甘い悪魔はしあわせの青い鳥

鈴寺杏

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大人には見えないスマートフォン

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 紫陽花の花が目立つようになったこの時期といえば「梅雨」。
 この鳥の姿を利用するようになってからは初めての梅雨を経験しているわけだが、ジメジメした空気や降り続ける雨は予想以上にうっとおしさを感じる。羽が水を弾いてくれるとはいえ、完全に防げるわけではない。ヂヂヂッと不快な感情を表に出しながら、見知らぬ誰かが生活するベランダで雨宿りをする。

 休憩がてら窓から室内を覗き込むと、青い色が多く使われた部屋だった。勉強用と思われる机も配置されており、この窓の向こうで生活する住人は少年ということが窺い知れる。現在は不在。時間帯を考えると、学校にでも行っているのだろう。雨の中ご苦労なことだ。

『どれ。ちょっとお邪魔してみるか』

 しばらく雨が止みそうにないので、暇にかこつけて勝手に室内へと侵入する。
 勉強机に並べられた教科書などを見るに、この部屋の主は小学校五年生と思われる。机の上に散乱した雑誌などから想像するに「やんちゃ」もしくは「反抗期」といったところだろうか。
 ふと、この年齢の頃の自分は何をしていただろうかと思い出してみたが、だいたいは外を駆け回っていたような気がする。一応、某テレビゲームも発売されていたが、あまりプレイさせてもらえなかったはず。我が家は違ったが、当時のゲームといえば「頭が悪くなる」や「目が悪くなる」なんて悪いイメージばかりで、利用を制限していた家庭も多かった。

 いたずら心でエッチな本を探そうと、怪しい場所を探しているとスマーホフォンを発見。近頃の子供はそういった内容もこうした物を使って見るのだろうか?
 俺が少年の頃は、空き地や山にいろいろ落ちていたものだ。

『時代が変わったということか』

 スマートフォンを操作して履歴を確認することもできるが、さすがにそこまで興味があるわけでもない。そのまま放っておくことにした。


 しばらくすると、ダダダッ! という足音と共にこの部屋の主が帰って来た。両親はまだのようなので、共働きといったところだろう。

 室内に入って来た少年は、俺の想像していた姿とは少し違っていた。少し長めの髪もあってか、どちらかというと「優等生」に分類したくなるような容姿。

 少年は背負っていたランドセルをきちんと置くと、一度室内を出て行った。すぐに水道の音が聞こえたので、手でも洗いに行ったのだろう。
 それにしても、俺の頃にはなかった色のランドセルを見ると、益々ジェネレーションギャップというものを感じさせられ、死んだ後の今であっても寂しさを感じる。
 
 その後は、隠していたスマートフォンの存在を確認すると、また同じ場所に隠したあと勉強机に座り宿題を始めた。隠している物が気になって確認してしまうというのは「あるある」だ。

 どれどれと宿題の内容を確認していると、たまに間違っている箇所がある。指摘したくなるのだが、過去と今では正解が変わっている場合もあるため我慢する。「それ今だと変わってるんです。何年生まれですか?」なんて言われたくはない。

 少年が宿題を終え、満を持してスマートフォンを操作し始めたところで母親が帰宅して来た。足音が近づいてく来たので、咄嗟にスマートフォンは机の引き出しへと仕舞われる。

「ただいま。宿題終わった?」

「うん。さっき終わった」

 ありがちな会話だと思いながら眺めていたわけなのだが、子供部屋を出て行こうとする母親がふと何かに気付いたように動きを止めた。
 そのまま机にと近づくと、スマートフォンが入っている引き出しを開ける。
 少年は一瞬慌てて止めようとしかけたのだが、母親の勢いに勝てず諦めた表情を浮かべた。

「これどうしたの?」

「……」

「黙ってたらわからないでしょ?」

「買った……」

「どうやって?」

「残しておいたお年玉で」

「はあ……。これ預かっとくから。お父さんが戻ったら見せるからね」

 スマートフォンを持った母親が部屋を出ていくと、少年はうな垂れため息をつく。
その後机でうつ伏せになり「最悪……」だとか「なんでオレだけ……」などとぼやき続ける。
 ああいう時の母親の感というのは恐ろしい。少しだけずれている引き出しを見ただけで何かを感じ取ったのだろう。諦めるしかない。


 ここまできたら、家族会議まで見て移動しようかなと考えていた俺に「母さんや先生に見つからないスマホがあればな……」という少年の言葉が聞こえて来た。
 なるほど。面白い発想だ。
 
 少年の机に姿を現すと、話しかける。

『大人には見えないスマートフォンがあれば欲しいか?』

 顔を上げたら目の前に鳥が居れば驚くだろう。「うわぁぁぁ!?」という声と共に少年は椅子から転げ落ちる。
 その声と音を聞いて母親が駆け付けたが、すでに俺はまた姿を隠した後。少年が説明すれども見つかるはずもない。

 少年は先ほどの件もあってか粘り強く説明することなく、早々に「やっぱり、なんでもない」と言って母親を部屋から追い出した。


 この後再度姿を現した俺と少年とのやり取りは、スムーズに進んでいく。
 彼は「大人には見えないスマートフォン」について疑ってはいたが、突然見え隠れする俺の存在と『どうせ元々なかったものなのだから、試しに親の前に置いて確かめてみろ』という言葉によって確認し、こちらの言葉を信じることとなった。

 新たに特殊なスマートフォンを手に入れた少年は、ずいぶんと気持ちが回復している様に見えた。むしろ最初よりも上がっているくらいだ。
 
 家族会議まで見届けた後、飛び立つ前に少年へと一つ注意事項を述べておく。

『あくまで「大人には見えないスマートフォン」というだけだから気をつける様に。データを他に転送してしまえば、それに関しては見えてしまうぞ』

「わかってるって! もう行くんだろ? じゃあな!」

 このセリフ聞いて(子供だな)と思いながらベランダより飛び立つ。

 一時的に雨は止んでいるが、まだ空はどんよりとしている。しばらくこんな天気が続きそうで、遠くに目をやっても星の輝きを見ることは難しいだろう。見えるようになった時には、すでに今日とは違う景色になっていると思うと残念だ。今しか見ることのできない星があるというのに……。



【数年後。この「大人には見えないスマートフォン」を手にした少年は、盗撮や脅迫の罪で捕まることとなる。逮捕の決め手となったのは、警察へ送られた複数のデータであった。データを基に警察が調査を行ったところ、被害者からの証言を得られ脅迫行為も明るみに出ることとなり逮捕へと至る。少年が逮捕される場面は、一時動画としてSNS上にアップロードされていたのだが、終始「証拠がどこにあんだよ!」と叫び続けているものであった。その影響もあってか盗撮に使われた機材など証拠についても話題となったのだが、未だ発表されないままである。尚、証拠となったデータの差出人であり、捜査の協力者は「捕まった少年の恋人の弟」であった】

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