いのりのうた・十五歳の系図【アイ・哀しみのルーツ】

四色美美

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靉(気持ちを引き留める)・波瑠

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 私は家に戻って、島での出来事を家族に伝えた。


長瀞で遊んで島に帰る途中に行方不明だった彼の母親と再会したことも、その後で連絡が取れなくなったことも伝えた。


驚いた両親は、彼を探してみると言ってくれた。


熊谷駅で電車に乗せて帰したからいけなかったと思ったようだ。




 本当はあのまま、島で暮らしたかった。

彼を彼処で待ちたいと思った。

そう言ったら、母に抱き締められた。


母に言うべきことではないと解っていた。

きっと自分のせいだと責めるかも知れない。


それでも私は一人で抱えていることが出来なかったのだ。




 彼は今何処で何をしているの?
この同じ空の下で、何を考えて生きているのだろうか?


そんなことより……
何故連絡してくれないのかが気になっていた。

私と約束した、高校程度の勉強はしているのかも心配になった。




 高校程度と言うのは、年に二度ほど実施する文部科学省公認の高等学校卒業程度認定試験のことだ。

旧大学入学資格検定のことで、分類国家試験なのだそうだ。

試験に合格しても専門学校や大学などに進学しなければ、学歴は中卒のままなのだそうだけど。


何らかの事情で高等学校へ通えなかった中卒資格を所持した者の救護対策だった。


他に、添削やスクーリングで勉強できる通信教育等もある。


私は高校を卒業したら島に戻って、彼と一緒に勉強したかった。

だから彼に勧めたのだ。




 あの島は……
って言うかあの辺の島は平家の落人伝説が盛んに語られていた。


壇之浦で源氏に負けた平家は散り散りになり、逃げ延びた。

でも源氏の平家の残党狩は凄まじく、身を隠して生活していかなければならなかったのだ。




 祖父はあの島の出身者でありながら、身分を偽り源氏側の人と結婚してしまった。

そのことを悔い、逃げる途中で離ればなれになってしまった姫を探し出すことを島の人達に遺言したのだった。


その姫とは平清盛の孫に当たるそうで、世間には隠された存在だったようだ。


平家の血筋を守ること。
それがあの島の信念だったのだ。




 祖父は島へ訪れる人はこの姫の子孫だと説いた。

だから島の人達は、どんな人でも親身になって世話をしてくれるのだ。


それで、捨て子だった彼も優しく育つことが出来た訳なのだ。




 でも姉には嘘はつけない。

彼が島に居なかった本当の理由を打ち明けたのだ。

彼が、彼を捨てた母親と一緒に生活しているらしいことを告げたのだ。


姉は清水早智子と言って、同じ学校の二個先輩だった。


母の実家に帰って来たのは、姉を高校へ進学させるためだったのだ。


だから姉は私と彼のことが心配でならなかったのだ。


島には高校がない。
だから呼び戻したのだ。
でも本音は、一人娘の家族と生活してみたかったのだ。


資産家だった清水家。
先祖伝来の家屋や土地を守ってくれる存在がどうしても欲しかったのだ。




 相続税が払えなくて土地を物納した話はこの地域では有名だった。
だから、きっと母も苦労するのだろうと思う。
でもそんなことより、母の気持ちが納得したいのだと思った。


財産を譲り受けても、公務員の父の給料で税金賄えるはずはないと思う。


でもそんなことでは計り知れない愛がある。
家族愛がある。
地域愛がある。


決して離島の生活を忘れた訳ではない。

私が島に残りたかった思いと、母が祖父母を心配して帰りたかった思いはきっと一緒なのだと思った。

そう全て愛だったのだ。




 両親だけではない。
親戚の反対までも押し切って父と結婚した母。


実は父には、結婚しなくてはいけない相手がいたそうなのだ。

それは行方不明の姫の子孫の姫だった。


親戚は折れるための条件を呈示した。


それが、離島での生活だったのだ。


だから……
両親は親戚連中の容赦のない攻撃に肩身の狭い思いもしてきたのだった。




 祖父母は今まで耐えてきた。
娘に逢いたい気持ちを引き留めてきたのだった。


でも、私も彼を彼処で待ちたい気持ちを押し留めてきた。

私を待っている家族を悲しませないために……


母もきっとそうだったのだろう。

本当は母に心配をかけたくなかった。
彼のことで悩んでいることを知られたくなかったのだ。


だって彼はきっとお母さんと一緒で……
嬉し過ぎて楽し過ぎて私のことなんか忘れてしまったのだ。


私はそう思い込んでいた。




 離ればなれの彼に会いたい思いは日増しに強まっていく。
私にはそれを封印してしまえるだけの器量はない。


だけど、彼との思い出を心の奥に締まうことにした。


夏休みが終わったら、私は又学生に戻ることに決めていた。




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