甘い悪魔はしあわせの青い鳥

鈴寺杏

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あいつになりたい

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 田舎の公園。一人の男の子がベンチでうなだれている。
 服装と体格から言って高校生だな。顔は下を向いていて見えないので、泣いているのかはわからない。

 公園の街灯の上に留まりその様子を眺めているのだけれど、何というか「青春だな」といった印象。

 時間的に考えると、学校帰りといったところか。駆け回る子供の声も彼には届いていない様子。こんな時「何してるの?」なんて声をかける子がいそうなものだが、子供たちも空気を読んでいるのか近づこうとしない。親の教育が良いのか、そういう時代なのか……。

 世間では、昔に比べて「不審者」の目撃証言は増えている。おそらく数としてはそれほど変わっていないのだろうけれど、世の中の認識が変わったことが影響しているのだろう。


 顔を上げた少年は、不細工ではない。今風に言うとフツメンと表現すればいいのか「どこかで見たことのある顔」といったところか。目が小さいという部分が少々残念な感じ。あくまで俺の好みでの話ではあるが……。
 顔というのは不思議なもので、パーツごとに分けると悪くないのに、配置のバランスによっておかしく見えたりする。髪型変えただけで印象が大きく変わるというのも、同じようなものだろう。

 正直どんな顔してるのかと思って見ていたのだけれど、割と普通だったので興味を失ってしまった。体型も極端にどちらかに寄っているわけでもないし。

『さて、そろそろ移動するか』

 そう口にして羽を広げた瞬間、ベンチに座っていた少年が自分の顔を殴り始めた。
 それは腫れるような強さではなく、ただ感情の捌け口として自らの顔を選んだというものに思えた。

 たった数発だけであったが、俺の興味を引き戻すには十分な行為。不満があるということは、何か願い事があるということ。仕事の時間。
 彼の物に当たるわけではなく、自らの身体を選んだことは多少評価すべきだ。ただのバカではない。言葉のやり取りが出来る相手だと認識した。

 さすがに公園内で声をかけるつもりはないので、彼が自室へと帰るのを待つ。すぐに声をかけた場合、今の俺の姿は周囲に見えないので彼を一人で話始める不審者にしてしまう。それはあまりにも可哀そうだ。


 自室に戻った彼は、荷物を適当な場所へ置くとベッドにうつ伏せになり、言葉を発した。

「なんであいつなんだよ……」

 状況から考えると恋愛絡みだとすぐに理解した。部活動なんかであれば、彼がこの時間にここにいるのは少々おかしい。それに室内にそれらしい物も見当たらない。

「オレの方が話してたじゃん……」

 ありきたりな言葉に(また急につまらなくなったな)と考えながらも、声をかけることにした。

『少年。お前の望みはなんだ?』

「誰だ!?」

 バッと体を起こし、周囲を見渡す少年。
 念話に驚いたというよりも、ぼやいていた言葉を誰かに聞かれたかもしれないという焦り方が強いのだろう。そんな驚き方だった。
 その行動によって、なんとなく性格の一端が見えた気がした。

『問いに対する答えは?』

「うわぁぁぁ!?」

 姿を見せずに語り掛ける事に悪意はない。ただ少し、驚く姿を見るのが楽しいというのはあるのだが、さすがに逃げ出すということまでは考えていなかった。やはり彼は、真面目ではあるが冷静なタイプではないらしい。


 姿を現し窓の縁で待っていると、彼が部屋に戻って来た。
 先ほど母親と会話する声が聞こえたが、相手にされなかったようだ。夕食の準備が忙しいのだろう。
 
 恐る恐る室内をのぞき込む姿は滑稽だ。
 思わずチチチッとこの身体が反応してしまう。

 鳴き声で気づいたのだろう。こちらに視線を向け、目を見開き驚いた表情をしながら話しかけてくる。

「お、お前か? さっきの?」

『そうだ。まず部屋に入ってドアを閉めろ』

「と、鳥だよな? お前なんなんだ……」

『これが最後だ。お前の望みは? 言えば叶うぞ。ただ次はない。今後お前は俺に二度と会うことは無いのだから』

 ここまで言ってやると、やっと指示に従った。
 当然戸惑って少し考えていたが、タイムリミットを設定してやればだいたいの場合は近いうちにどちらかを選択する。これでも元人間。過去にはこういった奴も見てきた。今回、彼の場合は怪しい鳥との対話を選んだわけだ。


 彼が口にした内容は、案の定といったところ。
 意中の女の子がいて、普段からよく話もしていたので友達を連れて告白に行ったそうだ。結果は「その友達の方が……」というやるせないもの。
 仲が良いのと、恋愛対象であるということはイコールではない。違うことが多々あるので、今回はそのパターンのようだ。

 で、この少年。自分が選ばれなかった理由は「容姿」のせいだと思っているのだとか。周囲は「違う」と言ってくれたみたいだけれど、こういう時ってすんなりと頭に入ってこないもの。

 ということで、この少年の願い事は「あいつになりたい」というもの。

 その友達の体にはすでに魂が定着しているので、入れ替えたりということは俺には出来ない。出来るのはこの少年の容姿を、限りなく近づけることだけ。
『それで構わないか?』と問うと、構わないと答えたので願いを叶えることにした。
 タイミングは明日の放課後。

『ではな』

 そう告げて、日の沈みかけた空へと飛び立った。
 俺は多くは語りはしない。今日が最後の家族との時間とならなければ良いがな。
 この日のキッチンから漂う香りは、何かの煮物のようだ。こんな俺でも、少しだけ祖母や母の事を思い出すことになった。


 翌日。金曜日の昼過ぎより、この地域はパトカーのサイレンの音が響いていた。
 息子を語る少年が、家に強引に侵入したとして警察に通報があったためだ。その際に室内よりいくつかの衣類などが持ち出されたため「住居侵入」に加えて「窃盗」などの罪で逃げた少年の捜索が始まった。

 警察の捜査により少年によく似た高校生がいることもわかったのだが、その彼にはアリバイがあった。金曜日に同じ高校に通う女子生徒と一緒に大型ショッピングセンターで過ごした後、そのまま自宅で時間を過ごしているというものである。防犯カメラの映像や、家族の証言からもそれは間違いのないことであった。
 彼については「偶然よく似た容姿」ということで、引き続き犯人の捜索は続くこととなる。

 同金曜日。不審な少年が侵入した家庭より「息子が戻ってこない」ということで捜索願が出された。



【この一連の不思議な事件は、後にメディアに取り上げられ話題となる。行方不明になった少年の家に入った犯人と、同じ顔をした少年の存在。更には行方不明当日に起こった住居侵入事件。「この家の息子さんがなんらかの事件に巻き込まれたのではないか?」と、憶測が飛び交うこととなった。尚、この件に興味を持った人間によって懸賞金がかけられたが、半年以上経った現在も行方不明のままであり、その家の周辺や近所の公園内に設置された掲示板などには捜索願が張り出されたままである】
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