5 / 9
男装海賊令嬢のごたごた
04。
しおりを挟む
ゲンさんに手を振り、私は船長たちと共に病院を後にした。心配そうに見上げるイーヴォを撫でて、私はぼーっと考える。
今頭を占めているのは、娼館とかではなく別のことだ。
『そういえば、王子が気を病むんじゃないかという程の勢いでお主を捜索しとるぞ。まだ帰るつもりがないのなら、できるだけフェロウド王国には近寄らん方が良い』
診察が終わり、船長を呼ぶ直前にそう言われた。おかげで私は今大いに悩まされている。
なぜなら、王子にそこまで探されるほどの記憶がまっっったくないからである。え、私何かしたっけ。約束すっぽかしたとかだったらまだ気は楽なんだけど、絶対に違うだろう。
正直、婚約者としての世間体で探してるのでは、としか思えないのだ。私は彼に特別好かれるようなことはしていないし、なんならつっけんどんな態度で嫌われていてもおかしくなかったから。
「それじゃ、おれはここら辺で。アレクも街探索楽しんでね」
「…ん?あ、うん!」
一人悩んでいれば、いつの間にか宿屋のすぐ近くに来ていたらしい。副船長の声でようやく思考を浮上させる。隣で船長が呆れたように私を見ている気がするが、きっと気のせいだろう。うん。
手を振って人混みに消える副船長を見送り、私は宿屋で待ってくれているはずのレックとマルズを探しに船長と別れようとした。
「ちょっと待てやコラ」
「ぐえっ」
が、またしても船長に首根っこを掴まれてしまった。私は猫じゃないんだぞ!首根っこを掴まないでくれ!!
「な、なんですか船長!僕、そろそろ行かないと二人に置いてかれちゃう…!一人で街を回れっていうんですか!?」
「絶対ェに一人で歩くな。つか、ちげぇよ……あー、まぁ、何だ。全然詳しく教えちゃくれなかったが、何かヤベェ病気とかではねぇんだな?」
気まずそうに目を反らしながら頬を掻く船長。私は、そんな船長の仕草に不覚にもキュンとしてしまった。だって、珍しく照れてるんだもん。顔が良いから、その珍しい表情も相まってときめいてしまう。
世界一恐ろしい海賊と言われているが、船長は自分の船に乗ってる仲間に対して人一倍心配性らしいと、この二年間に身をもって知った。あと、こうして心配していると口に出そうとすると照れることも。
副船長曰く、素で気遣うことに慣れてないらしい。だから言葉にしようとすると、どうにもこっ恥ずかしくなるのだとか。
滅多に見られない船長の様子にこっそりキュンキュンしていれば、何も返答しない私を訝しんだ船長がぐいっと顔を覗き込んできた。
いつも思うけど、この船長距離感が近い!!
「おい、聞いてンのかアレク」
「聞いてます聞いてます!大丈夫っすよ、船長。いたって健康だってゲンさんも言ってたでしょ?」
「テメェらが結託して口裏合わせてる可能性だってあるだろうが」
ギクリ。流石、勘が鋭い。つい目を逸らしそうになるが、至って健康という部分は間違ってないのだ。
なのでできるだけ堂々とした態度を取りつつ、私は必死に誤魔化そうとする。
「いや~、流石に死ぬような病気だったら言いますよ~。ゲンさんだって医者なんだし、そこを誤魔化すわけないでしょう?」
「…………はぁ。それもそうだな。止めて悪かった」
どうやら、一応納得はしてくれたらしい。パッと手が離されて、急だった為に少しふらついてしまう。船長が支えてくれたため、転ぶことはなかった。
やっぱり船長は勘が鋭すぎる。これは早急に手を打たねばなるまい。
絶対に一人で街を歩かないように、という散々聞いた注意をもう一度聞き、もう二人とも街に出ちゃったかなーと思いつつ宿に入る。すると、入ってすぐの受付付近に二人が居た。
まさかここでずっと待っていてくれたのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「部屋で待ってたら、さっき副船長が来たんだよ。ちょっと話したらすぐ来るだろうからって。病院大丈夫だった?」
「ま、今回は怪我隠してたアレクが悪いぞ。一週間近くも血の臭いしてたもんな~」
「えっ!?レックも気づいてたの!?」
「いや、俺どころか全員気づいてたと思うが?」
「なんですと…」
おぉう…流石海賊。犬…いや、この場合は鮫並の嗅覚と言うべきかな。
というか、なんか恥ずかしいぞ!!え、全員血の臭いに気づいてたんでしょ!?普通に恥ずかしい!!社会の窓が全開だったみたいな恥ずかしさがある!!
一人悶えていれば、顔を見合わせて首を傾げた二人が、パシンと軽く私の頭を叩いた。そこまで痛くないけど、思わずなにすんだ!と顔を上げる。
「反省は後にしろって。ほら、早くしねぇと日が暮れんぞ?」
「あ、そうだった!待っててくれてありがとう!早く行こ!」
「街を回るのはいいけど、行きたい所とかないの?」
レックに言われ、思い出したかのように宿を出る私たち。適当に市場とかを見て回るだけのつもりだった私は、マルズの言葉にふと考える。
そう言えば、さっきゲンさんに娼館行ってみろって言われたなぁ。
「んーとね、娼館行ってみた」
「お前は俺らを殺す気か」
「アレクにはまだ早いよ」
「うぬぅ…」
食い気味に却下されてしまった。大体、マルズのまだ早いはわかるが、レックの殺す気かはなんだ。誰に殺されるというんだ。
結局、二人とも口を揃えて「船長たちが怖い」と言って聞き入れてくれず。
さてどうしたもんかと考えた結果、ならもう素直に船長に行きたいんです!って言えばいいのでは?と思い付く。翌日、早速試そうと宿屋を歩く。
しかし私もチキンであった。船長は流石に説教になったら怖いなと思ったので、優しそうな副船長に交渉することにしたのだ。いるかなーと部屋をノックすれば、すぐに副船長が出てきてくれた。
「副船長~、ちょっとお話が…」
「ん?なぁに?」
「僕も娼館行ってみたいなぁ、なんて」
「え、娼館?何でまた……」
やっぱり理由を聞かれてしまった。他の人なら、男だもんね~で済まされていただろう。しかし、私はまだ15歳。流石にちょっと早い。
だがしかし!私には言い訳がある!!
「美女とお話してみたいです!!!」
「そっかぁ~、ならいいよ」
よっしゃあ!!いや、どうかとは思うけど。この言い訳(なお半分ぐらい本心)はどうかと思ったけども!!
いいじゃない…女の子だって美女とキャッキャッお喋りしてみたいんだもん。なんなら、今後の参考程度に色々お話聞いてみたいんだもん。
というか、副船長軽すぎない?これでOK出ちゃうの?こちらとしては助かったけれど。
やはりと言うかなんと言うか、船長には内緒だと釘を刺された私は、意気揚々と副船長の跡をついていく。気分はまるでカルガモだ。
いや、船長に見つからないようコソコソしてるから、どちらかと言えば泥棒か忍者の方が近いかもしれない。
大通りを抜けると、昼間だから閑散としているが、隠しきれないそういう雰囲気の漂う通りに出た。凄い、大人の世界って感じが既にしている。
これが夜だったら、私はきっと尻込みして止めていただろう。でも昼間だから怖くない!!
あれ、ちょっと待って?昼間って娼館やってるの?
ああいうのは夜のお店だろうから、もしかしたら昼間は営業してないのでは?もしや、だから副船長は許可してくれたのか!?
若干の疑いを持ちつつ、そうだとすれば今後しばらくチャンスはないなと考えながらついていく。
そうしてやって来たのは、ちょっと和風や中華の雰囲気がある三階建ての建物。店名は『華蝶』。
一瞬日本語かと思ったが、あれは極東の島の文字だろう。乙女ゲームにも確かにいました、サムライっぽい攻略対象。東にある島出身だったはずなので、多分合ってる。
日本っぽい要素があるのはその島だけだし、いつか行ってみたいとは思っていた。でも、それは船長と航海士次第なのであんまり言っていない。
一度さりげに行ってみたいなぁと呟いたことはあるけど、未だに近くを通る様子もないので多分今後も行かないだろう。
そんなことを思い出していれば、あんまり開いているようには見えないお店に遠慮なく入店する副船長。慌てて私も入れば、受付っぽいところに一人のお婆さんがいた。ちょっと意地悪そうな顔をしている。
「なんだい、今は休憩中だよ……おや、ドミニク。珍しいねぇ、あンたが昼間に来るなんて」
「やぁ、オババ。お金は払うから、迎えに来るまでこの子を預かってて貰えない?」
「うちは託児所じゃないよ!まったく……おぉ、まだ子供じゃないか。また拾ったのかい。懲りないねぇ。どのぐらい預かればいいんだい?」
「今日だけでいいよ。日暮れ前には迎えに来るからさ。暇な姐さんたちとお喋りでもさせてくれればいいよ」
「ほー、今日だけかい。本当に珍しいねぇ。アンタ、名前はなんてんだい?」
「…あっ、僕か!アレクです!よろしくお願いします!」
ポンポンと進む会話にポカンとしていたため、突然話を振られて吃ってしまった。慌ててお辞儀をすれば、お婆さんが驚いたように目を開く。
「おやおや、礼儀正しい子だね。いいよ、弁えてる奴は嫌いじゃあない。金はいいから、ここにいる子らに冒険話でも聞かせてやんな」
「はい!」
「それじゃ、夕飯前には迎えに来るからね。大人しくしてろよー、アレク」
ヒラリと手を振って店を出ていく副船長。大人しくって、どういう意味ですかね!?
お婆さん――オババって呼んでいいと言われた――に案内されて店の従業員用の部屋に着いた。どうやら休憩室らしい。ここで働いてる人は、今の時間は大体この部屋で話しているか自室で寝ているとのこと。夜の仕事だからね。昼間は休んでたいよね。
部屋に入ると、綺麗なお姉さんが数人テーブルを囲んで談笑していた。入ってきた私を見て、ピシリと固まる。
そりゃあ、いくら子供でもこんなところに男が入ってきたらそりゃビックリする――
「何よこの子!!肌も焼けて毛先はパサパサじゃない!!」
「嘘でしょ!?こんなに元がいいのに、信じらんない!!」
「冒涜!これは『美』と『可愛い』に対する冒涜よ!!」
「誰よ!!こんなになるまで放っといた馬鹿は!!」
「女の子は常に可愛くなければならないわ!!」
「「「今すぐお風呂とスキンケアよ!!!!」」」
「え、ちょ、なに、ええええええええええ!?!?!?」
がっしりと羽交い締めにされ、私は美女に引きずられていく。そして連れてこられた先はお風呂場。ぽぽぽぽーんっ!と服を脱がされ、隅々まで石鹸で洗われ、ついでに香油を全身に塗り込められた。終わる頃には半分ほど魂が出てたと思う。
なんというか、令嬢時代を思い出していっそ懐かしかったよ。疲れたけど。
やりきった顔のお姉様方が私に着せる服を選んでいる間、私はひたすらに遠くを見ていたのであった。
今頭を占めているのは、娼館とかではなく別のことだ。
『そういえば、王子が気を病むんじゃないかという程の勢いでお主を捜索しとるぞ。まだ帰るつもりがないのなら、できるだけフェロウド王国には近寄らん方が良い』
診察が終わり、船長を呼ぶ直前にそう言われた。おかげで私は今大いに悩まされている。
なぜなら、王子にそこまで探されるほどの記憶がまっっったくないからである。え、私何かしたっけ。約束すっぽかしたとかだったらまだ気は楽なんだけど、絶対に違うだろう。
正直、婚約者としての世間体で探してるのでは、としか思えないのだ。私は彼に特別好かれるようなことはしていないし、なんならつっけんどんな態度で嫌われていてもおかしくなかったから。
「それじゃ、おれはここら辺で。アレクも街探索楽しんでね」
「…ん?あ、うん!」
一人悩んでいれば、いつの間にか宿屋のすぐ近くに来ていたらしい。副船長の声でようやく思考を浮上させる。隣で船長が呆れたように私を見ている気がするが、きっと気のせいだろう。うん。
手を振って人混みに消える副船長を見送り、私は宿屋で待ってくれているはずのレックとマルズを探しに船長と別れようとした。
「ちょっと待てやコラ」
「ぐえっ」
が、またしても船長に首根っこを掴まれてしまった。私は猫じゃないんだぞ!首根っこを掴まないでくれ!!
「な、なんですか船長!僕、そろそろ行かないと二人に置いてかれちゃう…!一人で街を回れっていうんですか!?」
「絶対ェに一人で歩くな。つか、ちげぇよ……あー、まぁ、何だ。全然詳しく教えちゃくれなかったが、何かヤベェ病気とかではねぇんだな?」
気まずそうに目を反らしながら頬を掻く船長。私は、そんな船長の仕草に不覚にもキュンとしてしまった。だって、珍しく照れてるんだもん。顔が良いから、その珍しい表情も相まってときめいてしまう。
世界一恐ろしい海賊と言われているが、船長は自分の船に乗ってる仲間に対して人一倍心配性らしいと、この二年間に身をもって知った。あと、こうして心配していると口に出そうとすると照れることも。
副船長曰く、素で気遣うことに慣れてないらしい。だから言葉にしようとすると、どうにもこっ恥ずかしくなるのだとか。
滅多に見られない船長の様子にこっそりキュンキュンしていれば、何も返答しない私を訝しんだ船長がぐいっと顔を覗き込んできた。
いつも思うけど、この船長距離感が近い!!
「おい、聞いてンのかアレク」
「聞いてます聞いてます!大丈夫っすよ、船長。いたって健康だってゲンさんも言ってたでしょ?」
「テメェらが結託して口裏合わせてる可能性だってあるだろうが」
ギクリ。流石、勘が鋭い。つい目を逸らしそうになるが、至って健康という部分は間違ってないのだ。
なのでできるだけ堂々とした態度を取りつつ、私は必死に誤魔化そうとする。
「いや~、流石に死ぬような病気だったら言いますよ~。ゲンさんだって医者なんだし、そこを誤魔化すわけないでしょう?」
「…………はぁ。それもそうだな。止めて悪かった」
どうやら、一応納得はしてくれたらしい。パッと手が離されて、急だった為に少しふらついてしまう。船長が支えてくれたため、転ぶことはなかった。
やっぱり船長は勘が鋭すぎる。これは早急に手を打たねばなるまい。
絶対に一人で街を歩かないように、という散々聞いた注意をもう一度聞き、もう二人とも街に出ちゃったかなーと思いつつ宿に入る。すると、入ってすぐの受付付近に二人が居た。
まさかここでずっと待っていてくれたのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「部屋で待ってたら、さっき副船長が来たんだよ。ちょっと話したらすぐ来るだろうからって。病院大丈夫だった?」
「ま、今回は怪我隠してたアレクが悪いぞ。一週間近くも血の臭いしてたもんな~」
「えっ!?レックも気づいてたの!?」
「いや、俺どころか全員気づいてたと思うが?」
「なんですと…」
おぉう…流石海賊。犬…いや、この場合は鮫並の嗅覚と言うべきかな。
というか、なんか恥ずかしいぞ!!え、全員血の臭いに気づいてたんでしょ!?普通に恥ずかしい!!社会の窓が全開だったみたいな恥ずかしさがある!!
一人悶えていれば、顔を見合わせて首を傾げた二人が、パシンと軽く私の頭を叩いた。そこまで痛くないけど、思わずなにすんだ!と顔を上げる。
「反省は後にしろって。ほら、早くしねぇと日が暮れんぞ?」
「あ、そうだった!待っててくれてありがとう!早く行こ!」
「街を回るのはいいけど、行きたい所とかないの?」
レックに言われ、思い出したかのように宿を出る私たち。適当に市場とかを見て回るだけのつもりだった私は、マルズの言葉にふと考える。
そう言えば、さっきゲンさんに娼館行ってみろって言われたなぁ。
「んーとね、娼館行ってみた」
「お前は俺らを殺す気か」
「アレクにはまだ早いよ」
「うぬぅ…」
食い気味に却下されてしまった。大体、マルズのまだ早いはわかるが、レックの殺す気かはなんだ。誰に殺されるというんだ。
結局、二人とも口を揃えて「船長たちが怖い」と言って聞き入れてくれず。
さてどうしたもんかと考えた結果、ならもう素直に船長に行きたいんです!って言えばいいのでは?と思い付く。翌日、早速試そうと宿屋を歩く。
しかし私もチキンであった。船長は流石に説教になったら怖いなと思ったので、優しそうな副船長に交渉することにしたのだ。いるかなーと部屋をノックすれば、すぐに副船長が出てきてくれた。
「副船長~、ちょっとお話が…」
「ん?なぁに?」
「僕も娼館行ってみたいなぁ、なんて」
「え、娼館?何でまた……」
やっぱり理由を聞かれてしまった。他の人なら、男だもんね~で済まされていただろう。しかし、私はまだ15歳。流石にちょっと早い。
だがしかし!私には言い訳がある!!
「美女とお話してみたいです!!!」
「そっかぁ~、ならいいよ」
よっしゃあ!!いや、どうかとは思うけど。この言い訳(なお半分ぐらい本心)はどうかと思ったけども!!
いいじゃない…女の子だって美女とキャッキャッお喋りしてみたいんだもん。なんなら、今後の参考程度に色々お話聞いてみたいんだもん。
というか、副船長軽すぎない?これでOK出ちゃうの?こちらとしては助かったけれど。
やはりと言うかなんと言うか、船長には内緒だと釘を刺された私は、意気揚々と副船長の跡をついていく。気分はまるでカルガモだ。
いや、船長に見つからないようコソコソしてるから、どちらかと言えば泥棒か忍者の方が近いかもしれない。
大通りを抜けると、昼間だから閑散としているが、隠しきれないそういう雰囲気の漂う通りに出た。凄い、大人の世界って感じが既にしている。
これが夜だったら、私はきっと尻込みして止めていただろう。でも昼間だから怖くない!!
あれ、ちょっと待って?昼間って娼館やってるの?
ああいうのは夜のお店だろうから、もしかしたら昼間は営業してないのでは?もしや、だから副船長は許可してくれたのか!?
若干の疑いを持ちつつ、そうだとすれば今後しばらくチャンスはないなと考えながらついていく。
そうしてやって来たのは、ちょっと和風や中華の雰囲気がある三階建ての建物。店名は『華蝶』。
一瞬日本語かと思ったが、あれは極東の島の文字だろう。乙女ゲームにも確かにいました、サムライっぽい攻略対象。東にある島出身だったはずなので、多分合ってる。
日本っぽい要素があるのはその島だけだし、いつか行ってみたいとは思っていた。でも、それは船長と航海士次第なのであんまり言っていない。
一度さりげに行ってみたいなぁと呟いたことはあるけど、未だに近くを通る様子もないので多分今後も行かないだろう。
そんなことを思い出していれば、あんまり開いているようには見えないお店に遠慮なく入店する副船長。慌てて私も入れば、受付っぽいところに一人のお婆さんがいた。ちょっと意地悪そうな顔をしている。
「なんだい、今は休憩中だよ……おや、ドミニク。珍しいねぇ、あンたが昼間に来るなんて」
「やぁ、オババ。お金は払うから、迎えに来るまでこの子を預かってて貰えない?」
「うちは託児所じゃないよ!まったく……おぉ、まだ子供じゃないか。また拾ったのかい。懲りないねぇ。どのぐらい預かればいいんだい?」
「今日だけでいいよ。日暮れ前には迎えに来るからさ。暇な姐さんたちとお喋りでもさせてくれればいいよ」
「ほー、今日だけかい。本当に珍しいねぇ。アンタ、名前はなんてんだい?」
「…あっ、僕か!アレクです!よろしくお願いします!」
ポンポンと進む会話にポカンとしていたため、突然話を振られて吃ってしまった。慌ててお辞儀をすれば、お婆さんが驚いたように目を開く。
「おやおや、礼儀正しい子だね。いいよ、弁えてる奴は嫌いじゃあない。金はいいから、ここにいる子らに冒険話でも聞かせてやんな」
「はい!」
「それじゃ、夕飯前には迎えに来るからね。大人しくしてろよー、アレク」
ヒラリと手を振って店を出ていく副船長。大人しくって、どういう意味ですかね!?
お婆さん――オババって呼んでいいと言われた――に案内されて店の従業員用の部屋に着いた。どうやら休憩室らしい。ここで働いてる人は、今の時間は大体この部屋で話しているか自室で寝ているとのこと。夜の仕事だからね。昼間は休んでたいよね。
部屋に入ると、綺麗なお姉さんが数人テーブルを囲んで談笑していた。入ってきた私を見て、ピシリと固まる。
そりゃあ、いくら子供でもこんなところに男が入ってきたらそりゃビックリする――
「何よこの子!!肌も焼けて毛先はパサパサじゃない!!」
「嘘でしょ!?こんなに元がいいのに、信じらんない!!」
「冒涜!これは『美』と『可愛い』に対する冒涜よ!!」
「誰よ!!こんなになるまで放っといた馬鹿は!!」
「女の子は常に可愛くなければならないわ!!」
「「「今すぐお風呂とスキンケアよ!!!!」」」
「え、ちょ、なに、ええええええええええ!?!?!?」
がっしりと羽交い締めにされ、私は美女に引きずられていく。そして連れてこられた先はお風呂場。ぽぽぽぽーんっ!と服を脱がされ、隅々まで石鹸で洗われ、ついでに香油を全身に塗り込められた。終わる頃には半分ほど魂が出てたと思う。
なんというか、令嬢時代を思い出していっそ懐かしかったよ。疲れたけど。
やりきった顔のお姉様方が私に着せる服を選んでいる間、私はひたすらに遠くを見ていたのであった。
1
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~
詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?
小説家になろう様でも投稿させていただいております
8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位
8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位
8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位
に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m
何やってんのヒロイン
ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。
自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。
始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・
それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。
そんな中とうとうヒロインが入学する年に。
・・・え、ヒロイン何してくれてんの?
※本編・番外編完結。小話待ち。
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜
水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。
そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。
母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。
家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。
そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。
淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。
そんな不遇な少女に転生した。
レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。
目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。
前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。
上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎
更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる