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元相棒、再会する
01。再会した元相棒
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ハオ・フォルストは、現在大変困った状況に陥っていた。
いつものように実験で爆発を起こし、それに怒った局長から逃げおおせたところまではいつも通りだった。しかし、そうして逃げた街中で問題が発生した。
三年も音沙汰のなかった前職の同僚兼元相棒に、何故か半分拉致られたような状況なのである。
現在地は過去に使っていた秘密基地だ。まぁ、秘密基地と言っても使われていない廃墟に勝手にお邪魔して、サボりもとい休憩所として使っていただけなのだが。
この三年間一度も来なかった秘密基地だが、意外にも小綺麗で埃っぽさはなかった。小さなテーブルと二つの椅子、棚に入っている二人分の食器。どれもがあの頃のままのようで、ハオはつい懐かしさを噛み締める。
ここに連れてきた張本人である元相棒、ガロン・ベリゴールは、そんなハオを見て顔を顰める。しかし彼は何も言わず、ハオを椅子に座らせると簡易キッチンへと移動した。
程無くして両手にマグカップを持ってやって来たガロンに、懐かしさから現在の状況をすっかり忘れたハオが呑気に笑う。
「お、サンキュー!何それ?」
「…コーヒーだ」
「ミルクと砂糖は?」
「入ってる。ほら」
「やったー!」
躊躇いもなく差し出されたコーヒーを飲む。それに美味いなーなんて笑うものだから、知れずガロンの溜飲が下がる。
「って、何でオレはここに連れてこられたんだ?」
「……はぁ…やっとか」
ハッ!としてマグカップをテーブルに置く。それを見て呆れたようにため息をついたガロンは、そっとハオの伸ばされた前髪に手を伸ばした。
特に抵抗もしないハオはなすがまま、その銀髪の下にあった素顔を晒す。
その顔の左半分には、大きな火傷が広がっていた。
焼けた頬を撫でられ、ハオはくすぐったそうにくふくふと笑う。しかし、ガロンはそれに悔しそうに顔を歪めた。
「……治すことは、出来なかったのか」
「処置が遅かったからな。治せる薬がなかったんだ」
「…いつから錬金術師に転職したんだ」
「ガロンが消えてすぐ。ないなら作ろうと思って」
「ふっ…お前らしい。目は、見えているのか?」
「視力は大分落ちたよ。色もほら、薄くなっちった」
でも不便はないぜ?と笑うハオに、ガロンはいっそう悲痛な表情を浮かべる。
何故なら、この火傷は己の過失で出来たものだからだ。ハオ本人は自分にも原因があると主張しているが、ガロンにとってそれは慰めにもならなかった。
三年前、自分たちは仕事の途中で怪しい人物に襲われた。結果だけ言えば、ハオもガロンも酷い被害を受けた上にその人物を逃がしてしまった。疲れていた、と言うのは言い訳にもならない。
襲ってきた人物は炎の魔法を駆使しており、ハオはガロンを庇ってまともに魔法を食らってしまったのだ。顔の半分を焼かれ、それに伴い瞳の色が薄くなり視力が落ちた。今は走れるほどに回復したが、一時期は片足が使い物にならなかった程の大怪我だったのだ。
今こうして、ガロンの前で元気に生きているのが奇跡に思えるほど。それだけの事件だった。
「すまない」
「謝罪は三年前に散々聞いたぜ」
「……すまない」
「謝るより先に、オレに言うことない?」
「…………」
「しかたねぇな…おかえり、ガロン」
「!……ただいま、ハオ」
ふっと、ガロンの口角が少しだけ上がる。相変わらず表情が変わりにくい奴だなぁ、とハオは苦笑を返す。
ハオは、ガロンを庇ったことを後悔なぞしていない。むしろ今でもあの時の自分に賞賛を送りたい程であるし、今では片目生活にも慣れた。現在の仕事も性に合っているのか、なかなかに楽しんでいる。
彼に文句があるとすれば、ただ一つ。あの事件の後、何も言わずに行方を晦ましたことだけである。おかげでハオはしばらく「相棒とは…??」と人間不信になりかけた。大袈裟かもしれないが、それぐらいの衝撃だったのだ。
何も言わなかったのには理由がある。そういう人物だと、自分がよく知っているだろう。そう思ってないとやってられなかった。
だから、こうして無事に帰って来たことだけでハオは全てを許していた。それが相棒というだけの人物に向ける感情にしては大きいことに、ハオは気づいていないが。
「それで?お前はこの三年間、どこで何をしてたんだ?」
「あぁ。そうだな…俺の話もいいが、お前の話も聞きたい」
「なら、先に三年も音信不通だった誰かさんの話からしてもらわねぇとな~」
「む…」
話題はこの三年間の話へと変わった。変えられない過去の話より、お互いに知らない三年間の話を聞きたいのだ。何を見て、何をしていたのか。久方ぶりの会合には、うってつけの話題だろう。
二人はしばらく、昔のようにこの場所で談笑を続けていた。
「俺はこの三年間、冒険者になってひたすらに魔物を狩っていた。彼奴を倒す為に、もっと強くなる為に」
「相変わらず負けず嫌いだな~。冒険者ってことは、ギルドに登録してんだろ?何級までいった?お前強いから、もうAまでいってんのか?」
「少し前にS級になった」
「えっ」
冒険者というものは、大変危険な仕事である。基本的に危険な魔物を相手にする依頼が多く、危険であればあるほど稼げるギャンブルのような仕事だ。もちろん安全なものもあるが、初心者や子供の小遣い稼ぎ用みたいなものしかない。
そんな危険な仕事だからこそ、ランクというものが大事になってくる。冒険者ギルドが依頼の危険度をできる限り正確に振り分け、それに見合ったランクの冒険者だけが依頼を受けることが出来る。
F~Sまでのランクがあり、F級が初心者、S級はベテラン冒険者といった感じである。F~Cまでは実力と依頼によってすぐに上げることが可能だが、C~BやB~Aとなると相応の実力と実績が必要になる。S級ともなれば、かなりの年月がかかると言われているのだ。
それをたった三年でなったというのか。確かに三年だって長いかもしれないが、A級ならともかくS級は無理だろう。それこそ、ヤバい魔物を単騎討伐でもしない限り─
「…待て。まさか最近噂になってた、単騎で地龍を討伐した異例の速さでS級になった冒険者ってお前のことか!?」
「その噂は知らんが、確かに地龍なら単騎討伐したな。S級以下は入れない禁足地に入るため、さっさとランクを上げたかったから」
「強くなりすぎじゃね?オレじゃあもう足手まといになり」
「お前以外に俺の隣に並べる奴はいない」
「お、おう、それは嬉しいな…?」
ヘラりと笑いながらそういえば、食い気味に真顔で返されてハオは少し困惑する。あれ、コイツこんなにオレの事肯定してたっけ?と。
そんなハオの混乱をよそに、今度はお前の番だと言いたげにガロンは続ける。
「お前こそ、いつの間に天才錬金術師なんて呼ばれるようになってるんだ。錬金術師は基本的に研究棟から出てこないから、いつ突撃するか悩んだぞ」
「頼むから、突撃だけはすんなよ?敵襲と勘違いされたら困る」
「それで、お前はいつ錬金術師を辞めるんだ?」
「えっ」
「は?」
「え」
当然のように言われた質問に思わず、といったような声が出るハオ。どちらも予想外の反応だったようで、しばらく無言が続く。
見つめ合ってたっぷり数十秒。ぱちくりと瞬きしたハオは気まずそうに目を逸らし、それだけでガロンは察した。椅子が後ろに倒れるのも厭わず、テーブルに手を叩きつけながら勢いよく立ちあがりハオに詰め寄る。
「お前っ、辞めるつもりがないのか!?」
「…逆に、なんで辞めなきゃないんだよ」
「っ、それ、は…だが、怪我が治ったら…!」
「この三年間、治せなかったんだ。どれだけ性能の良い薬を作っても、どんな材料を使っても。ガロンには悪いと思ってる。でも、もう、無理だよ」
そう言うハオの濁ってしまったピーチピンクの瞳が、諦めたように細められた。それを見て、ギュッと眉を寄せるガロン。
責任を感じている彼にとって、ハオのその言葉は後悔を大きくさせるだけだった。しかし、それを分かっていても無理だと諦めている。否、悟ってしまったのだ。
下手に偽って話を拗らせたくなかったが故に、ハオは正直に無理だと言った。あわよくば、彼も諦めてくれることを期待して。
しかし。
「分かった。それなら、俺と共に暮らしてくれ。それで手を打とう」
「はえー???」
どうやら、自分の元相棒は簡単には諦めてくれないらしい。
いつものように実験で爆発を起こし、それに怒った局長から逃げおおせたところまではいつも通りだった。しかし、そうして逃げた街中で問題が発生した。
三年も音沙汰のなかった前職の同僚兼元相棒に、何故か半分拉致られたような状況なのである。
現在地は過去に使っていた秘密基地だ。まぁ、秘密基地と言っても使われていない廃墟に勝手にお邪魔して、サボりもとい休憩所として使っていただけなのだが。
この三年間一度も来なかった秘密基地だが、意外にも小綺麗で埃っぽさはなかった。小さなテーブルと二つの椅子、棚に入っている二人分の食器。どれもがあの頃のままのようで、ハオはつい懐かしさを噛み締める。
ここに連れてきた張本人である元相棒、ガロン・ベリゴールは、そんなハオを見て顔を顰める。しかし彼は何も言わず、ハオを椅子に座らせると簡易キッチンへと移動した。
程無くして両手にマグカップを持ってやって来たガロンに、懐かしさから現在の状況をすっかり忘れたハオが呑気に笑う。
「お、サンキュー!何それ?」
「…コーヒーだ」
「ミルクと砂糖は?」
「入ってる。ほら」
「やったー!」
躊躇いもなく差し出されたコーヒーを飲む。それに美味いなーなんて笑うものだから、知れずガロンの溜飲が下がる。
「って、何でオレはここに連れてこられたんだ?」
「……はぁ…やっとか」
ハッ!としてマグカップをテーブルに置く。それを見て呆れたようにため息をついたガロンは、そっとハオの伸ばされた前髪に手を伸ばした。
特に抵抗もしないハオはなすがまま、その銀髪の下にあった素顔を晒す。
その顔の左半分には、大きな火傷が広がっていた。
焼けた頬を撫でられ、ハオはくすぐったそうにくふくふと笑う。しかし、ガロンはそれに悔しそうに顔を歪めた。
「……治すことは、出来なかったのか」
「処置が遅かったからな。治せる薬がなかったんだ」
「…いつから錬金術師に転職したんだ」
「ガロンが消えてすぐ。ないなら作ろうと思って」
「ふっ…お前らしい。目は、見えているのか?」
「視力は大分落ちたよ。色もほら、薄くなっちった」
でも不便はないぜ?と笑うハオに、ガロンはいっそう悲痛な表情を浮かべる。
何故なら、この火傷は己の過失で出来たものだからだ。ハオ本人は自分にも原因があると主張しているが、ガロンにとってそれは慰めにもならなかった。
三年前、自分たちは仕事の途中で怪しい人物に襲われた。結果だけ言えば、ハオもガロンも酷い被害を受けた上にその人物を逃がしてしまった。疲れていた、と言うのは言い訳にもならない。
襲ってきた人物は炎の魔法を駆使しており、ハオはガロンを庇ってまともに魔法を食らってしまったのだ。顔の半分を焼かれ、それに伴い瞳の色が薄くなり視力が落ちた。今は走れるほどに回復したが、一時期は片足が使い物にならなかった程の大怪我だったのだ。
今こうして、ガロンの前で元気に生きているのが奇跡に思えるほど。それだけの事件だった。
「すまない」
「謝罪は三年前に散々聞いたぜ」
「……すまない」
「謝るより先に、オレに言うことない?」
「…………」
「しかたねぇな…おかえり、ガロン」
「!……ただいま、ハオ」
ふっと、ガロンの口角が少しだけ上がる。相変わらず表情が変わりにくい奴だなぁ、とハオは苦笑を返す。
ハオは、ガロンを庇ったことを後悔なぞしていない。むしろ今でもあの時の自分に賞賛を送りたい程であるし、今では片目生活にも慣れた。現在の仕事も性に合っているのか、なかなかに楽しんでいる。
彼に文句があるとすれば、ただ一つ。あの事件の後、何も言わずに行方を晦ましたことだけである。おかげでハオはしばらく「相棒とは…??」と人間不信になりかけた。大袈裟かもしれないが、それぐらいの衝撃だったのだ。
何も言わなかったのには理由がある。そういう人物だと、自分がよく知っているだろう。そう思ってないとやってられなかった。
だから、こうして無事に帰って来たことだけでハオは全てを許していた。それが相棒というだけの人物に向ける感情にしては大きいことに、ハオは気づいていないが。
「それで?お前はこの三年間、どこで何をしてたんだ?」
「あぁ。そうだな…俺の話もいいが、お前の話も聞きたい」
「なら、先に三年も音信不通だった誰かさんの話からしてもらわねぇとな~」
「む…」
話題はこの三年間の話へと変わった。変えられない過去の話より、お互いに知らない三年間の話を聞きたいのだ。何を見て、何をしていたのか。久方ぶりの会合には、うってつけの話題だろう。
二人はしばらく、昔のようにこの場所で談笑を続けていた。
「俺はこの三年間、冒険者になってひたすらに魔物を狩っていた。彼奴を倒す為に、もっと強くなる為に」
「相変わらず負けず嫌いだな~。冒険者ってことは、ギルドに登録してんだろ?何級までいった?お前強いから、もうAまでいってんのか?」
「少し前にS級になった」
「えっ」
冒険者というものは、大変危険な仕事である。基本的に危険な魔物を相手にする依頼が多く、危険であればあるほど稼げるギャンブルのような仕事だ。もちろん安全なものもあるが、初心者や子供の小遣い稼ぎ用みたいなものしかない。
そんな危険な仕事だからこそ、ランクというものが大事になってくる。冒険者ギルドが依頼の危険度をできる限り正確に振り分け、それに見合ったランクの冒険者だけが依頼を受けることが出来る。
F~Sまでのランクがあり、F級が初心者、S級はベテラン冒険者といった感じである。F~Cまでは実力と依頼によってすぐに上げることが可能だが、C~BやB~Aとなると相応の実力と実績が必要になる。S級ともなれば、かなりの年月がかかると言われているのだ。
それをたった三年でなったというのか。確かに三年だって長いかもしれないが、A級ならともかくS級は無理だろう。それこそ、ヤバい魔物を単騎討伐でもしない限り─
「…待て。まさか最近噂になってた、単騎で地龍を討伐した異例の速さでS級になった冒険者ってお前のことか!?」
「その噂は知らんが、確かに地龍なら単騎討伐したな。S級以下は入れない禁足地に入るため、さっさとランクを上げたかったから」
「強くなりすぎじゃね?オレじゃあもう足手まといになり」
「お前以外に俺の隣に並べる奴はいない」
「お、おう、それは嬉しいな…?」
ヘラりと笑いながらそういえば、食い気味に真顔で返されてハオは少し困惑する。あれ、コイツこんなにオレの事肯定してたっけ?と。
そんなハオの混乱をよそに、今度はお前の番だと言いたげにガロンは続ける。
「お前こそ、いつの間に天才錬金術師なんて呼ばれるようになってるんだ。錬金術師は基本的に研究棟から出てこないから、いつ突撃するか悩んだぞ」
「頼むから、突撃だけはすんなよ?敵襲と勘違いされたら困る」
「それで、お前はいつ錬金術師を辞めるんだ?」
「えっ」
「は?」
「え」
当然のように言われた質問に思わず、といったような声が出るハオ。どちらも予想外の反応だったようで、しばらく無言が続く。
見つめ合ってたっぷり数十秒。ぱちくりと瞬きしたハオは気まずそうに目を逸らし、それだけでガロンは察した。椅子が後ろに倒れるのも厭わず、テーブルに手を叩きつけながら勢いよく立ちあがりハオに詰め寄る。
「お前っ、辞めるつもりがないのか!?」
「…逆に、なんで辞めなきゃないんだよ」
「っ、それ、は…だが、怪我が治ったら…!」
「この三年間、治せなかったんだ。どれだけ性能の良い薬を作っても、どんな材料を使っても。ガロンには悪いと思ってる。でも、もう、無理だよ」
そう言うハオの濁ってしまったピーチピンクの瞳が、諦めたように細められた。それを見て、ギュッと眉を寄せるガロン。
責任を感じている彼にとって、ハオのその言葉は後悔を大きくさせるだけだった。しかし、それを分かっていても無理だと諦めている。否、悟ってしまったのだ。
下手に偽って話を拗らせたくなかったが故に、ハオは正直に無理だと言った。あわよくば、彼も諦めてくれることを期待して。
しかし。
「分かった。それなら、俺と共に暮らしてくれ。それで手を打とう」
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どうやら、自分の元相棒は簡単には諦めてくれないらしい。
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