異世界旅人の日常

河内 祐

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過去編 病魔の小国

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「その国は巨大な氷の上に立っているんだ」
「えぇ!?そんなの溶けて崩れるんじゃ無いの?」

白い建造物が群を成している国の中で、今日も僕はその子に今までの旅の話をする。

「いいや。その氷はうんと寒い所にあって永遠に溶けることは無いんだ」
「そんなに寒いの?」
「うん。とても寒い。熱々のスープが直ぐに凍ってしまうくらい寒いよ」
「それはとても寒いわね」

女の子は寒さを想像したのか少し身震いした。

「どうしてそんな寒い所に国を作ったのかしら?」
「寒いと人は来ないだろう?」
「うん」
「悪い人も来ないんだ」
「!自分の身を守るのね!そう言う事ね!」
「うん。よくわかったね」

女の子は自分の考えがその通りだと分かると、ニシシと嬉しそうな顔をした。

「でも、そんな国だとご飯は足りてるかしら?」
「問題ないよ。寒い所にも生き物はいるんだ」
「生き物?どんな?」
「まるまる太った海獣に、魚、氷を渡って遠くを目指す獣達が、その人たちのご飯だよ」
「沢山食べるものがあるわね!私も食べてみたい!」

女の子はキラキラした目でメイドさんを見る。

『そうですね。お嬢様の病気が治れば調達して来ましょう』
「ほんと!?約束よ!!」

まだ見ぬ珍味に、女の子は胸を高鳴らせる。

『はいお嬢様、楽しみになさってください』
「うん!!」

そんな女の子をメイドさんも嬉しそうに見ていた。

『それと……今日の面会時間はここまでです』
「もう!?早いわね」

部屋にある時計を見てみると確かにかなりの時間が経っていた。

「今日はここまで、明日が君と話す最後の日になるね」
「そうなの?」
「だって君は明後日には手術が有るだろう?」
「あっ!そうだったわ!」

女の子はキラキラした目で僕を見た。

「手術が終わったらまた私にお話を聞かせてね!」
「うん。いいよ」

そう答えて僕は、女の子の部屋から出ていった。

「オカエリ」
ガサガザ(労いの意)
「うんただいま……早速で悪いけど散歩に行こうか」
「ウン!」
ガサガサ!

部屋に戻った僕は、早速スラ助達を連れて外に出る向かった先に有るのは白い石碑にと彫刻の薔薇がある裏庭だった。

「……」

僕は白い石碑に彫ってある文字を見る。
所々欠けていたが問題無く読めた。

「ナンテ書イテルノ?」
「『血の蝕みが我らに来ても 我らは決して悲嘆しない 我らと友の約束の花は とうに青く咲いていた』」
「?青イ花?」
「うん。青い花」

その言葉を読んで僕たちは後ろに咲いている青い薔薇を見る。
青い薔薇は陽の光を浴びて淡く光っている様に見えた。

『旅人さーん!ご飯ですよー!』

それから程なく時間が経った後に、僕たちはメイドさんに呼ばれてご飯を食べに向かった。
その途中に一輪の薔薇を貰っていく。

『今日は“山菜の天ぷら”です』
「はい。ありがとうございます」

葉の様な物からキノコまで、ありとあらゆる山菜が天ぷらの衣でサクサクになっていた。

「う~む……美味いな」
『左様でございますか』
「!!」

声がしたので慌てて振り向けば、ちょび髭男がいた。

「ちょび髭さん!」
『残念ながら名前が違います』
「知ってますよ」
『フフフ』

僕の軽口にちょび髭男は、口元に手を当てて笑っていた。

『今日もありがとうございます。貴方の様に病人だからと変な視線を向ける無知なる者とは違って、お嬢様もとても楽しんでいました』
「僕以外にも過去に旅人が?」
『えぇですが……皆怖がって逃げてしまいました』
「病気は危ないですからね仕方ありません」
『えぇ彼らは逃げる時までお嬢様の健康を祈ってる人が多かったです。置き手紙をする人が殆どでした』
「皆優しかったのですね」
『えぇ私も驚きましたよ。世の中にはこんなにも優しい人がいたのかと』 

そう言って、ちょび髭男は目にハンカチを当てた。
涙が流れている様には見えなかった。

「……お願いがあります」
『何ですか?』
「明日はご飯をあの子と食べたいのです。スラスケ達と共に」
『良いでしょう。最後までいてくれた旅人さんです。信用しましょう』
「ありがとうございます」
『ですが、面会の時間は後ろに回しますよ。制限時間を設けなければお嬢様の毒となってしまいます』
「はい構いません」
『わかりました』

そう言ってちょび髭男は部屋から出ていった。

「ナンデ一緒ニ?」
「……一人のご飯ほど辛い物は無いからだよ」
「ナルホド」

それから暫く経って天ぷらを食べ終わった僕は、道具の点検とある事を済ませてからベットについた。

「グーグー」

スラ助はすぐに寝てしまった。

「Google」
「発音が良い」

スラ助ほんとに寝てるのかな?



「コンニチハ」
「こんにちは……可愛い!」
ガサガサ
「でかい!」

そして翌日、僕たちは少し遅くにその子の部屋に訪れた。

「今日は一緒にご飯を食べてくれるのよね?ありがとう!!」

そう言ってその子はペコリと頭を下げる。

「誰かとご飯なんて久しぶりだわ!」
「そうなの?だけどご飯が出来るまでの時間はまだある……何をしたい?」
「お話!」
「良いよ……僕がつい最近来た国について話そう」

そう言って僕は話を始めた。

「その国はとても綺麗でね。白い建物しかないんだ」
「白しか無いの?なんだか飽きそうね」

そう言って女の子は窓の方を見る。

「私がいる街には赤青黄色!色んな色の建物があるわ!綺麗でしょ!」
「うん。此処も綺麗だね」
「そうでしょう!」

女の子は自慢げに胸を張る。

「その国には青い薔薇が咲いているんだ」
「青い薔薇!?そんなのが存在するの?」
「うんとても綺麗なんだ……」
「へぇ~見てみたいわ」
「うん。元気になったら見てみると良いよ」
「うん!」
「他にもその国はね……」
「うんうん」

そう言って僕はその国について話をする。
女の子はとても楽しそうにウンウンと頷いていた。

『夕食の時間です』

それから少し経つとメイドさんが料理を運んできた。

『今日はお嬢様の好きなハンバーグですよ』
「やったー!」

女の子は嬉しそうに両腕を万歳する。
運ばれて来たハンバーグはソースと共にとても美味しそうな匂いを出していた。

「中に野菜が入ってない!」
『お嬢様は野菜が入ってると食べたがらないですからね』
「む~もっと大きくなったら食べれるから」

そう女の子は頬を膨らませる。
女の子はとても美味しそうにハンバーグを食べた。

「半分あげるよ」
「僕モー」
「えっ!?良いの!!やった!!」

あまりに良い食べっぷりだったので僕たちは、ハンバーグをあげた。
それも女の子は嬉しそうに食べた。

「今日はありがとう」

それからすっかり陽も落ちて暗くなり月が地面を照ら時に僕たちの時間は終わった。

「今日はとても楽しかった!!皆んなありがとうね!!」

女の子はとても良い笑顔だった。

「手術頑張ってね」
「うん!」

女の子の元気な返事を聞いた後、僕たちは部屋を出た。

その日の夜

女の子は眠りながら死んでいった。

『ありがとうございます旅人様』

女の子が棺の中で寝ている中、ちょび髭男は僕にそう言った。

『あの子が死ぬまで孤独に苛まれる事なく。楽しく人生に幕を閉じたのは貴方様のおかげです』
「あの子が最後に楽しかったなら僕も嬉しいですね」

そう言って僕はあの子の棺に近づいて一輪の青い薔薇を取り出した。

「これは“ドライフラワー”だよ。この青い薔薇を君は見たがっていただろ?永遠とまではいかないけど楽しんでくれると嬉しいよ」

そう言って女の子の近くにしまった。
「すごいすごい!」と何処からか聞こえる気がする。
それから暫くして、女の子は地面の中で長い眠りについた。

『あの子は脳に病気がありました』

それからちょび髭男は屋敷に戻ってゆっくりと僕たちに話した。

『遺伝性のものです。私たちいた国でも助からなかった』
「やはり皆さん。此処出身ではありませんでしたか」
『おや?気付いてたのですか?』
「えぇ……なんなら僕はあの子がこの国最後の人間だったのも知っています」
『やはりそうですか』

ちょび髭男はそう言って俯いた。

『いつからお気づきに』
「最初からです。この国は綺麗すぎる。生物が出す匂いすら無かった」
『フフフ……やはり気づきますか』
「他の旅人さんも知っていたんですよね」
『えぇですから皆んな逃げました。人では無いもの達が作った国を不気味に思ったのです』
「だけど最初は人もいましよね?」
『えぇそれもわかりますか?』
「はい裏庭の石碑から」
『なりほど……』

そう言ったちょび髭男の目は遠くを見つめていた。

『私たちは高性能ゴーレムです。微かながら感情もあります』
「……」
『私たちがいた国ではゴーレムの扱いは奴隷でした。皆んなが痛めつけられていました。その時にあの子の一族が私たちが受ける仕打ちを辞めさせようとしたのです“感情持ったゴーレムを守るために”と』
「結果は失敗」
『その通りです。一族は騙されて毒を盛られてその一族は長く生きられなくなりました。あの子の父も二十五歳でこの世を去りました』
「母親は?」
『毒は子を宿すと同時に他の者にも移ります。母親もあの子を産んですぐに死にました』
「……」
『緩やかな時間で少しずつ人口は減り最後はあの子だけになりました』
「……」
『旅人様』
「何ですか?」
『これから私たちはどうすれば良いですか?目的が無いのです。動いている意義を無くしました』
「……あなた方は自由になった」
『いえ。あの子を守るのも全て私たちが決めました。私たちはこの国ちいた時から自由です』
「あの子達を守ってあげて下さい」
『……』
「自由があっても動く意義が無いなら見つかるまでで良いです。あの子達の永遠の平穏を守る防人になって下さい」
『わかりました。それが私たちの動く意義です』
「……」

それから暫く経って僕はこの国を出ていった。
あの国はお金を必要としていない為に結構な財宝を頂いた。

「おい!お前!」
「何ですか?」

国からかなりの距離で離れた時に、その人達は現れた。
百人位の鎧を纏った兵士がいて残りは人の形をしたゴーレムだけど皆んな形が殴られたりしたのか凹んでいる個体が多い。

「あそこの国には逃げた糞ゴーレムやイカれてる一族がいるらしいな!」
「……」
「俺たちはよ!ゴーレム如きを保護しようとするあの国を滅ぼすんだよ!」

話を聞く限り、ちょび髭男が言っていた国はこの国の事なんだろう。

「ゴーレムなんて人の奴隷!俺達が」
「“ウォーターアロー”」
「ぎゃあ!?」

長々と偉そうな事を言っている奴を魔法で貫いた。

「ゴーレムの皆さん!」

僕はゴーレム達に向かって叫ぶ!

「確かにゴーレムは人の手によって生まれた技術だ!労働力だ!しかしそこに感情があるのなら!その感情を守る為に戦え!」
「「「う……うぉおおおお!」」」

僕の発言によりゴーレムは動き出した。

「なんだ!?」
「バグか!?」
「やめろ!!」

兵士を殺そうとゴーレムは殴りかかる。
グシャ!グシャ!と肉が潰れていく音と悲鳴がする。

「さてと……行こうか」
「ウン」
ガサ

それを尻目に僕たちはその場から離れようとした。

「何故だ!?」

近くにいた兵士が叫ぶ。

「何故貴様はゴーレムを焚きつけた!」
「……」

僕はそれに答えずそのまま離れていった。

その後、その国は近くの国と貿易を開始したらしい。
その国には人がいない国同士らしく。
時々、観光名所として名前が上がっていた。
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