悪役令嬢から海賊に転職したら、なぜか船長が甘やかしてきます!?

時暮雪

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男装海賊令嬢のごたごた

02。

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 前世を思い出す前から、私は常々疑問に思っていたことがある。
 サラシで簡単に誤魔化せてしまう胸に、メリハリの少ない体の線。更には15歳になっても来ない月経。

 もしやアレクシアは、女としての発育が悪いのではなかろうか。と。 
 しかし、よくよく思い出してみれば、ゲームのアレクシアはそこそこ女性らしかった記憶がある。これから導きだされる答えはつまり。

 アレクシアは、発育が悪いのではなく遅いだけだったのでは。

 その証拠に私は、今世で初めて月経がやってきてしまった。
 ゲームではどのルートでも処刑されるし、思春期に入ってもまったく来る気配もなかった。なのでもしや、アレクシアは子どもが出来ない体なのでは、と疑いもしていた。
 それがどうだ。15歳と遅ればせながら月経が来てしまったのだ。今までは来なかったから性別がバレなかったが、こうなってくると話は変わる。
 どれだけ誤魔化そうとしても、定期的に血の臭いをさせていれば、勘の良い人は察してしまうだろう。今はまだ最初だから誤魔化せる。しかし、回数を重ねてしまえば……。

「おい、アレク?聞いてンのか」
「へ?」
「聞いてねェのかよ……だから、怪我してんならさっさと見せろ。化膿したらどうすンだ」
「あぁ、いや、怪我はしてないっすよ。魚捌いた臭いとかでは?」
「いつ捌いたんだ?まさか、勝手に食糧を使ったとかじゃ…」
「おぁ……い、いや~、じゃあ何の臭いなんだろうな~!」

 墓穴を掘ってしまった!魚は最近の料理に使ってないし、仮に勝手に使ったことにしたら、それはそれでヤバイ。あくまでも私は下っ端なのだ。
 またしても逃げ腰になる私に、船長は距離を詰めようとしたが。

「ガウッ!」
「うおっ!?」
「わっ」

 間に入ってきた灰色の毛皮に吠えられて一歩下がる。突然のことで私も驚くが、その毛皮には見覚えがあったため、安心感からほっと息を吐き出した。
 それは私が飼っている――の狼、イーヴォだった。

「イーヴォ!また船長に吠えちゃって~…すんません、船長。こいつ部屋に戻してきますね!じゃっ!」
「あ、おい!…ったく」

 中型犬より少し大きいくらいの狼を抱え、自室に駆け足で戻る。船長以外は基本的に個室を持っていないのだが、私は小さくて潰れそうだからと、使ってない小さな部屋を貰ったのだ。
 イーヴォもいるし、性別を隠すのに丁度良すぎたので助かっている。
 その小さな部屋に飛び込み、ドアを閉めて鍵を掛けた。床に下ろされたイーヴォは、お座りをしてこちらを見上げると口を開く。

「お嬢、危なかったな」
「いやもうホントに……ありがとう、イーヴォ」
「いーえいえ。個人的にあの船長気に入らないんで、オレが吠えたかっただけだ」

 後ろ足で耳の裏を掻くイーヴォから、成人男性の声で人間と同じ言葉が出てくる。それはどう考えても普通の狼とは呼べず、これを知っているのは私だけ。

 イーヴォは五年前、私がまだ令嬢であった時に出会った精霊だ。
 
 この世界の精霊というのは、世界樹と呼ばれる世界の調和を保っている大樹を守る役目を持った種族のことを指す。
 普段は精霊界という世界樹が生えている次元に住み、人間界には滅多にやってこない。世界樹を守りながら、魂や世界の『歪み』を正している。
 
 そんな精霊がなぜ狼の振りをしてここに居るかというと、正直なところ私もよく知らない。イーヴォ曰く、色々あって事故のような形で精霊界を追放されてしまった、とのことだった。
 通常、精霊界からの追放は、精霊としての力を全て奪われてしまうらしい。しかし、イーヴォの追放は事故のようなもので、力を持ったまま追放されたのだとか。
 だがそれでも、精霊は人間界に長時間居られない。と言っても数年は平気らしいが、丁度限界が来そうなところで私に出会ったのだ。

 どうやら私の魂がイーヴォに相性が良かったらしく、『時間で回復する程度だけでいい。しばらく依り代にさせてくれないか?』と言われたのである。
 私はそれを了承したが、しかし自分の中に別人が居ることに慣れず。なんなら時と場所を考えず話しかけてくるイーヴォにいつも反応しそうになり、ちょっと困ることが増えていく。
 どうにか出来ないかと聞いたら、回復してきたので別の依り代に移ると返事が返ってきた。
 そして数日後、死にかけの狼の体を貰ったと嬉しそうに庭に現れたのである。ちなみに、突然やって来た狼に庭師は腰を抜かしてしまった。

 二年前、家出するときは置いてきた筈のイーヴォだったが、どうやらこっそり付いてきていたらしい。この船に乗ることになった時、船長から言われてようやく気づいた。

『お前を乗せんのはいいが、そこの犬はどうすんだ?つか、そいつ犬か?』
『え?犬?…あれ、イーヴォ!いつの間に!』
『ワッフワフ!ガルルルル…』
『噛みつく様じゃ乗せらンねぇが』
『大丈夫です!吠えるだけで噛みつきませんよ!ね、イーヴォ?(訳・頼むから大人しくしてろや)』
『クゥーン…(訳・うぃっす…)』

 という事もあった。私の無言の圧を受け取り、すぐに大人しくしてくれたイーヴォ。これで乗せられないなんて言われてたら、私は今頃ゲームの開始に巻き込まれることになっていただろう。

 いや、イーヴォのことはいいのだ。そんなことよりも、私の性別バレについて考えなくてはいけない。
 このままでは女だという事がバレる。何が問題かって、折角この二年間は楽しかったのに、もし女だと分かれば皆の態度が変わるかもしれないのが怖いのだ。
 
 この関係は男だから成り立っていて、女になったら二年で築き上げた関係が全てなくなってしまうのではないか。そんなことないなんて、自信を持って言えればいいのだが。
 如何せん、私は人間関係に対して鈍感なのだろう。前世がそうだった故に、私はクルーたちとの関係に自信が持てない。
 皆の性格的に、急に態度が変わるなんてない、というのはただの希望的観測だ。少なくとも彼らは海賊という犯罪者集団である。どんな本性を隠しているか、たった二年では分からないことの方が多い。

「どうしたらいいかなぁ…」
「次で降りればいいんじゃね?」
「それもやだぁ~~~~」
「お嬢はワガママだなぁ」

 私が海賊をすることにいまだ反対しているイーヴォから、良いアイディアが貰える訳がなく。
 やっぱり船から降りるしかないのかと、私は深いため息をついたのだった。




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