの携帯に収まっていた画像を思い出していた。


「『母ちゃん言っていたよ『兄ちゃんのことは早く忘れた方がいい』って。俺もそう思った』とも言った」


「辛いよな皆」
俺は何も考えずに言っていた。




 「俺達はその女性の近くに席を取った。『それにしても凄いドクロだったね』ワザとなのか、木暮が言った。俺は慌ててふためいて彼女を見たら、彼女が青ざめているように見えた。その途端、俺はドキドキして身を縮こめた。もう、木暮の馬鹿。よりによってこんな場所で……って思いながら俯き加減で又彼女に目をやったんだ。でも気付いていないようで、二人はコーヒーを飲んでいたんだ」
瑞穂は一気に喋った。


(二人?)
瑞穂の話で、俺は彼女が一人だと思っていたのだ。でも隣にはもう一人……。もしかしたら、その人は瑞穂達が探していたゴールドスカルのペンダントヘッドを身に付けていた男性だったのかも知れない。


「『そう言えば母ちゃんが言っていたな。MAIさんに新しい恋人はロックのミュージシャンなんだってさ。兄貴もそうだったから解る気がした』って言ってた。だから『へー、そうなんだ。その人がこの男性かな?』って聞いたら『もしかしたら……、いや、きっとそうだな』って木暮は言った」


(でも、待てよ。確か原田学さんは木暮君のお兄さんの奥さんを恋人だって言ってたな。ん!? あれは何だったんだ?)
俺の頭は疑問符だらけになっていた。


(原田学さんのロック仲間が木暮君のお兄さんで、その奥さんに惚れていた?)
もう何が何だかだ。俺は救いの手を待つかのように瑞穂を見た。





 「実はあの時。みずほのコンパクトが熱を帯びていたんだ。ずっとポケットに仕舞いぱなしだったから呼吸をしたがっているのかと思った」
そんな馬鹿な? と思いつつ、次の言葉を待つ。


「とりあえず出してみた。それでも俺は躊躇した。あの言葉を見たくはなかったからだ。だから俺はずっとそのままでいたんだ。その時、木暮の手がコンパクトを奪い開けていた。『あっ!?』木暮の驚き声を耳にした時、まだ見せていなかったのだ思った」


(そうか。俺にも見せなかったくらいだ。瑞穂はきっと躊躇したんだな。あの後も瑞穂の気持ちの整理は着いていないはずだから……)
気が付いたたら、胸が痛くなっていた。瑞穂の背負わされた十字架の重さがどのような物かも考えていなかったからだ。


「そっと木暮の横に移動して、コンパクトに目をやった。『あ!?』俺も驚いて声を上げていた。『これは何なんだ!?』二人同時に言っていた。コンパクトに書かれた《死ね》の文字に、ゴールドスカルの映像が重なっていたからだ」



「何か益々不可解な様相を呈してきたな」


「俺はそっと、後ろを振り向いた。知らない間にそのペンダントヘッドの持ち主が横に立っていたのだ。俺は慌ててコンパクトを閉じた。男性は『さっき確か会ったよね?』って言ってきた。『えっ、何時ですか?』って、俺はとにかく知らばっくれることにした」


「その男性は何て言ってきたんだ?」


「『原田の葬儀会場でだ』って言った。だから俺『えっ、その原田って誰ですか?』って更にすっとぼけた。そしたら『あっ、そうか本名知らないか。あのボンドー原っぱのことだよ』って言った」


「えっ、その男性原田学さんを知っているのか?」


「そうみたい。だから『えっ、彼処にいたのですか?  大勢いたので気が付かなかった』なんて……俺は悪いと思いつつ、更に嘘を重ねていたんだ」
瑞穂は舌を出した。本当に悪いと思っているのか疑問だ。




 「『実は俺の彼女、噂話では原田の恋人だったらしいんだ。だから何だか気になってさ。きっと君達なら何かを知っているのかなと思ってさ』って言ってた」


「えっ!?」


「俺はやっぱりと思った」


「だって原田学さんがあの日言っていたからね」


「でも『あっ、聞かなかったことにしてくれ。ヤだな俺、何だか嫉妬してるみたいだ』って少し赤面してた。だから俺『へー、彼女ってパフォーマー好きなんですね』って言ったんだ」


「おい瑞穂。原田学さんはロックグループのボーカルじゃ? あの時、確かにそう言ったはずだけど……」


「ヤダな叔父さん。原田学さんは確かにロックグループのボーカルだったけど、爆裂お遊戯団はパフォーマンスグループだからボンドー原っぱはパフォーマーなんだよ」


「だからパフォーマーって言ったのか?」

「うん。そしたら、『いや、彼女はロック好きなんだ。人の話だと、原田があんな風になったから俺に乗り換えたらしいんだよ』ってその人は言ったんだ」


「そう言えば、爆裂お遊戯団とボンドー原っぱの名前がイヤだとか原田さん言ってたな。でも、それで乗り換えたんじゃ原田さんが可哀想だよ」


「だから彼はきっと心配だったんだ。だから彼女が居ない内に聞いてみたかったのかも知れないな。そう、彼女は俺達の気付かない内に席を外していたんだ」


(その話し誰に聞いたのだろうか? もしかしたら彼女に嫉妬して?)
そうは思ってもしらばっくれることにした。大人の恋の話は瑞穂にはまだ早いからだ。




 「『いや、俺達ただボンドー原っぱさんにお別れをしたかっただけです』って、全ての意図を汲んで、木暮が言ってくれた。『だって原田さん……でしたっけ? 原っぱさんは、この町の出身ですから』とも言ってくれた」


「木暮君は凄いな」


「うん。『あっ、そう言うことか? 俺はただ、君がレポーターに何か言いたそうに見えたんだ。だからもしかしたら何かを知っているのかな? なんて思った訳てさ』彼はそう言いながら席に戻って行った。俺が其処を見ると、まだ彼女は居なかったけど、彼が椅子を腰を下ろした頃、彼女が戻って来るのが見えた」


「トイレにでも行っていたのかな?」


「さあ? 彼女の手にはスマホがあった。どうやら、電話をしていたらしい。彼は俺達に目をやり、唇に人差し指を当ててから慌てて彼女と向き合った」
瑞穂はまだまだ続きそうだ。




 「『それで決まった?』って彼が聞くと『やっぱり一週間後だって』って言った。俺が居たらダメかな?  この際だから、皆に紹介してほしいな』って彼。『カフェ主催の女子会なのよ、ダメに決まってる』って言いながら彼女は笑っていた』


「カフェ主催の女子会か? ところで何時なんだ」


「何? 叔父さんも興味持った?」


「も、ってことは木暮君もか?」
俺の質問に瑞穂は頷いた。




 「女子会か? 何て考えていたら……あれっ、確かさっき見たような気がするな。と思ったんだ。実はさっきこのカフェに入る時に、貼り紙を目にしていたのだ。それはカフェには似つかわしくないドデカサイズのポスターだった。それだけ力を入れた企画なんだと思っていた時だった」


「木暮君が何か言ったか?」


「うん。『女子会って何をするのかな?』って木暮が耳元で囁いたんだ。それがなんだかこそばゆくて、俺は肩を竦めた。それでも考えた。『女子会って言う物は……、あれっ、一体何をするんだろう?』結局そうなって、木暮はコケていた」
実際問題、俺にも女子会が何なのかさっぱり判らない。高校生の瑞穂達なら尚更のことだろう。


「でも、俺はそれに物凄く興味を覚えた。事件の真相が解るかも知れないと思ったのだ。そっと木暮を見まると、何だか浮き足立っているように思えた。
ふとテーブルを見るとメニューの中に何かが挟まっていた。早速開いてみたら、それはさっき彼女が言っていた女子会の案内チラシだった」
瑞穂はそう言いながら、ポケットの中からそれを出した。




 女子会はクリスマス前に行われるこのカフェの恒例行事のようだった。
学校が休みになる前に、大人女子だけで楽しもうと言う企画のようだった。


「『そう言えば、令和になる前は天皇誕生日から冬休みだったな』って言ったら木暮が『だからその前……』って言った。でもその後、発言の止まった木暮を見ると……。木暮は大人女子のネーミングに反応したようだ。俺は何やらヤバイ予感がした」


(ヤバいか? そりゃそうかも知れない。だって木暮は男子校で女っ気ないもんな)
ふとそう思った。




 「話変わるけど、『ねえ、そのペンダントどうしたの?』って彼女が言ったら『確かさっきも聞いたよね? これ貰い物だけど、何かあるの?』って彼が答えた。すると『私が買った物に似ているの』って彼女が言った」


(私が買った物? あっ、そうだ。瑞穂の霊視では木暮君のお兄さんは奥さんから貰ったって思っていたな? もしかして勘違い?)
その途端に何故かホッとしている自分がいた。だって木暮君のお兄さんの首を跳ねる目的で買ったのではないと知ったからだった。


「『ずっと探しいたの。それと同じのを……。ねえー、誰から貰ったの?』彼女は意を決したように言った。俺には、の真剣そうな口調がそう聞こえたのだ。『私が買ってしまっておいた物に、本当に良く似ているの。大切な物なの。だからずっと探し続けていたの。でも見つからないのよ』彼女は痺れを切らしたようにそう言った」


(ずっと探し続けるいるか? 何故だかそこが妙に引っ掛かっていた)


「でも俺は深読みする訳でもなく、ただその場で聞き耳を立てていた。木暮はそんな俺の横でこのチラシを見ていた」
瑞穂はそう言いながら女子会への案内チラシを俺に渡してくれた。


「木暮君行く気満々だね」
俺はおちょくっていた。瑞穂と身長差の余りない木暮君なら、女装も似合うと感じたからだ。俺は瑞穂と一緒に女子会に潜入してくれたならと考え始めていたからだ。




 瑞穂が木暮君から借りてきたチラシによると、女子会はクリスマス前に行われるこのカフェの恒例行事のようだ。『学校が休みになる前に大人女子だけで楽しもう』と書かれていた。
それを見た限り、原田学さんの事件の真相を調べるにはもってこいと言えるべき企画と思った。


「『大人女子!?』そのネーミングに木暮が反応した。木暮は俺が見つけたこのチラシをそっとポケットにしまい込んだ」



(一体、それをどうする気だったんだ)
何やらヤバイ予感がした。こう言う直感は良く当たるのだ。ま、木暮君が女子会に潜入してくれることを期待はしていたのだがね。でも本当は危ない仕事なんだ。
だから俺は瑞穂の一言一句を聞き逃さないようにと神経を集中させた。




 「『ねえ、教えてくれない』って彼女はまだ言っていた。よっぽど大切な物なのだろう、と感じた。俺はそのゴールドスカルのペンダントヘッドが木暮の兄貴に贈るためではなかったことに胸を撫で下ろしていた」
でも瑞穂が言い出したのは木暮君の話ではなかった。


「彼女はこのペンダントヘッドが木暮の兄貴の首を落とした事実を知らないのではないのだろうか? 俺がさっきホッとした理由はきっとこれに違いないと思えた。もしかしたら、犯人はやはりあのストーカーなのだろうか? 俺の頭の中に木暮の兄貴が鏡越しに見た、あの男性の目が甦っていた」
瑞穂は泣いていた。それは安堵の涙だった。




 「『お前の兄貴の奥さん相当ロック好きだね』木暮の耳元で囁くと頷いてくれた。『ロック好き、と言うより支え好きなんだよ。夢を実現しようと頑張っている人を応援しているんだ』木暮はそう言いながらそっと腰を上げた」




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