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真実
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その瞬間、私は気付いた。
海翔さんのお父様は、私のせいでみさとさんが拉致された事実を知っている。
海翔さんがバイクで追い掛けたから暴行未遂で済んだ経緯を知っている。
と――。
私がAV女優の橘遥だと知っている。
と――。
(なんてことしてしまったの。育児放棄された子供のままでいた方が波風立たないのに……)
それでもお父様は何も聞かず、すぐに私達を社長室前へと案内してくれた。
海翔さんのお父様が部屋をノックすると、社長秘書らしい女性が顔を出してくれた。
二人は何やらヒソヒソコソコソやってる。
きっとAV女優の橘遥が社長礼譲だと言っている。
そんなとこだろう。
大体の見当はつくけど、本当は辛くて仕方ない。
もし私が本当に行方不明だった娘だったとしても、AVカメラマンを遣らされていた彼を許嫁のままで居させてくれるかも心配だったのだ。
父には会いたい。
でも、怖くて仕方ない。
果たして社長は、彼が行方不明の許嫁だとは知らずに撮影していた事実を聞いて何と思うかも気掛かりだった。
監督や、お客様と呼ばれていた男性達に媚びてへつらい生き抜いてきた娘。
バースデイプレゼンショーの後、逃げるチャンスはいくらでもあったはずなのに……
私は両親の借金を返すために……
監督の言葉を信じ女性の部分を武器にして生きてきた。
許されるはずがないと思い始めていた。
監督に言われるがままにAVを撮らされていた娘など受け入れてくれないと思っていた。
「申し訳ありません。お嬢様に深い傷を与えてしまいました」
彼は社長室に通された直後土下座をして謝った。
「いえ、誉めて上げてください。この子じゃなければ見付け出すことは出来なかったと思います。彼女の心を助けようと、彼女を育児放棄した人を探し出そうとしたから……」
母親必死に状況を説明しようとしていた。
「ちょっと待ってください。育児放棄って何ですか?」
二人共テンパり過ぎて、社長が事情を知っているものと思い込んでいたようだ。
「失礼致しました。実はこれ……」
母親は持参した写真を提示した。
「それはさっき、一目見ただけで感じました。似てる……、まるで妻のはるかのようだ」
「えっ!?」
一番驚いたのは彼だった。
「ねぇ母さん。その人遥って言うの?」
「あぁそうだよ。知らなかったのかい?」
「彼女、監督に橘遥って名付けられたのです。もしかしたら監督は全て知っていて……」
「監督? 橘遥?」
「ほら、この前暴行未遂で逮捕された、元報道監督です。俺、監督の元で彼女の撮影をしていました」
「橘遥って? もしかしたらA……」
そう言い掛けたところで彼が止めに入った。
「すいません。いずれ判ることかも知れませんが……」
彼に言われて、回りに人のいることに気が付いた。
「すまんがキミ、ちょっと席を外してくれないか?」
「はい。では廊下で待機しております。御要望がございましたらお声掛けをお願い致します」
社長秘書はそっと部屋を後にした。
「橘遥……って、もしかしたら例の戦慄か? 何故、そんなこと……」
「俺が悪いんです」
「いいえ、決して彼のせいではありません。全部監督の企んだことです」
「違うよ。俺が監督から脅されて、時効が成立するまで隠していたからだよ」
彼は頑なだった。
監督に言われるがままにAVを撮らされていた彼。
彼が悪い訳ではない。
それでも彼は謝り続けていた。
「申し訳ありません」
彼は再び土下座をした。
「いいえ、誉めて上げてください。先ほど申し上げましたが、この子じゃなければ見付け出すことは出来なかったと思います。彼女の心を助けようとしたから……。だからお嬢様は此処にいるのです」
父は何故か……
引き寄せられるように私を抱き締めていた。
「お帰りはるか。やっと娘に逢わせてくれたね」
父は母に言っていた。
父の目は柔らかく、私の後ろに注がれていた。
「ずいぶん苦労したようだね」
「いいえ。彼が傍で……、何時も私を見守ってくれていましたから」
「ありがとう」
父は彼に握手を求めた。
「監督から、やいたディスクが送られて来た時は娘だと気付かたなった。こんなにも家内にそっくりだと言うに……。一番悪いのは私かも知れない」
父はそう言いながら机の奥からそれを出していた。
それはバースデイプレゼンショーだった。
彼は慌てて、あの写真をバックから取り出した。
「何も知らず、俺が撮影しました」
彼は泣いていた。
全て自分のせいだと思い込んで……
「いや、違う。ターゲットが違うんだ」
「ターゲット?」
「あの監督は私の知り合いで、君のことを全部知ってた。知ってて君に撮影させたんだ」
「つまり、ターゲットは俺ってことですか?」
彼が突拍子のない声を上げる。
何が何だか判らず戸惑っているようだった。
「きっと監督は橘遥が私の娘と気付かずに、許嫁の君に撮影させたんだ。このバースデイプレゼンショーは、二十歳の誕生日に橘遥がグラビアデビューをすることをマスコミにプレゼンするためだと書いてあった」
「はい、そう聞いてます。だからプレゼンショーと名付けと」
「一応……、見てみた。その中に君がいた。あの時カメラを誰かに預けなかったか?」
「あっ!?」
彼が震え上がった。
私も気付いていた。
あのクーラーで冷やされた床で、全員が脱いだズボンの上で拘束されたのがあの俳優陣だったことを。
私の腕も、片方ずつの足も……
拘束していたのはアイツ等だったのだ。
つまり、二度目の輪姦の一番最初を監督に遣らせるためだったのだ。
でもカメラマンだった彼は監督にカメラを預けた。
だから、彼の映像が其処にあるのだと思った。
「私に送られて来たバースデイプレゼンショーは、許嫁の君の実態を知らしめるためだったようだ。脅せば金になるとでも思ったのだろうな」
「監督は当時、かなり借金をしていたと最近知りました。だからその返済のために俺が狙われた訳ですか?」
「でも、その後何も言って来なかった。だからすっかり忘れていたんだ。すまない。本当にすまない」
父は盛んに謝っていた。
「君達を八年間も助け出してやれなかった」
父は泣いていた。
「考えたら、全員がモザイク処理をされていたんだな。でも君だけは違っていたんだ。君はあの時はまだ未成年だったはずだ。監督はそれも承知で君の顔を私に知らしめたのだよ。だから君のせいじゃないんだ」
声が上ずる。
悔しさが一層、父の表情を暗くしていた。
「いけない、いけない。娘が戻って来てくれた大切な日だって言うのに」
父は暫く私の傍に彼を並べて考えていた。
「そうだ。この記念に何かサプライズのことをやろう」
「サプライズ?」
「絶好の企画があるんだよ。やってみないか?」
父の言葉に私達は頷いた。
「そうだ。良いことを思い付いた。ちょっと待ってくれないか?」
父はそう言いながら受話器を取った。
「悪いが、其処に神野君がいたら此処に来てもらってくれ」
「神野って、海翔君の父親の?」
「海翔君を知っているのか?」
「知っているも何も、俺達を此処に案内してくれたのが海翔のお父さんでした」
「そうか? そんなことがあったのか。神野君は海翔君の仕掛けたサプライズにハマって、奥様と愛の鐘を鳴らして帰って来たばかりなんだ」
「愛の鐘?」
「ホラ今日はホワイトデーだろう? そのサプライズなのだそうだ」
「えっ、ホワイトデー」
彼は少し慌てて、ポケットの中に手を入れ何かを探していた。
「あっー、きっと彼処だ。母さん、家にプレゼント置いて来ちゃった」
「それってもしかしたら、これかい?」
母親はそっとバッグから小さな包みを取り出した。
「玄関の花の側に置いてあったから持って来たけど、てっきり私への贈りものだと思っていたよ」
「違うよ。彼女へだよ。誰が今更母さんになんか。あっ、冗談だよ。ごめんね母さん」
「相変わらず仲がいい親子だね」
父は私にウィンクをした。
彼からのプレゼントは指環だった。
「これを買うために一生懸命アルバイトしたんだ。でも給料の三倍もいってないけど」
「えっ、君はアルバイトで生活してるのか?」
父の言葉に彼は頷いた。
「仕方ないの。監督から私を守るために頑張ってくれていたのだから」
「確か君はカメラマンだったね?」
父の質問に彼は頷いた。
「すいません。お嬢様の撮影は全て息子が……、監督の命令でコキ使われていたそうです。報道カメラマンが夢でして、その監督の元へ行ったら、いきなりグラビア撮影から切り替わったそうです」
母親が彼をフォローしていた。
「知っているよ。君のその報道カメラマンになる夢は、行方不明になっている私の娘を探すためだと聞いている。本当に有難いと思っていたんだ」
「えっ!? 一体誰から聞いたのですか?」
「何を言い出しますか。私は貴女からそうお伺いいたしましたが……」
「あれっ? そうでしたか?」
「母さん、しっかりしてくれよ。今からボケられたら困るよ」
その一言でその場の雰囲気が一変して、小さな笑い声に包まれた。
その時ドアが叩かれ、海翔さんのお父様が入って来られた。
「先ほどはありがとうございました」
私が挨拶するとお父様は微笑んでくれた。
「やはり、社長のお嬢様でしたか? 社長おめでとうございます。永年待ち続けた甲斐がありましたね」
「ありがとう神野君」
父は嬉しそうに言った。
「神野君悪いが、愛の鐘プロジェクトを今すぐ進めてくれないか?」
父は何やら海翔さんのお父様に頼んでいた。
それは私達の人生さえも変えてしまうようなプロジェクトの始まりだった。
お父様はすぐに海翔さんに電話を入れた。
その時海翔さんは、バレンタインデーのお返しにフワフワのマシュマロを作ってみさとさんとイチャイチャしていたそうだ。
其処へお父様から今回のことの提案があったものだから、もう少し楽しみたかったって愚痴られたしまったそうだ。
でも翌日私達の出迎えを受け、マジに驚かれていた。
でも本心では泣いていたみたい。
私が……
やっと幸せになれると言って……
海翔さんはそう言う優しい男性だったんだ。
四月一日に愛の鐘の下で結婚式を挙げる。
それは海翔さんの提案だった。
その日ががみさとさんの誕生日なのだそうだ。
エープリルフールだからって、嘘とか四月バカではない。
冗談抜きでそう決まったのだ。
ホワイトデーから二週間位いしかない。
だからてんやわんやの急がしさだった。
その場所で結婚式を挙げるのは私達だけではない。
海翔さんは本当にサプライズの好きな人で、その度にみさとさんを驚かせたそうだ。
その一つがバレンタインデーのみさとさんの母親と海翔君の父親の結婚だったらしい。
だからここは一つ、全員での結婚式にしてしまう案も浮上していた。
私達二人は父の会社で働くことになった。
その他の新入社員達と一緒に、海翔さんの故郷で入社式にも出席する。
それも海翔さんのサプライズだ。
自動車工場撤退で過疎化した地域の町起こしも兼ねた企画だったのだ。
だから海翔さん彼が二人だけで進めていく訳だ。
内容は私にも秘密。
だけどそれは私を驚かすためなのだそうだ。
それが私達の一生を決める大プロジェクトになろうなんて……
その時はまだ思いもしなかったのだ。
私達は暫く、別々な仕事に就くことになるけど我慢しなくちゃいけないんだ。
海翔さんのお父様は、私のせいでみさとさんが拉致された事実を知っている。
海翔さんがバイクで追い掛けたから暴行未遂で済んだ経緯を知っている。
と――。
私がAV女優の橘遥だと知っている。
と――。
(なんてことしてしまったの。育児放棄された子供のままでいた方が波風立たないのに……)
それでもお父様は何も聞かず、すぐに私達を社長室前へと案内してくれた。
海翔さんのお父様が部屋をノックすると、社長秘書らしい女性が顔を出してくれた。
二人は何やらヒソヒソコソコソやってる。
きっとAV女優の橘遥が社長礼譲だと言っている。
そんなとこだろう。
大体の見当はつくけど、本当は辛くて仕方ない。
もし私が本当に行方不明だった娘だったとしても、AVカメラマンを遣らされていた彼を許嫁のままで居させてくれるかも心配だったのだ。
父には会いたい。
でも、怖くて仕方ない。
果たして社長は、彼が行方不明の許嫁だとは知らずに撮影していた事実を聞いて何と思うかも気掛かりだった。
監督や、お客様と呼ばれていた男性達に媚びてへつらい生き抜いてきた娘。
バースデイプレゼンショーの後、逃げるチャンスはいくらでもあったはずなのに……
私は両親の借金を返すために……
監督の言葉を信じ女性の部分を武器にして生きてきた。
許されるはずがないと思い始めていた。
監督に言われるがままにAVを撮らされていた娘など受け入れてくれないと思っていた。
「申し訳ありません。お嬢様に深い傷を与えてしまいました」
彼は社長室に通された直後土下座をして謝った。
「いえ、誉めて上げてください。この子じゃなければ見付け出すことは出来なかったと思います。彼女の心を助けようと、彼女を育児放棄した人を探し出そうとしたから……」
母親必死に状況を説明しようとしていた。
「ちょっと待ってください。育児放棄って何ですか?」
二人共テンパり過ぎて、社長が事情を知っているものと思い込んでいたようだ。
「失礼致しました。実はこれ……」
母親は持参した写真を提示した。
「それはさっき、一目見ただけで感じました。似てる……、まるで妻のはるかのようだ」
「えっ!?」
一番驚いたのは彼だった。
「ねぇ母さん。その人遥って言うの?」
「あぁそうだよ。知らなかったのかい?」
「彼女、監督に橘遥って名付けられたのです。もしかしたら監督は全て知っていて……」
「監督? 橘遥?」
「ほら、この前暴行未遂で逮捕された、元報道監督です。俺、監督の元で彼女の撮影をしていました」
「橘遥って? もしかしたらA……」
そう言い掛けたところで彼が止めに入った。
「すいません。いずれ判ることかも知れませんが……」
彼に言われて、回りに人のいることに気が付いた。
「すまんがキミ、ちょっと席を外してくれないか?」
「はい。では廊下で待機しております。御要望がございましたらお声掛けをお願い致します」
社長秘書はそっと部屋を後にした。
「橘遥……って、もしかしたら例の戦慄か? 何故、そんなこと……」
「俺が悪いんです」
「いいえ、決して彼のせいではありません。全部監督の企んだことです」
「違うよ。俺が監督から脅されて、時効が成立するまで隠していたからだよ」
彼は頑なだった。
監督に言われるがままにAVを撮らされていた彼。
彼が悪い訳ではない。
それでも彼は謝り続けていた。
「申し訳ありません」
彼は再び土下座をした。
「いいえ、誉めて上げてください。先ほど申し上げましたが、この子じゃなければ見付け出すことは出来なかったと思います。彼女の心を助けようとしたから……。だからお嬢様は此処にいるのです」
父は何故か……
引き寄せられるように私を抱き締めていた。
「お帰りはるか。やっと娘に逢わせてくれたね」
父は母に言っていた。
父の目は柔らかく、私の後ろに注がれていた。
「ずいぶん苦労したようだね」
「いいえ。彼が傍で……、何時も私を見守ってくれていましたから」
「ありがとう」
父は彼に握手を求めた。
「監督から、やいたディスクが送られて来た時は娘だと気付かたなった。こんなにも家内にそっくりだと言うに……。一番悪いのは私かも知れない」
父はそう言いながら机の奥からそれを出していた。
それはバースデイプレゼンショーだった。
彼は慌てて、あの写真をバックから取り出した。
「何も知らず、俺が撮影しました」
彼は泣いていた。
全て自分のせいだと思い込んで……
「いや、違う。ターゲットが違うんだ」
「ターゲット?」
「あの監督は私の知り合いで、君のことを全部知ってた。知ってて君に撮影させたんだ」
「つまり、ターゲットは俺ってことですか?」
彼が突拍子のない声を上げる。
何が何だか判らず戸惑っているようだった。
「きっと監督は橘遥が私の娘と気付かずに、許嫁の君に撮影させたんだ。このバースデイプレゼンショーは、二十歳の誕生日に橘遥がグラビアデビューをすることをマスコミにプレゼンするためだと書いてあった」
「はい、そう聞いてます。だからプレゼンショーと名付けと」
「一応……、見てみた。その中に君がいた。あの時カメラを誰かに預けなかったか?」
「あっ!?」
彼が震え上がった。
私も気付いていた。
あのクーラーで冷やされた床で、全員が脱いだズボンの上で拘束されたのがあの俳優陣だったことを。
私の腕も、片方ずつの足も……
拘束していたのはアイツ等だったのだ。
つまり、二度目の輪姦の一番最初を監督に遣らせるためだったのだ。
でもカメラマンだった彼は監督にカメラを預けた。
だから、彼の映像が其処にあるのだと思った。
「私に送られて来たバースデイプレゼンショーは、許嫁の君の実態を知らしめるためだったようだ。脅せば金になるとでも思ったのだろうな」
「監督は当時、かなり借金をしていたと最近知りました。だからその返済のために俺が狙われた訳ですか?」
「でも、その後何も言って来なかった。だからすっかり忘れていたんだ。すまない。本当にすまない」
父は盛んに謝っていた。
「君達を八年間も助け出してやれなかった」
父は泣いていた。
「考えたら、全員がモザイク処理をされていたんだな。でも君だけは違っていたんだ。君はあの時はまだ未成年だったはずだ。監督はそれも承知で君の顔を私に知らしめたのだよ。だから君のせいじゃないんだ」
声が上ずる。
悔しさが一層、父の表情を暗くしていた。
「いけない、いけない。娘が戻って来てくれた大切な日だって言うのに」
父は暫く私の傍に彼を並べて考えていた。
「そうだ。この記念に何かサプライズのことをやろう」
「サプライズ?」
「絶好の企画があるんだよ。やってみないか?」
父の言葉に私達は頷いた。
「そうだ。良いことを思い付いた。ちょっと待ってくれないか?」
父はそう言いながら受話器を取った。
「悪いが、其処に神野君がいたら此処に来てもらってくれ」
「神野って、海翔君の父親の?」
「海翔君を知っているのか?」
「知っているも何も、俺達を此処に案内してくれたのが海翔のお父さんでした」
「そうか? そんなことがあったのか。神野君は海翔君の仕掛けたサプライズにハマって、奥様と愛の鐘を鳴らして帰って来たばかりなんだ」
「愛の鐘?」
「ホラ今日はホワイトデーだろう? そのサプライズなのだそうだ」
「えっ、ホワイトデー」
彼は少し慌てて、ポケットの中に手を入れ何かを探していた。
「あっー、きっと彼処だ。母さん、家にプレゼント置いて来ちゃった」
「それってもしかしたら、これかい?」
母親はそっとバッグから小さな包みを取り出した。
「玄関の花の側に置いてあったから持って来たけど、てっきり私への贈りものだと思っていたよ」
「違うよ。彼女へだよ。誰が今更母さんになんか。あっ、冗談だよ。ごめんね母さん」
「相変わらず仲がいい親子だね」
父は私にウィンクをした。
彼からのプレゼントは指環だった。
「これを買うために一生懸命アルバイトしたんだ。でも給料の三倍もいってないけど」
「えっ、君はアルバイトで生活してるのか?」
父の言葉に彼は頷いた。
「仕方ないの。監督から私を守るために頑張ってくれていたのだから」
「確か君はカメラマンだったね?」
父の質問に彼は頷いた。
「すいません。お嬢様の撮影は全て息子が……、監督の命令でコキ使われていたそうです。報道カメラマンが夢でして、その監督の元へ行ったら、いきなりグラビア撮影から切り替わったそうです」
母親が彼をフォローしていた。
「知っているよ。君のその報道カメラマンになる夢は、行方不明になっている私の娘を探すためだと聞いている。本当に有難いと思っていたんだ」
「えっ!? 一体誰から聞いたのですか?」
「何を言い出しますか。私は貴女からそうお伺いいたしましたが……」
「あれっ? そうでしたか?」
「母さん、しっかりしてくれよ。今からボケられたら困るよ」
その一言でその場の雰囲気が一変して、小さな笑い声に包まれた。
その時ドアが叩かれ、海翔さんのお父様が入って来られた。
「先ほどはありがとうございました」
私が挨拶するとお父様は微笑んでくれた。
「やはり、社長のお嬢様でしたか? 社長おめでとうございます。永年待ち続けた甲斐がありましたね」
「ありがとう神野君」
父は嬉しそうに言った。
「神野君悪いが、愛の鐘プロジェクトを今すぐ進めてくれないか?」
父は何やら海翔さんのお父様に頼んでいた。
それは私達の人生さえも変えてしまうようなプロジェクトの始まりだった。
お父様はすぐに海翔さんに電話を入れた。
その時海翔さんは、バレンタインデーのお返しにフワフワのマシュマロを作ってみさとさんとイチャイチャしていたそうだ。
其処へお父様から今回のことの提案があったものだから、もう少し楽しみたかったって愚痴られたしまったそうだ。
でも翌日私達の出迎えを受け、マジに驚かれていた。
でも本心では泣いていたみたい。
私が……
やっと幸せになれると言って……
海翔さんはそう言う優しい男性だったんだ。
四月一日に愛の鐘の下で結婚式を挙げる。
それは海翔さんの提案だった。
その日ががみさとさんの誕生日なのだそうだ。
エープリルフールだからって、嘘とか四月バカではない。
冗談抜きでそう決まったのだ。
ホワイトデーから二週間位いしかない。
だからてんやわんやの急がしさだった。
その場所で結婚式を挙げるのは私達だけではない。
海翔さんは本当にサプライズの好きな人で、その度にみさとさんを驚かせたそうだ。
その一つがバレンタインデーのみさとさんの母親と海翔君の父親の結婚だったらしい。
だからここは一つ、全員での結婚式にしてしまう案も浮上していた。
私達二人は父の会社で働くことになった。
その他の新入社員達と一緒に、海翔さんの故郷で入社式にも出席する。
それも海翔さんのサプライズだ。
自動車工場撤退で過疎化した地域の町起こしも兼ねた企画だったのだ。
だから海翔さん彼が二人だけで進めていく訳だ。
内容は私にも秘密。
だけどそれは私を驚かすためなのだそうだ。
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